第181話 

 ヌルリと出てきたのは、白蛇。


 記憶にあるモノよりもだいぶデカい。でもそれはまぁ、距離が離れていたからだろうけど、それにしては見た感じと違いすぎる......透明すぎて見誤るなんて事あるのか? それとも幻術みたいなモンで誤魔化してた?


「............ゴポッ」


 それにしても、すっごい見られてる。あ、お前呼吸すんのか......いや、モンスターといえども生き物だからするよな普通。

 ていうか過剰に梱包されすぎていて今は全く動けそうにないから攻撃する絶好の機会だと思うんだけど、何故しないのか不思議だ。


 とか考えていたけど、何時まで経ってもコイツから敵意とか殺意とか感じなくて戸惑う。なんと言うか、毒気を抜かれるってこういう事なんだなって感じにさせられる。けど、このままなのはムカつくから氷溶かせねぇか試してやろうと思う。

 そんな梱包されている俺の目を、何やら観察するようにジィッと見てくるから絶妙に落ち着かない。何なんだよコイツ気持ち悪い......


(虎、廃棄、何故、生)


「ッッ!?!?」


 コイツ、頭の中に直接!! ってコレ現実でも本当にあるえるのか。唐突すぎたから驚きすぎてしまい思いっきり水を飲んでしまった......

 ちなみに、水を飲んでも喉は全然潤わないし美味しくもなかった。ここの水が特別不味いのかもしれないけど、俺の味覚とか嗜好が完全に悪魔になってたって再確認できたよ。


(早、喋)


 うるさい。俺みたいな普通の生き物は水の中じゃ喋れないし、頭の中に直接なんかするなんて出来ねぇんだよ!!


(......成程)


 なんか勝手に納得してるけど......思っている事が通じたのか? わけがわからないよ......

 そう思っていたら急に頭上から氷のドームが降ってきて、ソレがスポッと頭に被せられた。


 水残ってっから無理だよってガンつけると、たちまちドームの中の水は無くなり、何故か空気が入ってきた。


(早、喋)


 驚く暇も与えないクソ蛇が俺を急かす。


「その廃棄物から出てきた」


(死、何故)


「死んでるように見えて実は生きてたから」


 矢継ぎ早に質問が飛んでくる。現代日本で生きていた俺にとって、馴染みがないこの変な喋りはすっげぇわかりにくいから、本当にこの回答でいいのか思う。

 けど訂正とかして来ないから正解かと思って、適当に合っているだろう事を答えていく。


(其方、何)


「下っ端悪魔」


(帰、望)


「どっちか選べって言うならNO」


(其方、望)


「ニンゲンを大体......んー、多分百匹以上千未満、悪魔の一派、モンスターを二匹かそこらかな? ......多分漏れはないよね。以上を殺す事」


(悦、悲、怒)


「ちょっと何言ってるかわからない」


 ちょっと、その前まではなんとなくわかったけど、これはわかりにくいっていうか全然わからないんですけど蛇さんよぉ。えつ、ひ、どって一体なんなんでしょうかねぇ......


(戦、我、望)


「......なんかもう戦うつもりがアンタに無いんなら戦わなくてもいいと思ってる」


(............)


「な、なんだよ......」


 俺を観察する青い目がどんどん鋭さを増していく。


 ............もしかしてさっきのは俺に聞いたんじゃなくて、戦うぞコラ! って意味だったりする?


(我、害、認)


 何が琴線に触れたのか、急に殺意マシマシになる目の前このクソ蛇野郎。よくわからないけど多分害認定されたなぁ......


 なんだコイツ......頭オカシイだろ。ムカつく。


「意味わっかんねぇんだよテメェゴラ!!! いきなり拘束からの問答をして、最後には害だなんだって何様だよテメェ!! いいよ、殺ってやんよ!! サバイバル映画とかであるような感じで生き血を啜ってやんよ!!!」


 氷の拘束はコッソリ使っていた炎の熱でちょっと溶けて隙間が出来ているから何時でも動ける。


(害、除)


「そうかよ!! 選択肢を一回でもミスると強制的に戦闘になるタイプのモンスターですか!! じゃあ死ね!!!」


 最初はすっぽ抜こうとしていた氷。重みと冷たさで身体の自由を奪っていくその氷を指を動かしてがっしりと掴んで振りかぶるタクミ。有刺鉄線のようなモノが身体に深く刺さっていく痛みと感覚を感じながらも、ストレスの過剰摂取によって瞬間沸騰した怒りが行動を阻害する為に付けられたモノをまるで付けていないかのように振る舞わせる。


「ア゛ァァッ!!! ――ッガボッ」


 殺すと決めた俺同様、蛇も殺す為に動く。

 手始めに頭の氷ドームを排除した。とても殺そうとする意欲が高いのが見て取れる行動だった。


 だが、ブチ切れた脳味噌筋肉バカはその程度では止まらなかった。


「ゴボボボボッ」


 空気を大量に吐き出しながら氷塊を振り下ろす。

 アホみたいに掛かる水の抵抗をものともせずに神社ごと蛇を圧し潰す勢いで氷塊が叩き付けられた。


(弱)


 弱いと言い、俺の攻撃を鼻で笑った蛇に腹が立つ。

 そのクセしてインパクトの瞬間、蛇入り神社が変形して亀の甲羅に変えやがった。


「......チッ」


 手応えは当然の如くダメージを与えたモノでは無く、叩きつけた氷は甲羅に負けて木っ端微塵に砕け水に溶けていった。


(生、抗)


「............」


 何言ってるかわからない蛇語は無視。

 甲羅を砕くのは水中では不可能と判断したタクミは、収納から出したナイフを握り蛇部分に狙いを定めて斬りかかっていく。


(遅)


 しかしその攻撃は楽々避けられるが水中ではそんなモノと気持ちを切り替える。蛇が攻撃として放ってくる水の弾は、水の中にいる為に見えないのでタクミはそれをガン無視して突貫する。


「ゴボァァァァッ!!!」


 蛇を目掛けて吠えながら斬りかかるタクミ。


 水中での身体の制御は触手に任せるという意志を読み取っていたナイフは、触手をフル稼働させて水を掻いて補助していった。

 ナイフが強くなったからか、握られていると意思の疎通が容易となっていて、タクミがどう動いて欲しいのか手に取るようにわかっていたから動きに関してだけはタクミはノーストレスでいれた。


「............」


 叫んだり激しく動き回ったりを繰り返していれば肺の中の空気が無くなる。

 とうとうタクミは声を出せなくなった。それでも気を失ったりしないのは知っていたから焦る事はなく、頭の中で蛇を罵倒しながら黙々とナイフを操る。


 水の抵抗は思っていた以上に凄まじく、また前回漂いまくった海と今居る地底湖は全くの別物と言っていい程で動き難さに顔が歪んでいく――




 時間が経つにつれて透明だった地底湖の水は、タクミの血でやや濁る程に削られていた。

 血が豊潤な内は疲れを感じないタクミだったが、顔に疲労の色が浮かぶくらい苦戦している。しかし休むことなく動き続ける。それは何故か......


(弱、弱、弱)


(ウルセェ!! クソが!!)


 冷静になろうとする度に的確に飛んでくる煽りが、休んだり考えたりする時間を取る選択肢が吹き飛ばしやがるからだ。


 蛇はタクミの事を弱いとしか思っておらず、タクミはウザい、黙れ、殺すの三つしか考えられなくなっていた。






 蛇はタクミを決して逃さなかった。


 水面に行こうとする度に足に氷塊を付けて底まで落とす。それでも再浮上しようとすれば執拗に落としにかかる徹底具合い。


 蛇故の執拗さか、はたまた浮上されると困るのか、それとも他に理由があるのか......それは蛇にしかわからない。だが、やり続ければ効果があったようでタクミは浮上しようとはしなくなった。

 何かしらのエネルギーを用いないと身体は再生はしないと蛇は知っていた。何時までも死なないタクミを見てそれならば死ぬまで削りとってやればいいと考え、ガス欠を待つ事に戦闘スタイルを切り替えた。



 水中での戦いは十日を越えた。


 最初の方はふやける度に血を使って身体を治していたが、今では水でふやけきるまで治そうとせず、グズグズになると脱皮するように身体から切り離してそれから治すようにアップデートされた。

 それなのに有刺鉄線状の札付き鎖は呪いのように身体に残っている。取れなさに辟易したタクミが収納に仕舞ってやろうとしたが入らず、グズグズになった身体を切り離しても鎖だけは離れない。治したそばから身体に食い込むのを今ではもう諦めた。また鑑定は鎖に通らず、これだけ水中で行動しても何もスキルが生えない。多分鎖はスキル成長阻害の呪いかなんかがあるんだろうとタクミは思っている。


 とりあえず打つ手が無かった。どちらも......





 タクミの抜け殻と血が漂う水の中で殺そうにも殺しきれない蛇と、水中戦闘に大苦戦するタクミ......そんな淡水なのに塩気が強すぎる戦闘は、十三日目を越えた時、漸く動きらしい動きが起きた。





──────────────────────────────


遅くなりましてすみませんです。

金曜夜に寝て、起きたら日曜になっていました。申し訳ないとは思っていますが、私も意味がわかりませんので出来れば笑ってお許しください......


それはそれとして、いつもお読みいただきありがとうございます。皆様のおかげで続けていけてます。これからも宜しくお願いします。

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