第183話 悪魔のレッスン

 ※深く考えずに戯言と思ってお読み下さい。

 犯罪を推奨したり、犯罪行為を正当化するような意図はございません。これはあくまでフィクションです。なので......ほら、アレです。異世界出身の悪魔と歪んだ悪魔堕ち日本人から見た現代世界......的なファンタジーとでも思ってください。

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『ヒヒヒッ、来たのぅ』


『お疲れ様でした』


 そういえば一階飛ばしていたのによく居たなぁと感心するタクミ。久しぶりに会うババアと悪魔さんはいつも通りでホッとした。


「......つっかれたぁぁぁ」


 こんな事を言うつもりは無かった。けれども気が付いた時にはもう口から吐き出されていた事を不思議に思う。知り合いに会って気が抜けたんだろうか......


『ヒッヒ......まぁこれでも飲んどき』


 いつの間にかババアの横から移動していた悪魔さんから、某翼を授ける系のドリンクがスッと差し出された。相変わらず動きが全然見えない。近付けてる気が皆無すぎて泣ける。


「ども」


 手渡されたソレを一気に飲み干し、飲み干した直後に羽根を生やした。なんとなくやっとくべきだと思ってやった。


『ヒヒヒッ、可愛ええ翼じゃのう』

『きゅんきゅんしますね!!』


 ヨチヨチ歩く愛玩動物を見たようなリアクションをされてしまった。一応成長したと思うんだけど、この悪魔達から見れば俺なんてやっぱりそんな程度なんだろうね。それよりも、こんな羽根のどこが可愛いのか理解に苦しむ......何ギャップて言うんだろう? とりあえず理解出来ない美的感覚だ。


「やっぱまだまだな感じ?」


 一応、言葉にして貰いたいから聞いてみた。


『そっちの言葉で言うと......アレじゃな。ヨーチエンとかホイクエン? みたいなモンじゃわい』


 バッサリと悲しい現実を突き付けられた。でも赤子と言われなかっただけ成長し......うん、成長してるんだろうね。うん。




 余生を楽しむ老人とその娘との触れ合いのような時間を楽しんだ後、俺はババアに一つ頼み事をしてみた。

 この頼みは受けてくれても受けてくれなくても、どっちでもよかった。受けてくれればきっと今後の役に立つと思ったけれど、超絶上位種には俺の知らない苦労や仕事があるだろうし無理なら無理で構わない。


『ヒッヒッヒ......まぁ、ええよ。じゃがその役目は妾じゃなく此奴が請け負うがの』


 そう考えていたが、呆気なく頼みは受理された。

 愉しそうに笑うババアの横で、承りましたと丁寧に頭を下げる悪魔さんが居た。


「じゃあお願い。今は対価らしい対価は払えないけどいつか絶対払うから」


『構わんよ。一つ言わせてもらうならこれからも妾達を愉しませてくれればよい』

『その通りですのでお気になさらず』


 本当に頭が上がらない。ヤベー悪魔なんだろうけどただの優しいおばあちゃんにしか見えないや......居た事ないから実際どうなのかはわからんけど。


「それで......悪魔らしい戦い方とかってあるの?」


 俺がババアと悪魔さんに頼んだ事――それは、悪魔の戦い方や強み等を教えてもらう事。せっかく人の身を捨てて悪魔なんていうスゲェ種族になったんだから、その強みを活かした戦い方とかを教えてもらいたかった。力不足はここまでのボス四連戦で痛感したし......


『ヒッヒッヒ......そう難しい事じゃないぞ。ほれ、説明しておやり』


『はい。腹が減れば種を軽く滅ぼしてしまう程に食い尽くし、その他全てを己の下に置き、呼吸以外の煩わしい雑事は全てを有象無象に任せ、異性全てを己の所有物にして好きな時に好きなだけ犯し、この世の価値ある全てを手中に収め、些細な事でも全てを灼き尽くす怒りに身を任せて行動し、持ち得ていないモノを持つ相手には醜く嫉妬に狂えばいいのです』


「............ん?」


 七大罪だっけ? それっぽいのを教えられた。

 でもよくわからない。それだけでいいの?


『よく解っていなさそうなのでもう少し詳しく説明致します。悪魔種のおおまかな力の源泉は、愚かなニンゲンが大罪と呼ぶ欲となっております』


「そうなの?」


 んー......するとアレか? 自分に正直に生きていればそれだけで強くなるって事かな?


『はい、貴方が今お考えになっている事で合ってますよ。私共から言わせれば我慢こそ大罪です。

 我慢などして何かいい事ありますか? 理不尽に耐え忍んでいれば事態は好転しますか? 自らの裡に棲む欲望を抑えつけて良い事はありますか? それらを抑えて抑えて抑えて......抑え込んだ暁には心身の破滅が待っています。悪魔にもストレスとかはありますのでよーくわかります。

 ニンゲンなんてモノは脆弱で愚鈍なケモノでしかない自らを、特別で崇高なモノなのだと勘違いしている愚か者なのです。少しでも相手の事が気に障ったと思えたらその瞬間に殺しちゃえば解決しますからオススメですよ』


 わかる。すっごいわかる。わかりみしかないわ。

 耐えて耐えて耐えて......耐えた先にはもっとクソな事しかなかったもん。

 変わる切っ掛けは俺がブチ切れて自暴自棄になってヒャッハーした先にあった。死ぬ思いや辛い思いもあったけど、今は毎日がかなり楽しいから胸張って幸せって言える。

 それにカニバ云々、殺人云々、善行云々ほざいてるけど極限状態になればハイパー善人だろうとも最大の敵は他人になるのがニンゲンですものね。

 なるほど、悪魔さん良い事言ってるわぁ......


『ニンゲンの社会は法やら権利やらなにやらをごちゃ混ぜにしてわかりにくく複雑にして、暴力や権力を学というモノに置き換え、賢いモノが得をし賢くない又は本当に弱いモノらは庇護などされずに搾取され尽くします......言葉巧みに他者を騙し、貶め、群れて、自身の手はなるべく汚さず、汚い部分は徹底的に隠し、他者を操り他者を追い詰めに追い詰めて、最後に待つのは対象の自死か社会的な死か、破滅か......

 寧ろ私達から言わせれば力重視の社会よりも悪意が表面化せず、知らず知らずの内に絡め取られていて、真綿で首を絞められるように緩やかに死に向かう分、残酷で陰湿で鬼畜ですよニンゲンは......』


 そうだよね、小狡いければ小狡いほど上手く生きてける世界だ。法の穴をすり抜けるヤツらとか詐欺師とか......人を騙せば騙すだけ金を得られている。せこせこ稼ぐしかない下層の住人の事なんて気にも止めないヤツらばかりだ。

 イジメにしたってそう。群れて行えば大抵のイジメや各種ハラスメントの標的になるような個は反撃できないもんな。行う方の罪悪感は群れの数相応に分散して残るのは遊び感覚。遊び感覚な分だけスリルが足りず、スリルを求めていけば残酷さ方面に行為がエスカレートしてくんだよなぁ......直接やる分には。そういうヤツらに限って外面だけは巧妙に繕う。HAHAHA。

 それに、陰湿なタイプは本当にキツい。社会的に殺す為に虐められっ子予備軍や金が欲しい女を使ってきたり、軽犯罪を強要したりで冤罪や言い訳出来ない状況に追いやってくるし、女は女で自殺が救いと思えるようなエッグい追い込みをすっごい愉しそうに笑いながら仕掛けてくるし......ね。

 肉体的に追い込むか精神的に追い込むかの違いでしかない。今なら指でちょいちょいってするだけでも人を追い込める世の中。もう滅びちまえよと思う。


『とまぁ色々言いましたが、我等にとって負の感情は糧にもなりますが、ニホンジンのソレらは質が悪すぎて狂ったアホなヤツらが好む......其方で言う危ないクスリ的な嗜好品扱いになってますからねぇ......』


 悪感情云々ってどっかで聞いた事あるような無いような......でもそうかぁ......日本人の負の感情は悪魔界隈でシャブとかみたいな扱いになってんのかぁ。聞けばまぁその通りだと納得できるくらいアレらのはアレはアレだからね。


 ......ちょっと待とうか。という事はアレですか。

 あのクソ肉塊野郎は俺のアレコレで生まれたソレをキメてパキってたって事ですかね? 


「アハハハハ......アレはそういう事だったのかよ、クソがっ!!」


『......コホン。さて、話がズレましたね......私が言いたかったのは、貴方は昔抑圧されていた影響で一部を除いた感情や欲望の解放が下手くそになっているのです。その一部も正しく解放している訳とは言い難い現状なのですよ』


「......自分じゃ上手く出来てる感じだったんだけど」


 急にキレた俺に若干ヒいている悪魔さんがそのまま話を続けてる。そっか、俺下手くそだったんだね。

 あのクソ野郎共にこっち方面も歪められてたんだなぁ......


『はい。なのでこれから不肖私めが貴方の事を鍛えさせて頂きます。上手くできるかわかりませんが、全力でお伝え致しますのでよろしくお願いしますね!!』


「よろしくお願いします」


 丁寧にお辞儀をする悪魔さん。めっちゃ偉い方なのに腰が低い。それに合わせて俺も教えてもらう立場なのだから当然頭を下げる。


『それでは参りましょう。オババ様からはたっぷり時間を頂いておりますので、貴方が納得いくまでお付き合い致しますよ』


 今まで見たことないくらい良い笑顔で言われた。

 この笑顔の裏にはどんな感情があるのか、俺をしごくのが嬉しいのか、この後サンドバッグ的な感じにされるのか俺には全く読めないけど......何回か死ぬのだけは覚悟しておこう。


「うす!!」


『では......先ずは貴方の戦い方や力を見させて頂きます。罷り間違っても私が死ぬ事は無いので、最初から全力で来てください』


『ヒッヒッヒ......それじゃあ頑張るんじゃぞ。餞別にさっきのドリンクを何本か置いてってやるわい』


「あ、ババアまたね! ありがとう! ッシャ!! 行くぞ!!」


 俺は何度も翼を生やす状態にさせられるのか......まぁいい頑張ろう!!


「シャァアッッッ」


 覚悟を決めた俺は金砕棒を持ち、悪魔さんへと躍り懸かった。



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 abm111様からギフト頂きました! ありがとうございます。ありがとうございます!

 いつも読んでくれる、応援してくれる皆様に感謝です。次でこの章は終わりとなります。更新遅いですが最後までお付き合い頂けたら幸いです。


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