第180話 青目の白蛇/ぬこまっしぐら
「地底湖と聞いて誰もが思い浮かべるようなオーソドックスな地底湖。視界は曇りの日の夜くらい。足場はいつもとあんま変わらない」
目の魔化を切って地底湖を眺めながら暗闇に目を慣らす。多分地底湖の方が奥で、自分が今いる方が入口側だと思う......んだけど、背後に入り口が無いから合ってるかわかんない。
「ちゃんとしたルートを辿ってやって来ないとダメなのかなぁ?」
虎が俺を強制的にショートカットしやがっただけなんだから俺に過失は無い筈なのに......この扱いは酷くないですかねぇ?
それはさておき......多分ここから湖の方に歩けば、きっとボス戦が始まる。
このまま戦っても虎に敗けてる程度の俺に勝てるような相手が出てくるかわからない。色々あって感知出来るようになった俺の本能的なのは、相変わらずの様で、ごちゃごちゃ考えるな! 出てきたモンは殴り倒して進め! と吠えている。
「見た感じ......水を使ってくるよなぁ。折角着たけど脱いどこうか」
ボスは多分亀かなんかで、十中八九地底湖を活かす戦いをする。確信めいた予想をしてパンイチになる。
手に持つ武器はみんな大好き金砕棒。お供はナイフ君withモーニングスターと世紀末君。
「......その前にちょっと一服をしとこう」
殺る気満々でボスの居場所に踏み出そうとして踏み留まり、収納から取り出した吸血鬼のハツから美味い血を直飲みしてリフレッシュする。
戦闘行為大好き脳筋だけど、定期的にこういう時間を取っておかないと唯のバーサク脳筋になって、何時しか気付いたら詰みになっている......なんて事になりそうと思ったタクミは、一応ヒトだった部分は残しておきたいと考えての行動だった。
コーヒー休憩みたいな行動だが、やっている事は口が裂けてもヒトとは言えない。
それが正常と思っているが、其処にツッコみを入れる者はこの場にはいない。
◆◆◆◆◆
――音も無く静かに、だが威風堂々とした姿でダンジョンの闊歩していた。
行く手を阻むように次々と現れるモンスターを、自分が死んだと知覚する前に首を刎ねて殺していく。床に首が落ちて漸く、自分が首を切られたのに気付き、愕然とした表情で死んでいくモンスターをゴミを見るような目で流し見し、すぐにまだ生きているモンスターへ意識を移し、また同様に殺していく。
そして、遂に目的地へと辿り着く。
そこには一部に......というか、ほぼ種族の全てがソレの熱狂的ファンと云える空前絶後の超絶怒涛のとある嗜好品が陳列されていた。
「なーーーーーーう!!!!」
普段余り出さない歓喜に満ちた声を出した後、姿勢を正して行儀よく、ソレが並ぶ陳列棚に向き合った。
『チ〇オチュ〇ル まぐろ』
『チャ〇チ〇ール かつお』
『〇ャオチュー〇 海鮮バラエティ』etc......
所狭しと、ビッチリと棚に並んだソレらの大好物達。猫の口の中はもう涎でビッショビショである。
――そう、ここは超大型複合商業施設ダンジョンのペットショップコーナーである。ちなみに、日本一のペットの楽園と言う謳い文句を恥ずかしげもなく使うくらいにデカい場所だった。
当ダンジョン攻略難易度は上級の下~中の間。
ペットショップコーナーはその中層よりちょっと手前という中々ハードで猫にはまだキツい場所なのだが、猫の執念と食い意地とアサシンチックな戦闘スタイルが可能にしたこの階層への到達であった。
「にゃおにゃーお」
テンション爆上がりな猫は早速、大好きなマグロ味に手を掛け――ようとして、固まる。
『〇ャオ〇ュール アサルトカジキ味』
なんと、自分の知らない味があるではないか! と、猫はそちらに釘付けとなる。甘やかし体質だった故飼い主は販売中の商品全味に加え、新商品が出る度に即購入して来るにゃんこファーストな人間で知らないパッケージが買い物袋から出て来ると心躍ったモノだった。だが、今目の前にあるモノはその知らないモノである。
故飼い主によってグルメにされた猫の舌は、超絶久しぶりのマグロ味が目の前にあるにも関わらず、アサルトカジキ味を欲する――
「なーご」
欲に敗け、猫はアサルトカジキ味に狙いを定めた。
爪を引っ掛けて箱を移動させ、口と爪を器用に使って流れるように食事が可能な状態にもっていった。
「にゃあん」
お行儀よくしなくてはいけない理由は無い。
今、自分は完全なるソロ。誰の目も気にする必要はない。飼い主に媚びて早く寄越せと強請る必要なんてない。
ここにあるモノは全て自分のモノ。
好きなだけ、自分勝手に――喰えるのだ!!!
「にゃ!! にゃむにゃむにゃむにゃむ......」
一度キリッとした猫だったが、それは残念ながら長く続かなかった。
一舐めすれば全身を幸福が支配しッッ!! 猫の脳と胃は〇ャオチュー〇だけをひたすら求めるッッ!!
その後、チャ〇〇ュールに夢中になっていた猫は三箱分を空にしたところである程度満足したらしく、自我を取り戻してその場に寝転んだ。
「ふにゃん」
スキルの影響で満腹中枢と胃のリミットが無くなっていた猫だったが、大好物を気の向くままに食べまくった事で久しぶりに胃が満足するという気持ちを思い出す事ができた。
そしてその幸福の余韻に浸るように寝転んだまま顔をクシクシと捏ね回した後、クッションなんかのコーナーへと向かって漁り、その中で気に入った感触のモノの上で丸くなって寝た。
この日、久しぶりに猫の夢に故飼い主が出てきた。
とてつもなく幸せだったあの頃の幻影に抱かれて眠り、猫は独りになってから初めて満足な睡眠を得られた。
翌日、起きてから猫は決意する。
このダンジョンを乗っ取って自分の縄張りにしてやろう――と。
この日以降、猫は精力的に動いて回った。
腹が減るまではモンスターを殺して回り、腹が減ったり眠くなったりすればペットショップコーナーに戻って食事や睡眠を摂る日々。
ペットショップがある階層だけじゃなく、ダンジョンの入り口から入って食品を持ち帰りに来た探索者も積極的に狩っていく。男も女も、善も悪も関係無く、自身の縄張りを守る様に猫は動いた。
その中でも猫が
人間からすればこのダンジョンは超大型複合商業施設だけあって物資の獲得に重宝していたので、ここだけは絶対に抑えておきたいという強い意識をもっていたダンジョンだったのでこの処置は仕方ない事。次々と刺客を送り込むが、手練でも誰かが殺られている隙に食品をかっぱらって逃げるのが精一杯だった。
だが、猫からすればそんな事は知らないし、心底どうでもいい事である。
縄張りを主張しても減らないニンゲン。寧ろ以前よりも増えてきて、煩わしい事この上ない。故飼い主を殺したクソによく似たニンゲンも数多くやってくるのが余計に神経を逆撫でし、より残酷で残虐な死体を作っていく――
そして猫は超大型複合商業施設ダンジョンのイレギュラー中ボスという認識に収まった。居る時と居ない時があり、居ない時はラッキーで食品ゲットの大チャンスであったが居たら目も当てられない結果が待ち受けている。最近は強姦や暴行、殺人鬼をしたクソ共の処刑場としてニンゲンから利用されたりも......
そして、居ない時はこのダンジョンを中心とした近隣でクソ寄りな野郎共の虐殺が行われていた。だが、このイレギュラー中ボスと虐殺の関係性は......今の所誰も気付いていない。そして猫らしく気紛れで動くので、居る居ないの規則性など無く、パターンを読みきった!! と声高に叫んで食品を漁りにいったバカが死んだりもした。
とりあえず、今日も猫は元気です。
◆◆◆◆◆
「ゴブォブォブォッ......」
唐突なゴブリン回――
では無く、タクミは溺れてパニクッていた。まぁ溺れてというか沈んでいる最中だが。
「
肺の中の空気を盛大に吐き出しながら叫んでいたが、そこが近付くにつれて徐々に落ち着きを取り戻していった。
今現在タクミの姿は、四肢を分厚い氷で拘束され、胴体と首は有刺鉄線状になった御札付きの鎖でぐるぐる巻きにされていた。
そして、そのまま地底湖の底まで到達した。
「......
藻掻けば藻掻くほどに有刺鉄線が食い込んで痛いから、途中で藻掻くのは止めていた。地底湖の底にはポツンと一軒神社があり、そのダンジョンとは思い難い変な状況が余計に冷静にされた。
さて、なんでこんな事になっているんだろう。
こんな大ピンチに陥った理由を振り返る。
一服を終えて気持ちを切り替えたタクミは、とりあえず地底湖がどうなっているんだろう......と考えて地底湖に無策で近付き、中を覗き込んだ。
「ゴボボボボ......」
そこまでは普通だった。というか、そこまではちゃんと覚えていた。だがその先は、気付いたら沈んでたという事だけしかわからず......
「..................ゴボッ!!」
血が抜けているのと、冷たい地下水と氷で頭と身体を冷やされていた事で、今のタクミは完全に昂り0の珍しい状態だった。
絶体絶命のピンチは一旦置いて考え込み、記憶を掘り起こしていく。すると、地底湖を覗き込んだ一瞬に何かが見えたのを思い出した。
「
それがチラッと神社から顔を出してた。
そうそう、この目の前の神社か......ら......
「......ゴボボッ」
絶体絶命の大ピンチからワンランク、ツーランクのピンチレベルの上昇を確認した。やばい。
どうしよ......扉がゆっくり開いてくんだけど......
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奉縄紅月様からギフト頂きました! ありがとうございます! ありがとうございます!!
花粉キてますね。ここ一週間くらい目と鼻が憎きアイツらに攻撃されてます。早すぎぃ......
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