第14話 希望の光

 リラが目を覚ますと、そこには見慣れない高貴な天井が見える。


 ——……ん、口の中、血の味がする……、毒素を吸いすぎて血でも吐いたのか?

 そんなにマナを吸収した覚えは無いんだけど、毒素がかなり濃いな……ん? 誰?


 私が寝かされていたベットの傍にはランスや国王に似た髪色の少年が椅子に座り、リラが寝るベットに顔を埋めている。


 そして、私の頭の中に新たな文字2つ……。


 『タペタムGO』それと……。


 『唸れ私のデコニックパワー』……。


 ——な、なんだ……コレ、この状況でこんな得体の知れないもん、絶対使わないからね?! ここ王城だよ? 使う訳ないじゃん! バカなの!? それにしても、のネーミングセンスはどうなっているんだよ!


 リラは摩訶不思議なこの現象にも慣れ、一切の疑問を捨てていた。  

 そして、少年を起こさぬ様、布団から出ようとするが少年は、目を覚まし目が合う。


 「おはよう、私はリラ、リラ・トゥカーナ、貴方は?」


 リラが少年に挨拶をすると、目を擦り、リラをボケーと寝ぼけまなこで見つめると口を開く。


 「アルフレッド……ティファは助かる?」


 アルフレッドは真っ直ぐリラの目を見て離さない、少し泣いていたのか、目や周りは赤みを帯び、少し腫れている様に見える。


 「まだ、わからない……」


 そう、まだわからない、マナドレインを使った時、ティファの苦しそうだった表情が和らいだ。

 顔色も少し良くなりホッとした……私はその後倒れたのだろう、記憶がない。

 ティファの症状は末期、早期であったならマッサージだけで完治出来ただろうが、毒素が溜まりきっている。

 毒素を抜く薬の存在は知っているが、私には作る事が出来ない。


 ——マナドレインで少しずつ抜くしかないか……、でも運が良い事にゼロ・フィールドを使えるトトがいる、時間をかければ……。


 「でも、最善を尽くすよ」


 安心させてあげたかったけど今の私には、その言葉が精一杯だった。

 

 「治療を……、キミはティファの治療をしてくれるのですね……、ありがとう……、ございます、母上を呼んできます」


 治療をする、アルフレッドにとってそれだけでも希望だった。

 アルフレッドはリラに深々と頭を下げると部屋を出て行く。


 ——あの子、泣いてた……、あの子がランスが紹介するって言ってた弟かな?

 まあ、あの子って言っても私より歳上だけどね。

 

 さて! もう、いっちょ毒素抜いてやりますかー!



 バン!


 「リラちゃん! 大丈夫なの!?」


 扉がバン!と開くと高貴なドレスを来た、女性が姿を表す。

 彼女の髪はこの国には珍しい、澄んだ青空の様な鮮やかな水色をしている。


 アルカーナ大陸では、色の濃い薄いはあるが、茶色系、黄色系の髪を持つ者が多く、少々、私や父様の様なグレー系の人がいる。

 そして、青系や赤系はデゼルト大陸の様な西側に多い。


 ——ん? ど、どちらの美人さんで? あ! アルフレッドが母上をって……! お、王妃さま!?


 「は、はひ!」


 「よかった、急に血を吐いて倒れたってランスロットがリラちゃんを抱いて来た時は、本当驚いたんだから」

 

 ——やっぱり……、まだ口の中が鉄くさい……、でもランスには具合が悪くなるかもって言っておいたのに……。


 「ご心配おかけしました、改めまして、リラ・トゥカーナと申します」


 「あっ、わたくしとした事が、初めまして、ランスロット、アルフレッド、ティファレンスの母、フローラと申します」


 ——へ? 王妃様っ驚いて頭回らなかったけど……ランスたちの母!? わ、若すぎない? 

 

 リラの瞳には20代半ば程に見えていた、ランスロットの歳は16歳、当然の如く困惑する。


 ——それにティファってティファレンスって言うんだね。


 「リラちゃん、貴女の事もとても心配なのだけど、今は、どうしても聞きたい事が……。」


 当然、聞きたい事とはティファの事だろう、誰も治す事の出来なかった病、娘を長きに渡り苦しめて来た病を少しでも改善したのだから……。


 ——まあ、当然だよね。


 「ティファの事ですね」


 「ええ、ごめんなさい、ティファの事でリラちゃんも倒れたのでしょ? それでも私は……」


 「大丈夫です、ランスにも言いましたが具合が悪くなるのは想定してましたから」


 「え? ランスはそんな事……」


 ——ちっ、ランスめパニクリやがって! 放置しろって言ったのに大事おおごとになったじゃないか!


 「大事だいじな事なのでハッキリ言いますが、ティファの容態はかんばしくありません。

 あの病の知識は少しありますが、治療となると出来る事が限られています」


 リラが言うとフローラが涙を浮かべ、今までの凛とした姿はそこにはなかった。


 「希望が……、まだ希望が、あるのですね」


 「希望は……、あります、しかしティファの体力、頑張りが必要不可です。

 胃に優しい食べ物を用意して下さい、後、果物があればそれも、私は先にティファ様の部屋に、ランスから聞いていると思いますが、ティファ様の部屋には誰も入れない様お願いします、では」


 「ちょ、ちょっと」


 リラはベットを飛び降り、寝かされていた部屋を出るとティファの部屋へと向かう。


 ——ごめんよ王妃様、ティファに会って色々話したいよね……、でもさ、私が色々出来ちゃう事って、この世界では普通じゃないみたいだし……、知られると、超めんどー! 質問攻めとかマジ勘弁! 説明って言ったって私だって良くわからないんだもん〜。


 リラはこの時、ランスロットが普通にティファの部屋に皆を入れ、聞かれてもいない事をペラペラと話している事をまだ知らない。

 

◆◇


 「リラちゃん! これも美味しいよ」


 そう私に声をかけて来たのはエレン。

 私は今、お披露目会の会場にいる。

 あの後の事をヒューリ夫妻にあれやこれや聞かれたのは困ったが、会場ではアランもエレンも笑顔で仕事をこなしている。


 ——うんうん、良かった良かった。


 「本当だ! 美味しい〜」


 そんな事はさて置き、私は迷子になった……、しかし、私はすごい子! 瞬時に解決法を見つけたよ。

 それは、トト召喚! トトはティファの所にいるから正確にはちっちゃい方の子トト。

 順調に城内を歩き、ティファの部屋に行く時に通った廊下にたどり着いた、瞬間、事故が起きた。

 出会った使用人に声をかけられたのだ。

 そして、ティファの部屋に行くと伝えると「こちらです」と無愛想に別の方に案内され、「親御さんから離れない様にして下さい」と、到着したのがここ。


 現在、スイーツコーナーでスイーツを食べているながらティファの部屋にどう行ってやろうかと模索している最中なのだ。


 ——敵は何処にでも湧く使用人、城内からでは確実に発見されてしまう……と言うことは。


 私の思考が神をも超える。


 ——外からでしょ!!


 「ちょっと私、お花を……、摘んで来ますわ」


 私は華麗にそして、スピーディーに会場の壁に擦り寄ると警戒しつつ忍び足、扉を抜け、中庭にある庭園に出た。

 子トトを再度召喚し、オホホ話をしている奥様方には目も暮れず、人に見つからぬ様、疾走する。

 

 程なく子トトが止まり上を見上げる。

 見上げた先には窓からピンクの色をした柄物のカーテンが風でなびいている。


 偶然にも石の壁に近い色のドレスを着ていたリラは、石の壁にへばり付くとGジーが如く、カサカサと登り始める。


 ——心配かけたかもだし、ここは元気に登場と行きますか!


 しかし、リラはこの時、大事な事を忘れていた。


◆◇


 ローレンス、ティファ、ミラが病の事やリラの事を話している中、ルークは部屋の端にランスを呼び、ヒソヒソ話をしている。


 (ランス様、リラお嬢様に何か言われてませんか?)


 (え? 何かって?)


 ルークは不思議に思っていた。


 (リラお嬢様が何かやらかすのは決まってミラ様やロザリーがお出かけになった後、そして、何かやらかした後には必ず口止めをされます。

 それが良い事であったとしてもです)


 ランスは今に至るまでの事を思い出そうとし、ある事に気がつく。


 (あっ、そう言えば口止めされたな、この部屋に人を入れるなとも……)


 (はぁ、やはり……、まずいですね)


 (は? まずいって言ったって仕方がないだろ、今はどの国もティファの病を治せる者はいないんだぞ? 治す方法の糸口があれば、それはもう国家単位での研究事案だ、それが出来れば国として強力な武器カードになりうる)


 (はぁ、ランス様にはもっとハッキリ言っておくべきでした。

 何とは言いませんが、私はリラお嬢様に弱みを握られています。

 でも誤解しないで下さい、いざとなればその事が知れ渡ろうが構いません、私の行動を制限出来る程の事ではありません……しかし、リラお嬢様には少女にあるまじき武器カードがあります)


 (え? そ、それは?)


 (それは)


 ガチャーン!!


 そんな部屋へと窓から何かが勢い良く飛び込む。


 「リラちゃん、完全復活!!!」


 突如として現れたリラは、大きく股を開き、左手は腰に、右手を高々と上げていた。


 「「「「……」」」」

 

 リラのドヤ顔が歪む。


 「み、皆さんお揃いで……」


 私は人目を気にする事に集中し過ぎ……、部屋の状況をトトに確認するのを忘れていた事に今、気づく、そして……。

 

 「リラちゃん!!」


 母様の怒号がこだました。


 ◆◇


 私は母様に怒られる事なく、異様な空気に包まれたティファの部屋にいる。


 私を連れ出し怒ろうとしていた母様だったが、国王が「情報が得られるかも知れん、私も行こう」と言い出し、母様が思いとどまったのだ。


 そして、私はティファの病の事を尋問されている。


 「何処かで読んだ書物で知った、と?」


 ローレンスがリラに聞く。


 「はい、私の知識は殆どが書物からですから……」


 ——こうなったら書物、書物の一点張りしかない!

 ランスの野郎ぉ! 後で覚えてろよ!!

 

 「……自宅にあった書物に、ギルドや知人、流しの行商などに借りた、か……。

 本当にそんな書物が存在するのか? それならば知れ渡っててもおかしく無いのだが……」


 ローレンスはあご手を当て考える様に呟く。


 「父上、今はティファの事を」


 考えにふけている国王を見たランスが話を戻し、私は適当に説明を始める。


 「先程も言いましたが、何処で得た知識かが曖昧で、正しい物なのか、間違っている物なのかは分かりません、それだけは理解して下さい。


 病名は先天性、魔動脈不全、別名七つ還り、産まれながらに持つ病です。

 症状は高熱、目眩、嘔吐、肌は変色し、末期になると壊死し始めます」


 「うむ、ティファの症状にピッタリ合うな」


 リラの話を聞いていたローレンスが相槌を入れる。


 「病の原因は身体のマナを巡らす道、魔動脈で毒素が作られる事。

 毒素はマナの性質を変え、自然に行われるマナ放出を阻害します、そして、体内にマナを必要以上に溜め込み、先程の様な症状が出ます。

 ティファ様のマナ鑑定はなさいましたか? していたならマナ0ゼロの鑑定が出たと思うのですが……」


 「うむ、確かにマナ鑑定でマナは皆無と出た」


 「マナが無い訳ではなく、マナ放出を阻害され鑑定が出来なかったと言う事です。

 そもそもこの病はマナの多い者がなる傾向があるようです。

 そして、治療法ですが、薬で、とあったと思うのですが、薬に関しての知識はありません、そちらの書物は読んでいない様です。 

 私が知る治療法は『マナドレイン』と言う魔法で毒素ごとマナを吸い取り、『魔動脈マッサージ』によりマナの動きを促すと言う物だけです。

 後はティファ様の体力、頑張りに頼るしかありません、薬で治療した場合、完治までに最低3カ月とありましたので、それ以上はかかると思います。

 以上が今、私が思い出せる全てです」


 ローレンスはリラの話を聞くとまた考え込み言葉を詰まらせる。

 皆はそんなローレンスに注目した。


 「リラ様、治療を、治療をお願いします!」


 そんな沈黙を破ったのはティファだった。

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