第174話 火の鳥/お外の事
今更俺に頭脳戦やスタイリッシュな戦闘を期待しているヤツなどいないだろう。ナイフ君も世紀末君も、ババアや悪魔さんもきっとそう思ってる。
もちろん......俺自身がそう思ってる。
「アッチィなクソがッ!!」
マグマは魔法で操ってるだけであって魔法攻撃にカテゴライズされる訳じゃなかった。想定以上に深手を負ってボロッボロになった。両手両足は溶けてるか炭ってるか、胴体も当然炭化しているっぽい。
当たり前のように全然感覚が無い。このまま着地までに治らなかったら、着地と同時に無惨な感じで崩れ落ちるだろう。だけど――
「オラ!! 包囲を生きて抜けた......ぞッッ!!」
全く動けないけどこのまま何もせずにいるのは俺が俺を許せない。動ける部分が無いなら無いでも、やれる事はある。
腔内を噛み切って血で満たし、その血を錬血術で適当な形に固めてから散弾のように吹き出した。
『クォァ!?』
血の散弾に撃たれて何やら驚いてるファイアー。
何でこの程度で驚いてるのか理解に苦しむ。こんなんでケリがつくんだと思ってたとしたら、随分頭が温いなお前。
「あーあ......」
残念ながら俺の方は炭化の回復が思ったよりも時間がかかっていて......まぁ墜落して身体がバラバラになったからやっぱり格好はつかない。
そんな砕けてバラけた俺に追い討ちを掛けてくるファイアーがいた。転がった顔が辛うじてファイアーの顔を捉えたが、その顔は憤怒一色。
『クォォォォォォォオッ』
高く飛び上がったファイアーは、まるで血のような赤黒い炎を纏い、またそれと同じ様な炎がタクミを取り囲む。徐々にその炎の範囲は狭まり、タクミのパーツだったモノを容赦なく灼き尽くしながら無事な顔部を目指していた。
上空からタクミの事を見下ろすファイアーは全然気を抜いていない。ずっとにらみつける攻撃をしていた。
「......うっわぁ。あー、まぁ顔面にはまだローブが巻かれているから大丈夫だろ......きっと」
タクミの首からは新しい身体が生えてきているが、まだ肩から胸に掛けてを頑張って生やしている程度だった。
「......ヒンヤリMAX!! 呪い汁全開ッ!! 気休めに炎の壁!!」
流石にヤバそうなその炎をこのまま受け入れるのは自分らしくないと奮起し、ヒヨコを出した所為で心許ない量のMPをギリギリまで振り絞り、ささやかな抵抗を試みる。
ヒンヤリで顔面を包み込み、呪い汁で全体を覆い、更に炎で壁を作り密閉。これでどうにかなってくれ......と、思いながら頭が赤黒い炎に包まれていった。
◆◆◆◆◆
タクミがダンジョンで焼き鳥に焼かれてたその頃、地上では――
「にゃうん」
関東の山の中にある広大なワンフィールドのみの牧場ダンジョンの最奥の手前で、一仕事終えた猫が毛繕いを優雅にしていた。
一見とてもハートフルな一幕に見えるが、二トントラックサイズのアングリークレイジーシープという名のダンジョンボスの死体の上で行っているからそこまで和めない。
そのボスは配下のクレイジーシープを大量に召喚して物量で押してくるだけに飽き足らず、自身はそのクレイジーシープを狂乱状態にしながらモサモサの毛による物理防御力を備え、本体はただひたすら突進を繰り返す何とも厄介極まりない狂った羊である。
実際、何度か探索者が討伐にやってきたが、その全てを苦もなく轢き殺してきた。
そんな狂乱羊を猫は、レベル帯は同程度、個VS軍なのにも関わらず大して苦戦もせずに爪で喉を切り裂き、殺した。
残った羊の群れはボスが死んだ事で狂乱状態が解け、その後は蹂躙された。
「にゃお」
毛繕いが終わりツヤツヤサラサラになった毛を見て満足そうに鳴き、狂乱羊の死体から飛び降りた。
音も無く優雅に着地すると、ワンテンポ遅れて重力に引かれて三本の長い尻尾が降りてきた。
順調にレベルアップを重ねて育ち、今現在猫は三又猫という種族になっていた。それに合わせて身体能力、知性も大幅に強化されている。
言葉を話すことは出来ないが、言語は人間はもちろん一部のモンスターの言語も理解する様になっていた。身体能力は二トントラックサイズの羊をも瞬殺出来る程である。
強くなるに越したことはないし、強くなるのは願望の一つだったから素直に嬉しかったが、ただ一つだけ難点を挙げるとすれば燃費が物凄く悪くなった事。
こんな山の中の牧場を襲撃したのは餌を求めて。ただそれだけである。
猫は此処に長い事留まってこの羊軍団のリスキルを繰り返していた。今なら猫はこのダンジョン化している牧場をクリア出来るだろうが、それを絶対にしようとはしない。
「にゃーお」
もう一度進化して燃費の問題が解決されるまでは、猫は此処で羊狩りを続ける決意をしていた。
飽きはある。
つまらなくもある。
人を狩りたいとも思う。
自分は強くなった。
今こそ元主人を殺したようなヤツらを殺して回ろうと立ち上がった結果、エネルギーが不足して死に掛けたのだ。
餓死しかけるのはとても怖かった。意識は朦朧とし、身体から力と体温が抜けていくのは恐怖以外の何物でもなかった。その恐怖からそれらの欲は抑え込み、今はまだ、力を溜め込む時間だったんだ......と、心にある欲を抑え込んで。
それから四回の羊殲滅を経て、漸く猫のレベルが100に到達。猫は念願の進化を果たし、
進化の影響で三又だった尻尾は捻じれ、縒り合わせられて一本の太い尻尾のように変化する。武器にもなり、脚のようにも使える便利な物だった
「にゃご」
スキルでは【食い溜め】、【解放】、【妖力】の三つを得ていた。食い溜めはその名の通り食い溜めしてカロリーか何かを蓄えるスキル、解放は食い溜めで溜めたカロリーか何かを使うバフ系スキル、妖力は......試してみたが未知の力は猫にはよくわからなかった。何れ備わった新たな力を上手に使えるようになる日が来るだろうが今使うにはまだ早かった。
「なーう」
使えないならいい、と瞬時に気持ちを切り替えた猫は死んだ羊の山に狙いを定めてヒョイと軽やかに跳ぶ。進化によって上がった身体能力の所為で狙いを大幅に外れた場所に着地してしまった。もう少し、この羊共を相手にしないといけないと思った猫であった。
後に悪即ニャンと誰かが呼び、悪人共から恐れられる様になる猫妖怪が牧場の中で人知れず誕生した。
◆◆◆◆◆
猫妖怪が食い溜めをして色々と蓄えている頃、猫の好敵手の女も転換期を迎えていた。
「下半身が本体の野郎共は全員死ねばいい」
ダンジョンに潜った帰り道に軍人パーティが乱痴気騒ぎをしている現場に遭遇してしまった。
顔はボコボコになり、死んだ目でされるがままになっている女探索者達を目にして......ブチ切れた。
「あン? 何だテメ......ェエ?」
「まだ無事なの居たァッ!?」
「......ねぇ? 俺のおチ〇チンどこ?」
確認した瞬間、【存在希薄】と【断罪】を発動。
後は散歩するように野郎の隙間を縫って進み、男根をナイフで切り落として回った。切り落とす瞬間にだけ【存在希薄】を切って自身をアピールする舐めプっぷりを披露する。
去勢された野郎達は遅れてやってきた激痛と男根が無い事のショックで動けず、蹲るしか出来なくなっていた。
そんな野郎共を一体ずつ蹴り倒し、喚くだけの口に切り落とされた男根を突っ込み、無くなった股間部分と尻穴、それと臓器を避けて腹にナイフを丁寧に刺していく。絶対に楽には殺さないという強い意志を感じる所業だった。
新しい鋼の男根を股間と尻に生やして虫の息になっていた野郎共の身体をサクサクと刺して穴を開けていく。生命の灯が消えていく過程をしっかりと目に焼きつけながら笑顔で野郎共の生命を刈っていった。
野郎が全て無様に死んでいったのを確認した後は哀れな犠牲者の元へ向かう。
「あんなのに引っ掛からないでね、次は」
無惨な姿。ただ生きているだけの肉。
同じ女として同情を禁じえない姿になっている女探索者を一人一人、丁寧に、優しく止めを刺していく。
身形は出来る限り整え、最後は火葬した。
「やっぱあの人以外の男はクソだ......一見真面に見えるヤツもどうせ箍が外れればアレと同じになる」
慈愛の顔付きから一瞬で表情が剥がれ落ちてゴミを見るような目になった女は、死体になった野郎共を踏み付けてからその場を後にした。
ダンジョンから危なげなく外に出てステータスを確認した女は、ほくそ笑んだ。
「キャハッ」
職業が解放され、レベルが二度目のカンストを迎えていた。
ダンジョンの中でアナウンスは聞こえる時と聞こえない時がある。アナウンスが雑になってきた感は否めないが確認すればしっかり反映されるのでそこまで文句はなかった。
「もっと殺せって事ね。いいわ、楽しくなってきた」
この出てきた職業とカンストからの種族進化に御満悦の女はそのまま再びダンジョンに入っていった。
その時の顔を見ていた他の探索者の顔は、引き攣っていた。
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きなこもち
猫魈
職業:猫妖怪
Lv:8
HP:100%
MP:100%
物攻:140
物防:48
魔攻:124
魔防:32
敏捷:166
幸運:30
SP:0
魔法適正:土
スキル:
暴食
畜生道
食い溜め 57%
解放
妖力
愛嬌
凶爪
刃牙
虚身
ハンター
威嚇Lv10
装備:
フェルト生地の首輪※ボロボロ
シュシュ※ボロボロ
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淡輪 杏奈
ノーブルヒューマン
職業:処刑人
Lv:0
HP:100%
MP:100%
物攻:100
物防:30
魔攻:50
魔防:15
敏捷:78
幸運:30
残SP:0
魔法適性:氷
スキル:
短剣術Lv9
精神耐性Lv8
急所穿ちLv9
暗殺術Lv6
不意打ちLv7
中位修復
存在希薄
闇堕
断罪
因果応報
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