第178話 タイガー&デーモン
中国映画とかでよく見る雰囲気の竹林に寝そべって顔を上げる黄と茶色の毛皮のデカい虎が居た。
『グルルルルルルルルル』
それで......まぁ、物凄く威嚇されている。
まぁそうだろうね。ウネウネウネウネウネウネウネウネと、前よりも伸びる様になった触手でふしぎなおどりを披露するナイフと、厳つい鎧を従えたモブ野郎がやってきたら誰だって警戒するもん。
「ナイフ君......ソレ止めてくんない? 気が抜けるんだけど......」
ボスとの戦闘前に昂りかけていた緊張感が音速で霧散してしまった。きっとそれはナイフ君なりの威嚇なんだろうけどさ、それは威嚇とは言わない。当然ウネウネするのを止める気配はナイフ君には無かった。
『グルルルルァ!!!!』
そんな事をやっていると、お前らはよ入ってこいやボケ共が! と言わんばかりの咆哮を部屋の主から頂いてしまった。なんかごめんね。
「どっちも好きに動いていいよ。でもブッ壊れるのだけは無しで。じゃあ行こうか」
声を掛ければビタンビタンと触手を地に打ち付けるナイフ君と盾をモーニングスターで殴って音を鳴らして返事をする世紀末君。どちらも戦意は十分。
「張り切ってるなぁ......」
いい事だ、そう思いながら俺は敵がテリトリーに入った事で動き出した虎を鑑定する。
──────────────────────────────
界纏虎
レベル:■■■
──────────────────────────────
なるほど、わからん。
何かを纏う虎。界......世界? 世界だと、土系統?
見てみないとわからないけど、どうなんだろうか。
頑張る気を見せている装備ーズの見せ場を奪うのは申し訳ないから、俺は見にまわる。
初手は大盾をドッシリ構えた半身の姿勢で虎に突っ込んでいく世紀末君。攻撃力は皆無な世紀末君だけどアレは威圧感あるなぁ......
『グルァァァッ!!』
そう思っていると、早速虎が動いた。
気合いの咆哮をあげた次の瞬間、虎の全身が地面の中に沈み込んでいく。
すると、どうなるだろうか。
A.世紀末君が盛大に空振ってすっ転ぶ。
『――ッ!?』
大盾で視界が確保されていないから目標が消えていた事に気付かず、猪突猛進していた世紀末君はインパクトすると信じて疑わずに突撃し、何故!? って顔を晒しながら転がった。ナイフ君も空振った。
「......空間認識ではギリギリ感知できるな。認識を阻害してたのはあのクソ竹か」
見失った虎を探す為に【空間認識】を発動させると、地の中を移動していると思われる薄い反応があった。それは真っ直ぐに俺を目指して襲ってくる。
『ガァァァァア!! ガルァ!?!?』
多分振動かなんかで検知するのがこういう時の定番だと当たりを定め、攻撃が来る直前に最適化された歩法でヌルッと身体をズラしてみたら、華麗な回避となって虎が困惑した。
「読んでて良かったファンタジー物!!」
読んでなかったらもっとこのダンジョンの中で苦労していただろうな......と思いながら、困惑した虎目掛けて金砕棒を振り下ろす。
そう軽くないダメージを与えられるかな――
そう、思っていた。
『グルルァッ!!!!』
しかし、四神(仮)はそんなに甘くなかった。
インパクト寸前、吼えた虎がゴッツい岩っぽいモノを纏い、金砕棒の一撃をガードした。
「は?」
硬いような柔らかいような、不気味な手応えが金砕棒を伝って俺に返ってくる。ひとつわかる事は、あの虎はほぼノーダメージだろうという事だった。
『グルルルル......』
クッソ重そうな見た目の装甲を身に纏った虎は、流石ネコ科というしかないくらい軽やかに音もなく着地し、俺を見て警戒を顕に唸る。
「はぁぁぁぁぁぁ......」
一筋縄じゃいかないよな、やっぱり。
「面倒くせぇ......」
どう倒したモノか、この虎は。
『グラァッ!!』
これまでの鳥と龍の様に遠距離一辺倒な戦い方をしてこない虎さん。これだけで脅威度は爆上がりする。
耐性上げて後はゴリ押しが一番簡単で確実なんだけど、それは許さないらしい。
「クソがっ!!」
一番の難点が、速いという事。
プニ硬岩アーマーを纏ってるくせにスピードは今の俺がギリギリ対応できる程度には早い。
次点で硬さ。その次は物理。
カッチカチかつプニプニという相反するモノが共演したアーマーにこちらは封殺されてしまう。
それで速さと防御を兼ね備えた虎さんは、物理で殴りかかってくる。掠るだけで抉れちゃうくらいのマイボディを容易く傷付けてくれるソレはかなり厄介で何度も抉り取られた。けど、今更その程度で怯む俺ではないのだよ、虎よ。
そんな攻防の中にナイフ君と世紀末君は飛び込みにくいようでオロオロしていた。だから俺の後ろの方にに来いと指示をした。
......まぁ、俺がこれから何をしようとしてるのかはこの場にいる皆は勘付いただろう。初見の虎以外は。
「じゃあ虎さん御自慢のそのアーマーを溶かしてやろうかねぇ!!」
脳筋or最高火力。
俺の手札なんてコレしかないんだから仕方ない。この二つが通用しなかった時に改めて考えればいい。
『ピィィィィィィ』
身体はデブ〇ョコボ、顔はヒヨコなヒヨコっぽいモノが虎と俺の間に降り立つ。突如現れたデブいのに呆けて時が止まった虎がなんかちょっと可愛い。
「ゴー」
『ピ』
その特大の隙を逃すハズのない俺は、ヒヨコっぽいデブに指示を出し、その間にナイフと鎧を収納。全力でヒヨコから逃げる。
タイムリミットを察したら体育座りっぽく身を屈め、その上から身体全体を包むようにファイアーコートで覆う。衝撃はバカに出来ないからなるべく離れなくてはいけないと俺は学んだのだ。
直後、響く轟音と襲い来る爆風。
俺は爆風に背中を押されて情けなく転がるが、前回実験した時のように衝撃でグッチャグチャになる事は無かった。
「ペッ......あー、やっぱり威力上がってるよなぁ」
グツグツ沸き立つ地面と、爆撃された後のような惨状の元竹林を見て口に入った土を吐き出しながらそう呟く。
「チッ......」
そんな惨状の中、視界にモゾリと動く物を見つけた。
御自慢のアーマーを八割方剥がされていたが、毛皮が若干焦げたりしている程度で済んでいた虎だった。
『......グルルルルルルルルル』
怒りで目は爛々と怪しく輝き、毛穴を狙って突き刺しているような鋭い殺気を放ってきている。どう友好的に見てみても、それは元気いっぱい殺る気に満ち溢れていた。
「アレを至近距離で喰らってあの程度なのかよ......」
強敵すぎやしないかな? そんな事思ってる内にアーマーが再形成されていくぅ......
さて、俺の二大メインウェポンは尽くヤツに耐え切られた。ここからどうするのが正解なのか、誰か教えてほしい。
◆◆◆◆◆
決め手に欠ける攻防を繰り返す中で不自由さを感じたタクミは、ナイフと鎧が虎を相手取っている間に溜まっていたSPを敏捷に50振り、回避性能と反射神経の強化を図り安全性を上げた。
このお陰で虎が放つ攻撃は余裕を持って対処出来るようになる。
「シッ!!!」
自身の最大火力は連発が出来ない。
決まれば大体一撃でケリがつく一方、耐え切られた場合は必ず泥仕合が待っている。
やはり最後に信じられるのは己の力。物理攻撃。
今あの大火力に40を足した所で誤差みたいなモノである。きっと40程度じゃまた耐えられる。
そう感じたタクミは迷わず物攻に40振り、肉弾戦を仕掛けた。
「ア゛ァッッッ!!」
噛み付き、爪、岩弾を捌きながら、再び拵えられたアーマーに向かってひたすら金砕棒を振るう。
一発ごとにインパクトを変え、不可思議なアーマーを着けていても効く当て方の模索を続けていた。
観客が居たら、最初は盛り上がるが途中で飽きてしまうような有効打が全く出ない試合。だが、やられている方は堪ったモノじゃない。
化け物を凌ぐ継戦能力を如何なく発揮され、スタミナを浪費し徐々に押され始めた虎に対して、未だ元気いっぱいなタクミは手を緩める事なく襲いかかる。
「ヒャハッ!! オラァッ!! シャアッッ!!」
タクミから鋭く繰り出される打突。そのインパクト時の音が変わっていく。
それは重く、鈍く、芯に響く......そんな音へ。
『グル......ガァッ......』
硬く、だがよく撓り、粘り強く、衝撃を分散させ、熱にも魔法にも強い。
まるでファンタジーにしかないような不可思議な鉱石を作り出して身も守り、周囲の地形を欠伸しながら崩壊させる化け物の中の化け物である界纏虎。
合間合間に繰り出す反撃は直撃しても止まらず、大半は避けられる。
だが、それでも絶対の自信を持つ己の装甲を信じ、決定的な隙が訪れるのを待――
『ギャンッ!?』
――つ心算だったが、その前に信じたくない現実を突きつけられてしまう。
バカみたいな装甲が、ヒト型の何かに抜かれ......久しく味わっていなかった痛みを、与えられた。
「――アハ」
金砕棒から伝わってきた確かな手応えにタクミは邪悪としか表現出来ない悪ぅい顔をして嗤い、攻撃の手はより一層激しさを増していった。
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