第18話 夜が始まる
実際に花火が打ち明けるのは日が落ちてからだし、それより前に設定した待ち合わせ時間だってまだ当分先だというのに、ハルは僕の目の前でしきりにそわそわしていて落ち着かない。
「ねぇ、これでも食べて落ち着いたら?」
僕はチーズを差し出すが、ハルに断られてしまった。僕はいま早めの夕飯を食べている。
「これから女の子と会うっていうのになぜ納豆……しかも相手はあの花園ちゃんだっていうのに…」
「最近食べてなかったから食べたくなったんだよ。別に髪に納豆つけていくわけじゃないんだから食べたっていいでしょ」
「当たり前だ!」
きゃんきゃん喚いているハルに、僕はもぐもぐと納豆ごはんを咀嚼しながら肩をすくめてやった。
今日の花火大会はかなりの数の花火が打ち上がるというのに、屋台など一切出ない。街灯も数少ない田園風景の中で打ち上がるので邪魔するものがなく、かなり迫力のある花火を楽しむことができる。
結局、待ち合わせの時間までかなり余裕をもって準備が終わってしまった。その間、ハルに口うるさく服装やら髪型やらの指示を受けていたのでその通りに動いた結果であった。
手持無沙汰になった僕たちは、集合場所である喫茶店へ向かうことにした。
「キキせんぱーい」
明るい声がする方を見れば、更さんがいた。
「びっくりした。浴衣だったから声かけられなかったらわからなかったよ」
華やかな浴衣を着た更さんは、普段は下ろしている髪を高く結い上げ、花の飾りをつけている。照れたように小さく笑った顔は、普段と少し違って大人びていた。少し化粧をしているのかもしれない。
更さんと話している僕の脇腹をハルがつつく。そしてようやくハルの紹介を思い出した。
「あ、こちらが僕の友達です」
「
「1年の
「いやいやいや! もう……こちらこそありがとうございます!」
二人は緊張しながらも自己紹介をし合う。
ハルは人懐っこくていい奴だし、更さんも素直で明るくいい子だ。すぐに打ち解けるだろう。
「先輩、今日のわたしどうでしょう……?」
更さんが不安げに僕を見た。問われた僕は今日の更さんをまじまじと観察する。
少し茶色の髪をした更さんに、明るい色彩の浴衣はよく似合っていた。現代的な配色で、黄色い小花が描かれている。僕は花にもファッションにも詳しくないので、それ以上のことはわからなかった。
猫のように少しつり上がった目はほんのりと赤みが差していた。勝気そうな印象の彼女だが、今日は少し色っぽい。
「うん、すごく似合ってる。更さん、かわいいね」
「えっ! うそ……」
「嘘じゃないよ」
僕は正直に言っただけなので、じぃっと更さんを見つめる。嘘じゃないよ、と目でも訴えたつもりで。
しかし更さんは顔をどんどん顔を赤くしてしまい、目にはうっすらと涙が受かんでしまった。
ハルは僕の肩をぽんっと叩き、一言。
「俺、キキのそーゆーとこ尊敬するけど嫌いだ」
盛大な溜息とともに呟かれる。
「え? どういうこと?」
僕は言われた意味が分からず眉根を寄せた。
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