第23話 リラ、怒りのデコニックパワー

 爆発音と共に王都ミズリー全体に地響きが襲う。

 それと同時に南区の外壁の一部より土煙が立ち込める。


 「魔物が来るぞぉぉ!!」


 見張りに出ていたダリが慌てた様子で孤児院の方へと駆けてくる。

 孤児院に集まる市民や負傷兵たちは騒ぎ始め、戦いの準備を指示していたローも驚きの表情を浮かべる。


 「な、なんだと!」


 ローは魔物の襲来を想定していた訳では無かった。 

 統率の取れない市民を前に役割を与えたに過ぎなかったのだ。ハッキリ言ってしまえば一番それを想定していたかったのがローであると言えた。


 しかし、ローは元守護騎士の連隊長、即座に指示を出し始める。


 「戦える者は前に出ろ! 重傷者は聖ローナン大聖堂に運べ! 他の奴らはギルドやロンド校に女、子供、年寄りを優先させ非難させろ! フレアさんあんたも行ってくれ」


 「ロー、私は孤児院の院長だよ、ここに……」


 「それは聞けねぇ、戦えない奴がいると戦える奴が多く死ぬ事になる、悪いが強制だ」


 フレアはローの言葉に観念したのか避難者の輪に加わった。


 そんな避難を準備している時、遂に砂煙の中より魔物が姿を表す。

 キラーウルフを先頭に、ゴブリンなど多種の魔物、そして、それらを率いていると思われる赤いリザードマンの姿があった。


 「なっ、赤いリザードマンだと! しかも何だあの身体は!」


 ローが驚くのは無理もなかった、リザードマンの生息地は山脈の裏側、ドレスデン帝国領。ロンフェロー公国領内での目撃すら前例がなかった。

 しかも、通常、緑色の身体をしているリザードマンとは異なり赤い身体、身長は1.5倍程に対し体格は、5倍以上に見える。


 「ちっ、出すぎるな! 雑魚共を確実に仕留めろ、赤いのは俺が押える! ダリ、誰でもいい、西門、東門、それと王城に伝令を走らせてくれ!

 指揮者コンダクターが現れた、と」


 ダリは一緒に見張りをしていた者を西門と東門に走らせ、自身は王城へと走った。



◆◇



 リラも南外壁が破壊された事を知る場所にいた。


 ——え? ちょっ、これはヤバい!?

 早くトトたちを……、いや、ダメだ。今は戻したら……、やっぱりコレしかないか……。


 リラはマジカルスーツに身をつつむと指輪を弓に変え戦場へと飛び出す。


 ——こんな時に好き勝手やりやがって! 


 魔物が現れ間もなく、私は戦場、孤児院の状況をハッキリと捉えた。

 まさに今、戦闘が始まろうとしていたのだが、かんばしくない。

 避難者たちはパニックを起こし、肝心の戦闘員は、ローさん含め突如現れた魔物を前に気押されし、逃げ腰になる者もいた。

 こんな状態で戦いが始まれば、どうなるか……、火を見るよりも明らかだ。


 ——これは……、まずいな。

 ……ん? ピンチに現れる謎の少女……、このシュチュエーション、アレだ! 物語の主人公に他ならない!!


 私は孤児院の屋根の上に飛び乗ると、弓の弦を引く、矢はない。

 マナを弓に込め、魔法の矢を放つ……、そう、アイツが言った様にこれは杖、杖弓?なのだ。


 「喰らえ! レインボーストライク!」


 そして、密かに練習を重ねていた7つの魔法の矢を放つレインボーストライク。

 1矢、1矢が一流の弓士に引けを取らない威力、私が考えた必殺技の1つだ。


 ——え?! マジ?!


 突如として現れた、漆黒に身を包む私を見上げ、驚きの表情を浮かべるローさんや下々しもじもと……、私。


 想定外の出来事が起こった……。


 魔法の矢を食らった魔物たちの体には小さな風穴をあけ、更には貫通した魔法の矢によって負傷する魔物もいたのだ。


 想定では一般的なマジックアロー、初歩的な魔法や魔術のモノとさほど変わらぬ代物、当たりどころにやっては一撃と言う事もあるが、それは少数例。そんな威力の魔法を7つ同時に放つレインボーストライクであったのが……、きっとコレ、マジカルスーツが原因だろう……、コレを着て放ったのは今回が初めてだったのだ。


 マジカルスーツ恐るべし!


 私の登場にビビる魔物、驚きの表情で私を見上げる下々と……、一番驚いているであろう私。


 そして、私は悟る。


 ——これは、そう、私のセリフ待ちだ!!


 「待たせたなぁ!!」


 左手は弓を持ち腰の位置、右手は人差し指を伸ばし腕を突き上げ、高らかに言い放つ。

 下々は驚きの表情はやや和らぎ、ダダ滑りの様相を見せている。


 ……。


 「とう!」


 私は最前線にいるローさんよりも少し前に飛び出し、後ろを振り向かず、更に言い放つ。


 ——大丈夫、私のターンだって事くらいわかっているさ。


 「お前たちは先に行け、ここは私に任せろ!」


 ——決まった! 決まりすぎてしまった。


 「じょ、嬢ちゃん……」


 ——おっ! ローさんもわかってるねぇ、お決まりのヤツでしょ。

 す、すまねぇ。とか、生きて戻ってこいよ。とかでしょ。


 「何者だ……」


 ——任せて、その後の私の行動だってお決まりのアレでしょ?


 私は、親指を立てた手をローさんに見せ、少し振り向くと広角を上げると無言のまま、魔物の群れへと駆け出す。

 

 「へ?! 嬢ちゃん! 何者だぁぁ!!」


 

◆◇とある場所



 その頃、トト率いる集団は、とある場所に集まっていた。

 そこには重量のある馬車が止まっていた形跡のある場所、真新しい大小様々な足跡の残る場所。


 トトは小さな足跡の匂いを嗅ぎ、確信した素振りを見せ頷く。

 子トトたちは悟った様にトトに頷くと一斉に馬車の車輪跡を追う。

 そして、トトは王都に向かい走り出した。



◆◇王城



 地響きより少々、王城に伝令が走り込む。


 「な、なに?! 南外壁に穴だと!」


 南外壁に穴があき、40ほどの魔物が王都に侵入したと言う情報が王に待たされた。


 「直ちに動ける騎士団を向かわせろ!」


 「陛下、今、門の守りを緩める訳にはいきません、東はまだ魔物の数も多く、北には最小限の兵しかおらず、現在、動かせるとすれば西の魔法師団、カチュリー殿の団しかありません……、ですが……」


 ロダンは現状と動かしても比較的問題ない魔法師団をあげるが、冴えない顔を見せる。


 「ロゼ・カチュリーか……、ヤツを街中に放つのは本意ではないが人命が優先だろう……。

 急ぎ伝令を送れ! ……いいよな?」


 「こう言う時だけ、私に同意を求めないで下さい!」


 ローレンス国王もロダンも渋々伝令に事を伝える。



◆◇



 リラは破竹の勢いで撃破して行く。

 

 「りゃりゃりゃりゃりゃりゃー!」


 調子に乗ったリラを止める者などいない、必殺技レインボーストライクの乱れ打ちである。


 「わっはっはっはー!」


 トチ狂った様に乱射するリラ、周囲は砂埃が舞い、逃げるタイミングを失った者たちはドン引きしていた。

 しかし、そんなご乱心は長く続かなかった。


 「わっはっはッ、」


 バチコーン!!


 「ふぎゃーー!」


 砂埃から突如現れた、リラの身長ほどはあるであろう赤い拳がリラにメガヒット、無人の民家を突き抜け飛んでいく。


 「嬢ちゃん!」


 砂埃から現れる赤い瞳、赤い体のリザードマン、その姿には一切の傷がなく、目は血走り、ドス黒いオーラの様なモノを放っていた。

 


 「ば、バケモノめ、おい! 嬢ちゃんを! まだ生きてるかも知れん!」

 

 ローは近くいた者にそう声を荒げると、剣を持ち身構える。

 近づいて来る赤いリザードマン、ローは死をも覚悟した。


 「ってーな!! おい、トカゲぇーー! オイ、ゴラァー! トカゲぇーー!!」

 

 漆黒の少女が飛ばされた先より、禍々しい殺気と共に少女の声が聞こえる。

 ローは赤いリザードマンに警戒しつつも少女が飛ばされた方に瞳を動かし、赤いリザードマンは……、これでもかと言うほど、震えていた。


 ……。


 「覚悟は出来たんだろうなぁ、あぁぁん! ゴラァ、トカゲぇーー!!」


 赤いリザードマンの血走っていた目は、見る影もなく泳ぎまくり、更に震えが大きくなる。


 ……。


 「一発、一発殴らせろやぁー! 唸れぇぇ! 私のぉぉ! デコニックパワーーー!!」


 デコに集まるエネルギー、それは収束し眩い光を放ち、少女の目は不気味に光る。


 そして、そんな少女の目と、赤いリザードマンの目が合った瞬間……。


 ……ちーん。


 赤いリザードマンは白目をむき、倒れ……、息を引き取った。

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