第189話 老化最強

 あの後は思いの外ぐっすり寝てしまっていたらしくて、タクミはスッキリ爽快なお目覚めを迎えていた。


「......おぉぉぉぉ」


 地面に直で寝たせいでバッキバキに凝り固まった身体を伸びをして強引に解し、漸く働き始めた少ない脳味噌が寝る前にあった事を思い出していく。


「うぁぁぁぁ......さてと、入村すっかなぁ」


 村の中が今どんな有り様になっているのかを想像しながら、寝る前にヒトの塊があった地点まで歩いて進んで行った。




「何があったんだろう、ここで......」


 予想の斜め下に突き抜けた惨状が目の前におっ広がって働き始めていた脳味噌が仕事を終えて帰宅準備を始めている。

 まず大黒柱? っていうのかな、元は家だったっぽい残骸の中に一つだけ存在感を残しておっ勃っている太い柱に、磔にされた骨と皮、周辺に散らばる血痕とバラバラになったパーツ達。それが複数箇所、何個もあった。


「......バラしちゃったのかなぁ? 磔にしたエルフの目の前で。ソイツらの家族っぽいのを」


 磔にされたエルフの残りカスの顔はどれも怒るか悲しむかしていた痕跡がギリギリ見て取れた。


「随分とはっちゃけたみたいだねぇ。でもそれでいいよ。地上に戻ったら同じことをしてもらおう。そんで今度は俺もちゃんと観覧したいわな」


 無駄に仲間意識が強くて、群れから弾かれたモノやスキャンダルが発覚したりしたモノには、良心の呵責もなくとことん追い込みを掛けるゴミカス共。ソイツらがいざそんな事をされてしまったら......良いバラエティになってくれるっしょ、絶対に。



「お疲れ。楽しかった?」


 グチャグチャと音がする方に向かって歩いていくと、死体損壊の真っ最中の様子のナイフを発見した。現行犯逮捕待った無し、言い逃れは確実に不可、やむなく射殺しましたってなるだろう惨劇を起こした犯人の姿だった。

 多分女だと思われるエルフを触手で凌辱しながら胸と腹を一心不乱に滅多刺しにしているサイコな現場を見ても、こんな声明しか発せられない俺氏。俺もお前と同類だね、ハハッ。


「お前に罪があるんなら、きっと色欲と暴食だよなー」


 俺の性欲持ってっただろ、お前。まぁどうでもいいけどさ......あ、でもアレか? 刺すと挿すって似てるからね、発音も意味も。となると、刃物とか武器ってインテリジェンスウェポンに限るけれど、大体は色欲持ちになるな。聖剣とかを成長させきったら性剣になったとかなったら笑えるな。


 歴史的大発見だ、コレ。

 まぁと言ってもこんな思い付きレベルのくだらねぇ事を吹聴する気も無いし、誰かに伝える気も、そうする相手も無い。



 それから暫くナイフの死姦兼お食事を見学していると、行為に満足したのか挿していた触手がブルッと震え――エルフのナカに欲望を......吐き出さず、一息に内側から肉を吸い込んでフィニッシュした。

 ズルッと抜いた触手の先端には赤黒いモノがこびり付いて妖しくテカっていた。そこらへんは綺麗にしとけよと思うけど、ナイフだし仕方ない。


「お楽しみは終わりだ。ボス殺しに行くぞ」


 俺がそう言うと、色々ヤって満足したのか自分から鞘に収まるナイフ。せめて綺麗にしてからにして欲しかった。




「おっとぉ......」


 ──────────────────────────────

 黄老龍

 レベル:■■■

 ──────────────────────────────


 四神の後って応龍じゃなかったっけ? それよりも強そうでヤバそうなのが居た。けれど、ソイツは敵がやってきても動く気配が無い。


 というか、ガチ寝してやがる。


「いくら強くても、老いには勝てないか」


 要介護なんだろうね、もう......


「ヒヨコ、やれ」


『ピィィィ』


 出したヒヨコは要件を理解していて、一鳴きした後直ぐにだらしなく開いている口からナカへいそいそと入っていく。それを見て頼りになるなと思いながらヒヨコの準備が終わるのを待った。



『ピィィィィイ』


 多分爆破地点が決まったんだろうヒヨコから合図が届いた。それも脳に直接。いつの間にそんな能力を得たのかな? 便利だからいいけど......一応お前って俺の魔法だよね? 本人の与り知らぬ所で成長しないで欲しいよ。


 避難の為に黄老龍からそこそこ距離をあけて準備完了。古今東西、龍の倒し方は爆弾が最適解と相場は決まっている。大きい樽が欲しいなと思うけど、ここにはそんなモノないのだけが心残りかな......


「やれ」


『ピ!』


 直後、腹から胸辺りの一部分が発光して、その直後轟音と共に弾け飛んだ。内臓にダイレクトアタックする衝撃波と爆風。慌てて大盾を出してそれらをやり過ごす......


『グァ......ガギャア......』


 さすがボスといった所か、まだギリギリ生きていた。

 と言っても死んでいないだけで虫の息なのだけれども。


「お疲れ様でした」


 老害は死すべし!! と、容赦無くやっと開けた寝起きの眼に偽螺旋剣角をガッツリ捻りを加えながら突き刺した。


『......ッッ!?!?』


 それだけでは飽き足らず、トドメとばかりに螺旋の溝に沿う形で硫酸タイプの反応を示した呪いを流し込んでおく。ビックンビックンと痙攣する爺龍はそれから五分くらい耐えた後、静かに息を引き取った。


『レベルが19上がりました』


「ふぉぉぉ」


 思っていた以上にレベルが上がって変な声を出してしまったが、爺なだけあって相当な経験値を溜め込んでいたんだろう。


 ――ゴツン


「......恥ずかし......ん?」


 爪先に何かが当たった感触があり、そちらに目を向けると何やら黄金色のソフトボール大の球が転がっていた。硬さは硬球だったけど......ちなみにこのドロップと思われる球が当たった箇所の爪は割れていた。死んでからも地味な嫌がらせをされたのがムカついたので偽螺旋剣角を根元が埋まる程度まで押し込んで苛立ちをぶつけておいた。


〈■■■■の鍵 黄金〉


 鑑定してみたけどこれだけしか読み取れなかった。

 こんなとこまで来るようなヤツは上位以上の鑑定程度常備しとけよって事なんだろうね。一応一階ずつちゃんと降りてたんだけど持ってねーんだよ俺は。何だか無性に苛ついた。


「......チッ」


 この階層は最後の最後まで憤怒の溜まり方が異常だった。二度と来たくない。



 老害龍の血(不味かった)を頑張って全部飲んだ後、ヒヨコを使って村を爆破しておいた。八つ当たりでしかないけど少し清々した。

 老害龍の死体から鱗と髭、鬣、鰭っぽいモノを持てるだけ剥ぎ取ってから階層の奥に向かって進んでいく。立つ鳥跡を濁さずの精神が俺にもあったらしく、更地になった村跡を見てニンマリと顔が歪んだ。



「............死ねばいいのに」



 奥には――階段しか無く、歪んでいた顔は元に戻った。



 ◆◇原初ノ迷宮第百七層◇◆



 降りた先は夜だった。


 月明かり一つも無い、完全な闇。

 空間認識は仕事しない階層。


「どうせならフル悪魔化して進んでみようかな」


 闇夜にはヒトよりも悪魔の方が似合うだろうというアホ理論で全身を悪魔にして突入した。一定以上の距離から先は見えなくされてるダルい仕様だった。


「くっっそ歩きにくい......」


 不規則なデコボコ地帯。中国系の映画で師匠から意味不明な修行を課される弟子がいそうな地形。

 一応ヒトでも乗れるような丸みはあるけど、俺の防御力だと足を滑らせたらモズの早贄みたいになりそうで怖い。


「どんなボスが居るんかな......面倒なのじゃないといいんだけど」


 歩き回る事三十分、未だ俺はボスと出会えていない。




 ─────────────────────────────


 タクミ・ベアル


 暴力と血の悪魔・上位


 職業:呪爆血術師


 Lv:16→40


 HP:100%

 MP:100%


 物攻:790

 物防:1

 魔攻:750

 魔防:350

 敏捷:550

 幸運:100


 残SP:512→608


 魔法適性:炎・冷・闇呪


 スキル:

 ステータスチェック

 血液貯蓄ㅤ残81,682.7L

 不死血鳥

 悪魔化

 魔法操作

 血流操作

 漏れ出す混沌

 上位隠蔽

 上位鑑定

 上位収納

 上位修復

 空間認識

 大殺戮

 暴虐

 四罪

 風神那海

 強状態異常耐性Lv6

 壊拳術Lv10

 鈍器マスタリー

 上級棒術Lv6

 小剣術Lv8

 歩行・回避最適化

 崩打

 回収

 極電雷耐性

 強呪耐性Lv6

 石化耐性Lv4

 病気耐性Lv7

 極熱傷耐性

 耐神性Lv5

 耐圧Lv9

 耐衝撃Lv7

 解体・解剖

 嗅覚鈍化

 強溶解耐性Lv4

 洗濯Lv5

 工作Lv5

 アウナスの呪縛

 錬血術


 装備:

 壊骨砕神

 怨鎚・心壊

 悪魔骨のヌンチャク

 肉触手ナイフ

 貫通寸鉄

 再生装備シリーズ

 圧縮鋼の短槍

 迷宮鋼の棘針×2

 偽螺旋剣角×2

 ババアの加護ㅤ残高74000


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