第26話 悪魔との対峙

 囚われの子供たちを乗せた鉄馬車は、アゴット市まで数時間の所まで来ていた。

 鉄馬車は多くの国で罪人を運ぶ為などに使われる護送車、それを操る御者が1人。

 取り囲む様に走る8匹の走竜にはゴロツキ風の5人と3人の兵士らしき傭兵が股がる。


 そんな集団が少し開けた道に出ると、引き締まった身体を見せるゴロツキ風の者が声を上げる。


 「おい! テメーら、一服だ! 馬車止めろ!」


 そんな声に馬車はスピードを緩め始めるが、傭兵の隊長らしき人物が口を挟む。


 「き、貴様、また勝手に! 予定よりも遅れているんだ、そのまま走れ!」


 「おいおい、本当に良いのかよ、風に当たり続けた鉄は冷てーぞ? あれの中は極寒だぜ?

 ガキンチョが何匹か死んじまうんじゃないか?

 まあ、俺は一向に構わないけどな、テメーの大好きなバートリー様は困るんじゃねぇーか?」


 「ウータン、貴様! バートリー様を愚弄するか!」


 男が声を荒げるがウータンと呼ばれた男はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべる。


 「ちっ、休むぞ、止めろ!」



◆◇



 行者などの出入りが唯一許されている北門、そこに広がる問屋街、北区。

 そんな北区より程近い中央区のとある屋敷に騎士団総長であるリカード・ディーボルトと第一近衛騎士団団長ヴェスター・フォン・フランクリンが神妙な面持ちで話していた。

 2人が着る黒い軍服の右腕の付け根には指揮官の証である赤いラインが3本、豪華な金色の刺繍ししゅうが施されている。

 リカードは黒いマントをヴェスターは青いマントを身に纏っていた。


 そこに紺色の軍服を着た20代半ばの女性がやって来る。


 「報告いたします! 家主であるバートリー子爵をはじめとするご家族6名、奉公人11名の遺体を確認、バートリー子爵は拷問された節があり、他は全て一刀にて斬殺されておりました。

 貴族院名簿によると、ご家族は全員死亡、奉公人、私兵とされる3名の行方がわかっておりません。

 なお、地下に通じる隠し扉を発見、指示待っている状態です」


 女性の言葉に一瞬立ち止まったリカードとヴェスターだったが、惨状を確認するかの様に歩き出し、女性も歩きながら報告を続ける。


 「わかった、案内しろ」


 惨状を確認しながら隠し扉に向かう3人、そんな中、惨状を初めて見たヴェスターが顔を歪ませ口を開いた。


 「これはひどい……、それにしてもバートリー家とは、面倒な事になりましたね」


 「ああ、初めから皆殺しにする気だった様だな、これだけの惨状で悲鳴などを聞いた者は1人もいない、遮音結界に類似する何かを使ったのは明らかだ。

 今、魔力残思を調べさせている。


 狭い廊下であっても斬撃で一刀、こだわりすら感じる、これだけの惨状であるにも関わらず、血痕を踏んだ形跡がない。

 ヴェスター殿も気が付いていると思うが返り血すら浴びてないだろう」


 「はい……、剣を持った幽霊にでもられたかの様な現場ですね……」


 「幽霊……、幽霊か」


 幽霊と言う言葉に考え込む様な素振りを見せるリカード、そんな様子のリカードにヴェスターが呟く。


 「心当たりが?」


 ヴェスターの言葉に険しい顔を見せるリカード、少しの沈黙の後にその重たい口を開く。


 「おそらく、死の亡霊デスファントムギン・ジャックマン……」


 追放された冒険者ギン・ジャックマン、護衛や傭兵の依頼を好み、人を殺す快楽を覚えた殺人鬼。

 襲い来る者を全て一刀で切り殺し、一切の返り血を浴びる事が無かったと言う。

 付いた二つ名が死の亡霊デスファントム

 襲い来る盗賊や暗殺者のみならず、依頼主にすら恐怖を与えた、世界に十数人しかいないと言われている七つ星クラスの実力者。

 ギルドも手を焼いていたが殺すのは全て犯罪者、ギンに物申す者など皆無だった。

 しかし、とある国の貴族がギルドに圧力かけギンを追放させた。

 

 「そして、数日後、その貴族は一族郎党、斬殺死体で発見された、今回と同じく家主には拷問の跡があったそうだ、他にもギン・ジャックマンの犯行と思われる事件は少なくない。

 正真正銘の殺人鬼、賞金首だ。

 資料はまとめて第一近衛騎士団長宛で送っておく」


 「了解しました。しかし、七つ星クラスですか……」


 「そうだ、この国に1対1で戦える者は1人もおらんだろうな、絶対に少数であたるな」


 「ですね、最悪、死なない準備はしておきますよ」

 

 そんな話をしながら歩いていると、行き止まりと見える壁の前に2人の兵が立っている。


 「ここです、ご苦労様、開けて頂戴」


 ルイーゼが言うと2人の兵が、行き止まりであった壁を動かす。

 先には地下に伸びる不気味な階段、ふたたびルイーゼが語る。

 

 「極秘の案件となるかと思い、誰もこの地下には入れていません。

 仕掛けがあるかも知れませんので私が先行致します」


 「うむ、良い判断だ、今後も情報管理は徹底させろ、それと捜査はこのヴェスター殿に引き継ぐ事になっている。

 貴族も絡む案件だ、公爵の御子息であり、伯爵位持つヴェスター殿であれば、貴族連中も協力せざるを得ないだろう。

 ルイーゼ、お前は引き継ぎ捜査にあたり、私とヴェスター殿の間に入ってもらう。いいな?」


 「はっ!」


 地下に降りるとまずは広い空間が現れる。そこには木箱に入る何かが大量に積み上げられている。

 ヴェスターは積み上げられた箱の中より1つの袋を取り出し確認する。


 「こ、これは!」


 ヴェスターが手にした物。それは……、コルカイン、麻薬の類の物であった。



◆◇



 無惨に壊された門、爆風とそれらの破片に当たり虫の息の数名の傭兵とゾロゾロ集まる傭兵、そして……。


 バッチリと決めポーズでたたずむ私……。


 ——私は待っている。


 「テメー、何者だ!」


 ——来たぁぁ!!


 「フッフッフゥ〜、貴様らクソ虫に名乗る名など無いが、冥土の土産だ、教えて……」


 「アァ?! なんだとクソガキッ! ぐあぁ!!」


 無礼な傭兵の腹に突き刺さる私の可愛い足、吹き飛ぶ傭兵、それはまだ遠い屋敷の扉を貫いた。


 「人が話している最中に……、テメーら! どんな教育受けてきたんだ!! アァン?!」


 リラの話を遮り凄んで来た傭兵を、これまた傭兵の言葉を遮り腹を蹴り飛ばしたリラが激昂する。


 マジカルスーツを着たリラは感情の起伏が少し?激しくなる様だ。


 「「「……」」」


 言葉を失う傭兵たち、そしてリラの目の前の空間がねじれ、黒い髪に真っ黒な眼球を持つ少年、ベルゼードが現れる。


 「貴様、何者だ、何故自我がある、ここに何しに来た」


 負のオーラを見に纏うベルゼード、その光景に怯える傭兵たち、リラはその真っ赤な瞳に殺気を乗せ、ベルゼードに向かい言い放つ。


 「アァ?! もう言わねぇーよ!! 意味不明な事抜かしてんじゃねぇーぞ、坊ちゃんは引っ込んでろ!」


 「おい、クソガキ、口の利き方に気をつけろ」


 増大する負のオーラ、それに当てられ傭兵たちは苦しそうに倒れて行く。

 リラも息が出来ずに顔を歪ませるが……。


 「唸れ! 私のぉ、デコニックオーラ!!」


 リラのデコより放たれる光。それはベルゼードの負のオーラを押し戻す。


 「なっ! 光だと?! いや違う、これは……、太陽の加護?! 貴様、何者だ! フライ! ガキを喰い殺せ!!」


 ベルゼードは数匹の大きなハエを呼び出すと一斉にリラに襲い来る。


 「ハエごときが! トト!! 叩き落とせ!」


 ペチ ペチ ペチ ペチ。


 トトの猫パンチが炸裂する。ハエたちはベルゼードの足元に突き刺さり虫の息……、そして、黒い霧となり消える。

 ベルゼードはトトをその瞳で捉えると驚きを隠せない表情を浮かべた。


 「バ、馬鹿な! 精霊獣だと?! 精霊種は奴らが人族を使い根絶やしにしたはず……。

 それに、悪魔堕ちした貴様に、なぜ精霊獣が仕える?!!」


 ……。


 ——え? トトは精霊? あとなんだって、悪魔堕ち? 誰が? え? 私?


 「悪魔堕ち?」


 「なっ、貴様は自我がありながら自覚が無いのか!? その赤い瞳、漆黒の髪、貴様は間違いなく悪魔堕ちしておる、悪魔だ!」


 悪魔だ!……、悪魔だ……、悪魔だ……。


 リラの頭の中でベルゼードの言葉がリピートされる。


 ——私は……、悪魔だった……? ちょちょちょ、ちょっと待ったぁぁ!!


 リラの頭の中に文字が浮かぶ。


 『フュージョン』そして……、『魔王城(構築率40%)』

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