第4話

案内された個室に入ると、電話をしながらイライラしている男性が1人。

なにやら呆れた様子で電話を切った。


「小原先生ですね?すみません。初めまして、私はキムスチョルと言います。」


「初めまして、よろしくお願いします。」


「とりあえず座ってください、今回お願いする生徒も来るはずなんですが…あいつったら。」


とても流暢な日本語で挨拶を済ませ、今回のことの成り行きを聞く。


「今回お願いしたい生徒っていうのが、こいつなんです」


そういって、一冊の雑誌を取り出した。


表紙を飾るこの人…どこかで見たことがあるような…


ある日の職員室を思い出す。

マナがイチオシのあの人だ!でもあのページには確か、トリリンガルで日本語も堪能ってデカデカと書いてあったはず…


「この方、日本語堪能なはずでは…?」


はっとした顔をしたマネージャーだというスチョルさん。


事の経緯を話し始めた。


2人は幼い頃からの親友で、俳優になりたいというシジョンの夢を叶えようと無名の頃から2人で頑張ってきた。


売れるために、2人はいろいろなアルバイトをしながら、共に生活してきた。

スチョルは、日々大小様々な芸能事務所やテレビ局に足繁く通い、シジョンを売りこんだ。


その際、配り歩いたプロフィール。

それが事の発端となる。


なかなかシジョンの仕事をゲットできないスチョルは、シジョンのプロフィールに「英語、日本語も堪能。フランス語も勉強中」と書き加えた。本当は韓国語しかできないにもかかわらず…


ある日、そのプロフィールが、有名プロデューサーの目に留まり、ドラマ出演が決まる。


英語ができて、スタイル抜群のシジョンは、ヒロインを翻弄する帰国子女の大学生役に抜擢された!

のだが…そう、彼は英語ができない。


なぜ自分が抜擢されたか、プロフィールの真実を知ったシジョンは怒り、呆れた。


しかし自分が、俳優として日の目を見るチャンスは2度とないかもしれない!ということで、クランクインまでの数ヶ月、2人は密かに渡米し、どうにかこうにか、ギリギリできなかったとバレない程度の英語能力を手に入れ、なんとか役を演じきった。


そのドラマは大ヒットし、シジョンは一躍大人気俳優に。


世界各国でも放送されたことで、フランスからCMの話も舞い込んだ。

が、しかし。彼はもちろんフランス語もできない。勉強中ってことすら嘘だったのだ。

また前回同様、2人は密かにフランスへ渡り、無理矢理勉強し、どうにかこうにか、この仕事もやりきった。


韓国では映画やドラマに引っ張りだこ。シジョンの人気は鰻登り。

ついに大手の芸能事務所から声がかかり、所属することができた。


そして今回。

日本と韓国共同制作の映画の主役に抜擢。もちろん”日本語ができる”ことが理由の1つ。


例の如く、今回も日本に行って勉強を…と話を切り出したスチョル。しかし、日本には絶対行かないとシジョンは言い出した。日本語を勉強する気にもならない、絶対やらない、やらなきゃならないなら辞める…とまで。


しかしながら、この事務所に所属後初の大きな仕事。しかもこの事務所が仕切る映画。絶対断ることはできない。


大人気俳優となった今、ここにきて日本語ができないとバレてしまっては困る。


そこでスチョルは学生時代、留学していた際に世話になった、日本語学校の校長に助けを求めた。


韓国俳優やドラマに興味がなく、詳しくもなくて、そして口が固く、短期間で日本語を教えられる有能な教師を韓国に送って欲しい…と。






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