第25話 闇夜に咲く一輪のバラ、現る!

 城に潜入させた子トトの1匹アールは、第三近衛騎士団長シャンフレーと精鋭たちと共に西へと向かう。

 アールより、犯人がギルマルキン伯爵の可能性が高いと報告を受けた私は、鉄馬車の尾行を第一黒猫騎士団のアルファ隊に任せ、真っ直ぐギルマルキンの領地、アゴット市を目指す。


 他の隊への指示も完璧、オルト隊にはアールと合流、辺りを警戒しつつ騎士団の行軍状況の把握。

 マルシー隊、パーミル隊にはアゴット市に先行潜入、マルシー隊には市内、パーミル隊にはギルマルキンの屋敷内に潜入を命じた。


 《各隊、行動開始! 健闘を祈る》


 真夜中の森の中、リラはトトと共に道なき道をひた走る。



◆◇



 「女神様、この少年、アランをお助けください……」


 王城の治療室、ベットに横たわる少年アランの傍、椅子に腰をかけているルークが手を合わせ祈る。


 「アラン、貴方には教えなければならない事が沢山あります。

 死んではなりません、ミランも……、メアリーさんも、必ず助かります! 必ず無事に帰って来ます……。

 女神様、アランをミランを、メアリーさんをどうかお助けください……。

 私はもう迷わない、身分が違えようと、メアリーさんが無事に帰って来たならば、結婚を申し込み、そして、これからは私が必ずお守りします、誓います! 

 ですから私にそのチャンスを、どうか、どうか……」


 ベットに横たわる少年アラン。


 涙ぐみながら祈るルーク。


 それを見届ける……、黒い子猫……?


 ニヤリ。


 「え?」


 ルークは黒い子猫と目が合った瞬間、何とも言えない寒気が襲う。

 そんなルークを尻目に黒い子猫が横たわるアランに近づくと、その額に肉球を当てる。


 黒い子猫は何やら詠唱の様な物を唱えると、アランの身体に光が満ちて行く。

 アランの顔色は見る見る良くなり、遂には。


 「う、んん……」

 

 「ア、アラン!」


 「ん、ルーク様……? あっ、ルーク様! メアリー様とミランが何者かに!」


 「大丈夫、今、国が対策を講じてくれています、アランは休んでいなさい。

 私はミラ様の所に行って来ます」


 「い、いえ、私も行きます!」


 「ダメです、貴方の怪我は……え?」


 何事もなかった様に立ち上がるアランにルークは目を丸くする。

 ルークは黒い子猫が治療魔法を使用したであろう事は理解していた。しかし、一般の治療魔法とは時間が経てば経つほど効果が薄れる、しかもアランは重症であった。

 怪我をした瞬間であっても、それを治療出来る程の術者はそういない、ルークが驚くのは当然の事だった。


 ルークは驚きながらもアランを連れ、近衛騎士団の詰所に向かった。

 

 

◆◇

 


 王城の敷地内には、無数の別館建てられており、その1に第三、第四近衛騎士団共同の詰所がある。

 主に休憩室や仮眠室、団長室が整備されており、緊急時には速やかに増援が送れる様、王城裏口近くに建っている。


 そんな、第四近衛騎士団長室。


 「ミラ様、第五班、第六班が戻り班長たちが報告に参りました」


 ミラが書類仕事をしていると従者のロザリーが報告に来る。


 「ありがとうロザリー、通して頂戴」


 「「失礼します」」


 「第五班、報告します。警護対象、及びAルート異常ありません、第一班と業務を引き継ぎ、只今戻りました」


 「第六班、報告します。警護対象、及びBルート異常ありません、第二班と業務を引き継ぎ、只今戻りました」


 「ご苦労様、休憩に入って頂戴」


 「「はっ!」」


 班長たちが戻るとミラはロザリーに指示を出す。


 「ロザリー、第三班、及び第四班を緊急時待機の指示を、それが終わったらロザリーも休んで頂戴」


 「いえ、私は休む気など……」


 「失礼する、トゥカーナ家が執事、ルーク・クラリスと申す、トゥカーナ近衛騎士団長に至急お目通りを」


 ルークとアランは団長室に招かれると、今までの経緯を説明する。

 ミラもロザリーもルークの言う、子トトの不思議な力に驚き、アランの回復を、心から喜んだ。


 そして……。


 「え? そう言えばルーク様もアランもここに居ると言う事はリラ様は?」


 ロザリーの言葉に皆の動きが止まる。



◆◇


 

 アルファ隊は、休む事なく追跡し日を跨ぎ昼前、遂に休憩中の鉄馬車に追いついた。

 アルファたちは、囚われた数名の子供たちとメアリー、ミランを確認。

 そして、休憩中の男たちの会話から黒幕がギルマルキン伯爵である事が確定した。


 ——許さん! 私の家族に手を出して無事で済むと思うなよ!!

 話から囚われの子供たち安全は、ギルマルキンの屋敷に着くまでは確実の様だ、猫さんの隊も来ている、今、手を出すのは得策じゃないかも知れない。

 かと言って、ギルマルキンの屋敷に連れ込まれるのも良くない……。

 勝負は、鉄馬車がアゴット市に入る前まで、それまでに……。



 ロンフェロー公国、王都ミズリーより西に270km、私はとある屋敷を見通せる大木の上で身を潜めている。


 あそこの屋敷主人は私を怒らせた……。絶対に許さん! やるなら、そう、徹底的にだ!


 《アルファ隊、2人は大丈夫? オルト隊、騎士団の行軍状況は、マルシー隊、逃走ルートは任せた、パーミル隊、1匹も逃すなよ》


 私は各隊に念話で状況を確認する。


 —よし! 準備は整った!

         あとは、ド派手に決めてやる—


 《各隊作戦開始! ぬかるなよ、はちょー!》


 大木から発射された小さな影、それは門前で何かに阻まれる。


 「ちっ、魔力障壁か!」


 魔力障壁に、激しい音と共に衝突する小さな頭。


 「小賢しいわー! 唸れ! 私のぉ、デコニックパワー!! そら! ぶ・ち・ま・け・ろ・やーー!」


 凄まじい勢いで少女のデコに集まるエネルギー、遂には……。



 ガガーン!



 魔力障壁を突き破りド派手に破壊された屋敷を囲う外壁の一角。

 砂煙が引くと……。そこに1人の少女が姿を表す。


 漆黒のボブヘアにそこから飛び出た尖った耳、全身黒をベースした、真っ赤な差し色が入った特徴的な装束、それらを覆う漆黒のコート。


 世にも奇妙なポーズ決め、憎たらしいまでのドヤ顔を見せる少女の瞳は赤く光る。


 「悪を許さぬ闇夜に咲く一輪のバラ……」


 恥ずかしいまでの決めポーズに、頑張って考えたであろう、これまた恥ずかいセリフの途中、少女は破壊された外壁の諸々によって虫の息である複数の傭兵たちに気がつく。



 ……あれ?



 とある日の昼下がり、闇夜は顔を出してもいなかった。



 時は少しだけ遡り、ギルマルキン伯爵の屋敷。

 ギルマルキン伯爵の屋敷敷地内には警備の者が数名、いつもの様に静まり返っていた。

 

 そこに一報が飛び込む。


 コンコン。


 「マリー様、モリスにございます、お休みの所申し訳ありません、ロンフェローに潜入させていた間者が戻りました……、マリー様……?「わかったわ、謁見の間に通しなさい」

 はい、かしこまりました」


 マリーが準備し、謁見の間に入ると椅子の構わらにモリスが立ち、椅子より少し離れた所に黒いフードを頭からかぶる男がひざまずいていた。


 マリーは椅子に腰をかけると、静かに話す。


 「待っていたわ、では報告を聞きましょう」


 「はい、まずはベルゼード様の眷属たちですが、残念ながら、全て早々に討伐されました」


 「な、なんですって! 南、南からの強襲は!?」


 「残念ですが……、強襲し間もなく討伐された模様です」


 「なっ、ま、待ち伏せされたって事なの!?」


 「はい、おそらく……」


 ——待ち伏せ!? 私たちの計画が漏れていたと言う事か!?

 裏切り者? いや、この事を知っている者は極少数、あの者たちの裏切りなど考えにくい。

 だとすると間者……、しかし、アレらはガラムが始末したはず!! あれはおとりか!! 

 情報が漏れていた?! いつから? どこまで漏れている……。

 兎に角、最悪の場合、三国に知れ渡っているわ、この屋敷にもいずれ……。


 マリーの読みは大きく外れていたが結論は的を得ていた。


 「ここ放棄し、デゼルトに渡ります、急ぎ支度なさい! ベ、ベルゼード様!」


 モリスに指示を出していたマリーの目の前、虚空よりベルゼードが現れる。


 「話は聞いた、良い判断だ、幾万の兵を連れて来ようと、我にとっては羽虫ほどだが、今、目を付けられるのは不味い」


 「はい、今、各国に……」



 ガガーン!



 「な、なんだと! わ、我の魔力障壁が……、破壊された!?」


 ベルゼードは驚きを隠せず、その場で動きを止め、マリーは窓の方へと駆け寄り中庭をみる。

 そこには砂煙が立ち込め、その奥に小さな人影が現れた。

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