第167話 神と魔
◆◇原初ノ迷宮第百層◇◆
とうとうここまで来てしまった。
一つの区切りとなる、百階層に。
これまでの嫌な日々よりも充実していた。
濃く、楽しい日々を送れた。
今ではあのクソ共に抗う力を得れた。
保護者? 的な存在も得た。
信頼出来る道具も得た。
それなりに嫌な思いや辛い思い、キツい事もたくさんあったけど......
「なんだかんだあの頃とは比べ物にならないくらい良かったなぁ」
ババアか悪魔さんか、それとも他の喋る何か......疎覚えで誰が言っていたか覚えてないけど、百階層はゴールじゃなくて通過点。
でも区切りがいいから少しくらいは物思いに耽ってもいいでしょ。似合わないのは知ってるからツッコミ入れないで。
「新しい血管ボディの具合いを確かめながら大破しないように気を付けて戦ってね。俺は俺でいつも通り勝手に動くよ」
大破しなければ多分上位修復で直せる。きっと中破くらいまではセーフ。なのでそこだけは注意して欲しい。
「じゃあ行こっか」
百階層のボス部屋の扉を開ける。これまでと大差ないいつも通りの扉で、やっぱり此処で終わりじゃないんだなと思った。
「............坊主?」
日焼けしたこんがり肌、つんつるてんの頭、糸目、名前がわからないインドっぽい坊主の正装、手には錫杖ってヤツと数珠。
『ほう......人に擬態した悪魔か......いや、悪魔に進化した人かのぅ? 嗚呼......神はなんと酷いことを』
「.....................うわぁ」
糸目を片方開いて俺の方を見た坊主は、何か勝手に一人芝居を始めやがった。気持ち悪い......
『嗚呼、これは試練なのですね。今は悪魔に成り下がっていても元は人なモノを我に殺せという......しかし神の敵は我の敵!! 殺すだけよ!!』
確証は無いけど、多分コレ、瞬殺だわ。
勿論俺が殺す方です。金砕棒が何か滾ってるもん、早くコイツに渾身の一撃を入れろと。
「五分くらい壊されないように気を付けて遊んでおいで......ちょっと俺にはアレ気持ち悪すぎるから、殺せるなら殺しちゃってもいいよ」
瞬殺出来るとしても、出来れば俺は触れたくないから鎧とナイフに頼んだ。別に倒してしまっても構わない。寧ろ推奨する。ナイフさん、鎧さん、殺っておしまいなさい。
そう許可を出すと嬉しそうに走っていった。
多分だけど神にほにゃららしてるヤツと相容れない種族だからかな? 腕とかにめっちゃブツブツが出ている。出来れば殴りたくないし攻撃されたくない。
......まぁアイツの神官ロールプレイが気色悪すぎるのもあるけど。神なんて何もしないヤツとそんなのを信仰しているヤツは俺の敵だ。悪魔の方が余程信仰に値する。一部は除くけど。
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輪廻教 戦司祭
レベル:366
輪廻転生を掲げる教団の粛清部隊の一員である戦司祭が死してダンジョンに死体と魂を取り込まれた存在
神に救われ己を死を超越した存在だと思い込んでいる異常者
僅かだが神性を宿している珍しいタイプのダンジョンスレイヴ
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ナイフ君と世紀末君のコンビと戦っている坊主を鑑定してみたらこんなんが出てきた。
ダンジョンスレイヴってのはダンジョン本体に囚われた生命体の事らしい。自我はあるけど奴隷。ダンジョンに生殺与奪全てを握られているらしい。
ダンジョンの意志を神の意志と脳内変換して、
どうせ死んでも復活するんだから自害してほしい。
「そろそろ五分......くらいか」
嫌だけど、本当に嫌だけど......行かなきゃ。あのコンビでは決定打を与えられないみたいだし。
「本当はヒヨコを出したいけど......出そうとしたら金砕棒が持ち手から棘を出して反抗してくるのが辛い」
この金砕棒は錬血術を施してから初期の頃のナイフ君みたいになった。意識があるというか本能だけで動いてるっぽいけど。
お前は触手を出すようになるなよ......
「アレは盾を壊そうとムキになってるな。本命を倒す前の前座みたいに思ってるのかな? RPGの主人公になりきって酔ってる? あーマジで気持ち悪い」
ああ、ダメだ。本当にダメだ。
全てが合わない。拒否反応しか出ない。
「殺るか......」
気配をなるべく消して背後に回る。
それに気付いたナイフ君と世紀末君の動きが変わる。いい感じに引き付けておいてくれるようだ。
ナイフ君の攻めと世紀末君の動きが一層激しくなり、それに呼応して異常者の動きも激しくなる。
が――
(うーん、隙だらけ)
俺の手に棘を刺して血を吸う金砕棒。反抗する時と違って痛みは少ない。なんとなくこのまま振れと言っているような気がしたので、隙だらけなその背中に向かい心を無にして金砕棒を振り下ろした。
『ぬぅ!! 小癪なァァ!!!』
何故か気付かれて避けられた。そのままがっつり距離を取られてしまった。
『流石、悪魔に相応しい邪悪な心根よの。一刻も早く滅さなければ......』
「黙れ!! 気持ち悪ぃんだよボケ!!」
触る触らない、気持ち悪いとか言ってサボっていられない状況になってしまった。クソ坊主を覆うようになんかキラキラしたエフェクトが発生している。
ダンジョンに挑むプレイヤーというかヒーローサイド、階層ボスという魔物サイドの王道の争い。小説とかでの構図は俺の方がヒーロー側な筈なのに、完全に俺が魔物サイドのように見える不思議。
ヒーローサイドとかクソ喰らえだからどうでもいいんだけど。なんか気に喰わない。死ね。
『魔は滅するのみ!!』
キラキラドーピングが終わる前に仕掛けた。だがそれも簡単に避けられてしまい、ドーピングが完璧にキマってしまったクソ坊主から反撃の光線が飛ぶ。
「神の名を騙る集金装置は全部滅びろッ」
金砕棒は神性に特効があるらしい。それならばこんなのが出すビームなんて屁のようなモノだろう。
という理論の元、飛んでくるビームに合わせて金砕棒を振り抜いた。打ち返すように。
『莫迦なッ!? チィッ』
自信を持って放った悪魔特効ビームが振り抜いた金砕棒に当たった。タイミングが早かったようで三塁側に痛烈なファールとなった。
「金砕棒は無事か......スゲェなァッ!!」
呆けたクソ坊主だったが直ぐに気を持ち直し、第二波を溜めだすのを見た俺は今出せる最高速でクソ坊主の懐に飛び込み、一番避け難い胴体部分へ金砕棒で突きを放った。
『我は神の代行者......也ッ!!』
超常的な反射速度で反応したクソ坊主は上体を逸らすマト〇ックス避けを披露し、胸肉を多少抉られた程度の被害で留めた。避け樣にニヤッと笑うクソ坊主にムカついたから強引に突きを振り下ろしに変える。
腕の筋肉や筋が断裂して嫌な音がしたが、そんなのは何時もの事と気にも留めずに強引に力を込め――
『――ッ!!??』
「クソがッ」
攻撃の軌道が変わり驚かれるも、避けた格好のまま錫杖を俺へと向け、その向けられた錫杖の先端からビームを出されてしまった。右胸と腹のど真ん中を貫かれるも血反吐を吐きながら振り下ろしを敢行。
『グアァッ』
左肩に命中した金砕棒は錫杖を持つ左肩から先を消し飛ばした。
それだけでは終わらず、ニュー金砕棒は取り込んでいた俺の血をビュルッと吐き出してクソ坊主の傷口にべったりと塗布する。
「アハハッ!! やるじゃん金砕棒!!」
傷口が硫酸でも掛けられたかのようにジュワジュワと音を立てて焼け爛れている。
『フハハハッ!! 喰らったな? 一度でも喰らえば貴様は終わりだ!! 神の力を思い知り、悪魔なぞになった事を悔やみながら滅びるがいい!!』
勝ち誇るクソ坊主と嗤う俺。
奇しくもどちら共、相手に傷を付ければ終わりという攻撃をしたらしい。
「ふーん、お前と俺のどっちが生き残るか楽しみにしとこうな......生えろ!! 呪え!!」
『破ッッッッ!!』
別に声を出さなくても平気だけど雰囲気作りで俺は声を出した。クソ坊主はノリノリで寺生まれみたいな声を出して数珠を持つ右手を俺に向けてきた。恥ずかしいヤツだなぁ......
因みに呪う必要は無いけど神職が呪われるって屈辱だろうし面白いじゃん? という理由だけでやった。
黒い呪い汁がクソ坊主にかかり、身体を蝕むがあまり効いていなくて直ぐに蒸発して消えた。というか、クソ坊主後ろ、後ろ。ナイフ君の触手が迫ってるよ!
『滅ッッッッ!! あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!』
俺の傷痕が発光して傷痕周辺を焼き散らかす。
それと同時にクソ坊主の傷痕から血の刃が体内に向けて発生し、その痛みで血と喚きと唾を飛ばしている。そんなクソ坊主君に無慈悲に絡みつく触手。無事な三肢は可哀想なくらいギチギチに拘束されてしまった。
「超すげぇ反射速度には驚かされたけど、それだけだねぇ......狂信者の癖に痛みに弱いとか残念すぎる」
俺のように再生するでもなく、痛みに激強でもない。
狂信するならその事以外は全部些事と思えるようにならなきゃダメだよ。神敵認定した相手がまだ生きてるのに、その前でみっともなく喚き散らすだけってクソダセェ。
「オラァッ!!」
ただ反射速度が凄いだけの狂信者に向けて金砕棒を振り下ろした。グシャアと良い音がしてクソ坊主はダンジョンの床の染みになった。
『レベルが6上がりました』
そこそこ苦戦したけど、楽だったなぁ。
「......おお、ブッ殺したら気持ち悪いの消えた。というかコレはアレか? クソ人間共が俺にだけ当たり強かったのってこんな感じの感覚を......」
不快感と嫌悪感は殺した瞬間に霧散した。
相容れない存在に遭うとこんな感じになるのか、と。認めたくないけど、それならあの日々はザンネンながら当然かもしれない。それでも許さんけど。
あの肉塊の罪とクソ人間共の罪は重いと再確認したタクミだった。
「まぁいいやもう......いぇーい! お疲れ!」
嫌な事は脳内の隅に放り出して、世紀末君&ナイフ君の触手とハイタッチをし、今は百階層突破の喜びを分かち合って気を紛らわした。
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