第171話 せめて、もう少し人間らしく

 立っていられない程の風、物防0の肌を容赦なく叩きつける雨......ちょっと内出血や血が滲む程度で済んで今尚俺が立っていられるのは偏にこの雨風は魔法の産物だからこそだろう。ただの物理的なモノだったら今頃俺は蜂の巣待ったナシだった。


「......喋ってる最中に雷ブチ込むのは酷いわぁ」


 激おこアマツ野郎が不意打ち大好きなのはもう理解していた。だからこれくらいの事で俺は怒らない。ストレスは溜まっているけど。


「ねぇ、今どんな気持ち? ねぇねぇ!! 取るに足らないクソザコナメクジをぶち殺せなくて激おこになってるように見えるけど!!!」


 とりあえず今は第二の矢待ちだから激おこアマツ野郎を煽っている。ぶん投げたナイフ君がそろそろ落下してくる頃だから。

 ......というか、意思があったり生きてたりするモノはぶん投げても頭部死球スキルが適応されないのかな? それとも一定以上の強さのモノには効果無いとか? どうなんだろう、気になるなぁ......


『キアァァァァァァァッ!!!』


 アマツ野郎の絶叫の後、纏う雷がバッチンバッチン音を立ててるからなんか次の行動の示唆だろうけど、何をしようとしている事やら。


「なになに? オコなの? 怒っちゃってるの?」


 肩を竦めてヤレヤレと、相手からもよく見えるようにややオーバーなアクションを心掛けてする。


 すると――


「ヤレヤレだバァッ」


 腹を貫かれた。雷に。

 こんな攻撃もあるのねお前......最初からやっとけばよかったのにバカだね。


「まぁでも、時間は稼げたから頑張ってくれよナイフ君」


 俺は血を垂れ流しながら、禍々しい触手パラシュートがアマツ野郎に着陸するのを見てほくそ笑んだ。


『――キァッッ!!??』


「うわぁ......あ!! ナイフ君が鱗の隙間を狙って刺さりやがった......えげつねぇなぁ、でもよくやったよグッジョブだよ!! ん? あー、あの痛がり方、あのアマツ野郎はナイフ君に肉も食べられてるな(笑)」


 目を魔化させてよく見てみれば鱗の一枚一枚までよく見える視力にちょっとヒいたけど、そのままヒいている暇が無いくらい面白い展開になった。......今度魚系モンスターが出て来る事があったら捌いてもらおうかなー、なんて。


「じゃあ俺はとりあえず援護しとくか」



 俺はごっそり貯まっていたSPを物攻に100、魔攻に120、魔防に150を振ってから、流れ出て取り込めなくなった血を集めて槍作りを始める。魔防って優秀だよね、中盤の頃とか上げておけばもっと楽だったかなと少し後悔すら。

 さて、話を戻そう。色的に、後こういう時に化け物へ投げつけるなら槍だろ。って事で某汎用ヒト型決戦兵器に倣い、あの捻れて変な形をしている槍をモチーフにした二叉の槍を作成する。当然の如く詳細には覚えていないからこんな感じだったなぁ......程度の、低予算コスプレレベル。だがそれでいい。


「そぉ............れッ!!!」


 ナイフ君の襲来に意識を持っていかれているアマツ野郎の首辺りを狙って偽ロンギヌスの槍を投擲した。






 強化されたタクミから放たれたなんちゃって偽ロンギヌスの槍は暴風や雷雨を物ともせず、真っ直ぐ目標に向かって突き進んでいく。


 悲しい事にナイフ君に気を取られてしまっていた雷禍災龍は、ワンテンポ、いやツーテンポ遅れて漸くソレに気付く。だが、もう遅かった――


『キアァァァァァァァア』


 咄嗟に身体を捻ったお陰で、雷禍災龍は首を結構な量抉られるも致命傷を受けるに迄は残念ながら至らず。ついでにアマツ野郎には頭部死球も効果が無いと知れた。ムカつくな。

 それでも武器の優秀さか、上げた力の影響か、どちらにせよ――傷は付けられるとわかった。今はそれだけで十分だ。というか想定していたより脆い?



 ......そんな事はもういいか、血の濃厚で素晴らしい匂いが漂ってきていて昂ってしまい、それどころではなくなっている。


「キヒヒヒヒヒ」


 散々やってくれた相手が、情けなく喚いている。

 とても気分がいい。


「血、美味いなお前......全部俺に寄越せよ」


 降ってきた血は全身で余す所なく受け止め、垂れ落ちてしまっていたモノも血を操るアレを死ぬ気で頑張って操って回収した。ヤツの血は匂い通りにとても甘露でした。


「ア゛ハァァァァッ!!」


 ナイフ君にアマツ野郎の相手を任せて、俺はただただ降ってくる血の回収に全力を出す。このまま弱って墜落してくれればとてもグッドだけど、まぁ無いだろう。それにしてもこの血、テンションがヤバいくらいアガる。疲労がポンッと抜けて、感覚とか諸々がパッキパキにキマっていくぅぅぅぅ!!


「最高にハイってヤツかコレがァァァァァ!! アハハハハハハハハハ!!」


 色々とガンギマったタクミは、足を魔化させてそのまま大きく跳躍する。勿論傷口目掛けて。

 超速で飛び上がりながら、落ちてくる血を器用に掻き集めて追加でキメていく。


 対する雷禍災龍はその細長ボディが仇となり、突き刺さった小さいナイフを抜く事が出来ずにいる。物凄く必死なその姿......己が今、何をされているかがわかっているのだろう。

 首を抉られても尚ナイフ除去を最優先にしている所為で、地上に居るはずと思っているタクミがその予想を裏切って目と鼻の先にまで迫っている事に気付けていない。気を回せていない。


「いッッただきまァァァァァァァす」


 気付いた時にはもう遅く、相手は大口を開けて傷口に到達しようとしていた。


『キョアァァァァァァァッ!!!』


 タダでは取り付かせないぞ、という気迫を込めて全力で雷を身体に流す雷禍災龍。


 だが、余裕ぶっこきすぎて雷を撃ち込み続けたツケが今回ってくる。


「ハハッ!! 効かねぇよ、ゴムだからな!! 嘘だけど!!」


 超絶強すぎて大した手間も無く敵を屠り続けてきた雷禍災龍だったが故に、「攻撃が効く? なら耐性を付ければいいじゃない」と真顔で言う様なマジキチを相手にする事は無かった。

 大体の生き物に効果絶大な雷。いつも通り、簡単にケリがつく筈だった。ただただ作業のように雷をブチ込み続けるだけで終わる筈だった。


『キァァァァァァァァッ』


 抵抗虚しく傷口にタクミが塗り付けられた。

 想像を絶する不快感に身体をクネらせ、風と雷を発生させて振り払おうと試みるが――


「順番が逆だったね。雷で抵抗するよりも先に暴風を生み出されていたり、さっき腹を貫いた雷を出されていたら......多分そのままグボァ......墜落してたよ」


 絶望的に順番が悪かった。

 絶対な自信を雷に持っていた為、咄嗟に放つのは雷だった。タクミが言うように風が先であれば、今窮地に陥っていなかった。

 そして......傷口に擦り込まれたタクミは、絶対に落ちないように自身の腹と胸ごと剥き出しの傷口に棘を刺し込んで身体を固定してしまっていた。


「血が美味しいぃぃぃぃぃぃ!!」


 そうなればもう、後は吸い放題。全身で血を啜る贅沢に酔いしれていた。


 浮く為に最適化された身体はそこまで防御が高くなく、岩山龍を相手に戦った経験を持つタクミにはかなり拍子抜けな脆さであった。

 それでも......並大抵の攻撃では傷一つ付けられないのだが、相手は攻撃こそ至高なマジキチ脳筋。単純に相手が悪かったとしか言えない。


 ナイフ君もどうやら雷禍災龍のお肉が美味しいらしく、触手が狂喜乱舞する様子がチラチラと見てとれた。


 こうなってしまえば後はもう持久戦......いや、消化試合だろう。災害の化身と恐れられていた龍は、哀れなことに一体の悪魔と一本のナイフに吸い殺されようとしている。




 そうしてただただ時だけが過ぎる。

 段々と力が弱っていき、宙に浮かぶのすら危うくなった雷禍災龍は徐々に高度を落としていき――








「あっぶね、地面に堕ちるまでのギリギリの間に首をちぎってナイフ君の触手にパスしてなかったら全損してたわ......」


 力が抜けて九割死んだ雷禍災龍と一緒に高高度からの墜落。慌てて抜け出そうとしても身体には棘が深々と刺さっていて抜けそうになかった。力が上手く入れらない足がブラブラしている状況では何も上手くいかないのは当たり前で、為す術なく堕ちていった。


 で、ギリギリで頭だけは潰さなければどうにかなると思い付いて......今、意識が戻った俺は触手に捕まれながら身体が生えるのを待っている状況である。


 レベルは21上がっていた。

 少ない......ような気がしたけど、よく考えたら下位悪魔と中位悪魔で成長率が同じな訳がない。1レベル毎に獲得できるSPも3から4になっていた。


「さて、大事な再生獣シリーズを回収しようか」


 久々の戦闘後全裸。

 戦闘直後にも関わらず、達成感とか殺してやったぞって言う気持ちは、全裸になってしまって情けないという思いに飲み込まれていた。




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奉縄紅月さまからギフト頂きました。

ありがとうございます。ありがとうございます!!


読者の皆様方のおかげで続けていけてます。本当にありがとうございます!!

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