第188話 呪おう/観察日記6
――呪いは伝播する、と聞いた事がある人は結構居るだろう......
俺は悪魔らしく、一体ずつ絶望を与えるようにじっくりゆっくり殺して回っていた。そんな時、殺され待ち中のエルフ(仮)の一体に変化があった。
『ヒギィィィィ』
突然鳴き声が変わった事を不思議に思ったタクミが鳴き声がした方を見てみると、なんと眼球をガリガリし始めたではないか。
「ファッ!?」
ソイツは皮膚が硫酸喰らった感じの呪いで苦しんでいたんだけど、樋〇さんまでもが乗り移ったらしくてそれはそれはもう悲惨なことになっている様子。それを見て驚きの後に猛烈に押し寄せてくる笑いを必死に堪える俺と、より一層悲壮感を漂わせるエルフ(仮)共。
「............もっと時間をかけようかな」
これは時間経過でもっと面酷い事になると確信した俺の口から零れた言葉を聞いて、エルフは目をひん剥いて抗議してくる。
が、それを無視......ッ!! お前らがどれだけ苦しもうが俺がそれに気を配る必要なんてないのだから。
「そうだな、お前らはそこでのたうち回りながら、少しだけ生きていられる時間が増えた事を喜んでるといいよ」
呪いは混ざる。実験済みだった。まさか故意にやらなくても勝手にそうなるとは思わなかったけど。
それこそ流行病に波があるように時間経過で変異して変異して変異して、最終的にえげつないハザードになるのが終着点か、はたまた生存本能さんがヒャッハーして呪いに耐性を得て打ち克つ未来を得るか、待つのに飽きた俺に狩られるか......正直どれでもいい。エルフ(仮)にとって良い成果を齎すようにどうか頑張って耐えてくれ。
「じゃあ俺は用事を済ませてくるから頑張って」
視線で俺に穴を開けるくらいの眼光の鋭さで睨みつけるエルフ(仮)共を放置して、鎧に向かって拳を振りかぶり......思い切りぶん殴った。
「......なぁ、お前は俺の持ち物だよな? ある程度の自由行動や意思は認めるけど、結局は持ち物なんだからさぁ......持ち主の意図を汲んで動けよ。それに反するようなヤツなんて命懸けの場所に連れていく意味ある? 無いよな? 盾役は欲しかったし、そこらへんは役割分担が確り出来てたからこれまで連れ回していたけど......」
俺は頭悪いし脳筋だから全部が全部正解の行動を取り続けられるワケじゃない。命懸けと言ったけどそこら辺結構緩いのも知ってる。だから盲目的に従えとは思わない。
だけどさ、さっきのアレはねぇわ。静止を聞かずに突っ込んでお前の防御力を超えた攻撃されてたらどうだっただろうか? 何アクションか挟まないと俺は鎧の外に出られないし自由が利かないから無駄な出血してしまう。アホとしか言えない。
「ここでスクラップになるか? なぁ、オイ」
我ながら傲慢っぽくなってきたような気がしなくもないけど、自ら危険を産みそうになる盾役なんて要らないと思うんだよ。俺が自ら危機に陥るなら良いけど、他の存在の所為で危機に陥るのは許せん。
「......ヒトの形をしたモノと俺って相性悪いなぁ」
殴りつけながら呟く。もうヒト型は懲り懲りだ。
「バカが」
ベコベコに凹んだ鎧を収納に仕舞い、少しだけ晴れた気分をもう少し晴らそうとエルフ(仮)に向き合う。
「キヒヒッ」
振り向いた先は良い感じに呪いは伝播していて死屍累々の様相を呈していた。
俺は死んでいないだけのモノと評するのが最適なソレらを一体ずつ丁寧に損壊させていった。
「ヒトの形をしているモノは俺が壊す為にある」
長年積もり積もった鬱屈した感情は、最終的にそう落ち着いた。
◆◆◆◆◆
「ナイフ君コイツら喰っていいよ」
血を吸い終わったエルフ(仮)の死体を前に封を解いてナイフを好きにさせる。鎧に比べたらナイフのする事なんて可愛いモンだ。
思いの外早い解放だったからか、ナイフは喜びを全身で表しながらエルフ(仮)を喰らっていく。肉を喰った後の身体に残った魔石を触手が俺に渡してくる。
「......エルフってモンスターなのか? それとも異世界生物......違うな、ダンジョンの中の生き物は標準装備だったり? そういえば鑑定してなかったわ、見てみよ」
ヒト型でも魔石有りって事は見た目はヒト科でも立派なモンスターと思っていいだろう。気分的にモンスターじゃない方が嬉しかったりもするけど、モンスターよりもヒトの方が余程モンスター。
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デイエルフ
レベル:56
光の精霊を信仰するエルフ
脆弱な身体に豊富な魔力を持つ
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ナイトエルフ
レベル:57
闇の精霊を信仰するエルフ
貧弱な身体に豊かな魔力を持つ
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白肌は光、こんがり肌は闇。呼び方が俺の知ってるファンタジーと違って脳が混乱した。
後の属性は髪色や目の色に現れている。
光はUVカットが万全、闇は光にダイレクトアタックされている......のかもしれない。
まぁ、死ねば血と肉になるからそんな事はどーだっていいか。
「さーて、残りも殺っちゃうか......ナイフ君、喰い終わったら中で固まってるヤツら殺してきて。殺したのは持ってこなくていいから......でもなるべく残酷に殺っておいて。俺はちょっと疲れたから休んでるね」
触手で了承を示したナイフは、急いで残りを平らげると村の中に飛び込んでいった。
それから少し経ったら悲鳴と泣き声が聞こえてきて、それをBGMに目を閉じる。ここ最近で一番と言えるくらいとても心地よく休めた。
なんでだろう、不思議だね。
◆◆◆◆◆
呪女王蜂は北から攻める事に決めていた。
虫は総じて寒さに弱い。豪雪地帯で、シーズン真っ只中に活動するなんて自殺行為もいいところだろう。
だが、それでもニホン陥落の手付けとして桜前線に喧嘩を売るスタイルの最北端から順に落とす事を決めていた。
それは何故か――
寒さを克服しさえすれば、もう虫という種の頂点に立てると確信したからである。
もちろんバカみたいに適応能力が高く、今現在に至っても数を減らすことのないある意味最強種な黒光りするアレも居るが......それでもホッカイドーにはあまり出ないと噂の黒光りするアレすらも超越する最強種に、寒さ耐性を付けて至る腹積もりなのだ。
まず先鋒隊として近衛以外から精鋭+幹部候補+幹部候補予備を各種の中で選抜し、そこに雑兵軍団を加えて隊を組織した。
出発の日である今日はそろそろ晩秋に差し掛かろうかという季節であり、カントウ地方の寒さしかしらない蜂に初っ端から過酷オブ過酷な寒さへ裸一貫突撃させるという狂い具合いだった。
この案を挙げ、最後まで推したのは呪女王蜂。
短期間ながらも狂人と接した経験のある彼女は、これくらいやらないと耐性など付くはずがないと思っていたからだ。
ある程度の力と知恵を付けた今となっても、あの狂人を思い出す度に呪女王蜂は身体を震わす。
そしてこうも思う。
変な生き物がもし、ダンジョンを攻略して外に出てきたら......ワタシはアレに勝てるのか、と。挑む事が出来るか、と。
アレに数の暴力は通じない。
毒も......多分すぐに対応される。
味方の兵隊は脅威になれど、回復薬にもなり得る。
そう遠くない内に、敵味方に別れてあの変な生き物と対峙する――呪女王蜂の心には、そんな確信めいた予感が渦巻いてた。
今現在は解き放たれているとは云え、何かしらの因果が結ばれてしまっているのだろう。最近その予感に感情が振り回されているのを自覚している呪女王蜂は、一刻も早く謎の存在との契約を果たしつつ、力を蓄える事に躍起になっていた。
――予感を強く感じるようになったのは、タクミが大罪系獲得の為の試練を受けている最中だった。つまり大罪を覚えた事で存在の格が上がった事に起因している。
「ギーィア」
焦っているのも無茶しているのも自覚がある。
多分この無茶な作戦で多くの同胞が死ぬだろう。
でも止まれない。止まっちゃいけない。
ここで止まれば、この比じゃない数の生命が散る。
自分は死にたくない。
だからこそ、やれるだけの事をやり、来たるべき日に備えるのだ。
「ギーウ」
心を鬼にして出撃命令を出し、同胞を過酷な北地に送り出した。
これでもう後戻りは出来ない。
「ギゥゥ」
なるべく多くの生命が再び此処へ戻ってくる事を信じて送り出したハチ達を眺めていた。
それから凡そ四ヶ月、過酷な冬のホッカイドーを生き抜いて寒冷耐性を得た勇敢なハチ達は雪解けを待たずにホッカイドーの制圧に動き出した。
過酷な地に生きる探索者や猟友会、大自然の中ですくすく凶悪に育った野生生物等、カントウ地方じゃ考えられない程の猛者との血で血を洗う戦いの日々が待っていた。
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ハッピーバレンタイン!
昨今様々な種類のチョコが出回っていますが、一周回ってチロルチョコ大先生やノーマル板チョコパイセン、チョコボールさん、キットカットさん、タケノコ神とかが一番美味しいなって感じてる羊です。
皆様は今年どんなチョコを食べましたか? 貰ったor人にあげた余りor自分へのチョコを食べながら暇つぶしにでも読んでください。
奉縄紅月様からギフト頂きました。ありがとうございます! ありがとうございます!
読んで下さる皆様もいつもありがとうございます! 感謝しています!
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