第21話 コンダクターの出現

 「え? 普通に断るけど」


 私は王城前にてルークとランスに引き止められている。


 ベルト山脈より魔物が進軍始めて1日と少し、今日の夕方には王都が戦場になる事が避けられない状況にあった為だ。


 今日は早めに王城に来てティファの治療を終えた、理由は……、私には今日、やらなくてはならない事があったから。


 「リラお嬢様にはティアレンス殿下の治療もあるのですから、言う事を聞いて下さい!」


 「そうだ、父上にもリラの安全を第一にと言われている、トゥカーナの家の者もすぐに王城に連れてくる様、指示を出しているし、南区にも衛兵が派遣されている。

 リラはここにいるんだ!」


 そんな事を言われても私の考えは変わらない、南区にある孤児院、あそこには私にとって家族、多くの家族がいる。

 衛兵を信じていない訳ではないが、万が一もある。確かに私の力などまだ子供に毛が生えた程度だろう、しかし、私にはトトたちがいる。


 トトたちの戦闘力はそこら辺の冒険者を凌駕する、必ず力になるはずだ。しかもあそこはトゥカーナ家が運営している、母様が戦場へとかり出されている今、私が守るべき場所なのだ。


 それに、いざとなれば……、あの恥ずかしいスーツを着れば容易い! はず……、そして。


 ——デコニックパワーの力を魔物で実験、いや、デコニックパワーの力を魔物共に見せてくれるわ!!


 そう、私の好奇心は誰にも止められない、それが例え国の王子であろうとも!


 「邪魔だ、どけーい! わーはっはっはー!」


 リラは南区に向かいひた走る。


 残された2人は……。


 「ル、ルーク、君はリラの家の執事だろう、どうにかしてよ……」


 「国王陛下にリラお嬢様を城にとどめる様言われたのは貴方様でしょう? それに国の王子たるランスロット様に止められないのに、私に止められるとでも?……」


 「こんな状況で、リラ……、楽しそうだったな……」


 「はい……、楽しそうでしたねぇ……」


 「「……」」


 「南区は比較的安全なのですよね?」


 「ああ、山脈は南にあるが外壁は強固な物だし、門もない、前回の魔物大行進の時は破損部から侵入を許したらしいが、今は定期検査も行われ万全の筈だ。念の為、父上に騎士を出せるか聞いてみるよ」



◆◇


 南区の孤児院には多くの人が詰め寄せて来ていた。


 「困りましたね、この人数、もと教会と言っても多すぎます……」


 孤児院の一室、修道着に身を包む年配の女性、フレアがため息混じりにボヤく。

 フレアの目の前には冒険者であろう身なりの中年の男、ローも困った様子で口を開く。


 「中央区の教会、ロンド校、ギルドの闘技場なども開放してるが、どこもいっぱいだ。

 ここは炊き出しにもあやかれるし、比較的安全だと思ったんだろう、まあ、ここは怪我人の治療所としても登録されている場所だしな、ちょっとカツいれてくるわ」


 「悪いねローさん、あんたの所も討伐に参加してるんだろ?」


 「ああ、俺のクランは一番魔物が押し寄せて来るであろう西門に行く事になったよ、それでもマシか……、西の遊撃がミラの隊と、第三近衛騎士団に決まった。


 下級貴族や平民上がりがの奴らが多くいる隊だ。


 ふざけやがって! 上級の奴らは安全な北門に配備されやがった、まあ、そんな騎士の中にも地団駄を踏んでいる奴もいるがな、はぁ、ミラになんかあったらヴァンに顔向けが出来ねぇ……」


 「安心しな、お前さんの部下であった頃とは違うんだ、今やあの子は、ミラはこの国が誇る騎士の1人、お前さんが心配してやるタマじゃないよ」


 「ああ、そうだな、じゃあ俺は外見て来る、あのままじゃ不味いだろうからな」


 「ああ、頼んだよ」


 ローは外に向かおうとするが、孤児院の広間にて騒めく多くの人を目にする。


 「テメーら、出て行け!! ここはテメーらの避難場所じゃねーんだ! 人の家に土足で上がりやがって! ここは治療所として登録されている場所だ、年寄り子供以外出て行け!」


 ローは怒号を飛ばすが、多くの人は騒めくだけで動こうとはせず、ローの言葉に反抗する者も現れる。


 「良いじゃねぇか! まだ怪我人なんて来やしねぇーし、そもそも魔物だってまだ来てねぇーじゃねーか!」


 「「そうだそうだ!」」


 そんな光景に、ローの怒りのメーターが振り切れる。


 「ほう、貴様ら元気じゃねぇーか、そんだけ元気があるなら一緒に西門にでも行くか? あぁん?! ここに居たって何の役にも立ちそうにないが、西門なら盾くらいにはなんだろう」


 そう言いながら冷たい殺気を飛ばすロー、それを目の当たりにした人たちは、ゾロゾロと孤児院を出て行くが、ローは追い討ちをかける。


 「ここで役に立たない者は西門に向かえ! それが嫌なら役にたて! 人が多すぎて怪我人も運べん、道に人を留まらせるな! 広場を開けさせろ!


 戦ってくれている者達を助ける事が各々の命を守る事と知れ!! わかったな!」


 ローの主張にテキパキと動き出す若い男たち、それを見たローは指示を出し始める。


 「おい! 戦える奴は名乗りを上げてくれ、把握したい!

 この前の魔物大行進と時は南区の外壁が損傷し、数匹の魔物の侵入を許し、被害も出た。


 丘の上から見張りを! あっ、ダリさん、そこら辺の使えそうな連中つれて交代でやってくれ!


 孤児院の周囲にバリケードを作るぞ! 無いよりはマシだろう、そこのゴッツイ人、暇してる連中つれて何でも良い、使えそうな物持ってきてくれ!


  おい、誰か、ギルドに訓練用の武器が余っていたはずだ、借りてきてくれ!


 悪いが、女、子供も炊き出しなんかの手伝いをしてくれると助かる!」


 孤児院の周りは統制が取れて行く、各々が行う役割を与えられ、人々はキビキビと動く。



 そんな最中、最悪を告げる遠吠えが辺りに響く。



◆◇



 「何!? キラーウルフの群れが王都目前だと!? ゴブリンではなかったのか!」


 予期せぬ事態にローレンスは声を荒げる。

 山脈の異変を聞いてより不眠であったその顔は少しやつれていた。


 「群れにならずに山脈を降り、この王都近郊で群れとなった様です……、複数種での魔物大行進、基本群れで行動するキラーウルフの不可解な動き……、指揮者コンダクターが現れたと推測するのが正しい見方かも知れません」


 「指揮者コンダクターだと! で、では魔王が本当に復活したとでも言うのか!」


 コンダクター、歴史の節目に起こる厄災では必ずと言っても良い程に現れた存在。

 一種の魔物であれば、それは群れのボスやリーダーなどと表現されるが、コンダクターは違う。他種の魔物を束ねるのだ。

 有名な出来事と言えば約200年前に現れた魔王カルディナだろう。

 しかし、魔王カルディナの様に世の知る事となるのは少ない。

 コンダクターになる魔物には知恵が備わる、故に表には出て来ない事が多いのだ。

 世に知られてはいないが世界には、このコンダクターと呼べる魔物は多々、存在していた。

 

 「古書によれば、魔物の変異種が指揮者コンダクターとなった例が多々あると記してありました。

 現在の所、魔王との関連はわかっておりませんが、危機的状況には変わりありません」


 状況は一刻の猶予もない、ローレンスはそれを理解していた、そして……。


 「王都の結界は中止する! 指揮者コンダクターが存在するのであれば、多くの魔法士のマナを使い結界を張る事はほとんど意味がない。

 マナが尽きるのを待たれて終わりだ。

 全てのマナは魔物の殲滅に注ぐ様、指示を変更しろ!

 

 北門は守護騎士に任せ他の騎士団は西と東の遊撃に回す、リカードに伝令を送れ!


 指揮者コンダクターと遭遇した場合、それは三つ星以上の実力者に当たらせろ! 以上だ、意見は認めん! 全て徹底させろ!」

 

 「はっ!」


 慌ただしく動く城内、国王ローレンス・フォン・ロンフェローの指示は速やかに実行される。


 そして、魔物大行進の第一波、キラーウルフとの戦闘が始まる。

 

 

◆◇東門



 「ランスタッチ団長! 来ます!!」


 「よし! 魔導師団第1班、うてーー! 第2班詠唱開始!……、……、……、今だ! うてーー!!

 いいか! 門前には守護騎士や冒険者、ハンターが控えている、無理に倒す必要はない抜かせても構わん! 目の前の魔物だけに集中しろ! 指揮者コンダクターらしき者を発見の際は必ず赤い閃光弾で知らせろ、無理に戦おうとするなよ! 抜刀! 突撃ーー!!」


 赤い鎧を見に纏う大きな斧を片手に持つ大柄の男、ボーバール・ランスタッチは先陣をきりキラーウルフの突撃する。

 


◆◇西門


 西門を出て南、山脈へと向かう森の手前、第一波であるキラーウルフをあらかた討伐が完了していた。


 「よし、あらかた片付いたか、まずは我々の勝利だ! 一旦戻るぞ!」


 遊撃隊の指揮を取っていた第三公国騎士団団長ルーカス・ゼフィードが高らかに声を上げる。そして、馬上より側近と共にミラに近づくと声をかける。


 「ミラ殿、我々は一旦戻ります、バッシュの小隊は残して行くので、こき使ってやってください。

 では、前線はお任せします。怪我をされた方は我々にお任せ下さい。では再編成の後すぐに戻ります」


 「わかりました、ゼフィード団長、先陣お疲れ様でした。怪我人の方はお任せします。バッシュ殿よろしく頼む」


 ルーカスの傍らにいた青年にミラが目を向けると、小さく頭を下げる。



 ◆◇



 「リラちゃん戻るんだ、ここは安全じゃねぇかも知れねぇ、家の人だって心配してるぞ?」


 私は孤児院の広場にて、軽傷者の受け入れの為、テントを組み立てる作業の手伝いをしていた。

 骨組みと屋根の部分にシートが張られる簡単な物、すでに20以上のテントが完成し、そのテントの下には腰掛けやベットが設置されている。


 「ローさんよりもここにいる理由があると思うの、私、トゥカーナ家の者だよ?」

 

 「そらそうだが、ミラは今回危険な遊撃隊に選ばれたんだ、心配させんじゃねぇよ。

 それに今回は嫌な予感がするんだ。

 どうも魔物との戦いの空気感じゃねぇ……」


 空気感の事は知らないけど、私だって今回の魔物大行進の事を知って、準備して来なかった訳ではない。

 子トト9匹1組、それに隊長をおき12の小隊を編成。

 臨機応変に態様が出来る様になっている。

 そして、現在は西と東、更に城にも4小隊ずつを送り込み急な事にも対応可能なのだ。

 

 「怪我人が運ばれて来たぞ!」


 そんな男の言葉に周囲は慌ただしく動き出す。


 「4番から21番のテントにはベットが用意されてる軽傷者は、まずそのに運ばな!

 そして、治療班が軽度と判断した者たちは1番から3番のテントに用意してある腰掛けに案内しな!

 重傷者は中だよ! わかってるね! さあ、こっからはゆっくり休んでる暇はないよ!!」

 

 慌ただしい孤児院の周りにフレアおばさんの声がこだまし緊張感がふくれる。

 


 運ばれて来る者の多くが軽傷者、重傷の者は少なかった。

 私としては初めて見るこの状況、王都は大丈夫なのかと思いもしたが、ローさん曰く「現時点では驚くほど被害は少ない」と言う言葉を聞き安堵する。



 しかし、その安堵は一瞬の内に消える事となる……。西と東の双方より、赤い閃光が打ち上がったのだ。

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