第191話 降り掛かる不幸
汚い描写があります。お食事しながら読むのはお止め頂いた方がよろしいかと思います。
気分を害してしまった方がおられましたら、申し訳ございません。
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地面だと思っていたモンスターに向かって放った鑑定は弾かれてしまった。最近鑑定の無能さが際立ってきている。必須と思ってる三種のスキルを上位以上にする時の優先順位は今は最下位になった。
でもまぁ、今は正直そんなの関係ない。
「治りかけの部分をまたほじくり返して血ぃベロベロ舐め回してやっかんなオラァッッ!」
金砕棒で力任せの殴打を繰り返していく。
突起を生やす攻撃には前兆がしっかりあったから油断さえしていなければ問題は無かった。さっき喰らったのは油断していただけ。
――ビキィッ
「ヨッシャァァァァァアッ!!」
ヒヨコる前よりも堅牢になっていた外殻に罅が入った事にほくそ笑んだタクミの殴打は、そこからより一層苛烈さを増していく。
妖しい真っ黒な眼球は罅に釘付けになっていた。
「さぁッ!! その中身をッ!! 剥き出しにしろやァァァァァァッ!!」
――ズワッ
「――チィッ!」
渾身の力を込めて金砕棒を叩き付けたが、外殻が割れると共に本能が避けろと騒ぐ不気味なオーラが吹き出してきた事で一時退却を余儀無くされてしまった。
「クソゴミ野郎めがぁぁぁ!!」
タクミは後方に飛び退きながら、せめて一太刀と割れた箇所に向けて収納しておいた突起を投げ付ける。だが、その投げた突起はオーラにブチ当たってすぐに砂状になって虚しく宙に舞って消えていった。
「......イライラさせてくれやがる」
近接に対してのカウンター持ちはとても厄介だ。
全身飲み込まれてこの砂っぽいのに俺がなっちゃっても復活出来るかと聞かれれば、正直自信が無い。それが無性に苛立つ。
「許さん。殺す」
それでも、退くなんて選択肢は無い。
「肉塊に使おうと思ってた消滅させる......最終的にその何かを使わなきゃいけなくなるかもだけど、それまでに何とか打開策が浮かべばいいなぁ」
謎の巨大モンスターとの戦闘は、ここから第二フェーズに入った。
◆◆◆◆◆
謎のデカいのの攻撃が激しさを増していく。
「ファァァァ〇ァック」
身体を不定期に揺らしてきたり、突起を飛ばしてくるようになって面倒でしかなくなってきている。
「......下に降りれれねぇかなぁ」
手詰まりな雰囲気がビンビンな現状、一気に上げたステータスの所為でややぎこちなかった身体の使い方にも慣れてきて、外殻は一、二撃で罅割れをさせられるようになったが、それでもモンスター側が罅割れを治すの方が早く、罅が入った箇所の攻撃が苛烈になって追撃が中々入れられない。
ここでぶち上がっていたテンションが落ち着き、賢者タイムに入ってタクミは冷静になってしまった。
「......とりあえず端っこまで行ってみるか」
手詰まりになってからタクミは必死に頭の中にある筋肉を......じゃなくて脳味噌を働かせて考えて一つの答えに達した。この地面モンスターが何なのかを理解しないと何も始まらないという単純明快な答えに。
寧ろここまで地面を殴る以外を思い付かなかった自分に戦慄した。でも仕方ない次から気をつけよう。
「......100くらい敏捷に振っとけばよかった」
モンスターの上を駆けるタクミは若干の後悔を口にした。今のままでも特に問題は無いのだが、クソ広い場所の移動が面倒だった。
振り直しが出来ない故の後悔だが、こういうのもたまにはあると割り切って駆けていく。後悔は引き摺らない。
「ッッざけんなァァァッ!!!!」
行けども行けども同じ景色で狂いそうになりそうなのを我慢して走った後に辿り着いた果て。それは行き止まりだった。
よーく見てみれば壁際は傾らかな斜面になっていて、そこから下に続いているのがわかる......だが、隙間なんて針の穴程度にしかなく、そこからタクミが下に降りるなんて土台無理な話だった。
「............ヒヨコ行け」
脆くなるとか溶かす系統の漏れ出す呪いを壁とモンスターに染み込ませた後、ギリギリ放てるまで回復していたMPを注ぎ込んで出したヒヨコを呪いの染み込んだ箇所の隙間に押し込んでから起爆させた。
――
爆音と雄叫びが同時に聞こえ、ダンジョンの壁が崩れていく。俺は逃げが甘くて爆風で吹っ飛んだけれど想定通りに降りる算段はついたからヨシ。
グズグズな溶岩状になった外殻と壁の残骸、熱気で身体が灼けるが、構わずそこに突っ込み下へと落下していく。その際に気化した血でちょっと口直し&潤い補給が出来てラッキーだった。やはり美味いから一滴も残さずに飲み干してやるとモチベも上がった。
「............それにしてもデカすぎね?」
ゆうに普通のビル程度は落ちているけれど、まだ地面に達しない。そして見えるのはずっと胴体で飽きてくる。
「おっ、足だ......うん、足短けぇなクソが」
遠くまで見渡せないフロアのクソ仕様の所為で、気付いた時にはもう墜落まであと少しという所まで来ている。足が見えたら準備すればいいと思っていたけれど想定以上のド短足というイレギュラーも重なった。つまりそう、アレだ。
着地するにはパーフェクトな準備不足。
「......本当、腹立つッ」
憎悪が口から漏れ出た直後、水音含みの不快な落下音がボスの足元で虚しく木霊した。
「あー......マジムカつくわー」
死なないとしても落下してくたばるのは本当に気分が悪く、起きてすぐ悪態をつく程度には最悪の目覚めだった。
イライラしながら立ち上がり、上を向いて鑑定を試して弾かれる。
「鑑定って一部分だけ見て判断はしてくんねーのかなぁ。全体像を捉えないと無理なんかね......って、嘘だろ......マジかよ......やめろ、やめろぉぉぉぉ!!!」
格納されていたのか、急に目に飛び込んできた突起。
どう見ても男なら馴染みのある形状......いわゆる逸物と呼ばれるモノ。一瞬、巨体がブルッと震えたのを確認してしまったタクミ。
ソレは自分以外では決して見たくなかった本前兆。
「身につけてる物全部収納ッッ!! あぁクソッ!! なんで真下に向けてんだよ!! どっちだ、どっちに逃げれば......ッッアァァァァッ!!」
せめてどっちかを向いていて欲しかった。
「敏捷ぉぉぉぉぉぉぉぉオ!!!!」
後悔先に立たずとは正にこの事であろう。
運任せで逃げる方向を決めて足に力を込め......――
「あ、終わった」
朝起き抜けでの一発目で稀によくある、ツーウェイ現象。そのより酷いバージョンと言えばわかるだろう。
五年に一度あるかないかの大惨事噴射。
それがまさに今、起こった。
まるでスプリンクラーのように悲惨な飛散。
「いや、まだだ!! まだ助かるッッ!!!」
『諦めたらそこで試合終了ですよ......?』と言いながら微笑む白いおじさんを幻視したタクミは、足や身体の負担や破壊を厭わない全力を以て駆けた。
形振り構わず、体勢なんて崩れ放題で。
ただただ身体能力頼りの情けない全力離脱。
だが――
「あ、終わった......」
嗚呼、無慈悲とはこの様な事態の事を言うんだろうと、視界不良の所為でこれまでソレに気付けなかったタクミは、死んだ目をしながら進行方向に落下してくるモノを見た。
せめて真面な体勢であれば。
逃げる方向を間違えなければ。
絶体絶命な時に逃げる技を獲ていれば。
後悔は尽きない。
この階層は後悔ばかりだ。
まぁそんな事よりも......大は小を兼ねるとはコレが起源じゃないのだろうかね。HAHAHA。
「ハハッ」
大をすると小が出るタイプなんだな、コイツは。
というか、モンスターって排泄するんかい......
何の得にもならない事を考えながらせめてもの抵抗として身体全体を炎と呪いで覆いつつ大盾を収納から取り出すと、目の前の茶色い物体に突っ込んでいった。
◆◆◆◆◆
一方その頃、地上では――
「ほ、報告ッッ!! 野生のホ、ホトトギスを......いえバカデカいホトトギスを筆頭に鳥が巨大な群れを成してキューシュー地方を襲いました!! アレらが南下するか北上するかわかりませんが......」
顔を真っ青にしながら報告をするこの男はオキナワの探索者で、視力をアホほど良くする【千里眼】というスキルを持った監視役として雇われている。
オキナワからキューシューまでの距離であってもはっきりくっきり見通す異次元の監視能力で、篤い信頼を得ている。普通なら何をそんな馬鹿な事を......となるが、そんな報告をしたのがこの男だから話が違ってくる。この男の上司達は、この男がここまで焦っているのを見て事態の深刻さを瞬時に理解した。
「お前は戻って監視を続けろ!! 報告には来なくていい。身の回りの世話をする者を二人、移動能力に長けた者を三人付けるから些細な事でも動きがあればソイツらに伝えてくれ。すまないが長丁場になる。必要そうな物は全て用意するから監視だけをしていて欲しい......寝るのも最低限、食事や風呂も最低限になるが頼むぞ」
申し訳なさそうに、でも有無を言わさない指令を出された。もちろん男も異を唱える事は無かった。
それから三日後、その男はキューシュー地方が北から南へ随時壊滅させられていくのを見た。
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動物が偶然魔物化し、長い時を生き抜いて手が付けられなくなったのをダンジョンに拉致ってきたモノなのでコイツはウ〇コをしました。正体はもうすぐわかるんじゃないでしょうか。
それにしても気温変化ヤバいですね。花粉症だけでも辛いのにやや風邪気味になってしまいました。読者の皆様、体調を崩さぬようお気を付けください。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
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