第22話 王都攻防戦

 薄暗い屋敷の中、禍々しい気配の男ガラムは、ギルマルキン伯爵とベルゼードの前にいた。


 「それで、ストラスどもは始末したんだろうな? 聖教やそれにともなう国々がどうなろうと知った事ではないが、我々の邪魔になりえる者を放置するのであれば、聖教とて……、いや、女神であろうと容赦はせぬぞ」


 ベルゼードはガラムよりも更に禍々しい気配を放ち、威圧する。


 「素晴らしい! やはり十二いる悪魔貴族のお一人ベルゼブブ様の転生体でいらっしゃいますね。

 こんな短期間で全盛期のお力が戻っていらっしゃる」


 「全盛期!? 愚弄ぐろうするのも大概にしろ、半分にも満たぬわ! 貴様の喋りに付き合っている暇などないのだ、早う質問に答えろ!」


 圧倒的上位者の威圧であったがガラムは、うすら笑みを見せそれを流し、ベルゼードは声を荒げる

 いつもは平常心でいたマリーであったが、うっすらと脂汗の様な物を流し、ベルゼードの傍らに立っていた。


 「あっ、ストラスさんの事でしたね、正直に言いますとですね、分かりません」


 「な、なんだと!」


 「最後まで聞いて下さいよ、私だって色々考えての事なのですから」

 

 激怒に近い様相を見せるが次のガラムの言葉に苛立ちを見せながらも黙るベルゼード。

 そんな様子を確認するとガラムは続ける。


 「私がるのは問題があるでしょう、色々な憶測を呼ぶ事になりますよ。

 ですから魔界よりオルトロスくんを召喚して来ました、後の事は知りません」


 「ば、馬鹿な、オルトロスだと!」


 「はい、そりゃ、私にも隠し事の1つや2つくらいありますよ。

 オルトロスくんがストラスさんをってくれれば良し、もし逃げ切れたとしてもオルトロスくんはロンフェロー公国に大きな被害をもたす事でしょう……、大丈夫ですよぉ、ストラスさんは何も出来ませんし、何も言えませんよ。


 ベルゼード様にはわかっておいででしょう?


 あっそうそう、話は変わりますが半年前エルフと共に失踪した聖騎士長の事件あったじゃないですか? その時のエルフが青い宝石に羽根の装飾が施されたネックレスを肌身離さず付けていた、と言う話ですよ、ではでは、私はこれにて」


 ガラムは語るだけ語ると、ベルゼードとマリーに背を向けると右手を振り悠々と部屋を出て行く。


 「ベルゼード様、ガラムが言っていたネックレスって……」


 「ああ、我々の探している三工の遺産さんこうのいさんかも知れん。

 しかし、腑に落ちんな。我々が遺産を探していると言う事は知っている筈……。

 それが今更、聖騎士長グレゴリー・ランズバッハ、人類最強の男か……、もうアムサドーには関わるな、あのガラムと言う男は信用できん」


 「使い勝手の良い駒でしたのに、かしこまりました」


 マリーは残念そうに頷いた。


 「そう言えばもう始まっている頃か、ロンフェローの者どもは被害をどれ程抑えられる物か見ものだ。なあ、マリー」


 「はい、わたくしとベルゼード様の合作、あの3は、頑張ってくれるでしょうか」


 マリーは楽しそうに笑う。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 王都ミズリーの戦いは指揮者コンダクターの出現により熾烈を極めていた。

 

 「どうなっていやがる、このゴブリンジェネラル! この俺が3合まともに打ち合えねぇ、ラドゥーガと言ったか、急ぎ怪我人を連れ下がれ! 東門上に魔導士を待機! 東門前は三つ星以上の者のみを待機させろと伝えておけ! 徐々に後退しする時間はないぞ! いけー!!」


 「はっ!」


 ボーバールはゴブリンジェネラルの攻撃を一身に受け、健在の騎士団はそれに攻撃にを加えながらも周りの魔物を1匹、1匹と数を減らして行く。


 ——クッソ! ボンボン団長が! 早々にやられやがって!


 大きな斧を振り回し、様子のおかしな大剣を操るゴブリンジェネラルと死闘を繰り広げているボーバール。

 ボーバールは守りに徹しながら徐々に下がる。


 「クラーク、らちがあかねぇ! お前は団を率いて雑魚どもを引き離せ! コイツは俺が食い止める!」


 「し、しかし、それでは攻撃が!」


 「構わん! どうせ大したダメージは与えられてないだろう、王都まで引っ張って行きゃあ、魔導士団がどうにかしてくれんだろう」


 「わ、わかりました。

 それより私、クラーク・ディーボルトが団を率いる! 雑魚どもを団長から引き離すぞ! 1匹たりとも団長に近づけるな! 団長、ご武運を」


 「ああ、行け!」


 クラーク率いる騎士団は瞬く間に魔物の群れを押えると、徐々に戦地を移動させる。


 「さすがだな、団を動かす事に関しちゃあ、国1番かもな」



 そんなボーバールとゴブリンジェネラルだけになった戦場に城の方から駆けてくる小さな黒い集団があった。


 《よし、オッサン1人だけか! 丁度良い!!

 第二黒猫騎士団、デルタ、グラム、シグマ、オメガの小隊はこれよりあのオッサンを援護する! れるならっちゃいな!》


 「「「「にゃー!」」」」


 36匹の黒い子猫、それらは戦場に駆けつけると、ボーバールとゴブリンジェネラルの攻撃をくぐりゴブリンジェネラルに殴り、蹴り、ダメージを蓄積させる。


 「こ、子猫!?」


 黒猫集団の介入により攻守は逆転する事となる。

 そして、ボーバールは攻撃に転ずる。


 「つえーな、猫ちゃんたち! 今度めざし奢るから、もうちょっと付き合ってくれやぁぁぁ!!」


 

◆◇



 ミラは指揮者コンダクターのいる戦場へと向かっていた。

 

 「チッ、隊の分断を謀ってくるとは……、思いの外時間がかかった、急ぎシャンフレー殿と合流するぞ!」



 大きな魔物、ゴブリンジェネラルの2倍はあろう巨大な壁に小柄な獣人族の女性が2本のナイフを巧みに使い果敢に戦っていた。

 彼女の名はヴァラドナ・シャンフレー。

 種族差別の少ないこの国でも珍しい騎士団長の1人、第三近衛騎士『不知火』の団長である。

 髪は萩色のシフォンショート、目はクリッと大きく瞳は鮮やかな緑色をしている。猫科の獣人族。

 

 そんな彼女と対峙するのは、黒光した鋼鉄の様な色の身体をした、立派な一本のツノを持つオーガトロール。

 片目に古傷を持ち、手には巨大なナタの様な物を持っている。


 「なんで回復しちゃうのよ! ズルいじゃない!!」


 明らかに力のありそうなオーガトロールの攻撃を受け流しながら傷を与えるヴァラドナ。それは演舞を行なっている様にも見える。


 しかし、与えた傷はたちまち消え、癒える。


 そんな中、ヴァラドナが受け流しをミスし、足が地から浮かせられてしまう。そして、そこに巨大なナタの横薙ぎが迫る。


 「え!? ヤバ!!」


 危険だと理解するも、目の前には巨大なナタの横薙ぎが迫る。


 ヴァラドナはある程度のダメージを覚悟しつつ大ナタの横薙ぎに2本のナイフを合わせようとした瞬間、黒い何かが飛んで来る……。それは。


 「にゃー!!」


 見事な黒い子猫のドロップキック。


 黒い子猫のそれは、巨大なオーガトロール頭にパチコーン直撃、巨体は大きな音と共に倒れた。


 《ナイス、ルクス! ルクスの小隊はそのままその猫さんの援護ね、ベータ、アール、ルートの小隊は山脈側の魔物を殲滅、逃げる奴は追わなくて良い! 向かってくる奴は、っちまいな!》


 「ニャ、ニャンコだぁ!! どうしてニャンコがこんな所に!? 私と戦ってくれるの!?」


 ヴァラドナの言葉にルクス小隊9匹は一斉に頷く。


 「わーい! ニャンコがいれば無敵! 私は負けないよ!!」


 ここに猫科の獣人ヴァラドナと黒い子猫9匹の異質のチームが結成された。

 


◆◇



 ——ふう、魔物もボスっぽいの意外はあらかた片付いたみたいだし、王都内の侵入はもう無いかな、城に潜入させた第一黒猫騎士団は余計だったか……、我作戦ながら完璧! いや、超完璧じゃないかぁ!!


 「わーはっはっはー!!」


 私はとある場所で高らかに笑う。


 「おい!! さっきから何度もノックしてんだろ! トイレで何やってんだ、頭おかしいんじゃねーか!? 早く出ろぉぉ!!」


 ——はい、すいませーん。


 私は可憐にトイレから出ると待っていた男は私の美しさ驚いたのか、怒りにも近い驚きの表情を見せる。

 

 孤児院には多くの市民と怪我人、その怪我人を連れて来た人でごった返していた。

 現在の所、重傷者も命を落とす危険はなく、落ち着いている。


 しかし、私には1つ気になる事があった……。

 それは、治療魔術を使う人が極端に少なすぎると言う事。

 私も魔法は兎も角、治療魔術は得意ではない……、超苦手と言っても良いだろう。


 ——相手の状態に合わせて微妙な術式の調整……、面倒なんだよね、やっぱり魔術はドッカーン、バッカーン、大規模系が基本!

 でも、こっちの人、魔導具技術や付与は凄いんだけど、魔術はダメダメじゃん? それにしても少なすぎるんだよねぇ。


 そんな事を思ってあると、急いだ様子でルークがやって来る。


 「リラお嬢様! リラお嬢様何処ですか!」


 ただならぬ様子のルーク。

 私はすぐにルークの元へ行くと、人気ひとけのない方へと手を引かれる。

 そして、神妙な面持ちで語り出す。


 「リラお嬢様……、メアリーとミランが王城へ向かう道で何者かに拉致されました「え!?」アランは重傷です。

 こんな状況でミラ様に連絡が付きません、国王が影を動かしてくれていますが、状況は……」


 「トト! 城の第一黒猫騎士団を呼び戻してメアリーとミランを探して!」

 

 ルークはリラの声に驚いた様子で動きを止める。私が放った言葉すら上の空の様。

 ルークのこんな姿を見たのは初めてだ。メアリーの事をすごく心配しているのが手にとる様にわかった。


 「ルーク! ルーク聞いてる!? メアリーたちの事は私が何とかするから、ルークは城に戻って情報を集めて! で、後で行く子トトに逐一報告! いい!? わかった?!」


 私の声にハッとし一回は頷くが、直ぐにおかしな事を言われているのに気がつく。


 「ちょっ、ちょっと待ってください! どうにかするって」


 「いいから! どうにかするって言ったらどうにかするの! 今は黙って言う事を聞いて!

 魔物との戦いは、もうそろそろ終わるから動ける騎士団も準備する様に言っておいて! 早く行って!」


 私は何度も何度も言い聞かせ、ルークは納得しないまま押し負ける形で城へと向かう。


 《アール隊、そっちはあらかたみたいだね、悪いんだけど城に向かってくれる? うん、ルークの所、うん、お願い》

 

 私はその場で今後の事を考えていた。


 ——魔物を王都内に入れなければ安全、こんな状況で絶対に安全な訳ないのに……。

 私が子トトたちを、みんなに付けていれば……。

 クッソ! 考えろ、考えるんだ、もし王都の外に出たとしても痕跡が残ってるはず、トトたちなら見つけられる筈、いや、見つけてくれる!

 私が今動いたからと言って何が出来る訳でもない……。

 私が今、出来る事……、私がやるべき事……。


 私は居ても立っても居られず、トトたちの視界をタペタムGOで覗き見る。

 街の中を疾走するトトたち、屋敷から王城への道、そこに見えてくる血痕、拉致された場所であろう。


 そこにアール隊から一方が入る。


 私はその一報で、アランは命に別状はない事、影からの連絡がまだない事を知った。


 私はホッと胸を撫で下ろす。


 今すぐにでも動きたいが、動く意味のない状況……、どうするべきなのか、考えても答えが出ない長く短い時間が過ぎて行く。


 そんな何とも言えぬ空気感の中、状況は更に悪くなる。

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