第175話 狂った寄生虫

 ささやかな抵抗をした事で、俺の視界は外の情報を何も伝えてくれなくなった。


 そろそろ頭以外の全部をロストしてもニュルッと一息に回復してくれるようになってもいいんじゃないかと思っている。レベル制じゃないから成長性は無いんだろうけどさ、熟練度とかあるじゃん? そこの所どうなのかな? スキルさん。


「......あ」


 炎の壁は残念ながらクソの役にも立たずに突破されたようだ。不死火鳥とかいうくらいだもんな、この程度じゃ無理か畜生......

 てかさ、絶対に殺してやるという強い意志を感じるファイアーさんなんだけどさぁ......多分放っておけばくたばる状態から死体蹴りをカマしてきたクソヒヨコを俺が殺したからブチ切れてるんだろうけど、俺悪くなくないかな? 死にかけを食おうとしてわざわざ顔面に乗ってきた所為で唯一動いた口で反撃されたアホやん。


「腹立ってきた」


 現在進行形で炎を喰らっている。ヒンヤリとローブで耐えている状態。こっそりとローブに頑張れ頑張れと応援修復をしている。耐えきれよお前マジで。

 絶対耐えきってあのクソ鳥も喰ってやる。親子丼してやるから。


「親子共々俺の血肉にしてやる」


 ローブからハミ出している部分――せっかく新しく生えてきた部分が燃やされている。

 弱肉強食に負けた子を思う親って時点で不快なのに、理不尽な怒りに巻き込まれ、燃やされ、凄くムカついている。


「......ヒヒヒッ」


 ステータスチェックをしながら耐える。

 今は雌伏の時。再生チートで耐性が伸びるのを待つだけの時間。

 耐える時間が長ければ長いほど、俺は力を溜め込む。覚悟しておけクソ野郎が。






「アマツ野郎の時もそうだったけどコイツらって同じ事しかしてこないなぁ......俺は助かるけど、ぶっちゃけ馬鹿だとしか思えない」


 正確に言えば他にもファイアーボールとかも飛んできているけど、安全圏からずっと遠隔で攻撃してくる事しかしない。今あの時のヒヨコみたいに物理で突いてこられたら大分ヤバかったんだけど......


「時間切れだ。スキルは成長した」


 極まった熱傷耐性と強くなった溶解耐性を見てニッコリ嗤う俺。まだまだ火傷したり肌が軽く溶けたりはするけど、その程度のダメージしか俺はもう受けない。


 身体が生え次第、ファイアーを殺しに向かう。


 行き当たりばったりで死に掛けたが、もう大丈夫。


「ごめんな、モン〇ターボールは持ってないんだ」


 再生チート持ちの殺し方は俺はよくわかってる。なんせ自分自身の弱点を攻めればいい。ファイアーの俺で言う弱点となる頭的な部位を潰した後、再生に使うエネルギーを枯渇さたりすればいいんだから。


「ナイフ君、君に決めた!!」


 とりあえずナイフをファイアーが居ると思われる方向に向かって投げつけた。赤黒い炎を突き抜けたナイフは、ファイアーの頭に向かって飛んでいく。


『クォォォォ!!』


 狙いはズレていたが、今度はキッチリ頭部死球が発動して頭に向かって吸い付くように軌道が変化していった。急にナイフが来たので驚いたファイアーは口から粘性のある炎のゲロを吐いて迎撃。

 その隙に俺はファイアーに向かって駆けていく。手には金砕棒だけを持ち、空いた方の手は呪いを使って真っ黒に加工している。


「フンッ!!!」


 かなりの勢いで投げた筈のナイフを、なんとファイアーのゲロは撃ち落としてしまった。そしてすかさず俺の方を向く。が、一手遅い。

 呪い加工済の手で胸の羽毛を掴み、俺側に引き寄せるように引きながら金砕棒を振るう。掴んだ手は白煙を上げているが、熱いだけだから我慢は余裕。


『クォォォォア!!』


 案外スルッと引き込め、金砕棒がガッツリ入る。

 ファイアーは金砕棒が当たる直前に身体から炎を噴き出して抵抗したが、タクミには何処吹く風。身体を焼かれながらもすべき事を完遂し、不死火鳥は身体をガッツリ抉られた。


「アハハハハハッ!! お前のような生き物でもちゃんと内臓はあるんだな!!」


 抉り裂かれた身体からボドボドと内臓が落ちていき、地熱で焼かれていく。焼かれたモツと飛び出た血が美味しそうないい匂いを出している。


「いただきます」


 早くも再生を始めたファイアーの腹目掛けて顔と両腕を突っ込み、肩まで傷口に埋まる俺。再生の弱点なんてわかりきっているのよ。俺が此処に来るまでどれだけ傷まみれになってきたと思ってる。


「美味ァ」


 不死火鳥の腹の中で叫んだ。それくらい美味かった。

 ファイアーは傷口が再生しない事と傷口に顔を突っ込まれた事に驚いて固まっている。モンスターと云えども普通に生きていて傷口に突っ込んでくる狂人を相手にした事はないだろうから、当然っちゃ当然の反応なのである。


『クォォォォ!?!? クォォォォ!?!?』


 ジタバタ足掻いてどうにか体内に侵入してきた異物を取り外そうとするファイアーだったが、如何せん肩まで両腕を突っ込まれているからどうしようもない。

 肩から下は例え切り取られようとも、本体の頭が体内残るから根本的な解決にはならない。そして、鳥故に翼なので掴んで引き摺り出す事など出来ない。


 そう、この時点で不死火鳥は詰んでしまった。

 後はタクミと不死火鳥による再生力のチキンレース。先にエネルギーが尽きた方が負けるという至極単純な争いと成り果てた。


『クォアァァ!!!』


 この時、白いお髭海賊団の彼の様に不死火鳥が身体を炎化させる事が出来たのなら、狂人とのチキンレースは回避出来たであろう。だが、いくらファンタジー生物モンスターといえども肉の身体を炎に変化させる術など持てない。


 ――怖い


 そう、初めて不死火鳥は思った。

 狂人の思考パターンや行動原理など、読めるはずもない。生き物なら少なからず恐れを抱くはずの火や怪我を前にしても全く意に介さない。寧ろ嬉々としてそれに飛び込んでくるなど誰が思うだろうか。


 何故この愚物は体内に侵入りこもうとするのか。

 焼かれようが、首だけになろうが、死なない。恐れない。怯まない。何故なのか......

 自身も再生生物だからわかるのだが、いくら身体が再生しようとも痛みは確実にある。種族特性的に熱には完全耐性があるが、他は痛いし効く。身体を傷つけられれば痛い。なのに、体内の愚物は何をされても常に嗤っている。


 怖い以外の何物でもない。なんだコイツは。

 こんなの、知らない。


『クォォォォン!!!』


 僅かだが自身とは無縁な筈の死の足音が聞こえ、不死火鳥の背筋に冷たい物が奔った。こうなればもう、冷静ではいられない。


『クァァァァァ!!!』


 体内が震える。体内が動かされる。痛みが走る。何か大事なモノが吸われている気がする。見えないから何をされているのかわからない。


 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い――


 恐慌状態になり、暴れるしか出来ない。

 巫山戯るな!! 何故死なない!! 焼けない!! 早く、死ね!!


 もう頭の中には、子の仇という事は無かった。


 ただただ、理解の及ばない不気味なモノとしか思えなくなっている。


 身体を地面に叩き付け、マグマに身を投げる。


 だが、何も変わらず、体内の異物は元気いっぱい何かをしている。




 恐慌状態に陥った不死火鳥があの手この手でタクミを排出しようと藻掻いている頃、不死火鳥に取り憑く寄生虫と化したタクミは一心不乱に美味い血を啜り、肉を貪っていた。


 血は美味しく、幾ら飲んでも飽きは来ない。

 ここ何層かはずっと美味い血を飲めていたタクミ。

 ワイン一本に数百、数千万出すセレブの思考が理解出来ないと思っていたタクミだが、こんなに美味いモノが飲めるなら金は幾ら吐き出しても構わないとさえ思えるようになっていた。人間、一度贅沢を知ると水準を下げるのは難しいとはよく言ったモノである。

 今のタクミは雑魚モンスターの血を啜っても、感動出来ない。このままダンジョンをクリアして外に出た時の事も考えなくてはならなくなっていた。


 まぁ、生きて出られたら......になるし、今は生きるか死ぬかの瀬戸際だから今はそこまで強く思えていないが、頭や心の中にはそういった思いが確かに芽生えてしまっていた。


「血が減る兆候が無いな......素晴らしいなファイアーよ。減るよりも増える方が大きいからこのままなら確実に勝てる。何もイレギュラーが起きなきゃ」


 血と肉で不法侵入している部分はベッチャベチャ。ハミ出している部分は絶えず損壊している状況。なのだが、悪魔でも顔を顰めるような笑顔で肉を咀嚼し、血を啜っている。


「アハハ!! このまま貯蓄限界が来るまで血を吐き出せ!! お前はそれから死ね!!」


 ダンジョン史上最悪の寄生虫、タクミ。

 元気いっぱい無限ドリンクバーを堪能中である。自分がやられたら堪ったモノじゃないなぁとは思ったが、自分がやる分には最高なのでそのまま続けた。




 ◆◆◆◆◆




 何日経過したかわからない。


 一日か、はたまた一週間か、それとももっと経ってるか......どれだけかなんてもうわからない。


 果てなく溢れ続けた不死火鳥の生命力が、漸く枯れる気配がした。


 貯蓄血液は十万を越えた。本当にファイアー様々である。


 満腹感を覚える程に血に溺れて幸せだった。


 けど、もう不死火鳥は鶏ガラ寸前。素直に寂しく思う。このまま無限ドリンクバーとして連れていきたいと思えるくらいだ。


 でも、反抗期なドリンクバーなんて要らない。


 従順になってくれればよかった。


 嗚呼、残念。


 とても、残念だ......



『レベルが18上がりました』



 親子共々、ご馳走様でした。





──────────────────────────────


 長い長い因縁にケリがついた所で、今年最後の更新を迎えました。

 今年一年、大変お世話になりました。来年もよろしくお願いいたします。


 それでは皆様、良いお年を。体調や気候変動にお気を付けてお過ごしください。




 親父が腰をヤったらしく、急いで帰って色々しないといけないので今年はもう無理そうです。サポーターの皆様方、三箇日の何れかになりますがそれまでお待ちください。

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