第2話
今日もまた一日が始まる。いつもの道を歩き、いつもの駅から、いつもの電車に乗り、いつもの職場へ行き、いつもの仕事をこなす。
幸せだ。私は充分幸せだ。
心の中で繰り返す。
自分に言い聞かせているのかも。
数日後の仕事終わり。
今日は久しぶりにお気に入りのお店に来た。
「お、久しぶり」
「珍しいね、花から誘うとか。ついに俺の魅力に気づいたか」
「また言ってんの?あり得ない」
こちらは幼馴染の隆太。幼稚園から大学まで一緒だった。私のことを誰よりも知ってるのはこの男。
隆太にはなんでも話せる。
時には弟のようであり、ある時はお兄ちゃんのような…友達以上、でも一緒にいすぎるせいか、なぜか恋愛対象ではない、そんなところである。
親同士も仲がいい。40歳になってもお互い1人だったら結婚しちゃいなさい!が、私たちの親の口グセ。そんな未来あり得ないって言いながら、早数年。私も隆太も独身のまま40歳はもう目前。
といえども、私たちの関係は変わらない。会うたびにこうやって茶化してくる隆太に、あり得ないって私がツッコミを入れる。もはや我々のネタである。
「隆、今幸せ?」
「え?何?40歳になるから?結婚する?」
「あり得ないし。平凡な毎日、幸せかなって」
「幸せなんじゃない?たしかに刺激的ではないけどな」
「実は韓国に行かないかって話があって」
「えっ…韓国って…行くの?」
「うん…迷ってる。」
「“いつも”は幸せだけど、ずっとこのままでいいのかな。行ったら何か変わるかも。変えるチャンスはそうそうない。この歳になったらこの先ないかもしれない。」
「んー…確かにな。行き先が気になるけど。辛くない?」
「わからない。ずっと避けてたからね。でも今ある行き先はそこしかない。」
「迷うなー!!まぁ、飲もう!とりあえずさ」
帰り道。うちの近くの小さな公園でアイスを食べるのが私たちのお決まりのコースだ。
「行ってみたら?」
「え?」
「花が俺に相談する時はさ、背中を押して欲しい時でしょ。ずっとそうだった。」
「もし、辛かったら帰ってくればいいんだし。なんとかなる!」
「出た!隆のなんとかなる!」
「ははは、だってほんとにこれまでなんとかなってきただろ」
隆太はいつも「なんとかなる」と私に言う。
お母さんに怒られて公園で隠れてた時も。
友達とケンカして一人だった帰り道も。
受験前不安で泣きそうだった時も。
上京する前の日も。
就職活動で挫折しかけた時も。
そして。人生最悪だったあの日も。
隆太の「なんとかなる」は私にとってまるで魔法の言葉のように、不安や悲しみの中から救いあげてくれる。
「隆!ありがとう。なんとかなる、だね!」
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