第12話 お披露目会超ド級デビュー
リラたちはヒューリ一家と合流し、お披露目会の会場に足を踏み入れる。
早々に奥様方に捕まったルークを尻目に、リラは迷わずエレンの手を引きスイーツコーナーになだれ込む。
——ルーク、あんたの犠牲、無駄にはしない! グッドラック!
そこはトゥカーナ家の敷地が丸々収まるほどのスペースがあり、どこを見渡しても豪華な作りとなっている。
テーブルに並ぶ料理はどれもリラが見た事のない程に美しいく、美味しい物ばかりであった。
会場には数十組の家族同士集まり、早くも婚約者争奪戦の戦いが勝って落とされている。
出入り口は7箇所あるが、そこは警備の騎士たちは微動だにしない。
私はスイーツを前に冷静さを降り戻していた。
——よくよく考えたら、あり得ないじゃん!
だって、だってだよ? 私の前世はあっちの世界で世界を救った1人なんでしょ?
したがって、私は魔王カルディナではない!
うん!そうに違いない!……、あれ? じゃあ
まあ、20%、そうだよ、アレはまだ20%だし忘れよう。
リラは色々な事を考えながらもスイーツを取る手を緩めなかった、そんな時、会場で事件が起こる。
バチーン!
「も、申し訳ありません! わ、私が……」
——ん?
「いいえ、許しません、
——アランとミラン!?
ミランは貴族の女性に頭を下げ、アランは口から少し血を垂らし、長い赤茶色の髪の女性を睨んでいた。
——アレはマズいな……。
程なく若い騎士の1人が女性と双子の間に割って入る。
「ギルマルキン伯爵、先程から見ておりましたが、御子息の言動は目に余る、貴女が成すべき事は御子息を叱る事ではありませんか?」
若い騎士が放った言葉に会場の空気が凍り付く。
ギルマルキン伯爵家には
弟殺し、夫殺し……、そして、対立していた者たちの不可解な死、不自然な使用人の失踪、真実は兎も角として、数えればキリがない。
アランもミランもそれを知ってか表情が恐怖のそれに変わる。
私が耳を立て聞いた集めた情報によると、ミランに言い寄ったギルマルキン伯爵のバカ息子に、ミランが仕事中だからと断った。
それに怒ったバカ息子が暴力に出ようと出ようとした所、アランが腕を掴み止めた。
そして、それを見たギルマルキン伯爵が思いっ切り叩いた……と言う事らしい。
「
ギルマルキン伯爵の真っ赤な血の色の様な
会場の時が止まったかの様に皆は、2人から視線を逸らさない。
「どうした!」
誰かが知らせたのだろうか、出入り口の1つが開き大柄の騎士が会場に入ってくる。
短髪に髭、顔に傷が残る男は、歴戦の戦士である事が見て取れる。
「フランクリン騎士団長! は、はい、実は……」
若い騎士が大柄の騎士に事情を説明、リラは直ぐに場が収まると思っていたが、そうはならなかった。
「まずは、ギルマルキン伯爵様に謝罪しろ、マルクス」
大柄の騎士が若い騎士に険しい表情で言う。
——え!? なぜ?
「な、何故ですか!」
「我々の仕事は警備だ、もし、お前の言った事が真実であったとしても、我々は意見を言う立場にない。
場が混乱し警備に支障をきたすと判断したのならば、別室にお連れし、叱るべき人物に判断を仰ぐ、我々がするべきは事はそこまでだ」
マルクスはフランクリンの言う事を理解しつつも、顔に悔しさを
「ギルマルキン伯爵、も、申し訳ないありませんでした」
マルクスは機械仕掛けであるかの様にギルマルキン伯爵に深々と頭を下げた。
そんな光景を見ていたリラは怒りの様なモノを感じていた、それはギルマルキン伯爵だけに向けられたモノではなかった。
「まあ、いいでしょう、それよりもこの2人、我が伯爵家で召し上げますわ」
「「!!」」
更に顔が青ざめる、アランとミラン。
リラは一瞬、ルークに目をやるが目が合う事はなかった。
他国の、しかも王城でルークは問題を起こす訳にはいかず、かと言って2人を見捨てられない、そんな目線を2人に向け動かなかった。
そして、それを見たリラは即座に行動に移す。
「それは困りますわ!」
リラのその言葉は会場を更に冷え込ませた。
その声にルークも、そしてヒューリ一家も気が付きはしたが、時は既に遅かった。
リラのスイッチは完全にONを示していた。
人混みであった、リラの行く手に遮る者はなくギルマルキン伯爵までの道が出来ている。
そんな異常な空気の中、いち早く声を上げたのはフランクリンだった。
「嬢ちゃん、戻りなさ……」
リラを気遣い、戻る様促そうとたフランクリンであったが、それをリラが遮る。
「騎士さん貴方、勉強した方が良いわ、今のあなた方は意見を言う立場にないのよ?
場が混乱し警備に支障をきたすと判断した場合、別室にて、叱るべき人物に判断を仰ぐ、違ったかしら?」
——出しゃばるな! 殺すぞ!
リラはフランクリンに殺気を飛ばす。
辺りの時間が止まる、理由は目から耳から入る情報、それがあり得ない光景であったから、5歳の少女が大人でも尻込みする状況で、会場の誰よりも堂々としているのだ、無理もない。
ギルマルキン伯爵もここに来て初めて困惑の表情を浮かべる。
「ど、どなたかしら」
「申し遅れました、
リラは堂々とドレスの裾を摘み、優雅に頭を下げる。
「じ、城下で会った、あの生意気な……」
ギルマルキン伯爵は城下での出来事を思い出し、憎悪を向けるが、リラは気にする様子を見せず続ける。
「そちらの2人、当家が先にお声をかけましたの、当家の面談後、もし採用とならなかった場合、再度召し上げ件、交渉なさって下さい。
アラン、ミラン、仕事中などでしょ、仕事に戻りなさい」
リラの言葉を聞いていたが、場の空気がそれを許さず、アランとミランは動かずにいた。
しかし、リラが再度声を荒げる。
「いいから行きなさい!」
アランとミランが会場を離れたのを確認したリラはギルマルキン伯爵に「私はこれで」と名乗りの挨拶同様、ドレスの裾を摘み頭を下げると優雅に着た道を戻る。
「お待ちなさい、貴女、伯爵である妾に盾を突くおつもりら?」
リラの迫力に押し負けていたギルマルキン伯爵はそんなリラの後ろ姿を見てか、我に帰り凍える様な瞳をリラに向ける。
……ニヤリ。
一瞬、ほんの一瞬、リラは悪意に満ちた笑みを見せる。
会場の誰もがそれに気が付かなかったが、1人、ルークだけはそれを見た。
やらかす! ルークの本能が警報を鳴らすが行動に移さなかった、いや、会場の空気がそれを許さなかった。
リラは誰にも邪魔をされる事なく、ギルマルキン伯爵に怒涛の一撃をかます。
「盾を突く? 言っている意味がわかりませんわ。
そもそも盾を突くとは、反抗するや、逆らう事を意味します。
先程の私の話を聞いて、何処にその要素があるのでしょう? アレはただの報告です。
では、貴女の言いたい事とは何ですか?
貴女が言いたいのは、
そう言う事であれば、貴女と私の立場は大きく変わります。
貴女の身分が高いのは存じておりますが、私は貴女の部下ではない!
我が母は陛下の
ですから陛下のお決めになった身分あるお方には、それ相応の敬意も払いましょう!
しかし! 貴女は自分が欲する物は全て捧げよ、と言う。
私はそれが陛下のお考えとは思いません! したがって、私は貴女の言葉を拒絶します! では失礼」
リラは、優雅にスカートと髪をなびかせ振り返ると、怒りに満ちた顔をしているギルマルキン伯爵に背を向け、満足げな表情でスイーツコーナーへと足を進める。
——勝った!
会場にいた者たちが、思い思いの眼差しを向けていた……その時。
扉が開き、リラにとって最悪なタイミングで主役が登場する。
国王ローレンス・フォン・ロンフェローその人である。
リラは国王の顔を見た事はなかったが、傍に並び立つランスロット、それに、その服装、その
「
——え? 見てた? 見てたとおっしゃった? 全て? そ、それって、わ、私も……だよね?
リラは誰にも気が付かれぬ様、ゆっくりと、ゆっくりと会場の出入り口に向かう。
いち早く気が付いたのはルークだった。
即座にローレンスと共にやって来たランスロットにアイコンタクトを送ると、ランスロットはそれを察する。
リラにとって長い長い道のり、出口には当然、騎士が配備され、出る事が出来ないのはリラも理解していたが、歩みを止めなかった。
そして、リラの足が床から離れる。
そう、ランスロットに首根っこを掴まれ捕まったのだ。
「やぁ、リラ」
ランスロットは、にこやかな笑みを浮かべリラに言う。
「や、やぁ、ランス」
リラも、浮かべた笑みを
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
王城にある王の居室、リラの姿はそこにあった。
——ど、どうしてこうなった……。
足をプラプラさせたままリラはここに連行され、ギルマルキン伯爵はお披露目会を追い出される結果となった。
ヒューリ一家はそんなリラを心配そうに見送った。
目の前のソファーには国王とランス……。
その後ろには知らないオッサン……。
私の座るソファーの右にはルーク、左には母様……。
——完全に囲まれた! 逃げられない!
「やあ、ミラの娘がこれほど活発とは、恐れ入ったわ、ハハハッ」
「申し訳ありません、家では良い子なのですが、私も聞いて驚きました」
ミラの言葉に、ルークがリラに冷やかな目線を送るがリラはルークに一切目を合わせ様とはしなかった。
「いや、謝る必要はない、リラ嬢は正しかった、他の貴族が不甲斐ないとさえ思っている、しかし……、相手が」
「父上、リラをティファに」
ランスロットはローレンスの言葉を遮る様に話題を変える
「ああ、そうであったな、リラ嬢よ、我が娘は病弱でな……、外に出る事が叶わんのだ。
少し、話し相手になってもらいたいのだが頼めるだろうか……」
少し悲しげな顔を浮かるローレンスにリラは「はい」と返事をするが、その悲しげな顔を緩めない。
「病は人に感染る物ではないのだが、少々皮膚が黒ずんで来ててな……、あまり、その……だな」
「そう言う病なのでしょ? 症状が出てしまうのは仕方がない事では?」
リラは表情を一切変えず、それが当たり前の様に言い放つ。
居室いた一同はそんなリラの言葉に驚きを覚えた。
ここにいる者たちは皆、ティファに会った事がある、事前に聞いた時、表情を変えなかった者などいなかったのだ。
それが驚きであれ、憐れみであれ、心配であれ……。
そしてリラはこう続ける。
「お友達になっても良いのですよね?」
「ああ! あぁ、もちろん!」
「はい!」
リラは一同に挨拶をすると、ランスロットに連れられ居室を出てティファの元へと向かう。
リラたちが出た居室では。
「良い子じゃないか」
ローレンスが安堵な表情を見せる。
「顔色を変えませんでしたな、私も医術士の話を聞いた時、あのお姿になられたお嬢様にお会いした時、不覚にも表情をコントロール出来ませんでした」
ローレンスの後ろに控えたロダンが言う。
「リラお嬢様は無才と言う事で、憐れみや笑い話の種として晒されて来ました。
ティファ様に本当の意味で寄り添えるのはリラお嬢様だけなのかも知れません」
リラに対し、言いたい事は多々あったが、それでもルークは本心からの言葉を口にした。
「では、将来、ティファの親友になるリラ嬢は何としてでも守らんとな」
一同無言ではあったが、ここにとんでもない面々の……。
リラ親衛隊が結成され様としていた、とか、してないとか。
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