第177話 串刺し

 昨日は体調不良で死んでまして遅れました。

 今日は身体バッキバキで動くのが辛いです。コメントは明日以降に返します。

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 ......なんだろう、ババアと悪魔さんがすっごいスッキリした雰囲気を醸し出している。

 この何日かで何かがあったんだろうか。......んー、でもまぁ、気持ち良く日々を過ごせているのならそれに越したことはないか。うん、いい事だね。俺もそんな日々を過ごしたかったよ。


『ほれ、座りんしゃい』


「うぃ。あ、ども」


 どうでもいい考え事をしていたタクミは着席を促されたので大人しく座る。座ると流れるようにお茶とお茶請けが出てくるのはいつもの事なので今更驚いたりもしない。


『さて、前に言ってたローブの件じゃが、こちらの勝手で......あー、なんじゃったか......』


『ライダースジャケットです』


『おお、そうじゃ! ライダースジャケットにしたぞ。ヒヒヒッ』


 という事らしく、悪魔さんが白いライダースジャケットを俺の前に差し出してきた。白いっていうか、夜道を歩く時に付けたりする光を反射するアレのような感じのヤツ。


「なんでライダースジャケット?」


『趣味じゃ』

『趣味です』


 なるほど。うん、かっこいいよ。デザインは。

 デザインは本当にかっこいいんだけど......


「俺がこんなテッカテカな白いのを着るって......」


 自分に似合うかどうかだ。性能が良けりゃ着なきゃダメってついちょっと前に思ったばっかだけど、ちょっと躊躇ってしまう。ローブとかならファンタジーだしコスプレ感覚で着れないこともないけど、ガッツリ現代日本の産物だからねぇ......


「なんでライダースジャケットにしたの? 趣味って言っても完全に日本の品じゃん......」


『ヒヒヒッ、気に入ったからじゃ』


「あー......」


 なんかビビッと来たんだろうね。なら仕方ない。

 完全に偏見だけど、悪魔系列ってなんかロックだったりパンクだったり......後は執事やメイド系の服装を好んで着てるイメージだからね。ババアや悪魔さんも漏れなくそうだったんだろう。


『きっとお似合いになりますよ』


「......ッス」


 ニッコニコの悪魔さんの圧が凄い。

 この悪魔さんもババアと同類だったらしい。残念。


「性能は......うん、やばい」


 ファイアーから出たコートと遜色ない。

 ぶっちゃけこの驚きの白さだけどうにかしてくれたら外に出てからも着続けたいくらい。


〈雷禍災龍飛膜のライダースジャケット

 帯電、放電、滞空、風圧耐性、撥水、天候予知〉


 急なゲリラ豪雨に耐えられて、尚且つ台風の日に海を見に行ったり急に田んぼを見に行かなくちゃいけなくなっても安心なこのスペック。あっちに居た頃にコレとファイアーコートがあれば、あんな地獄からとっとと抜け出して秘境にでも篭れてたよなぁ。


「コレの色って変えられないの?」


 悪魔なんだから白を纏ってはダメだよねという独断と偏見に塗れた思考からの疑問をぶん投げてみた。

 戦闘の面から見ても、白って目立つし、汚れも際立つし、いい事皆無なんだよ。それも反射材みたいに主張激強だからね。余計にダメだ。だから......ね?


『ヒヒヒッ、白はお気に召さんかったようじゃの。まぁ色の変更は出来るぞ。生半可な素材だと負けてしまうからソイツと同格以上の素材を使うがよい』


「......!!」


 色変更できる!! それだけ聞ければ後は俺が何とかすればいい!! テンション上がってきた!!

 何度も言うが、俺はこのライダースジャケットのデザインはとても気に入っているんだ。


『ヒヒヒッ、それはこのバカの力作じゃからのう。着てやっておくれ』


 悪魔さん渾身の作品だったらしい。まぁ着るよ、今じゃないけど。



 メインイベントが済んだ後は他愛のない話と鳥素材プレゼント、軽い買い物をして今回のお店イベントは終わった。


『ヒッヒッヒ......それじゃあの』


『染色はお任せください』


 悪魔さんは俺に圧を掛けて消えていった。

 すっごい好意的だから忘れかけてたけど、やっぱり悪魔さんも凄い悪魔なんだよね。めっちゃ怖かった。


「じゃあ俺も行くか......あ、謎の毛布について聞くの忘れてた。まぁ次の機会に忘れてなかったら聞こう」


 俺に良くしてくれるのなんてババアと悪魔さんしか居ないんだから、聞くまでもないんだろうけど......万が一予想と違った時が怖い。なぜ怖いかって? 俺に過保護なあの大悪魔達が世話を焼きたがったりするかもしれないじゃん? 後、俺に全く関係ない謎野郎が無償でなんかするとか怖い。


「知的生命体には打算しかないんだよなぁ」


 色々と超越した存在ならば気紛れでそういう事したくなったりもあるだろうけど、そうじゃない存在の善行の影には打算や下心がある。知らないうちにポイントカードのように溜まっていって、急に精算しなきゃいけなくなる。


 ソースは俺。


「まぁいいか。勝手にした事の対価を求められたら殴って有耶無耶にしよう」


 物騒な思考を躊躇なく口にしながらタクミは階段を軽やかに降りていった。



 ◆◇原初ノ迷宮第百三層◇◆



「竹林だぁ......うわぁ」


 パンダでも出てきそう。そんな感想が真っ先に飛び出てくる程に青々とした立派な竹がわっさわっさと林を作っていた。


「中華系のゲームや映画に出てきそう」


 雑なコメントを残して無遠慮に踏み込んでいく。

 入って中を見てみた感じ、とても平和なフロアだ。ボス部屋はどこなんだろう......いや、その前に此処はボスが出ない可能性もあるんじゃないか? このフロアは空間認識が効かないらしくて全くわからない。


「世紀末君を久しぶりに出しておこうか」


 この地形なら出しても問題ないだろうと、仕舞いっぱなしだった蛮族鎧を久しぶりに解き放つ。ついでにあれから出していなかったナイフ君も一緒に出してあげた。


「じゃあ進むけど......ナイフ君と世紀末君で俺を導いてくれ」


 長閑なフロアに毒気を抜かれた俺はのんびり進もうと決め、先導を装備ーズに頼んで俺はそれに着いていく。


 過分に休憩を挟んでダラダラ進む。

 日本にこれだけの竹林なんてそうそうあるわけじゃないけど、竹という馴染みのある自然に触れたからかとてもゆっくりしたい気持ちになる。


 はよ進もうぜと言いたげな装備ーズだけど、ここはちょっと俺に合わせてほしい。てかいつも合わせてくれてるけどね。うん。


「疲れが溜まってるのかなぁ......仮眠でもしとこ」


 なんか妙な感じもしたが、そこまで深刻に考えずに疲れの所為にして寝ることにした。警戒は装備ーズに任せて適当な布に包まって目を閉じた。




 ◆◆◆◆◆




 タクミが眠りに落ち、独りでに動く不思議なナイフと鎧がピクリとも動かなくなったのを確認した瞬間、ソレは動いた。


 地中に幾重にも伸ばした末端をタクミの下に集中させると、それらの先端を一気に束ねて野太い針のような形を形成。ソレを何本も作っていくと最後にはタクミの寝姿の形取った針山が出来ていた。


 準備は整った。


 久方振りの獲物だ、楽しみで仕方ない――




 ◆◆◆◆◆




「......ふぁ? 痛ェ!!!」


 寝ていたら地中から突き出された何かに全身滅多刺しにされたでござる。安眠を妨害するとは何事だ。誰だ、そんな不届き者は......金砕棒でどつき回したるから出て来いや!!


「あ......竹か? 俺の血やら何かを吸ってる?」


 刺さっているのは何やら寝る前によく見ていた馴染み

 のある色と質感。刺さったソレはまるで嚥下するように周期的にビクンビクン蠢いている。


 気持ち悪い......ファンタジー寄りじゃない、日本に生えている竹のような見た目の癖して、ガッツリファンタジーに染まってんじゃないよマジで。


『――!! ――!!』


 この階層で何ともエンカウントしなかったのって、きっとコイツがこうやって食い散らかしたからなんだろうねぇ......時間経過でリポップするし、いい餌場だったろう。今、までは――


「ナイス」


 出し抜かれた事が癪に障ったんだろうね、ナイフ君と世紀末君が荒ぶっていらっしゃる。

 俺に刺さっていた竹針はナイフ君に根元から切り取られ、世紀末君によって引っこ抜かれていった。そのお陰で俺さん、無事帰還。


「じゃあ本丸をぶち殺そうか」


『――!!』


 針が生えていた所に手を突っ込んで元凶を掴む。

 掴んだソレを力いっぱい引っ張る。すると、モコモコモコと、本丸に繋がる道筋が地面に出現する。


「さ、ナイフ君レッツゴー」


 触手を器用に動かして指し示す道に沿って進んでいく。俺は中のモノを引っ張り上げながらそれを追う。


『ギィィイ』


 なんか悲鳴らしきモノが聞こえてきた。

 ソレを聞いてナイフ君のテンションとスピードが上がる。そろそろ本丸だね。という事で......


「せー......のッ!!!!!」


 進むのを止めて芋掘りスタイルになり、全力を出して引っ張った。悲鳴っぽいのがさっきよりもクリアに聞こえた後、断末魔っぽい声が後に続く。


『レベルが2上がりました』


 あ、倒したみたいだ。結構ヤベーヤツだったんだな。今の俺のレベルが2上がるなんて......


「おー、お疲れさん」


 俺と世紀末君がナイフ君に追い付くと、一斗缶サイズのタケノコの根元のブツブツした部分みたいのをナイフ君が滅多刺しにしている場面に遭遇した。

 怒りが収まらないのか、死んでいるのに未だに切ったりするのを止めない。


「......うぉ、びっくりしたぁ」


 死体蹴りに勤しむナイフ君を生暖かく見守っていたら、周囲の竹が全て消えてボス部屋の扉が現れた。


「ほら、落ち着けナイフ君」


 切り&刺し足りないナイフ君が触手を荒ぶらせているのを頑張って宥めて扉に向かう。


「あー、そうくるか」


 龍? と来て鳥。その後は......


『グルルルルルルルルル......』


 めっちゃ厳つい虎が、俺を待っていた。

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