六章
第185話 シン・タクミ
生首から無事に身体を生やして復活した俺。
「悪魔すぎんだろ、あの悪魔......」
ご丁寧に残されている燃えカスが哀愁を誘う。
「......『お疲れ様でした。これからも感情に忠実に、素敵で素晴らしい悪魔ライフを』か。ハハッ」
燃えカスの上に置いてあった書き置きを読んで乾いた笑いを零すタクミ。
「悪魔さんよぉ......各種苦痛に慣れた俺でも発狂するような苦行の後にちょっと見せた優しさ。それと最後の素晴らしい悪魔ライフをってなんやねんッ!!!」
全力で書き置きを丸め、憤怒に身体を任せて地面に投げつけた。
何の変哲もないただの紙のクセして、ダンジョンの床に穴を開ける謎の攻撃力を発揮してみせた。
「ハァッ......ハァッ......ハハハハハハハッ!!!」
戦力アップの為に自分から頼んだのであの悪魔は何も悪くないのだけれど、次に悪魔さんを見た時に俺は冷静でいられる自信が無い。身を内から灼く憤怒もその思いに同調してくる。
「............レッド〇ルをキメてから下に降りるか」
疲れていないハズなのに疲れている身体にエナドリをぶち込んで疲れを吹き飛ばしたかった。ババアありがとう。これが無ければもっと辛かったよ、この苦行の日々は......
エナドリをキメて幾分かスッキリしたタクミだったが、無いと言われていた怠惰がニョキニョキと勢力を伸ばしていると錯覚するくらい、やる気が起きずにいた。拒否柴かの如く、タクミは着替えの途中で地面と一体化してしまっている。
「あかん......ヤル気が起きねぇ......これが噂の燃え尽き症候群ってヤツなのかなぁ......」
エナドリをキメれば上がると思っていたけど一向に上がらないモチベーション。長く辛い苦行から解放された直後というのもあるだろう。着替え途中で転がった地面の冷たさが心地良すぎてもう起きたくない。
視界の端に映る触手と蛮族の戯れがまたヤル気を削ぐ。アイツらもアイツらで悪魔さんと戯れるていたのになんであんなに元気が残っているんだろうか、不思議でたまらない。
「もうダメだ......今日は無理だ」
こういう時は寝るに限る。寝て、起きれば気持ちがリセットする。明日から殺る気だす。
おやすみ......
◆◆◆◆◆
◆◇原初ノ迷宮第百五層◇◆
ドサッ――
「痛えッ!?」
寝てたはずなのに......敵襲か!? と、飛び起きてみれば俺を見ているナイフ君が居た。
「えぇぇ......」
意味がわからなくて呆ける俺に、ナイフ君が何かを伝えてくる。
「......なるほど、腑抜けて見ていられないから寝てた俺を下の階まで運んできたと。今は鎧が敵を抑えてるけど起きたとわかったから抑えるのを止める。敵は直ぐ来るから早く起きて......って、オイ!」
世紀末君が居ないなぁって思ってたら......なにしてんだよ、お前マジでさぁ。
「来る前に着替え終わらせないと......うわぁ、なんだアレ......デカい......鹿?」
真っ黒いオーラを纏ったデカい鹿っぽい生き物が世紀末君を撥ね飛ばして此方に向かってきている。
闇属性の鹿か......
鹿......???
「嘘だろ、オイ!!! 遠近法バグってんぞ!!!」
タンクローリーみたいなサイズの鹿。
デカいなーとは思っていたけど、流石に想像を超えてる。というか、寝起きで相対する相手じゃない。ナイフ君と世紀末君のお馬鹿!!
「あ゛ーーーーーもうっ!!! 殺ってやんよ!!」
──────────────────────────────
黒麒麟
レベル:■■■
──────────────────────────────
麒麟......麒麟かぁ、麒麟は面倒だったねぇ......というか角二本なのかよお前。麒麟って普通、一本角じゃないのか!!
いや落ち着け俺......そんなのはどうでもいいじゃないか。悪魔さんだとどれくらい成長したのかイマイチわからなかったけど、四神クラスだとわかりやすいと思う。つまりは都合のいいモンスター。
っしゃ! 殺る気スイッチ入った。来るなら来やがれドスケ〇ビ希少種!!! お前の立派な角を捥ぎ取ってやんよ!!!
あとナイフ君と世紀末君、君たちには後でお話があります。覚悟しといてください。
「【憤怒】、【暴食】」
【四罪】というスキルから得意な部類の【憤怒】と【暴食】を起こして構えをとる。
【憤怒】の権能は超単純。THE脳筋。
怒りの度合いによって身体能力と与ダメージが上がるっていう単純だけど最高に強力なスキルだった。他にも細かいバフとか掛かるけど、とりあえず俺、こういうの超好み。えっ? こんなの普通の身体強化じゃない? とお思いだろうとは思うけど、クソ鎧を雑魚扱いできる悪魔さんにまだまだクソザコな俺が傷を与えられるんだよ? やばくない? 本当、こういうのでいいんだよ、こういうので。
さて次の【暴食】は与ダメージに応じてMPを奪って回復&食事の吸収効率アップが主な能力。他にも細かいバフとかある。これも【憤怒】ほどじゃないけど俺の好み。ヒヨコのクールタイムが減る上に、血の吸収効率とかも上がるとか素晴らしい。腹は減るけど殺せば腹も脹れるからいい事しかない。
あとすっごい気張れば相手の身体を一口大程度だけど問答無用で喰えちゃったりもするけど戦闘中にやるのは今の俺では無理だ。
悪魔さんとの戦闘レッスン開始前からものすっっっっっっごく集中して、開始と同時にソレを発動してみた事があった。肩の肉を齧り取られてブチ切れた悪魔さんに頭を含む全身を木っ端微塵にされた挙げ句、再生中も潰され......最後にその技を悪魔さんやババアに使う事を魔法かなんかで強制的に禁止させられた。俺は悪魔さんを食って力が増した。
ようするに、俺は悪魔っぽい力を得て超絶パワーアップをした。そう思ってください。
「......ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛」
難点を上げるとすれば、怒りの感情に呑まれる事と使ってると腹が減る事かな。HAHAHA。
某英霊が使う偽螺旋剣のような角が二本生えた闇を纏う黒麒麟が、敵を串刺しにしようと頭を低く構えたスタイルで走ってきている。
憤怒状態のタクミは悍ましい顔で黒麒麟を睨みつけ、手に持つ金砕棒を大上段に構えて待機していた。
『ヒヒィーン』
シラフだったら「馬なのかよ!!」と突っ込むであろう鳴き声を聞いても、そのブチ切れた表情はピクリとも動かず。
そして、距離が縮まり――
「死ねやコラァッ!!」
『ガウァーーー』
衝突した。
凄まじい音を立てて衝突した両者。
周囲は衝突で発生した衝撃波で荒れ、地面は放射状に罅割れる。
そして現場では、身体の一部は弾け飛び他にも重症を負った挙げ句人身事故の如く吹っ飛ぶタクミと、自慢の偽螺旋剣角と頭蓋を砕かれ力無く地に沈む黒麒麟。
一撃。
一撃で勝負がついていた。
観戦者が居ればダブルノックアウトだと判断してしまうような惨状だが、タクミからすれば圧勝と言ってもいい会心の内容であった。
『レベルが5あがりました』
「アハハハハハッ!!!」
こんな簡単にケリがつくとは思わなかったけど、思い過ごしだったようだ。結果を噛み締め、ジワジワと実感が沸いてくれば......出るのは笑いだった。
俺基準で最高の結果が目に見える形で出た!!
これを喜ばずに、笑わずに居られるだろうか!!
クソみたいにキツい思いをさせられた四神、その元締め? ボス? そんな雰囲気の麒麟を一撃。やはりこのダンジョンは良い。気持ちいい。楽しい。
「......チッ、再生が遅ぇ」
しかし、その楽しい時間も長く続かない。
傷の治りが遅すぎる。そして......痛い。
「闇だから呪いとかデバフとかか......」
冷静になるとつくづく一撃で勝負がついた事が良かったと思えてくる。あのままババアと悪魔さんに修行をお願いしてなかったらヤバかっただろう。感謝しなきゃ......それでも、あの時の恨み辛みは消えそうにないけど。
「まぁいいか。こんなので死ぬことは無いだろうし、このままにしといたら呪い耐性がアップするか闇耐性とかが生えてくれたら......」
まぁこんなのはどうでもいい............さて、本題に入ろうか――
「ナイフ君、世紀末君、ちょっと来い」
目に見えてビクゥ!! っとした一本と一体。ナイフと鎧の数え方はわかんねぇからテキトーに。
「......俺が何を言いてぇのか、わかるよな?」
【傲慢】を起こしつつ、そう言葉をぶん投げる。
俺の貧弱な【傲慢】の権能の中にはレベル差が50以上離れている相手や、自身の配下や所有物(多分奴隷とかだと思う)への威圧効果がある。
ナイフ君と世紀末君は俺の所有物......つまりはそういう事だ。
「さっきやったのは雑魚相手ならまだしも、確実にボスが待ち構えているとわかっている時にやる事じゃないと思うんだよ......俺は」
【傲慢】を強めながらニッコリと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます