第10話 極寒の一端
ロンフェロー公国、王城の中の一室。
煌びやかな装飾や置物などは一切無く、薄暗い部屋には円を描く様に配置された6つの石、天井には大きな六芒星の魔法陣が映し出されている。
そんな部屋の中央にはベットが1つ、そこには色艶乏しい茶色ともオレンジとも金髪とも取れる髪の少女が横たわる。
少女の顔は、顔色も悪く、黒く変色した部分も見てとれ、何かの病である事は明白であった。
その傍らには成人を迎えて間もない、艶のある少女の髪色にた青年が椅子に腰をかけている。
「ランスお兄様、その方はそんなに変わっていらっしゃるのですか?」
「あぁ、僕が王子だとわかった後だって変わらずランスって、ルークなんかさ、目をクルクルクルってさせてさ、面白かったよ」
ランスは妹である少女に優しく微笑みながら語る。
「私も……、会ってみたかったなぁ……」
「ティファ……、今度連れてくるよ! 今度、弟と妹を紹介するって約束したんだ」
「ほ、本当ですか! でも……、こんな私に会ってくれるでしょうか……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
年が明け、リラ5歳の年が始まる。
「リラちゃ〜ん! パパ単身赴任で寂しかったんだよぉ〜」
「父上! 近すぎます、リラからもっと離れて下さい!」
私に飢えた父様とジル兄様は、私の脇を固め引っ付いてくる。
これは仕方がない事、だって私が可愛すぎる!
何時もやりたい放題出来ているのだ、たまに帰って来た時くらいかまってやらねばね。
「はいはい、ヴァン君もジル君もほら、ルーク君もメアリーも、ロザリー、もういいでしょ〜、こっち来て一緒に食べましょっ」
「はい、失礼します」
「はい! ミラ様」
諸々が作業を終え席に着く、年に1度の家族の団欒。
「賑やかになりましたね、私が執事をしていた頃はリラ様もまだ、こんなに小さかったですからね」
「小さかったけど、グラードには裸見られちゃったよね」
「「……」」
「「「なにぃーー!」」」
トゥカーナ家の新年が賑やかに始まる。
今日は皆が集まって初日……、ではなく3日目、新年からずっとこんな感じだ。
しかし、今日は昨日までの様に、このまま続く事はない……、何故なら皆用事があるから!
私と母様、ロザリーは孤児院『ロンドの家』に、ジル兄様は来年からお世話になる騎士団に挨拶をしに行く。
父様は古巣であるギルドの人たちと……まあ、また飲むのだろう、グラードも王家で働いている後輩たちと会う事になっていて。
ルークは成人の儀に行くのだが、誕生の儀、成人の儀は例外無く大聖堂で行われる、それは王族とて例外では無い。
今日、警備が増員された特別な日、私たち家族がゾロゾロとついて行く事が出来ず、付き人としてメアリーだけが行く事となった、その後一緒にお祭りを回ろうと約束していた事を私は知っている。
ふっふっふぅ、いわゆるデートってヤツだ。
私たちの準備は不要、皆こんな感じで大丈夫だろうか……。
まっ、いっか、新年だしね。
そんな賑やかなトゥカーナ家に訪問客がやって来る。
チーン……。
今日、トゥカーナ家に来客の予定は無い、リラが不思議そうな顔を浮かべると「私が出ます」と、ルークが立ち上がり玄関へと向かう。
「はい、只今……! な、なぜ貴方が!」
「やぁ、ルークまた来ちゃった」
「来ちゃった、じゃ、ありませんよ! 新年の挨拶やなんだで王家は忙しい時期でしょ!」
「うん、もう疲れちゃって」
「疲れちゃってって! 主役の1人がこんな所に……」
玄関に来ている客人がランスロット王子である事を私は知っている。
何故ならトトが2階の物陰からこっそり覗いているから!
私は最近、念話と言うにはまだ断片的にだがトトと通じる事が出来る様になったのだ!
トトが伝えたい情報、私が知りたいと言った情報など、まだ完璧ではないけど感じ取れる様になった。
「ランスが来たみたい」
私は皆に告げる。
「ランス?」
会った事があるであろう、皆、頭に疑問符を乗せている。
やはり愛称ではわからないらしい、新年だしね、サプライズと行きますか!
私は「ルークのお友達だよ」と教えてあげた。
「じゃ、時間は無いけど、そのランス君もわざわざルーク君に会いに来たのだし、入ってもらいましょう、リラ、呼んで来てくれる?」
私は「はい!」と答えルークとランスを呼びに行く……ニヤリ。
「ルーク、こんな所で悪かったわね、おはよう、ランス」
「リ、リラさ……」
ルークは例の如く固まるが、お構いなしに会話は進む。
「やぁ、おはようリラ、また来ちゃった」
「いらっしゃい、これから出かけなくてはならなくて、時間があまり無いのだけど、どうぞ」
「ちょっ、ど、どうぞって!」
「やぁ〜、悪いね、僕もちょっとした用事があっただけだから、そんなに長居はしないよ」
「な、長居はしないって!」
「ほら、ルーク行きますよ、皆が待ってます」
「ほら、ルーク行くよ、案内してくれるんだろ?」
「……」
ランスを連れて行くと、メアリー以外凍り付く。
サプライズは成功! 私が思う以上のリアクションを皆が取ってくれる、意外だったのが父様にジル兄様、ロザリーまで凍りついている、知らなさそうなのはメアリーだけ。
ランス、あんたメチャクチャ有名人だな!
ランスが来た理由、それはお披露目会の招待状を届けにとの事だった、もちろん私に。
通常王家が
学び場に入る前に、将来の婚約者を物色し、あわよくば貴族としての格を上げ、地盤を盤石にする為の会。
そんなお披露目会に騎士爵家の、しかも無才の少女など異物でしか無い。
母様も父様もそれを知ってか、丁重に断っている。
ランスの顔が酷く曇り、何か困っている様に見えた。
「母様、父様、私、お披露目会行って来ますわ」
私のそんな言葉に母様も父様も驚きの表情が見て取れたのだが、1番驚いていたのはルークだった。
そしてランスの帰り際、ルークはランスと一緒に屋敷を出て行き、門を出た所で話す。
「ラ、ランス様! 自分が何をなさったのかわかっているのですか! リラお嬢様ですよ!?」
「うん、ご両親があんなに反対したんだ、僕にだってわかるさ、リラには辛い事になるとわかっている……でも」
ルークとランスの話は噛み合わなかった、ルークはお披露目会でリラが起こすであろう事を心配し、ランスはリラを心配していた。
それに気が付いてか、ルークが言う。
「はあ? そんな事はどうでも良いのですよ! 辛い事になるのなら、そう言う経験もいいでしょう、しかし……、お披露目会がどうなっても知りませんよ!?」
「え?」
想定外のルークの言葉に、ランスは直ぐには理解で出来なかった。
「ランス様、貴方はわかっていない、リラお嬢様が出席したお披露目会、私がどんな想像しているか教えてあげましょう……極寒ですよ! しかも飛び切り寒いヤツ!」
「ご、極寒って、ルークちょっと取り乱しすぎだろ、ちょっと言い過ぎ……」
「言い過ぎ? ランス様……、私は、かなーり押さえ気味ですよ、では聞きますが貴方が王子だと知ってランスと呼ぶ下級貴族や平民がいますか!?
年上の男子数人を素手でボッコボコにする御令嬢は?
オジさん相手に花カルタで身ぐるみはいで悪魔の様に笑う少女を見た事がありますか?!
しかも、しかもですよ、ト、トイレの……、その……、大の方に行く時「お花をゴッソリ摘んで来ますわ」と毎朝毎朝、可愛らしい笑顔を見せてニコッと笑うのです……」
悍ましい物を思い浮かべているかの表情と身体を震わせ言うルーク、それは徐々にランスに伝わる。
「え? それって……」
「そう、リラお嬢様の事です、私も直そうと努力しました、ゴッソリはいらない、ゴッソリはいらないと……、しかし……、それは小の方だと聞く耳を持たないのです……」
今度は泣きそうな表情を浮かべるルーク、ランスもルークの感情の振れ幅を見てただならぬ事を感じる。
「しかし! そう言う事は両親に……」
「はん! 両親ですか、リラお嬢様の恐ろしい所は両親にすら猫をかぶる所です。
ヒューリ子爵のリラお嬢様の印象を教えてあげましょう……、理想のお姫様ですよ!」
「いや、両親にお伝えして直して頂いた方が良いのではないか?」
「え? それは……、そのぉ……、無理です……」
「ど、どうしたルーク」
急にタジタジするルーク、そして次のルークの言葉に、ランスは言葉を失う。
「弱みを……握られて、いや、取引をし」
そこまで話すとルークは背筋に寒気が走った、出て来た言葉は……。
「いえ!握られていません!」
ルークのその感覚が間違いでは無い事は直ぐに証明された。
「ルーク、極寒は言い過ぎでは無いかしら?」
にこやかな笑みを浮かべ現れる少女。
この時ルークは極寒に襲われ、ランスは極寒の一端を経験した。
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