第161話 人相悪ぅ
ギチギチと締まってくる肉からの脱出は無理だった。これが腹上死か......いや、腹上じゃないな。ダイナミックなスカルフ〇ックの末の......もう考えるのは辞めよう。
結論としては血を殆ど飲んでいた事で滑りが悪くなったと言うクソ程馬鹿らしい理由。これは墓まで......俺が死んでも墓とか作られるワケないから死ぬまで黙っておく。
死因は圧死。死後硬直にしては早すぎた。ユニークモンスターだからここまで早いとかではない。飛びそうになる意識の中で必死に外に出ようと藻掻いてはみたけど......無理なもんは無理。この逆らえない強烈な力の掛かりようはヤバすぎた。
「穴のクソ野郎めッ!!!」
復活して直ぐ出た心の叫び。文句の一つや二つ言いたくもなる。
死んだ理由はわかった。
血が大体抜けて、力も抜けた巨体が穴を塞ぐようにその上で腹這いになっていたらこうなる。いくら岩山龍がガッチガチでも、クソ重巨体の持つ自重というモノは馬鹿にできずガッチガチは勝てなかったらしい......
普段なら人一人抱えるのは楽勝な野郎だったとしても、気を失った人を抱えるのは難しいというのは聞いた事がある人も多いだろう。タクミが窮地に陥ってじった理由は正にそれ。それの規模が大分エグいバージョンである。
「北斗〇拳でそんな敵キャラ居た気がするな!!」
墓穴に収まるまで強制的にコンパクトサイズにさせられていた巨体さんとは厳密に言えば違うけど、似たようなモン。巨体が自分で掘った穴に腹だけが入っていった......しかも俺が入ったままで。
そんなんされたら流石に圧死するわな。ちくしょう。アレからどんだけ時間が経ったんだろう。
「とりあえず......ナイフ君には感謝しなきゃだな」
体積を無視した
ナイフ君の活躍が無ければ岩山龍の肉と一緒になって腐ってたか死体が消えるのに合わさるか......はたまたそんな事は無く普通に出れていたか。
「ナイフ君本当にありがとう」
きっと碌でもない事になっていただろうから感謝するしかない。俺に礼を言われたナイフ君は満更でもない雰囲気をしている、というかドヤってる。俺を捨てないでいてよかっただろ? 的な。
実際その通りだからぐぅの音も出ない。ありがとうございました。お礼になりそうな物があればババアの店で買わせて頂きます。
「............何だこの種?」
岩山龍の腹から這いずり出て立ち上がった時に踵に違和感があった。何かを踏んだのか? と、確かめてみれば紫色のひまわりの種が刺さっていた。てかなんで縦に置いてあったか落ちてるかしてるのか、それがわからない。
「クソ重龍の最期の嫌がらせかよ......は?」
溜め息を吐きながら鑑定をしたら悩ましいモノが書かれていた。
〈スキルの種
飲み込めばいつかスキルが芽生える
肥料は経験値〉
「......一定量を取っていくのか、生えてくるまで全部持っていくのか......前者なら忘れた頃に生えてくるからいいけど、もし後者なら生えてくるまで経験値無しとか最悪じゃんか」
上位以上の鑑定ならもっと詳しく知れたんだろうけどこれが中位の限界かね。飲むか飲まないかが地味に悩ましい。
いくら俺でも流石に経験値が得られない状態で先にガンガン進むのは怖いから、スキルが生えてくるまで階層に留まってリポップを延々と狩り続けるしかない。
「ナイフ君、コレどう思う? てかナイフ君ならコレ使えるかな?」
とりあえず今回の戦闘の最大功労者に聞いてみた。別の存在を頼るなんてあの頃の俺に言えば鼻で笑うだろうな。
なんて思っているとナイフ君は触手を伸ばして種を捏ねくり回し始めた。二分くらい弄ったら満足したのか俺に返してきた。ナイフ君はコレ要らないらしい。
「俺が使えって事?」
俺が使えか、ただの返却か判断しかねたから聞いてみた。そしたら使えと諭されたから思い切って飲んだ。後悔はしていない。どんなスキルが生えてくるのかは運任せかな。
さて、経験値問題はとりあえず先に進んでみて一度戦闘してから考えよう。不便な事が多すぎる。
【スキルの種 0/???】
ステータスチェックで確認してみたらこんな感じで表示されていた。この?の表示通り三桁ならそんなでも無さそうだけど......そんな甘くはないだろう。
「......ゲッ」
チェック序でに貯蓄血液の量を見てみたが血の残高はそこまで増えていなかった。吸った量とトントンになるくらい腹の中で血を失ったらしい。どれだけリスキルされてたんだよ......
これでスキルがクソだったら割に合わない戦闘になる。スキルの有用さに全てが懸かってるからお前しっかりしてくれよ。本当に......
それよりもどうした事かコレは。
「......他にドロップは無しか」
巨大な死骸を前に途方に暮れる俺。
血肉が消えた事でかなり減っているのを加味しても、中位収納には入りきらない量の皮と鱗と金属っぽい何か。
欲しいのを切り分けるだけでも一苦労なソレら。全部放っておくのは勿体ないが過ぎる。
「うーわ......死体の皮硬ェ......」
皮ですら世紀末君と同じくらいの硬さを確認した。よく勝てたな俺......
「うーん......あ、そうだ」
持っていくのに限りがあるなら、不格好でも加工しちゃえばいいじゃない!! と思い立ったので即実効。心変わりする前にやってしまおう。そうしよう。
「世紀末君用の盾作り頑張るぞ!!」
早速収納から世紀末君を出して希望を聞き、その通りになるよう頑張って溶けて金属っぽくなった岩鱗を切り分けていった。これがまぁ重労働。
「あ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁ」
何かリポップしてきたら嫌だから階段付近まで明らかに過剰なのは諦めて必要なモノだけをやや多めに移動させて、そこで作業をする事にした。
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁ」
作っている盾のイメージとしてはヒースク〇フさんが使っていたような形。サイズはそれよりも大型の盾になる。
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」
ずっと思い描いた形に沿って寸鉄の上から金砕棒を打ち付けてるだけなんだけど、それがまぁ半端なく辛い。破壊だけを目的にしたあの時とは違うし、何よりも寸鉄を壊さないように、それでいて岩鱗金属を壊していくという気力と体力と精神力を削る作業に気が遠くなる。だからこんな声しか出ないの。
耳汚し申し訳ないけどもう少しお付き合い下さい。
◆◆◆◆◆
あれから丸三日掛けて漸く岩鱗金属大盾が完成した。
そういえば炎効いてたなと二日目の半ばに思い出してバーナー状にした炎魔法で柔らかくする方法を思い付いてから効率は爆上がった。ただしMP消費もそれ相応だったけど......
取っ手部分は溶接でどうにかした。手彫りだったらあと何日掛かったんだろうね。HAHAHA。
俺の全力パンチでもビクともしない大盾に世紀末君は大喜びだった。頑張った甲斐があった。
後なんというか、盾を作った副産物というか......仕上げに盾の表面を綺麗にしてみようとした所、想像以上にツルツルになって鏡のようになった。
「嘘......これがアタイ......?」
鏡盾に映った世紀末君と俺。そこには見た事無い人相の悪い悪魔と、やっぱり蛮族にしか見えない鎧が映っていた。
自分の容姿云々の前に初手好感度最低になるから無頓着だったのはあるけど、ダンジョンではそんな事考える余裕も無く自分の顔は忘れてうろ覚えだった。そんな俺でもわかる......誰だコイツ?
「髪は艶のない黒で平凡な髪型。白目が充血、黒目は白で目付きは極悪で隈取りみたいのがある......他の顔のパーツはなんて言うか日本人らしさを残しつつ凄味みたいのがあって肌はやや褐色。何より目付きが悪過ぎる......」
わぁ、本当に誰コイツ? 完全にモブだったあの頃とは別人です。どうもありがとうございました。
「魔化は解除してあってコレ? それとも魔化でコレ? うーん......魔化解けろぉ」
どっちかわからなかったから解除と念じてみたらみごと魔化が解除された。わーい。
「......って充血してた所が黒くなって肌が元通りになって隈取りが消えただけじゃねーかッ!!」
外に出たらサングラスは必須。それだけあればまぁ一先ずは人には見えるからいいやって感じ。サングラスが無ければ人類の敵認定まっしぐらだ......それはそれでそんなにこれまでと変わらないから構わないけど、あのクソ共が逃げるだろうから殺すまではサングラスをしていたい。
よく考えてみたら、まぁ......あんまり気にする必要はなかったわ。ハハハッ。
体型は結構筋肉質、腹筋はちゃんと割れてる。身長はちょっと伸びた? 175cmあるかないか。
あの頃よりはカッコよくなったし、まぁヨシ!
「とりあえずお待たせ。確認が終わったよ。本来のモンスターがリポップしてると思うしソレらを皆で狩ろうか。岩鱗金属盾の使い心地試してみて」
さぁスキルの種の確認に行こうじゃないか。
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161話にしてタクミくんの全貌が明らかになりました。しっかり悪魔化してからでいいかなって思ってたんで気にしてた方は申し訳ございませんでした。ステータスは次話に。
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