第176話 ファイアー戦後
「やっと終わったァ......ん? あれ? ちょっ......嘘だろ? もしかしてくっ付いた?」
戦闘が終了したのをアナウンスで聞いた俺は、長い事居たファイアーの傷口から抜け出そうと身体に力を込めたんだけど、傷口と俺がピッタリくっ付いていて抜け出そうにも抜け出せない。
ミミックに食われたプリーストとか、壁尻みたいな感じを想像してくれたらわかりやすいと思う。
「俺も腹とかになんか刺さったまま長い時間放置したらこうなるのかな......怖いなァ。......痛ッ!?」
癒着したファイアーの皮が気持ち悪い。
無理やりひき千切ってやろうとして引っ張ってみた。そしたら痛かった。どうやら融合して一つになりそうだったらしい。
「人っぽい下半身を胴体から生やした不死鳥が爆誕寸前だったんだな」
おー怖い。正直そういうホラーなのはジャンルが違うから他所でやってほしい。ムカデ人間とか、好奇心に突き動かされて見て後悔したから。
「......なんでこんなの程度が涙目になるくらい痛いんだろう」
耐えきれない程ではないけど耐えなきゃならない程度の痛みがファイアーの皮膚を剥がしていく度に襲ってくるのが地味に辛い。けどコレは全部剥がさないと気持ち悪いから頑張って剥がす。本当に最後の最後まで厄介な鳥だったわ......
「あー地味に辛かった......ってコレは、うわぁ......」
久しぶりに見たお外の様子は、最後に見た時と全く違う物に変わり果てていた。
あんだけグツグツだったマグマや景気よく噴火していた火山はすっかり消え去っていて、赤さも暑さも何も無いただの荒れ地が残っていた。
「アイツが死んだからマグマが枯れ果てた......いや、アイツの再生用のエネルギーがマグマだったのかな」
そりゃあ俺の血液残高の桁が二つも変わるわけだ。俺じゃなかったらあのクソファイアーを殺し切れないだろ、こんなん無理ゲーすぎる......
「ふぅ......あ、ドロップ発見。最近よく出るな」
いつの間にか確定ドロップに変わったのかな? って思うくらい最近毎回拾えてる気がする。でもこれはいい事だからもっとやってくれていい。
「......おぉ!! これは最高なドロップじゃん」
火耐性ローブの完全上位互換が出た。これは素晴らしいヒキ。
〈不死火鳥ロングコート
極炎熱耐性、再生、寒冷耐性、空中機動〉
濃い灰色で普段使いも出来そうなオシャレなコート。ちょっと俺にはオシャレすぎる気もするけど、似合わなくてもこれは着なきゃダメなモノ。
「これで欲しい再生シリーズは下着だけだな......このダンジョン内に居るうちに揃うかな? 揃ってくれるといいなぁ」
全裸から始まり、オシャレになって終わるダンジョンってなんだろうね。そう思うには気が早いけど、これくらい良いと思いたい。そんな事を考えながら再生獣シリーズを着込んでいく。
「この皮と羽毛はババアへのお土産って事で。あ、ナイフ君お疲れぇ」
いつも頑張ってくれている相棒を労って皮を剥ぎ取った後に残った不死火鳥の肉を与えた。残ったモノはババア達へのお土産にする予定だ。
美味しそうに食うなぁと思いながら眺める。この量だけど能力生えるかな? あのクソ鳥の能力は有能だけに生えてくれたらラッキーだと思っておこう。
「......あ、そうだ。今のうちに実験しとかないと。判断しくじって装備ロストとかやってらんないし」
このファイアーコートを信じてヒヨコを間近で爆発させて装備が再生出来ないくらい木っ端微塵に吹き飛ぶとかなってしまったら目も当てられない。多分だけど二度と立ち直れない気がする。
どれだけの耐火性能があるか、ハミ出してる部分がどうか、着込んでる普通の装備にも耐火性能が加わるかとか......RPGとかのように耐火装備一個装備したら全体的に火に強くなるとかならないかな......ならないよなぁ......
「というわけでちょっと強めに炎」
キャンプファイヤー程度をイメージして出そうとした炎。その程度の意識で出されたそれはイメージを裏切り、乾燥した冬の日に木造の家屋が燃え盛るくらいの勢いだった。
「あっつ......くはないけど......なんで?」
生物の反射的行動で驚いてしまったタクミ。ちょっと前までそんなのとは比較にならないモノを相手取って意気揚々と突っ込んで行っていたのに。
「んー......あれか? ファイアーの血を飲みまくったからか?」
一応戦闘時以外なら考える事はちゃんとする。
それが大分大雑把だろうとも。考えようとするだけ良い事である。
「............なんか面倒になってきた。知りたい事だけ確認したら一回寝よう......なんか絶妙に身体がダルいし何だこれ......」
タクミの身体を襲う気怠さ。これはきっと不眠不休で鳥と戦闘していたからだろうと色々面倒になってきた頭で無理やり納得させ、これを早く終わらせてとっとと寝てしまおうと決意する。寝て起きればきっと治ってる。きっと。
「とりあえず右腕」
躊躇なく轟々と燃える炎に右腕を突っ込んで検証を開始。
「......素肌部分は耐性のせいで暖かいくらいにしか思えねぇ」
・素肌→よくわからないけど多分素の耐性
・コート→焦げすらつかない
・シャツ→火がついた
・ズボン→火がついた
・髪の毛やその他→火がついた
その後、ちまちまやるのが面倒になったタクミは炎に顔を突っ込んだり飛び込んでみたりと狂気を感じさせる検証をした結果、コートに守られている部分は完全に耐えられ、そうじゃない部分はいつも通りという結果が出た。
最悪コートに守られていない部分が燃えたり焼け落ちたりしようが、ロングコートなお陰で全損はしないとわかる。それなら普段からずっと着てても多分大丈夫という結論が出る。
何故多分が付いているのかは、自身の誇る最大火力の攻撃手段を試せていないからである。
「じゃあ最後だね、ヒヨコカモン!」
一応全ロストするのが怖かったので他の物はナイフを含めた全てを収納の中に仕舞い、全裸にロングコートという露出魔が獲物選びしている時のスタイルでヒヨコを呼び出した。
「ピヨォォォォォ!!」
「......なんかデカくね?」
なんか結構な成長を遂げていたヒヨコがちょっと野太くなった声と共に飛び出してきて困惑するタクミ。
「あの親ファイアーみたいにフォルムチェンジしないのかお前は......」
ただし、デカくなったのは体積だけで他はヒヨコのまんまだった。なんというか違和感が凄かった。
「ピ!!」
「......ちょっ、おまッ......」
ドヤ顔で敬礼をしたヒヨコは、ダリィ事はさっさと終わらせんぞとばかりに即爆発した。タクミは爆発に対する心構えもクソもなく、ヒヨコの起こす大爆発を至近距離で喰らい、為す術なくその爆風に飲み込まれていった。
◆◆◆◆◆
「あんッッッのクソヒヨコォォォ!!!!」
起きて一発目の発声がコレなのは仕方ないだろう。タクミは心に渦巻くやりきれない思いをこの寝起き第一声に込めて叫んだ。
ヒヨコがデカくなったのに合わせて爆発も気持ち威力が上がっていたように感じたけど、そこの所はどうなのだろうか。
自分が耐えられたのか、コートに守られたのか、それとも呆気なく爆散してから復活となったのか、正解はわからないけど、とりあえず無事に生き残れてはいた。
「............うん、見事にすっぽんぽんじゃないか。でもなんで毛布に包まれてんだ俺は......わけがわからないよ」
辺りを見渡してから自分の身体を確認してコレに気付く。コートは結構離れた位置にぐちゃぐちゃの胴体を包んだ状態で落ちていて、自分の本体の方は真っ裸を毛布に包まれた状態地面に転がっていた。
「フードが無いから頭は爆散したんだなぁ......胴体はそんな頭と違って爆風や熱波からは一応守られてはいた。けど、爆発の衝撃は殺せずにぐっちゃぐちゃになった......って感じか。気楽に至近距離からでもポンポンヒヨコを使えたら良かったけどまだ無理だったな」
最悪やんけ......と零し、溜め息をガッツリ吐いてから収納に仕舞っていた服を着る。
「体調は問題なくなってる。ガッツリ寝たからだろうけどあの怠さは一体なんだったんだろ......」
なんとも言い表せない謎の不快感はすっかり消え失せていた。まぁ体調が良くなったんなら結果オーライという事で、その事はもう忘れる事にした。
「さて......思いがけず休憩も取れたし、進むか」
この後にあるであろうババアの店に向かって、オシャレさんになったタクミは歩き出した。
『ヒヒヒッ、いらっしゃい』
『お待ちしておりました』
いつも通り変わらないババアと感情の戻っていた悪魔さんが俺を出迎えてくれて、俺はなんとも言えない不思議な気持ちに心を支配された。
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タクミ・ベアル
暴力と血の悪魔・中位
職業:呪爆血術師
Lv:21→39
HP:100%
MP:100%
物攻:600
物防:1
魔攻:600
魔防:350
敏捷:500
幸運:100
残SP:22→94
魔法適性:炎・冷・闇呪
スキル:
ステータスチェック
血液貯蓄ㅤ残104,714.9L
不死血鳥
悪魔化
魔法操作
血流操作
漏れ出す混沌
上位隠蔽
上位鑑定
上位収納
上位修復
空間認識
大殺戮
暴虐
風神那海
強状態異常耐性Lv6
壊拳術Lv8
鈍器マスタリー
上級棒術Lv6
小剣術Lv8
歩行・回避最適化
崩打
回収
極電雷耐性
強呪耐性Lv6
石化耐性Lv4
病気耐性Lv7
極熱傷耐性
耐神性Lv5
耐圧Lv7
耐衝撃Lv3
解体・解剖
嗅覚鈍化
強溶解耐性Lv4
洗濯Lv5
工作Lv4
アウナスの呪縛
錬血術
装備:
壊骨砕神
怨鎚・心壊
悪魔骨のヌンチャク
肉触手ナイフ
貫通寸鉄
再生装備シリーズ
圧縮鋼の短槍
迷宮鋼の棘針×2
ババアの加護ㅤ残高74000
──────────────────────────────
あけましておめでとうございました。
今年もどうかよろしくお願いいたします。
皆様はお正月はどうお過ごしだったでしょうか。
震災の被害に遭われた、未だ遭われている皆様におかれましては一日も早く平穏が戻りますよう祈っております。
かなり不謹慎なネタや表現が多いこの作品ですが、少しでも被害に遭われた地域にいた皆様の気が紛れたりしたら幸いと思っております。
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