第14話 静かなる開戦
終業式を経て、一学期が終わりを迎えた。明日から夏休みだ。
暑いのは苦手だが、冷房の効いた部屋で一日中好きな映画を好きなだけ見られるのはこの上ない幸せだ。
気ままに過ごせるというのが僕の理想なのだ。
花園ちゃんが部活に出る日に合わせて、僕も顔を出す様になった。なので僕も週一回の活動となり、幽霊部員としては不名誉な出席率となってしまった。
「先輩は夏休みなにして過ごすんですか?」
長期休みに入る前の区切りとしてなんとなく片付けらしいことをしていた僕に、更さんが声をかけてきた。
僕の返答を待つ更さんの瞳は、これから来る夏休みが楽しみで仕方ないと言わんばかりに
更さんの期待に
「特に、予定はないかな」
嘘ではない。予定がないことが楽しみなのだ。
「あのー……」
言い淀むことは、明朗でハキハキとした印象の更さんには珍しい。上の空でやり過ごそうとしたことで、嫌な気持ちを抱かせてしまったのかもしれない。僕は反省して真剣に向き直る。
「うんうん、なんだろう?」
努めて明るく声をかけても、更さんはうつむいたまま顔を上げてはくれない。仕方なく顔をのぞき込もうとしたとき、
「来週の花火大会って、誰かと約束してたりしますか……?」
絞り出すようにして更さんが言った。その声は語尾に行くほど、消え入りそうなまでに小さい。
その花火大会のことは、すっかり忘れていた。しかも、珍しくハルと約束していたのだ。本人に知られたら怒られるだろう。
「あぁ、うん。友達と見に行くよ」
僕は内心冷や汗をかきながら、にっこりと笑顔で答えた。
すると更さんは勢いよく顔を上げ、必死な様子で迫る。意志の強そうな瞳には涙が浮かび、それは懇願に近い。
「先輩! わたしもご一緒していいですか!」
僕は面食らってしまって、仰け反るような妙な姿勢で固まる。
「え、あ、うん。僕は大丈夫だけど……」
ハルならば大丈夫だとは思うが、一応は確認する。メッセージの返信はすぐにあった。文面からでも、ハルがしっぽを振って喜んでいる様子が伝わってきた。
「うん。大丈夫だって」
むしろ大歓迎のようだよ、とは言わないことにする。友人として、これば賢明な判断であるはずだ。
更さんはキャッキャと飛び跳ねて喜んでいる。そんなに花火が見たかったんだなぁと僕は微笑ましく思う。
「先輩、先輩! 連絡先教えてください!」
「うん、いいよ」
僕はごく自然にスマホを取り出す。その時、肘の辺りを誰かに引かれた。
「わたしも」
驚いて視線を走らせると、そこには僕のシャツを掴む白い手。いつの間にか、花園ちゃんが傍らにいた。
「え?」
「わたしも、いいですか?」
キョトンとする僕に、真剣な表情の花園ちゃんが続ける。
「あ、あぁ、うん。連絡先、まだ交換してなかったよね」
しかし、
「連絡先もですけど……」
ずいっと僕のすぐ近くにまで身を寄せると、挑むように花園ちゃんが言った。
「わたしも一緒に花火大会に行きたいです」
僕をじっと見つめる
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