第33話 黒幕の存在

 子供たちが救出され4日。

 王城の王の間では戻ったシャンフレーが国王であるローレンスに報告をしていた。


 「キ、キメラの研究だと!」


 シャンフレーの報告に驚きと怒りが混在する表情を浮かべローレンスの怒号が王の間に響き渡る。


 「はい……、ギルマルキン邸の地下にて研究室らしい部屋を発見、赤いリザードマンより発見された魔核と同等の物を数点と、人や魔物の遺体が……、キメラ研究がなされていたものかと。

 その場にあった書物や資料、その他全てを運び出す様、指示を出しております」


 シャンフレーは険しい様子で語る。


 ローレンスは、受け入れがたい報告共に、一連の出来事が脳裏にぎる。


 「報告ご苦労であった……、では、今回の魔物大進行スタンピードは……」


 「はい、考え難い事ではありますが、可能性は高いかと」


 ローレンスとシャンフレーの会話を聞いていたロダンが相槌をいれ、その相槌はローレンスを苦しめた。


 「ワシが、もっと早くにギルマルキンを……、もっと早く動いておれば、アレの毒牙にかかる犠牲者は少なかったであろうな、今回の魔物大進行スタンピードも……」


 「いいえ、それは違います! 憶測の段階で陛下自らが表立って動くなど論外!

 その様な事を行えば、独裁国家と揶揄する国が現れ、国内も分裂の恐れが出てきます。

 私が、私が動くべきだったのです! 責任を感じるべきは陛下ではありません、この私です!」


 ローレンスの言葉に宰相であるロダンが声を上げる。

 重たくなんとも言えない空気の中、シャンフレーが前に出る。


 「責任の所在など全てが終わってからでお願いします。

 事は最中、始まりに過ぎないかも知れません。

 それに私の報告もまだ終わっておりません」

 

 シャンフレーの言葉は、2人は冷静を取り戻し、シャンフレーは2つの事を報告した。


 それは、ギルマルキン邸近郊でジェド含め影の遺体が発見された事、そして誘拐犯の1人が検死の結果、元第一騎士団所属のウータン・ヘドロヘッドであった事でだった。


 ウータン・ヘドロヘッドと言う名を聞いたローレンスとロダンは血の気が引いた表情を見せる。


 「バ、バカな! ウータンだと!」


 23年前、突如として現れた盗賊団『カラス』、当時を知る者は決して忘れる事が出来ないほどに衝撃的な印象を残した。

 前王アレクスレイが退位するきっかけとなった盗賊団であり、その1人がウータン・ヘドロヘッドであった。


 盗賊団の幹部の死罪が決まる中、現役の騎士であったウータンは、脅迫されていたと主張。死罪を逃れ終身刑が言い渡され囚人鉱山へと送られた。

 

 「はい、囚人鉱山の名簿によると収監された5年後、死亡したとされ、検死もされておりました。

 ウータンは、カラスのかしらとも噂された人物、監視も多く付いておりました。

 それを掻い潜り脱獄させる事など、当時10歳のギルマルキンに出来る訳はありません。

 少々調べてみましたが、死の確認を行った者、検死を行った者は、既に死亡しておりました」


 「シャンフレー、お前が言う『事は最中』『始まりに過ぎないかも』とは、黒幕がいる……、そう言う事か」


 「はい、先程『もっと早く動いていれば』とおっしゃいましたが、今回得た情報や事実は今回だからこそ得られた物かも知れません」


 思考するローレンス、もし誘拐犯を取り逃していたら……。

 もし、ギルマルキンの悪事が露呈していなかったら……。

 そもそも、魔物大進行スタンピードをあれ程早くに解決出来ていなかったら……。


 「リラの功績は思いの外、大きいのかも知れん……」


 ローレンスはボソッと呟く。



◆◇



 思いの外、大きな功績をあげたかも知れないリラは現在……。


 魔物の襲撃により被害を受けた孤児院の手伝い……ではなく近くのボロ屋で。


 「しゃおらー! 五光だ! ほら出せ出せ!」


 王家からの収入や、戦利品を得て懐が暖かい中、貧乏人から花カルタでお金を巻き上げていた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 魔物大進行スタンピードより数週間、街は徐々に活気を取り戻し、多方面からの行商人も増えていた。


 王城にも日常と化していた応接の間でのリラとティファのおやつタイムも解禁となった。


 「極秘の案件も少なくなって、今日からリラお姉様とお茶会しても良いそうです!

 最近は治療だけでお帰りになられてしまう毎日だったので、とても、とても嬉しいです!」


 満遍の笑みを浮かべる人ティファ。


 ティファの治療も順調に進み、肌の変色は全身綺麗に消えた。

 もう、私の出来る治療はなくなったのです。


 「私も嬉しいよ! 

 それと今まで良く頑張ったね、私の治療は今日でおしまい、もう普通に生活しても大丈夫! もう好きな様に動き回っても大丈夫だからね!」


 完治はしていないけど、嬉しい報告のはずなのに落ち込むティファ。


 「どうしたの?」


 「絶対に治らないと思ってた病気、治ってとても嬉しいです……、嬉しいですが、もう治療は終わってしまったのですね……。

 もう、リラお姉様がここに来る理由は無くなってしまったのですね……」


 私がもう城に来ないのではと悲しむティファ、なんて可愛い事を言ってくれるのだろう。


 「その事なんだけど、1つお願いと1つ提案があるの」


 私の言葉にキョトンとした表情で「なんでしょう」と答えるティファ。

 私はある計画を話す。


 「私の家にメアリーって言うメイドがいるの、例の事件で誘拐されてた子なんだけど、帰って来てから『強くなりたい!』って言い出してね、今マナコントロールの練習中なの。

 そして、このマナコントロールはティファが完治するには覚えないといけない技術。

 今後はマナコントロールを教えにお城に来る事になるんだけど、メアリーもここに連れて来て一緒に教えたいんだけど……」


 「はい! それでお願いします!」


 ——い、いや、そんな簡単に……、国王とかに許可取らないとダメでしょう!

 

 私たちは色々と話し、ティファが許可を取ると言う事で決着がついた。

 明日からティファとメアリー、そして私とマナコントロールの修行開始だ。


 「ところでリラお姉様、バトリン学園の事なのですが……」


 バトリン学園、他国の一流学術校とは違い平民が通う事が出来るが身分によって選べる学科の数が違う。

 平等を掲げる大国ファストーロにおいて唯一、格差のある学び場である。


 下級貴族と平民は基本学科、語学、算術の他4学科のみ、上級貴族と特待生は基本学科に加え10教科を選考出来る事となっている。



 ——私は密かにバトリン学園に行く事を決めている。 

 学費は王家持ち、住まいも確保してくれて、平民は学科が少ないと言う高待遇!

 誰だって行くに決まってるよ、絶対!


 「うん、家族と離れるのは不安だけど、留学の話有り難く承諾しようと思ってる」


 ——不安なんてみんなの安全くらい! そんなの子トトちゃんたちにお願いすれば無問題もうまんたい! 逆に自由な時間が大幅UP、ハッピーライフはすぐそこだぜ〜!


 「ほ、本当ですか!? わ、私はすぐこの事をお父様に!」


 「うん、じゃあ私はそろそろ帰ろうかな、明日はメアリーも連れて来るから、その事も一緒によろしくね」

 

 私は簡単な挨拶を交わし帰路についた。

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