第27話 到着そして昼食

 途中でトイレ休憩をはさみつつ、道中は実に和やかに進んだ。少し早いが昼食を済ませて行こうかと提案したが、弁当を持参したと3人が名乗りをあげたので現地まで直行することになった。

 目的の小屋はかなり山あいに位置していた。着いてみると、ログハウス風の二階建ての一軒家だった。

「おぉ~すげー立派! 小屋じゃねーじゃん」

 ハルが家を見上げてはじゃいでいる。僕はひとまず胸を撫で下ろした。

 隣接する建物はなく、かなりプライベート感満載といった風情で、これなら大人数でも遠慮することなくゆっくり過ごせそうだ。

「やっぱり山ですね。涼しいです」

 花岡さんが大きく息を吸い込み、空を仰ぐ。確かに避暑地と呼ばれるだけあって、過ごしやすい。

 緑豊かな山の中に建てられたこの家は、蝉の声がわんわんと響いていて、むしろ静けさを知る。心が静かになってゆく。

「さーて、早いとこ用意して腹ごしらえしようぜ」

 トランクルームから荷物を運び出しながら、理人が声をかけた。

 僕は父から預かった鍵でドアを開けようとした。

 その瞬間。


「サプラーイズッ!」


 ドアが勢いよく開けられ、中からよく知った顔が飛び出してきた。

「うわっ! ……か、母さん?」

「うふふー! 驚いたでしょう?」

 母は上機嫌だが、僕はなにがなんだかわからず、目を白黒させるばかりだ。



 呆気にとられる僕を尻目に、理人は礼儀正しく父と母に挨拶をしている。

「え? もしかして、理人くんは知ってたの?」

「事前にあいさつしているし、当たり前だろう。樹も察しているかと……」

「いや、ぜんぜん」

 両親の後ろに隠れるように、双子の妹がこちらを見ていた。

「おー、栄里と麻里も来てたのか~」

 僕はうれしくなって両手を広げながら近づくが、二人は大きな目でじとりと睨んでくる。

「お兄、鈍感。鈍すぎ」

「お兄ってバカ? 普通気づくでしょ」

 この二人、そっくりで可憐な見た目とは裏腹に、実に凶暴な性格の持ち主である。絶対に母に似たのだと僕は確信している。

「あ、妹の栄里と麻里です。こちら同級生の花岡さんとはとこの理人くん、あと後輩の更さん」

 僕は初対面の人たちをそれぞれ紹介する。すると栄里と麻里はずいっと前に出ると、よそゆきの声と態度でお辞儀をした。

「兄がいつも大変お世話になっていることと思います。わたしたちからもお詫びいたします」

「こんな抜けてる兄で本当に申し訳ありません」

「いえいえ! その節は栄里さんの虫除けのウェットティッシュを勝手に使ってしまいまして、申し訳ありませんでした」

「あー、そうでしたね。いえ、兄にはしっかり詫びてもらったのでお気になさらず」

 そうだった。すぐに同じものを買って返したのだが、あの一件以来、しばらくコンビニに買い出しを命じられる回数がかなり多かった。

 短く回想している間に、僕そっちのけでみんなすっかり打ち解けていた。楽しくおしゃべりしながら、着々とお昼の準備を進めていく。

「これ、作ってきたんですけど……」

「わぁ、カラフルでかわいいお弁当!」

 おずおずと更さんがお弁当を差し出すと、母は感激して歓声を上げた。

「あ、わたしも……お口に合うかどうかわかりませんが」

「まぁ! お上品なお弁当!」

 花岡さんも控えめに包みを差し出す。中をのぞいた母はテンションが高い。

「あら、この立派なおじゅうは……」

「俺です。見様見真似みようみまねなので恐縮ですが」

 そういって理人が蓋を開ければ、輝くように彩り豊かなサンドイッチやフルーツが詰められていた。

「うん、あなたたち完璧だわ」

 母は上機嫌で飲み物を配る。

 こうして両親が用意した昼食に、料理上手な3人の素晴らしい弁当が加わり、豪勢な食卓となったのである。

 

 



 

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