第164話 苦行、苦行、苦行......からの

 芽が出た次は蕾→花→と来た後果実で......という予想の元、スキルのゲットという名の収穫祭が待っていると信じてモンスターを殺して、殺して、殺して殺して......殺して回るハッピーな日々を過ごしていた。


 芽~収穫まで他にも凡人の俺が思い付かないイレギュラーがあるかもしれないから過度な期待はしない。そうして予防線を張って心の平穏を保っている。そうでもしないとやってられない。


【スキルの芽 299/???】


 そんな俺の精神衛生を嘲笑うかの如く、なんと二匹倒して1増えるクソ仕様変更をカマされてしまった。本当に巫山戯てやがる。


「......もういい、進もう」


 このままだと何年かかるかわからない。

 俺には失うモノなんて何もないんだから安全策なんて生温い事を考えてないで突き進む。


 前進あるのみ。


 ......というかいい加減、同じのばっかで飽きた。


「クヒヒヒヒヒヒ」


 感情が抜け落ちた顔で目だけを怪しく光らせ嗤う。

 この決断の結果、手に負えない相手が出てきても構わない。躊躇いなどは不要。


 死地でこそ業は磨かれんだ。


「キヒヒヒヒヒヒッ」


 てなわけで撤収。先へ進みますよ俺たちは!



 ◆◇原初ノ迷宮第九十八層◇◆



 ......ふーん、いいじゃん。


「アハァ」


 階段を降りた先はワンフロアのみの階層だった。

 雷雨の吹き荒ぶ荒野と、曇天の草原がミックスされた広大な敷地に心が躍る。

 これなら......肥料がいっぱい、だね。


「ナイフ君と世紀末君は好きに動いて殺して回ってくれ。俺は俺で殺ってくるから」


 指令にガンガンと盾を鳴らして返事をした世紀末君は草原エリアに駆けていった。雷雨は嫌なんだね。それなら俺は荒野で。


「阻害はされていないからわかるよ。ふふふふふ」


 反応がいっぱいだぁ......先ずはソコからイかなきゃ失礼だよね。


「ヒャーッハァァァァァ!! 邪魔すんじゃねぇぇぇぇ!!!」


 救済措置は在った。ならば全力でソレに乗っかるのみ。ご都合主義? 大変よろしい。

 進行を妨げる邪魔なモンスターは轢き殺したり殴り殺したりして最短距離を駆け抜ける。


 反応の場所まで、あと10m......


 5m......


 1m......





「そっか、そうくるか」


 反応はエアーズロックみたいな巨大岩に空いた穴。まぁぶっちゃけ洞窟になっている場所の中に。


「虫か、蝙蝠か、よくわからんモンスターか。まぁ何でもいい......全部肥料にしてやるッ!!! 行けヒヨコッッッ!!!!!」


 俺が戦う必要は無い。細かい指示出しも必要無い。

 ヒヨコが良いと思える場所で爆発すればいい。洞窟の中に隠れているのならチマチマ殺らずに一気に殺ってしまえばいい。慈悲は無い。全て肥料になれ。


 効率が最優先。


「じゃあ俺はあっちの反応が多くある方に」


 ヒヨコを放った穴への興味は無くし、一瞥もくれることなく次の目的地へ駆けていった。




 ◆◆◆◆◆




 妾の名は鬼腐人。


 オーガクイーンの成れの果て。


 今となっては朧気で頼りない記憶では縄張り争いか侵略者の侵攻か何かで負けて殺された後、何か変なモノにオーガゾンビとして復活させられ、序でとばかりにこの名を与えられて目が覚めた。


 それから云百年、戦いに明け暮れていたらいつの間にかオーガクイーンリッチと成り、この洞窟を地道に改造したり、殺したモンスターを死霊術で使役し配下として集めたり、アンデッド化したモンスターを保護したりして今ではギリギリ一つの小国と呼べるようなモノが完成していたのだ。


 大体3000と余りに心許ない数だが、これで妾が妾らしく生きれるようになった。

【鬼族の女王】という生前から持っていたスキルが妾をダンジョンなんていう国造りに向かない場所での建国へと走らせた結果だ。

 護るべき国と国民を得れば力が上がる。規模が大きければ大きい程、得る力が増していく。治世は生前の経験があるお蔭で苦労していない。スキルで得た力のお蔭で妾を害せるモノはこの階層にはいない。


 まさに盤石の体制。

 何処かを攻めたりする必要は無い。

 後はゆっくり規模を大きくしていって、永遠に続く我が国を愛でていくだけだった。



 あの鳥の雛が現れるまでは......




 ――力が抜けていく。妾はもう長くない。


 国も、民も、力も、在る物は全て失った。


 不甲斐ない女王で済まない。


 この程度でいいと、妾が慢心した結果だ。


 皆よ、直に妾も逝く故、そこで存分に責めるがよいわ......




 ◆◆◆◆◆




「さっさと死んで肥料になれビチグソ共ォォ!!!」


 ゾンビやグールといったモンスターが多い。雷雨の恩恵で臭いや汚れはすぐに洗い流されるから対アンデッドのデメリットは完全に無い。濡れるのを不快に思わなければとてもいい狩場じゃないか、ここは。


「アハハハハハハッ」


 クソ龍を体験した後だからか、弾力の強い豆腐を殴っている感覚がする。返ってくる手応えが気持ちよく、しっかり弾け飛んでくれてとても楽しい。




 夢中で殴り続けていればいつか終わりが来るモノだ。まぁなんだ、湧かなくなってしまって悲しい。



【スキルの蕾 629/???】


 予想は合っていた。とことん苦しめる気なのは理解した。理解したよクソ野郎ッ!!!

 はぁ......俺程度で想像出来る通りになるとは......ちょっとイレギュラーがありそうで後が怖いけど、順調に育っているからこのままスクスクと育って欲しい。



 その後もモンスターを倒し続けた結果......蕾はモンスター三匹で経験値が1だった。これもまぁ予想通り。

 という事は、最低でも収穫まで後一万匹くらいモンスターを倒していかなければいけないらしい。アホみたいな数すぎる。

 ヒルとかアリとか虫系じゃなくてもいい。モンスターのスタンピードよ起きてくれ。かなり時間がかかるし苦行すぎて辛いんだよ。


「もし割に合わないスキルだったらババアと悪魔さんに泣きついてでも元凶に地獄を見せるからな......」


 ダンジョンのシステムを作ったヤツか、このダンジョンの主か、それに近しい存在か......どんなのかわからないけど、そんなのが居るなら是非とも撲殺させて欲しい。恥もプライドも捨ててババアと悪魔さんに頼み込み、四肢を捥いでもらった後更に行動不能にしてから殴り続けてやる。......絶対に、絶対にだ。




 ◆◆◆◆◆




 あれからこの階層に泊まり込んで、目に付いたモンスターをぶち殺す日々を送って早......早......もう何日かとか覚えていないからどうでもいい。知らん。

 最初のモンスターの集団は初回特典だったらしく、復活してくれなかった。悲しいね、現実はいつも非情である。


【スキルの果実 66/???】


 ところで、種はわかる。俺が飲み込んだもの。

 だけどさぁ......それ以降がわからない。

 連戦に次ぐ連戦のせいでガントレットとグリーブとブレスレットが壊れた。こまめに修復をかけていても耐えられなかったらしい。再生が至高なのか......


 ムカつくよね。本当に。物は無くなるわ、精神に異常をきたすわ、キツいわ......なのにスキルは増えないんだぜ?

 芽が出たならスキルを寄越せ。蕾になったらスキルを寄越せ。花が咲いたならスキルを寄越せ。過程は全てスルーとかマジキチすぎるだろうが!!


 もう疲れた......


「進もう......」


 タクミはモンスターハウス又はそれに近いモノがあると信じて先へ進んだ。



 ◆◇原初ノ迷宮第九十九層◇◆



「......闘技場かな?」


 かなり広いドームの闘技場が現れた。ダンジョンの中じゃなかったら球場かなんかと錯覚してたと思う。

 普段なら嬉々として乗り込んでいく所だ。けど、今回に限っては大暴投もいいところ。望みは大虐殺だからど真ん中に構えていたらバックネット裏に飛び込んでいったようなもの。


 ただ、この広さだからバトルロイヤルの可能性も地味にある。


「いや、うん。試しに、一回やってみるか」


 1VS1でも構わない。俺には刺激が足りてない。

 味変をするのは重要である。同じのばかりだと、どんなに好きな物でも嫌になったりする。

 蹂躙や殲滅は大好きだけど、1VS1での殴り合いも楽しくて好き。どうせ先は長い。この程度の寄り道なんて誤差みたいなもんだ。


「キヒッ」


 ゾンビばっかり相手にしていたから殴り甲斐があるヤツがでてくれれば嬉しい。久しぶりにワクワクした気持ちになったテンションで闘技場に足を踏み入れた。


『エントリーする大会を選択してください』

『1VS1 トーナメント』

『3VS3 トーナメント』

『バトルロイヤル 100』

『バトルロイヤル 300』

『バトルロイヤル 500』

『バトルロイヤル 1000』

『王者挑戦 ※各大会優勝者のみ』

『どの大会も決着は出場選手の死。報酬は優勝者にのみ与えられる』


「......びっくりしたぁ」


 来ると思っていない時に来るアナウンスは驚く。

 ......どっかの苦行の種の所為で随分長い事アナウンスを聞いて無かったしな!!


 でもまぁ......


「いいじゃん。どうせなら肥料たっぷr......じゃなかった、バトルロイヤル1000にエントリーする」


『受け付けを承りました。貴方のエントリーナンバーは666となります。試合開始まで控え室でお待ちください。試合開始の十分前になりましたら係の者がお迎えにあがります』


 ダンジョンだとは全然思えない事態にビビりつつ、案内役のゴーレムから666番のナンバープレートを貰って控え室に移動した。ドラ〇エタイプのゴーレムが無言でプレートを渡すのには苦笑いが出た。

 ――さて、そんなこんなでスキルの種関連で脳がバグってる俺だからか、ちょっとビビった後は平常心に戻っていて、今は控え室で寛いでいる。何故か畳で、寝転んだ時にはちょっと涙が出た。

 まだ心は全て死んでいないらしい。


「これ畳ね。俺が前に住んでいた場所もこれだったんだよ」


 家自体には良い思い出が無くても、懐かしき畳とせんべい布団と座布団は今でも心の友だ。ショップに並んで欲しい。入り口でフリーズしてあるナイフ君と世紀末君に説明すると恐る恐る畳に乗っていった。緑色の床に怯んだらしく、その様子にちょっと和んだ。





 畳の効果と殺伐とした毎日の所為で緊張感や危機意識が吹き飛んでいて、ステータスを見ながら畳でゴロゴロしていたらいつの間にか微睡んでしまっていた。

 経験値は無くともスキルは成長するらしくて、地味に変化しているけどそこまで恩恵は感じられない。このバトルロイヤルでわかるかなぁなんて考えていたりもした。


 そんな時、部屋の扉がノックされた。


「あー......弛みまくってるな、気を引き締めないと」


 俺は欠伸をしながら伸びをした後、深呼吸して畳の匂いを思い切り吸い込んでから控え室を後にした。




 ─────────────────────────────


 タクミ・ベアル


 暴力と血の悪魔・下位


 職業:暴狂血


 Lv:48


 HP:100%

 MP:100%


 物攻:450

 物防:1

 魔攻:430

 魔防:200

 敏捷:400

 幸運:100


 残SP:52


 魔法適性:炎・冷・闇呪


 スキル:

 ステータスチェック

 血液貯蓄ㅤ残1617.2L

 不死血鳥

 悪魔化

 魔法操作

 血流操作

 漏れ出す混沌

 上位隠蔽

 中位鑑定

 中位収納

 中位修復

 空間認識

 殺戮

 暴虐

 風神那海

 状態異常耐性Lv10

 壊拳術Lv8

 鈍器(統)Lv10

 上級棒術Lv6

 小剣術Lv7

 歩行・回避最適化

 崩打

 強呪耐性Lv6

 石化耐性Lv4

 病気耐性Lv6

 熱傷耐性・強Lv3

 耐圧Lv6

 解体・解剖

 嗅覚鈍化

 溶解耐性Lv10

 洗濯Lv5

 工作Lv3

 アウナスの呪縛


 装備:

 壊骨砕神

 悪魔骨のヌンチャク

 肉触手ナイフ

 貫通寸鉄

 火山鼠革ローブ

 再生獣希少種革のスラックス

 再生獣革のブーツ

 聖銀の手甲

 剛腕鬼の金棒

 圧縮鋼の短槍

 迷宮鋼の棘針×2

 魔法袋・小

 ババアの加護ㅤ残高74000


 スキルの果実 66/???


──────────────────────────────


 祝日という事でこっそり正午に更新。お暇があればゆっくりする片手間に読んでください。


 それではよい祝日を!

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