第30話 子供たちと騎士団

 私は鉄馬車にかけられたガキを破壊し開けると子供たちは鉄馬車の扉より離れた場所に固まり、震えていた。

 そんな私にいち早く気がついたのはミランだった。


 「リラ、さま?」


 ミランの言葉で私に気が付いたメアリーは、目に涙を浮かべ、口をぶるぶるさせる。


 「リラしゃまぁぁ〜」


 泣きながら声を上げ、おぼつかない足取りで走り出すと私にすがる。


 「メアリー助けに来たよ、ミランも良く頑張ったね、もう大丈夫だから」


 怯えていた子供たちの様子を見ればわかった。

 ミランがこの薄暗い鉄馬車の中で、みんなを励ましていたのであろう。


 「助けが来ると信じていましたが、まさかリラお嬢様まで来るとは思ってもいませんでした、本当に、本当ありがとうございます……。

 もう大丈夫ですよ、ほら、私の言った通り助けが来たでしょ、お家に帰れますよ」


 安心したのか今にも泣き出しそうなミランだったが、それを隠すかの様に子供たちに過剰に振る舞う。


 「みんなお腹減ったでしょ、メアリー、ミラン手伝って」


 「「はい!」」


 私たちは鉄馬車から出ると誘拐犯の食料を漁る。

 そこで、ミランはある疑問を口にする。


 「リラお嬢様、救助隊の方々は何処に? それにあの怯えている様に見える走竜たちは……、積まれている麻袋から血が……」


 「え? 私1人だよ? あとあの麻袋は気にしないで」


 あの麻袋の中はお察しの通り奴ら……、トトたちに荷物やら奴らやらの処理を任せてこうなった。

 子供たちにあの惨状は見せられないからね。


 「はい? お、お一人ですか?、では救助隊の方々は?」


 「まだ来てないよ、多分後、小一時間ほどで来ると思うけど、まあ、気にしないで! もう大丈夫だから、さあ、ご飯の準備、準備」


 ミランの頭の中には多くの疑問符が並んでいたが、食事の準備に取り掛かる。


 「さすがメアリー、料理は任せても良いかな?」


 「はい! 料理は任せてください!」


 食事の準備をメアリーに丸投げした私は、とある荷物の山に向かう。

 それを不思議そうに見つめるミラン。


 「リラお嬢様、それは?」


 「あっ、これ? 戦利品! ほら、この剣とか技物っぽくない? なんか傭兵の偉そうな奴が持ってたんだよね。

 それに、ほら、これ! なんと40㍑の魔法袋! これは売ったらメッチャ高いよ! あと10㍑が2袋でしょ、あとはねぇ〜、ちっ、貴金属は少ねぇーな、まあ、盗賊団でもないし、こんなもんか。

 でもね、ジャーン! お金はいっぱいありました!」


 私はテキパキと戦利品を整理して行く。

 

 ——まあ、ったのは布の男だけどね、でもそれを追っ払ったのは子トトたち、知っているのは私だけ、って言う事はだよ? 私の戦利品と言っても差し支えないでしょう!


 しかし、ミランは固まり私の行動を凝視する。


 ——あれ? まさかとは思うけどバレてる?


 焦りつつも、私の頭は冷静である。


 ——当然、こんな事も想定内! 解決法も考えてある!


 「ちょっとだけよ?」


 私は小袋に詰めた金銭をミランに差し出す、そう! 偉いさん大好きワイロ作戦である。


 「え? い、頂けません!」


 「まあまあ、取っていきなさいって」


 「いえ、そ、そんな! 頂けません! た、助けに来て頂いただけでも十分です! それにリラお嬢様、これがどれ程の金額だかご存知ですか!?」


 「ん? 200万Gガルドでしょ?」


 「でしょって……」


 拒否するミランの手に小袋をねじ込み、私はワイロ作戦を完璧にするべく動く。

 100万Gガルドを小分けした小袋を子供1人1人に渡して行く。

 こう言う気配りこそが未来の私を救うのだ。


 「家に帰ったら開けるんだよ? いい? 家に帰ってからだよ?」


 「これなに?」

 子供たちから、そんな質問が飛び交う。


 「その袋の中にはね、幸せが詰まってまぁす!

 そして、その幸せが詰まった袋と共に、この言葉も持ち帰って欲しい!

 『忖度は超大事』大事にしなきゃダメだよ、絶対!」


 そんなこんなしているとメアリーが食事の準備を終える。 

 私は子供たちの疑問符を置き去りにその食事に食らいつく、子供たちもかなりお腹が減っていたのか食らいつく。

 街道の脇、子供たちだけの宴会が始まった。


 そこには怯えていた時の表情はなく、安堵から来る表情でもなく、心の底からキャンプを楽しむ子供たちの様に見える。



 しかし、食事を終え雑談をしている時、それを壊す集団が現れた。


 第三近衛騎士団の精鋭二十数名と、団長のヴァラドナ・シャンフレー。



◆◇


 

 「アレかな? ニャンコちゃん!」


 案内をしていた子トトが頷く。

 

 疾走する騎士団、ヴァラドナは鉄馬車の近くにいる子供たちに気がつくと状況を瞬時に把握し指示を出す。


 「よし! 今が好機! 子供たちと賊の間に割って入る! 必ず死守せよ!」


 

 子供たちは一瞬の内に走竜に股がる騎士団たちに包囲された。

 子供たちは驚き、恐怖が甦り、震え、泣き出す者も現れ、リラにすり寄った。


 「大丈夫? ヴァラおねーさんが来たからには、もう安心だからね!……あれ?」


 騎士団は誘拐犯がいない事に気がつくと困惑した。


 そんな騎士団を尻目にヴァラドナを案内して来た子トトがリラの元へと飛び寄る。


 「え? キミがニャンコの主人!? あっ、そんな事より賊は今何処に!」


 「あっ、もうそっちの事大丈夫で〜す、もうちょっとしたら王都に向けて出発するので。

 ほら、みんな大丈夫だよ、さっき言ったでしょ? 小一時間で救助隊が来るって、この猫さんたちは救助隊の人たちだよ」


 私の言葉に騎士団は更に困惑し、子供たちは多少、安心するも警戒心は解く様子はなかった。


 「ぞ、賊どもは……?」


 ——布の男の事も気になるし、言っておいた方がいいかな。


 私がそんな事を考え、口を開こうとした瞬間、ドヤ顔の様相を見せるメアリーがヴァラドナの前に歩みを進め言い放つ。


 「そんな奴らリラ様が瞬殺ですよ、瞬殺! アレをご覧ください!」


 ——え? うそっ、待って!!


 メアリーは少し離れた場所、血が滴る麻袋が積まれた走竜に指を刺すと、そのドヤ顔は更に増す。


 「賊どもはあちらに、リラ様を無才だと侮るからこうなるのです、今頃、リラ様を無才と言った事、地獄で後悔している事でしょう」


 ——イヤイヤイヤ! 言われてねぇーし! それにその言い方だと、無才と言われキレて斬殺したヤバい奴に聞こえない?!

 そもそも、あついらをったのは布の男、私は話してもいないよ!


 「無才? キミはミラの子か! 確か……、リラちゃん……」


 猫さんは周りの様子が私が、トゥカーナ家のリラである事を確認する。


 「はい、私がリラです、でも賊を倒したのは私ではありません」


 「あっ、そうか、そうだよね〜、驚いたよ、ここには子供たちしかいないし、半分信じちゃったよ。

 で? 君たちを助けてくれた人は何処にいるのかな?」


 ——助けた? その聞き方は……。


 カギを壊し、鉄馬車より子供を助けたのは私、当然、子供たちは私を示す。

 そして、気がきくメアリーが早くも私が熱弁した忖度を見せる。


 「察してくださいよ、わかるでしょ? リラ様は偉大な功績をあげられましたが、目立ちたくないのです!」


 ——あなたが察してくださいー! お願いします、わかってください!

 私はみんなが助かった事実と戦利品だけで十分!

 しかし、困った……、どう説明したものか……、賊をったのは布の男。

 布の男を追っ払ったのトトたち、子供たちを助けたのは私……、そして、戦利品は私の物……。

 

 「今日は疲れたので、後日説明します」


 私は未来の私に丸投げした……。


 「わかった、個人的に気になる事もあるし、そうしよう!

 私たちも急ぎ向かわなければならない所がある、後日、こちらから連絡するよ。

 それと、走竜の扱いに長けた者と護衛を付ける、帰路の事は安心してくれ、リミナ、一足先に王都へ戻り子供たちの無事を報告しろ!

 ある程度の事は書状に書き記した、質問には貴様が見聞きした事をありのまま答えるのだ! 良いな。

 他の者はアゴットに向かう、いくぞ!」


 そして第三近衛騎士団たちはギルマルキン領の方へと向かっていった。


 

 子供たちを乗せた鉄馬車は来た道を戻る様に王都へ向かう。

 私は徹夜が祟ってか即、爆睡。

 疲れを知らない走竜たちは夜中も休む事なく走り続け、次の日の朝、王都へ入った。

 

 


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 リラ到着の数時間前、王都ミズリーに1頭の走竜が到着する。


 その頃、王城では会議が開かれていた。


 「被害報告は以上になります」


 制服を来た錚々そうそうたる面々の重鎮じゅうちんたちが顔を連ねていた。

 議長は宰相ロダン・リッケルマン、ローレンス国王も参加しているが口を挟む事はなかった。


 「うむ、ご苦労、次、リカード軍務卿」


 「はっ! 現在、王都内での犯罪行為は増えておりません、しかしながらベルト山脈にダンジョンが出現したと聞きつけた冒険者などが王都に流入しております。

 今後そう言う者が増えると予想されますが、治安の悪化や間者の侵入などが懸念されます。

 臨時での守護騎士及び衛兵の増員の許可をお願いしたい」


 「わかった期限付きならば、私の名で許可しよう、他にある者はおらぬか?」


 ロダンがそう言うと、最近体調を崩している内政長官の代わりに参加していたモント・ヒューリが手を上げる。


 「ん? モント内政副長官」


 「はっ! そう言った懸念が想定されるのであれば、他組織による物価操作の可能性も想定せざるを得ません。

 今すぐと言う訳ではありませんが、物流には今後目を配る必要があるかと」


 「そうだな、国の認可を持つ商人とのみ、物価の監視は許可しよう。

 くれぐれも密にはなるな、商人とは小動物のなりをした獣だと思え」


 「はっ! 十分承知しております」


 ロダンとモントのこのやり取りは事前に打ち合わせした物だった。

 国の重鎮を王族派で固める事は、逆に争乱を呼ぶ事となる。

 故に、この会議には多くの他派閥が出席していた。

 それらへの牽制、混乱に乗じて物流から国を牛耳ろうとする動きは、珍しい事ではなかったのだ。

 

 そんな水面下での駆け引きが繰り広げられている会議中、ランスロットが裏の扉から入って来るとローレンスに耳打ちをする。


 「会議中、申し訳ない私はこれにて退出する。

 ロダン議長、後で報告を頼む」


 ローレンスがそう言うと一斉に起立し、頭を下げる。



 会議室を出たローレンスは、ランスロットの案内で応接の間に入る。

 そこには第三近衛騎士団副官ミリナ・バートンが待っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る