第1話 高嶺の花園ちゃん

 花岡園子はなおかそのこについては、入学当初から話題になっていた。


 元々女子校だったこともあり、この学校における女子の数は少なくない。その中でも彼女の存在は異質なほどに目立っていた。

 女子と男子とで校舎まで違うという環境でも、彼女のことは絶えず聞こえてきた。

 彼女はまずはその輝くほどの美貌で話題となった。


 入学からひと月ほどが経つと、彼女は美貌以外でも有名になる。

「君は我が校始まって以来の秀才―――我が校の宝だ!」

 校長にこうわしめたという。

 その後、入学試験が過去最高得点だったこととか、定期テストでも常にトップだとか、常に彼女の常人離れした噂は聞こえてきた。


 僕は何度か彼女を見かけたことがある。移動教室のときだ。

 遠くからでも彼女は輝いて見えた。

 彼女はいつも長い黒髪を後ろで一つにまとめており、そのシンプルな髪型が却って彼女の髪の艶やかさを際立たせていた。

 清楚な佇まいと凛とした立ち姿の中に時として見え隠れする憂いの眼差しは、息をのむ程に美しい。僕はこのときほど自分の視力の良さに感謝したことはない。

 毎回僅わずか数秒だけだ。

 それでも、花岡園子は確実に僕の中に蓄積されていった。



 もうすぐ夏休みと浮かれるにはまだ早い、初夏の朝。

 僕は驚愕で目と口を極限まで開ける事態に遭遇した。

「おはようございます」

 優しい声ながらも、琴の音のようにはっきりとした発音はとても聞きやすい。僕は彼女の声を初めて聞いた。

 その後もなにかしゃべってくれているのだが、混乱する僕は理解できない。

 しばらくしてようやく、震える指を不躾ぶしつけに差し、絶叫するように口走っていた。

「は、は……花園ちゃん!?」

「あ、はい。よくそう呼ばれます」

 美しいその人は控え目に微笑んだ。その照れたような笑顔は今まで見た彼女のどの表情よりも可憐で魅力的で。

 僕は茫然とする頭の片隅で、「花園ちゃんの夏服初めて見たな」と考えていた。

 

 朝、玄関ドアを開けたら待っていた人物。それは花岡園子、その人だった。



 

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