第173話 親子の触れ合い
とにかく変化の無いこの場所で、数千年振りの変化が起きた。我は子を産んだ。
ほぼ不死な我が種族は子が極稀にしか産まれない。
実際、我は同族の弱っている姿は見た事があっても死は未だ見た事がない。
最長老は少なくとも世界と大差ない歳、最年少でも数千歳。個体数は十数体程度。番う習性は無く、然るべき時に卵を孕む。
それだけに、今回の出産は僥倖であった。
まさか我が子を成すとは、夢にも思っていなかった。
敵の居ない安全な地で心穏やかに孵化を見届け、産まれた我が子は控えめに言って可愛すぎた。
強力な我が種は、亜種が産まれやすい。
同族で原種なのは二体。他は我を含め全て亜種だ。
我が子も亜種だった。
これから立派に、強く、いつまでも生きていけるよう育てようと我は誓った――その直後だった。
久しく変化の無かったこの場所が揺れた。
我が子を直ぐ様羽根の中に入れて優しく抱き留め、揺れが収まるのを待っていた。
そう、抱いていた......筈だった。
揺れが収まり、我が子を出そうと思っていた。
だが、確かに入れた羽根の中には、我が子の姿は無かった。
――一心不乱に羽根を毟って中を探した。
だが居なかった。
――地形を破壊する勢いで探しまわった。
それでも見つからなかった。
――マグマの中まで探した。
やはり見つからなかった。
我ながら取り乱しすぎだと後から思うくらい半狂乱になりながら必死に探したが、どこにも我が子の姿は無かった。
我が子が居なくなった現実を受け入れる頃には火山は絶えず荒れ狂い、地面は安息を得られる部分の方が少なくなっていた。
今すぐ探しに行こうと必死に此処のルールに抗おうとしたが、全力を出しても此処から抜け出す事は出来なかった。
それからはただひたすら、我が子の無事を祈り続け、此処から抜け出そうとするだけの毎日だった。
不死鳥種の生命力があれば無事な筈。
そう思いながらも産まれたばかりの我が子にはまだ不死鳥種として完全では無いという思いもある。
心の休まらない日々にただ自分の無力さを呪うばかり。
そんな日々を送る中、一匹の侵入者が此処にやってきた。
我が子の気配を纏った一匹の愚物が。
◆◆◆◆◆
「ここまでバチバチの殺意を向けられるなんて余程の事があったんだろうな。当てずっぽうで言ったけど、マジで親御さんだったんかねぇ......」
............どうするべきか。このまま無策で突っ込んで行ってもなんか面倒になる未来しか見えない。
「あっ!!!! 良い案を思いついたぞ!!」
手放しで自画自賛したいくらいの案を閃く。
感動的になるか、ド畜生と罵られるか......それは見た人が勝手に判断をくだしてくれるだろう。そんな圧倒的閃きを早速実行に移す。
「ほーら出ておいでぇ、感動の親子の再会だよぉ。さぁ逝ってくるといいよぉ」
『ピ!! ピィィィィィ!!』
心做しかいつもよりテンションが高く思えるヒヨコが、仮想親御さんに向かってぴよぴよヨチヨチ歩いていった。
で、肝心の親御さん(仮)は唐突に生まれたヒヨコを見て『!?!?』って感じに現実を受け止めきれずに混乱していたが、直ぐに嬉しそうな反応に変わる。
「(仮)はもう要らないかな。この反応だとガチの親御さんだったか。......さぁ、涙無しには見られない感動の親子の再会です(棒)」
親と子が再会して嬉しそうなんて夢物語みたいな出来事を見るのが、まさかダンジョン奥地でしかもモンスターのってのがまた俺らしい。
人の親子がそんなんなってるのなんて見た事ねぇし。俺じゃない人ならそういうのは日常の中でちゃんと見れてたりするのかな? まぁどうでもいいか。
『クォォォォォォォォォン』
......で、その親御さんの方だけど必死の形相で羽根をバタバタさせながらその場でジタバタしてるんだけど、アレなんなのかな? 感動のご対面ならはよ駆け寄ればいいのに――
「あー......俺が部屋の中に侵入していないから動けない......とか? ははは、まっさかー......」
ボス戦のルールでそんなのがあった。クソアマツのせいで忘れてたわ。攻撃はできるっぽいけど、確かにクソアマツは待機位置から動いてはいなかった。
「............」
顔がすっごく歪んでるのがわかる。
多分俺史上最大級の笑顔なんだろう。
「さて、一旦外に出るか」
感動の対面だもの......邪魔者、よくない。
『クォォォォォォォ!! クォォォォォォォ!!』
『ピィィィィィィィィィッ!!』
遠目から親子の再会を見守っている。
ヨチヨチピヨピヨと歩くヒヨコはやっと親鳥まであと少しという所まで来ていた。
親御さんは待ちきれないという強い思いが全面に出ている。冬眠明けのクマが餌を見つけた時のようにギラついていて笑える。
「おめでとう、親子の絆なんて云う気色悪いモノを見れて俺もなんか嬉しくなってきたよ。変な奴の奴隷になっていた子を親が見つけたってシチュエーションか。でもその子は腹マイトをしていて......的な感じかな、ファンタジー小説っぽく言うと」
結末はわかりきってるけど、それがどんな感じでの事になるのか......俺はとても楽しみだよ。
◆◆◆◆◆
あの愚物を殺してやる。
縛られた状態の我が憎い。
早く入って来い。
直ぐにでも殺してやるから。
そう思っていても、中々入ってこないもどかしい時間だけが過ぎる。
殺意だけが募る中、急に我が子の気配が濃くなり、我が子と思しき生き物がこの場に飛び出してきた。
嗚呼......記憶にある姿よりも少し成長して大きくなっている。少しだけ違和感はあるが、間違いなく我が子だろう。
声も、産声を上げたあの時と変わらない......
早く!! 早く近くに来てくれ!!
えぇい忌々しい!! 気を利かせろ!!
身体を縛り付けるな!! 待ち焦がれた我が子との再会だぞ!!
......可愛い我が子が覚束無い足取りで近くに寄ってくるにつれて臭いと感じるようになった。あの愚物の臭いが身体にびっしりこびりついているようだ。
許せない......あの時と同じように、抱いた後は我の火でその全てを洗い流してあげるぞ我が子よ。だから早くおいで......愚物の臭いは我慢するから、早くお前を抱き締めさせてくれ!!
嗚呼、やっと......おかえり......
この世に肉の一欠片も痕跡も残す事を許さない。
貴様の全てを悉く燃やし尽くしてやる!!
◆◆◆◆◆
いやー感動した!
素晴らしいね、親子の絆って云うのは! もしかしたらヒヨコが絆されて爆発しないんじゃないかって少しは思ったりしたけど、全くそんな事無かった!!
「ゴム人間に雷が効かないってわかった時のゴロゴロ人間みたいな表情は笑えたわ」
案外表情も感情も豊かだった親御さんはそれはそれは素晴らしい顔芸を披露してくれた。アレで死んでくれたら楽だったけど......まぁ無理か。知ってた。
「あー......攻撃受ければ動けるようになるのね。前に試した事あったかな? 覚えてねぇけど......安全圏から一方的に削りきるってのは無理か」
今俺の目にはブチ切れた親御さんが映っている。
この世の終わりを告げる厄災みたいな炎を纏ったクソカッコイイビジュアルの鳥が四方八方に炎をバラ撒いていてフィールドが地獄絵図になっている。
「このまま上の階に逃げた後、一定時間毎にヒヨコを送り込んでやったらアイツはどう思うかな」
浮かんできた悪魔的な考えはとりあえず置いておいて、どうやって倒せば良いかを考える。
同系統同士の超絶泥仕合になるのは吸血鬼っぽいのと戦った事があるからわかりきっている。その泥仕合っぷりを少しはマシにしたいんだけど、全然良い案が思いつかない。
「炎には耐性あるからそうそう死にそうな目には遭わないと思うけど......ウォァッ!?」
不死火鳥はほのおのうずを放ってきた。やっぱお前はファイアーなんだな......その攻撃は直撃だけはなんとか避けれたけど、左腕はそこそこいい具合いに焼けてしまった。扉の外にいても攻撃は飛んで来るのねやっぱり......あ、階段が炎で塞がれとるやないか!!
ちくしょう!! 卑怯だぞ!!
「仕方ない......熱傷耐性を極にする為にドロッドロの泥仕合を受け入れるか......」
どう頑張っても泥仕合以外の戦闘は思い浮かばないから仕方なく覚悟を決め、準備を整えてから部屋の中に踏み込んでいく。
こうして不死鳥VS再生悪魔の世紀の泥仕合が幕を開けた。
パンイチ+火耐性ローブに耳当てを装着した通報待ったなしな変質者スタイルのタクミは、身体が灼けるのを厭わず一直線に駆けていく。どんな攻撃をしてこようが関係ないと言わんばかりの突貫。
それを見た不死火鳥は自身の能力を最初からフルに使ってタクミの接近を阻んだ。
「......ちょッ!? マジかよ!!」
火を操るだけだと高を括っていた。だけど流石に相手は100階層越えのボスモンスター。そこまで甘くはなく、そこら辺に腐るほどあるマグマを操り四方から天井スレスレまでの高さのマグマ津波をタクミに向けて放った。
「......えーっと俺の熱傷耐性強がレベル4、溶解耐性がレベル10かぁ......耐え切れるかな。まぁなるようにしかならんなら、適当に突っ込むか」
どう足掻いても喰らうならせめて頭だけは守ろうと意識を切り替えたタクミはローブを防災訓練スタイルのように被り直し、そのまま一直線にマグマの津波に向かって突っ込んでいった。
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