第5話 書道部はエロくない
翌日もその翌日も、その翌週も僕は部活に顔を出していた。幽霊部員の僕としてはそれはとてつもなく珍しいことで、顧問の森脇先生は遠くから満足げに見守っていることだろう。
それは僕が急に部活に情熱を燃やしたわけではなく、ただいろいろな人が日替わりで「明日のお願い」をするためだ。
そろそろ帰ろうという時間になって、後輩の
「でっかい紙に書いてみたい」と言い出したので僕が翌日に道具を携えて部活に行けば、
「道具を持っていないから買うのを手伝ってほしい」と言った。
僕は道具には詳しくないから森脇先生か書道教室を開いている母親に相談する方がいいと言うと、週末に僕の家に来るという話しになってしまった。
そして、道具がないその日は僕が条幅紙に書いている姿をみんなに披露するという謎の時間になったのだった。
みな口々に「勉強になるわ~」とか、「その線はなかなか出せない」とか褒めてくれるので、動画を撮影されていても文句は言えなかった。
ただ、不必要なまでに顔を映しているような気がして戸惑ってはいた。
花園ちゃんへの教え方もいい方法が見つかった。
本来であれば、相手の後ろに回り、筆を持つ手を支えて一緒に書いて筆運びを教えるというのがスタンダードなのだが、左利きの彼女にはうまくいかない。
向かい合って座り、左手で筆を持つ彼女の手を僕は右手で支える。僕は逆さまに字を書くわけだが、やってみるとそんなに難しいこともなく、新しい感覚に楽しいと思えるほどだった。
「書道部って、エロかったんだな」
僕が必死で次の授業の予習をしていると、ハルがとんでもない発言をしてた。
「……は?」
「女の子の手を取り足を取り、『ここはこうやって書くんだ、わかった?』とか、『ここ、チカラ入れて、気を付けて』とか耳元で囁くわけでしょ? うーわー……しかも相手が花園ちゃんだって? お前、前世で一体何してきたんだよ?」
「どーゆー意味だよ」
足なんか使うか、と僕は盛大に溜息を吐く。
「だから言いたくなかったんだ」
「ってか、なんの予習やってんの? え、英語?」
僕はもう無視して辞書を引くことに専念する。
「キキ、英語得意なんだから予習必要ないんじゃね?」
「授業は得意じゃないよ。いちいち単語の細かい意味なんて調べないと知らないし、当てられたらそこまで調べてないと心ズタズタにされるじゃん。……英語の先生ってなんでみんな怖いんだろう」
歴代の英語教師の顔が脳裏に浮かび、僕は肩を震わせた。
「お前、あんなに英語しゃべれるのに授業になるとボロボロになるよな……」
不憫な奴、と呟いてハルは僕の肩をポンポンと叩いた。
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