第6話 マジカルスーツ

 ちまたで無才の少女と噂されている事を気にも止めていない……、いや、指輪が気になり一切を聞いていなかったリラは自室にて指輪と向き合っていた。


 ——どこか、何となく懐かしさを感じる気がするんだけど……。

 んー、全く持って普通の指輪だ。

 説明が少なすぎるんだよ! 人を小馬鹿にした口調に、あの態度……いったい何者なんだよ、神ではないって様な事を言っていたけど……。

 まさか! ただの嫌がらせか? あり得る……、クッソ!


 「クッソ!」


 ダダダダダダッ。


 「リラ様! どうなされました!」


 怒りにも近いリラの口調は、聞き耳を立てていたグラードに届き、リラの部屋の前に飛んできた。


 ——しまった! 心の声が……。


 「ご、ごめんなさい、何でもないの」


 「左様でございますか、失礼しました」


 グラードは、まずはそっとしておこうと、部屋には入らず引き上げて行く。


 ——ちょっと感情的になってしまった、気をつけないと……。


 私は気を取り直して指輪を観察する……、と、1つ違和感に気がついた。


 それは指輪のサイズ、何気なく指にはめ、観察していたのだが、少々乱雑に手を動かしても外れる事もなく、かと言ってきつくもない。


 そう、特注で作った物ならいざ知らず、露店で叩き売りしていた物してはピッタリすぎるのだ。



 ——不思議ね……、やっぱり私専用? でも歳と共にサイズだって……。


 リラは何気なく指輪を外し、そのまま右手の親指に指輪を通す。


 ——は、入った!


 指輪は指の太さを、なぞる様に大きくなり、小さくなり、指輪の付け根まで通すと丁度いい大きさになる。


 ——ま、魔導具?! じゃあ、マナを通せば何かが。

 マナか……、私はまだ……、いや、知ってる? マナの使い方も魔術も魔法も、記憶が……?



 確かマナとは世界そのもの。

 木々にも生き物にも、水や土、ありとあらゆる物にマナは存在する、当然、私たち人族にも。


 そして魔術とは自身のマナで術式を描き発動する。

 必ずしも媒体を必要とせず、威力が高く、事故もない。

 デメリットと言えば、発動までの時間と術者が持つマナ属性により、使える属性が限られる事。

 絶大な威力出せる魔術士は、『大魔導士』と呼ばれ、団体戦、主に国に仕える者などが使っていた。


 一方魔法は特殊な媒体を必要とし、自然界に存在するマナと自身のマナを、媒体によって融合し発動する。

 術者の知識やイメージが威力に多大な影響を及ぼし、未熟な者や、思いつきなどで無理して使うと予期せぬ事故を招く。

 マナ属性に囚われる事なく、発動も早く、マナ消費も少ない。

 知識やイメージ、莫大な情報がモノを言う魔法、多くの魔法を操りし魔法士は賢い者、『賢者』と呼ばれ、主に冒険者やハンター、護衛など、不意な戦闘に遭遇する者たちが多く使っていた。

 デメリット上げるなら、安全性と媒体が必要な事、同じマナ量であれば威力が魔術には到底及ばない事くらい。

 

 どちらも、こめるマナの量や魔力に比例し、威力は異なる。



 他にもマナを使う術が存在するのだが……、今は指輪だ。



 指輪にマナを通すと、指輪は眩い光を放ち、リラは自身に指輪が馴染む感覚を覚えた。


 ——え!? これ、魔法の媒体? それに……すごく良い物だ、これ!


 前世の記憶か、本能か、瞬時に魔法の媒体だと理解するリラ。

 リラが自身のマナを指輪に注ぐと……。



 『手紙』



 リラの頭の中に文字が並んだ。


 「ょっしゃー!」


 リラは思わず歓喜の声を上げガッツポーズを決める。


 「リラ様!」


 ダダダダダダッ。


 当然の事ながらリラの奇声を聞きつけたグラードが飛んでくる、今度はノックもせずに……。

 そこでグラードの目に入ってきたのは両腕を高々とあげたリラの見事なガッツポーズであった。


 「ちょ、ちょっと運動を……」


 ヒキつった笑顔で言うリラは、あからさまに身体を動かした。


 「さ、左様でございますか……、ノックもせず失礼いたしました。

 ケーキとお紅茶の用意が出来ました、いかがなさいましょう」


 「じ、自室で頂くわ」


 「はい、では直ちに」


 ——ふぅ、完璧に誤魔化せた……、それにしてもグラード来るの早すぎない?

 まあ、もう大丈夫、手紙は見つけた、もう驚く事や歓喜を上げる事もないだろう。



 リラは3時のおやつをたいらげ、再度指輪に向き合う。


 ——あれ? もうマナを注がなくても、イメージするだけで文字が浮かんで来る……。



 私は指輪から手紙を取り出した。

 前世の記憶か、指輪がもたらした知識なのか、私は取り出し方を知っていた。


 取り出した手紙は、可愛らしい封筒に、ハートマークのシールで封がしてあった、封を開けると中には数枚の紙。


 私はベットに腰をかけ、深呼吸してから手紙を黙読する。



 《リラちゃんへ

 貴女が、この手紙を読んでいる頃には、私はもう……。


 3時のおやつを食べ終え、昼寝をしている頃でしょう》


 ——……破ってしまいたい。


 《そして貴女はきっと……、この手紙を破り倒したい衝動にかられている事と思います。》


 ——グググッ、野郎!


 《でも……、これだけはわかって欲しい、私は寂しがり屋さんなのです。


                 つづく》



 ——あの空間に、ずっと1人でいるのかなぁ……。


 リラは楽しげに話していた女騎士を思い出し、2枚目の手紙を黙読する。



 《ではでは、本題に入っちゃうよ!


 リラちゃんの場合、転移じゃなくて、転生だったのすっかり忘れててさ、指輪がこっちに残っちゃったんだよね、まぁ、知ってたけどね!


 しかし! 私はすごい子! 瞬時に世界のルールを破って送ったのだ!


 大丈夫、ダイジョブ! ルールを破ったって言っても、私もリラちゃんの共犯だよっ!


                 つづく》


 ——はあ?! 私が主犯かよ!!


 リラは、気持を抑えつつ3枚目の手紙を黙読……。


 《じゃ、また手紙書くね!

                 おわり》


 ……。


 「ざっけんな! あっ」


 手紙を床に叩きつけ叫んだリラは瞬時に我にかえる。


 そして、叩きつけられた手紙は光の粒子となり指輪に吸い込まれ消えた。


 「リラ様ぁ!」


 無才と断定され、巷で無才だと陰口を叩かれ、自室に篭っている少女が「ふざけるな!」と叫んだ。

 グラードは胸が張り裂けそうな思いで階段を駆け上がり、リラの部屋に飛び入る。


 「グラード! 何でも……」


 リラの話の途中、グラードはそれを遮るかの様にリラを優しく包む。


 「リラ様はリラ様でございます! 才の事など気にする事はありません!」


 ——ん? あれ……? 思ってたのとちょと違う……。

 そうか、そうだよね……。

 グラードはずっと心配してくれてたんだ……。


「ありがとうグラード、私はもう大丈夫だから」


 リラはグラードを包み返す。


 ——よしよし、グラード大丈夫だからね、指輪は見つかったし、手紙も……まあ、読めた。

 もう心配しなくても大丈夫、大丈夫だからね、よしよし……。


 小さな身体に抱きつき今にも泣き出しそうな表情の老人グラード、優しい聖母の様な表情でグラードの頭をなでなでする幼女リラ……。


 グラードは自分が置かれているこのとてもおかしな状況に気がつき我にかえると、落ち着きを取り戻しリラの部屋を後にする。


 ——ふう、やれやれ、兎に角指輪は手に入れたし、あんな手紙でも読めた、これで……、あれ?

 何か忘れて……あっ! 杖、杖だ!

 の言っていた指輪はあったし、手紙もあった、って事は杖もある?


 !!


 リラの頭に新たな文字が浮かぶ。


 『意志の杖』


 ——きたぁーー! ……さっきまで無かったのに、手紙を読んだら出てくる仕組み……?


 リラは杖を取り出すイメージをする。


 すると指輪は消え、気がつくと30センチほどの杖が手に握られていた。


 ——うお! す、すんげー! この杖すんげーよ!


 先程の指輪の状態での媒体能力とは比べ物にならない力を感じる杖に驚くリラであったが直ぐに異変に気がつく。

 リラの頭に中に2つの文字が浮かんでいたのだ。


 ——『意志の指輪』……、これは多分指輪に戻るだよね……、問題は……。


 『マジカルスーツ?!』嫌な予感がする……。

 

 この破滅的なネーミングセンス、きっと、いや、間違いなくだ。

 どうするべにか……、グラードの事もある、もう断じて声など出せない。

 スーツと言うくらいだ、服系、これほどの杖だ、きっとローブ系だろう……いや、アイツの事だ油断はならない、最悪、鎧って事も……。

 今なら、いや、色々あった今だからこそ、どんなモノでも、例え破滅的センスのモノであろうと、想定内!


 ドンと来いだ!



 リラは目を閉じ集中する。



 ——どうか、どうか可愛い服であります様に……。


 

 集中し始めて間もなく異変を感じる。

 それは先ほどまで着ていた物では無い、身体全身に密着する感触、それは優しく身体を締め付け、不思議な力を感じる……、その服は。


 ——え? 自動装着!?


 目で見て、手で触って、その服はを確かめる。


 ——全身を優しく締め付ける全身インナー、黒をベースとした、真っ赤な差し色が入った特徴的な装束。

 太ももの辺りには6本の隠しナイフに、それらを覆う黒いコート。

 通気性も良く、運動性も申し分ない。

 極め付けは、全身にくまなく行き渡る溢れんばかりのマナ……。


 力みなぎるバトルスーツ、って、おい!

 どこの闇の組織の者だよ! しかもこの衣装の武器、絶対杖じゃないよね!? 最悪、大鎌だよね!?


 まあ、私も学んだよ、驚きはしたけど大声なんか……、もうの思い通りにはならないんだから! 全ては想定内!


 でもこれ、着る機会なんてないでしょ、確かに身体能力は格段に上がってそうだけど。

 もしかして客観的に見たら可愛かったり?



 リラは身鏡の前に足を向ける……。


 「な、なんじゃこりゃぁー!」


 リラの声が屋敷内にこだます。


 ダダダダダダッ。


 当然グラードが……。


 「リラ様!」


 「グラードッ! 今は入らないで!」


 「リラ様! 早まってはなりません!」


 「早まらないから今は入らないで!!」


 部屋に速攻鍵をかけ、必死にマジカルスーツを脱ぐリラ。


 マジカルスーツと言う名のバトルスーツに身を包むリラの容姿は……、

 セレストブルーの瞳は燃える様なくれないに染まり……。

 髪は、銀色に近い光沢のある透き通る様なグレーではなく漆黒に、しかもその髪のヴェールを突き破り尖った耳が顔を出している。



 ——超ー! 別人じゃないか!!



 心の中でそんな事を叫びながらも器用に脱いでいくリラ、最後の靴下を脱ぎ終えると、普段の容姿に戻る。

 マジカルスーツは光の粒子となり杖の中に収納され、それと同時に着ていた服が吐き出された。


 そんなリラの前に鍵をこじ開けグラードが現れる。


 九死に一生を得、安堵の表情を浮かべるリラ、アングリと口を開け呆けているグラード……。


 リラは当然、全裸であった。


 後にリラはマジカルスーツを指輪もしくは杖に戻す事で元の服装に戻る事を学習する。

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