第22話 帰路

「……先輩、先輩!」

 何度か呼びかけられたところで、僕はようやくその音を認識することができた。

「キキ先輩! もう先輩の家に着きましたよ!」

 僕の腕を掴んで連れてきてくれた様子の更さんが続けて、

「もう、しっかりしてくださいよ!」と呆れている。

「あ……あれ? もう家か……」

 僕はぼんやりとした頭のまま辺りを見回した。

 花火のフィナーレに怒涛の光と音の攻撃を全身に受けてからの記憶がない。気づけば僕は歩いていたようで、自分の家に着いていた。

 僕の内臓が花火の余韻でジンジンと振動し続けている。

 振り返れば、僕を見つめるハルと花岡さんがいた。みんな揃って帰ってきたようだ。

「あ、花岡さん……」

「『あ、花岡さん』、じゃ、ねぇ!」

 目の前に長身の影が現れたと思うと同時に、頭に強い一撃が見舞われた。

「おい、樹。可愛い女の子に腕組まれてなにぼんやりしてやがる。見損なったぜ」

 投げつけられた理人の言葉に、僕はハッとする。

「あっ、ち、ちが……」

「園子、帰るぞ」

 言い淀む僕なんかに目もくれず、理人が告げる。

「ほかの子たちも送ってくぞ。とっとと乗れ~」

 更さんが僕をチラチラと見て気遣いながらも、理人に礼を言いながら車に乗った。ハルは家が近いからと遠慮したが、それでもいいからと車に乗せられた。一番最後に、ずっと僕を見つめ続けていた花岡さんが理人に促されて助手席に乗ろうとする。

「理人くん、僕も一緒に送っていい?」

「……は? お前んちここだろうが」

 理人が僕の目をめつける。僕の真意を確かめるように。

 僕も理人の目を見つめ返す。僕の心からの決意を見透かしてもらうように。

「ふん。二度手間はごめんだ」

「僕は理人くんちに着いたらそこで下ろしてくれればいいから。僕は歩いて帰るから」

 勝手にしろ、と告げると理人は僕から視線を外した。

「園子、お前も後ろに乗れ。そこの子犬ちゃん、悪いけど真ん中まで詰めてくれるか」

「ハルさん、失礼します」

「は、花園ちゃん~! 更さん~! ひえぇぇぇっ!」

「おい、樹。お前も乗るんだろ」

 促されて僕が助手席に乗り込む。チラリと後ろを振り返ると、ハルが二人の美少女に挟まれて赤いような青いような複雑な顔色をしながら汗をダラダラと流していた。

 全員がシートベルトを締めるのを確認すると、理人はギアを入れて静かに発車させた。


 





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る