第190話 そして化け物へ
「......鬱陶ッッしいァァァ!!」
ヒトを彷徨い歩かせられるのがダンジョンの仕様なれば、まぁそれも已む無しとまだ我慢出来る。感情を全く考慮しなければだけど。
でもね、歩かせたいならさぁ、もっとこうさ、もー少ぉしだけでも歩きやすい地形にしてくんねぇかなぁ。一歩進めば方向転換を強要するこの造りは守り方面には優秀かもしれないけど、攻める方の身にもなって欲しい。
「ヒヨコ......はこの階層のボスのトドメに使いたいから却下。っておい、出ようとすんな!! ならば圧し折りながら進むべきだな。うん、そうしよう」
ヒヨコと口にした事で出番と勘違いしたヒヨコが飛び出そうとするのを抑え、ここまで正攻法で進んだ自分をよく頑張ったと褒めてあげたい。後はいつも通りの俺が頑張るよ。HAHAHA。
「ふぅぅぅー......シャオッ!!」
南斗水〇拳をパク......もといオマージュして繰り出されたただの手刀&足刀。それがタクミの貧弱な脳味噌っぽい筋肉が弾き出したこの階層を攻略する為の最適解だった。
勿論こんな頭の悪い攻略法を生み出す前に力任せに突起をぶっ叩いていたが如何せん効率が悪すぎて、イライラを我慢して歩いた方が早いという結果だけが残ったからである。そんな中で八つ当たり気味に全力で振った手刀が突起を分断した事からこうなったのである。
「シャオッ!! シャァァァァァオ!!」
やれば出来る。
為せば成る。
そんな精神論ヒャッハーな言葉が生み出されるくらいヒトには可能性があるという事でもあるが......それは常軌を逸する鍛錬の果てに得るモノ。結構な人が他人に簡単に言われたくない言葉TOP10に入っていると思われる言葉である。
ちなみにタクミの中での第一位は『人に優しくしましょう』だった。その言葉を聞く度にどの口でそんな言葉垂れ流してんだよと心の中で悪態をついていた。良いと思う言葉第一位は『因果応報』である。
「ヒャハハハハハハ!!」
そんなタクミでも『やれば出来る』という言葉を今になって漸く少し共感できるようになった。
雑な思い付きからこんな事出来たらなぁ......と考えて実行してみたら何か簡単に出来た!! となるだけのバカみたいな身体能力の賜物であるが、ダンジョンで成長した事によりとりあえずやってみてダメそうなら諦めるメンタルが出来上がっていた。以前ならばとりあえずやってみようとすら思わなかったから大した成長具合である。
上位悪魔に進化+上げていた物攻&敏捷の恩恵がここで開花した。拳や金砕棒でも似たような事が出来るがまだ気付いていない。
「この切れたの収納しとこう!! 何か地味に使えそうだし!!」
ややハイになってるタクミのなんちゃって南〇水鳥拳は本家南斗〇鳥拳のようにナルシストさえも認める美しさなど無いが、タクミの恵まれた身体能力は脱力状態から恐るべき速さで繰り出された手刀や足刀が斬撃を飛ばす不思議現象を可能としてしまった。
「ヒャッハーッ!! シャオッ!! シャオッ!!」
超人気キャラのようなムーブができるようになったタクミではあるが、言動は完全にあっち側だった。少年漫画の主人公側になど絶対になれない男である。もしなったらなったで全米も驚く一話打ち切りも夢じゃないだろう。
「楽しいぜぇぇぇぇ!! ヒャッハー!!!」
振りの鋭さやコンディションに左右されるが、射程は大体5m、範囲は大体野球のヒットゾーンと同程度。威力は岩を切断余裕な程。悪ノリとやけっぱちで行った行為から対集団に強烈な対抗策が爆誕した瞬間であった。
「............ふぅ」
はっちゃけた行動の後には反動がある。これは世界の理。
「............ァァァ゛」
そうだね、賢者タイムだね。
何をどうしてああなったのか。いや、理由はわかっている、そうストレスだ。しかし冷静になると後悔が押し寄せてきて辛い。
やっちゃった俺も俺だけど、そんなダンジョン創るなと声を大にして言いたい。本当に何してくれてんねん。マジでさ。
「............ォォァア゛」
心に堆積した羞恥を雪ぐには此処のボスを心行くままボッコボコにするしかない。
「............絶対に、殺す」
まだ見ぬボスに並々ならぬ殺意を滾らせて悪魔は立ち上がる。
「わりぃボスはいねがぁ゛!!!」
おめでとう! 悪魔タクミはなまはげに進化した!
◆◆◆◆◆
「何処に居やがる......クソッ、ダリィ」
徘徊なまはげは途方に暮れていた。
歩けど歩けどボスは疎かモンスターの一体にも遭遇しない。無論、階段など見つかるはずもなく......
「嘘だろ......」
あろうことか、あれだけ切り落としたはずの突起が再生し始めたのだ。このダンジョン、まさに外道!
「............ヒヨコ、ある程度離れた場所で下方向に威力を絞って全力で爆発しろ」
探知も効かない、遠くまで見通せない、折角破壊した邪魔モノを復活......絶望したタクミは最終奥義を使用する事に決めた。
つまらない探索パートなど何時までもダラダラやっていられないほど、ストレスが極まってしまっていた。
「やれ」
『ピィィィィイ』
――そして、親の顔よりも見慣れた何時もの破壊行為が、クソつまらないフィールドを穿った。
「んー............火傷? 薄らだけど血の臭い?」
酷い揺れの中、爆心地に歩いていったタクミはフィールドにあるまじきモノを見つけてしまう。
ヤ〇チャが中でくたばってそうな程度に空いた穴、その穴が......どう見ても火傷にしか見えなかったのだ。そして爆破の影響にしては長く、不自然に揺れ続ける地面。それらから導き出される答えは......
「嘘だろ......コレ、今立ってるコレが......ボス? ッッッ!? 確認しなきゃ!!」
タクミは困惑しながら火傷に向かって飛び込んでいった。耐性がだいぶ付いたがそれでも皮膚は焼ける。それを厭わずに火傷を触り......嫌そうな顔を浮かべた後、口で火傷を噛み切り、そこから出てくる液体を飲んでいく。
「......ハッ、ハハハハハハハハッ。マジかよ」
紛うことなき血だった。
超絶度数の強い酒のような喉を灼くような刺激、その中にあるなんとも形容し難い濃厚なコクとフレーバーに酔いしれた気分になる。美味い不味いではなく、ただただ欲しいと本能が訴えてくる血液だった。
「寄越せ!! 一滴残さず!! これは全て俺のモノだ!!」
理性も何もかも吹き飛び、残ったのは欲望の化身。
悪魔としては正しい姿。
地面からブチ切れた雰囲気が伝わってくるが、それを意に介さずに火傷に飛びつき一心不乱に啜りだした。
『GUOOOOOOOOOOO!!!!』
衝撃波と見間違うかのような咆哮が地の底から響き、立っていられないくらい地面が暴れるが、意地だけで火傷に喰らいついて吸った。
出が悪くなれば指を刺しこんで開き、中の肉を噛みちぎって新鮮な血液を求めて貪る。
衝撃波だけじゃなく殺気までもがバシバシ飛んで来ている中、タクミは至福のひとときに浸るのみだった。
だが、タクミにそんな幸せは似合うワケもなく、至福のひとときは火傷の再生&以前より鋭利になった突起の出現で幕を下ろす。
「ゴボッ......」
串刺しになって四肢をだらんとさせながら血を吐くるタクミ。
強制終了されただけじゃなく、手痛い反撃まで食らってしまった怒りで最早笑いしか出て来ない。
「......ふっ......ふふふふふ」
許し難い怒りに飲まれて目は白目部分黒目部分共に真っ黒に染まっていく。それに呼応するかのように身体全体から呪いが漏れ......完全に見た目はモンスターの領域に至る。
「ぶっ殺してやる」
ステータスを開いて物攻と魔攻に300ずつ振った後、身体から漏れ出た呪いを刺さっている棘へ一点集中させて溶かし、地面......ではなく謎のモンスターの背中に降り立った。
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