第169話 レッツ101階層/マニアの矜恃
おめかしを終えて店に戻っても無人。まだババアは用事とやらが終わっていなかった。
「これが流行りの無人販売所ってやつか」
この店で万引きしたら間違いなく死ぬから俺はやらないし、それに多分客なんて俺以外に全く来ないんだろうけど、ちょっと不用心すぎるよ。
「でもまぁアレか。日本の警備システムが裸足で逃げ出すような対策があるんだろ......あ、再生獣シリーズ見っけ!!」
〈再生獣希少種革のワイシャツ〉
〈再生獣亜種革の手袋〉
なんと一気に二種類も見つけてしまった。手袋は使う時があるかわからないけど再生獣シリーズはあって困らないから即キープ。お値段は絶対お高そうだけどプチブルジョワな今なら買えるはず。
「これで一応は半裸とか真っ裸になる事態にはならなくなったぞ!! やったー!!」
後は下着とアウターが再生獣シリーズになれば、もう勝ち確だ。出来れば次の出店の時に仕入れておいてほしい、切実に。
「おっと、下着や靴下は多めに仕入れておこう」
やっぱり何故か今回もユ〇クロの下着や靴下が商品として並べてあるからキープしていく。いくら装備が再生しても下着や靴下はまだ再生できないから悲しい事になる。
「コレと、コレと......後はコレ、コレかな」
〈回収のスキルブック〉
落ちている物を一箇所に集めるスキルと予想。物を拾うのってダルいからね。あと、ぶん投げたヤツも戻せるかなって期待している。
〈五寸釘セット
貫通力強化、硬化付与〉
単純に投げる用。丑の刻参り用ではない。
〈合成魔鋼製の投網
硬さと柔らかさを兼ね備えた投網
クラーケンを捕獲する為に作られた〉
世紀末君に装備させる用。攻撃力が無い世紀末君に使わせたらきっと面白いと思って。
〈パラライズナックル
指先か拳で掴むか殴るかすると高圧電流が流れる〉
なんか結構な名前詐欺だけど......いや、一応麻痺だから合ってるの、か? 指先と拳部分に小さい棘があってそこから電流を流すっぽい。拳装備だから俺が使おうかなって思ってる。
「これくらいかなぁ、欲しいのは」
買う物と売る物を分けて置いておき、ババアが帰ってくるのを待った。
◆◆◆◆◆
『ヒヒヒ、待たせたのぅ』
大体三十分くらい待ったらババアが帰ってきた。ボロ雑巾のようになった悪魔さんを引き摺りながら。
ボロ雑巾は完全にスルーする方針っぽいので俺もそれに付き合って放置する。
『......ふむ』
悪魔さんに腰掛けて置いといた品物を査定するババアが途中で動きを停めた。
『面倒だから坊主が選んだのと売るのをそのまま交換でええわい』
どんぶり勘定もいいとこだけど、まぁ俺もそれで文句は無いから頷いておく。多分ババアはずっと赤字だろうし......すまない、ありがとうババア。
『ヒヒヒ、じゃあ妾は行くわい。死ぬんじゃないよ坊主』
多分さっきのが尾を引いてるのか、ババアら取り引きが終わるとサクッと商品をしまって引き上げていってしまった。指摘はしない。怖かったから。
「うぃ。元気でねババア」
『ヒヒヒ』
そうしてババア達は消えていった。いつも通り最初から何も無かったように......だけど今回は悪魔さんの血痕だけを残して。
※残った血痕はタクミが美味しく頂き......タクミがキレイに掃除しました。
「なんか普通の血と違うんだよなぁ......なんか滾るっていうかなんというか」
某RPGのドーピング木の実シリーズみたいなアイテムと思っておく。
「なんか精神的な疲れとか全部吹っ飛んだから君たちが大丈夫なら先に進もうか」
違法な粉的なアイテムかもしれない......と思ったけどここでは大体が合法だから気にしないでおく。常習性だけはありませんように。
俺の声掛けに反応した世紀末君はOKと返し、ナイフ君は反応が無かった。賛成に2票入ったから可決という事で次に進む。
「防具は再生獣シリーズだけでいいか」
下の階層が暑かったり寒かったりしたら、その時に改めて着ればいい。
◆◇原初ノ迷宮第百一層◇◆
「あー......そうくるかぁ......」
階段を降りた先にあったのはちょっと前にも見た、見慣れた扉。そうだね、ボス部屋だね。
「こうなってくると......もしかして終わりが近いのかなぁ?」
予想を覆す連続ボス部屋という事態で、今後の想像は何パターンかに絞れた。
1、100階層で終わりだよと思わせておいて、実は101階層までありましたー的なアレで本当にこれでラスト
2、101階層からダンジョンが終わるまでずっとボス部屋ラッシュ
3、ボス部屋と見せかけて本当はご褒美部屋
他には思い付かなかった。だけどこのどれかで正解だと思ってる。多分2が濃厚。1と3はそうであってくれたら楽でいいなっていう俺の願望。
「......ふぅ」
息を吐いて気持ちを落ち着かせてから扉を開いた。
「............これ、無理じゃね?」
頭のイカれた戦闘狂ですら、扉の先に居たモンスターを見て捻り出した第一声がコレ。どう倒せと言うんだと思えるボスが待ち構えていた。
◆◆◆◆◆
パァン――
ゴブリンの頭が弾け飛ぶ。
パァン――
ホワイトウルフの胴体が抉れ、白い毛皮が瞬く間に赤に染まる。
パァン――
スカベンジャークロウが空中で姿勢を崩し、地面に落下して赤い花を咲かせた。
『ヘイ! このガンとってもナイスよ!』
ムッキムキの軍人が弾けるような笑顔でサムズアップを付き添いのヒョロガリ(軍人比)に向けた。
『オーケー、とりあえず預けてある弾は全部撃ち切ってくれ。あーそれと、不具合はないかな?』
『オーライ! ノープレブレム!』
日本の米軍基地、そこから程近い場所にある下級ダンジョンの中にはアメリカ人らしい陽気な笑い声が響き渡った。
ダンジョンが地上に跋扈しだすと、日本のファンタジー文化に理解のあった一部の軍人達は『オー! ジャパニーズファンタジー!!』と喜び、勇み足でダンジョンの制圧に向かった。だが、屈強な米軍人達は当初の予想を覆してボロボロになって帰ってきた。
軍関係者はその結果に驚き、戻ってきた軍人達にダンジョン内で何があったか、徹底的にヒアリングを行っていった。
最大の敗因は世界が誇る最強最悪の武器である銃火器、その一切がダンジョンモンスター達にダメージらしいダメージを与える事が出来なかった事だった。
それでもナイフや格闘術等である程度は進む事が出来たのだが、魔法を操るモンスターや打撃に強いモンスターが現れる階層に着くと、これまでの優勢が一転して劣勢に陥ってしまった。
魔法を使った遠距離からの一方的な攻撃、その飛んでくる未知の攻撃に対処しながら襲い来るモンスターへの対応を強いられる。その中に物理耐性のあるモンスターが混ざっていて......と、RPGで起こり得るお手本の様な詰み方で敗走してきたのだった。
『――銃器が弱い? そんな事は認められない。銃は人類が開発した最強の対人兵器だ。モンスターに効かないなんて、おかしい』
その中で今回のダンジョン制圧に参加していなかった歩兵部隊の一人、熱狂的なガンマニアの狙撃兵が報告書を読んで発狂した。
『――効かないのなら、私が効くようにしてやればいい』
この日から、ガンマニアのガンマニアによるガンマニアの為のダンジョン用銃の研究が始まった。
~研究開始から一ヶ月~
試行錯誤の末に試作第一号のハンドガンが完成した。
フォルムは彼の愛銃であるベレッタM9をベースにしているモノ。ダンジョンでドロップしたモンスターの骨を使って作られていた。
試験射撃で二発目を撃った時に反動に耐えきれず壊れてそのまま廃棄となった。
耐久性、安全性に問題有り。命中率も不安定で要改善。
試験射撃をしていた人物は手に大怪我を負うが、軍に居た治癒魔法使いのお陰で事無きを得る。
~研究開始から二ヶ月~
軍人が拾ってきたドロップアイテムの謎鉱石を銃身に使用する事で耐久性の問題はクリアしたが、その加工に物凄く難有り。安全性は未だ改善できず。銃身以外も謎鉱石にしないと他が簡単に壊れる。現在の最重要案件は謎鉱石集めである。
~研究開始から三ヶ月~
謎鉱石が来ない。
ダンジョンモンスターから得られる素材では耐久性が無さすぎた。銃は何丁無駄にしたかわからない。
元からある銃をダンジョン素材でカスタマイズしても一切強くならない。一から作らなければ意味がなかった。
これは私への試練なのだろう。
とりあえずドロップの確率を上げろ。話はそれからだ。
~研究開始から六ヶ月~
研究が進まないストレスから、自分もダンジョンに潜って鉱石探しをしていたら錬金鍛冶師という職業に就けるようになっていたので職業を得た。そのお陰か加工は大分楽になった。
だが未だに謎鉱石は見つからない。
既存の銃は、悲しいが殴る物として使うのが効率がいい。
後は、たまに無駄撃ちしてストレス解消するだけ。
~研究開始から一年~
銃は完成した。
が、素材提供者の意向で完成品第一号はデザートイーグル50AEをモデルにした銃になってしまった。
第二号はベレッタM9にする! 絶対に!
......私は弾薬の製造を急いで始めた。
~研究開始から一年二ヶ月~
私の研究の結果はこちらとなる。
1、既存の銃と弾薬→効果無し
2、既存の銃とダンジョン製弾薬→効果極小
3、ダンジョン製銃と既存の弾薬→多少のノックバック有
4、ダンジョン製銃と弾薬→効果有
『完成だ......不具合も起きていない、威力も充分、コスパの悪さ以外はパーフェクトだ!!』
用意していた弾薬全ては実戦で無事に撃ち切る事ができた。銃自体に問題も全く起きていなかった。大成功といっていいだろう。
『フフフフフ......待っていろよモンスター共。これからお前らにたっぷりと弾を喰わせてやるからな......フハハハハハハハ』
~研究開始から二年六ヶ月~
『フハハハハハハハ!! この基地にいる軍人全員がハンドガンを装備したぞぉぉぉ!!』
最初の一人とずっと支援してくれた一人以外は全員がベレッタM9モデルのダンジョン製銃を装備するに至っていた。
ダンジョンで得られる低確率ドロップの謎鉱石を集め、職業の力を使って加工する毎日。
思うようにいかず、苦しい時間が多かった。
私もダンジョンでモンスターをキルしまくろ――
『ヘイ! オーダーだ。アサルトライフルを人数分作成せよ、と。確かに伝えたからな! バイ!』
『............』
その後、ダンジョンで
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※軍人達サイドの『』内は英語で喋っていた。というていで読んでください。
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