第160話 ご馳走様

 急いで目を魔化して視界を確保。


 仮に真っ暗闇でも今回は空間認識が使えるから問題は無いっちゃ無いけれど、それでも慣れ親しんだ目と空間認識での対応の方が楽でやりやすい。


「それでも......しんどいなぁ」


 両手に武器を持って金属棘をひたすら壊し続ける。

 それを黙々と続けていると慣れてきて無になっても対応出来るようになった。なのでこの隙に打開策を考えていく事にした。


「結構深い穴だけど、地味に壊した金属棘が積もって穴が埋まっていくんだよなぁ......」


 そう、なんとこの金属棘は消えなかった。

 俺の攻撃で壊れる程度の強度だから調子に乗って壊しすぎた。足は素足なのに何故かスパイクを履いてるのと変わらない。

 まぁ壊さなければ壊さないで詰むから壊すしかないんだけど......どうするのが正解なのか。


「撒菱用に確保したいからたくさん出てくるのはいいけど収納は容量があるからなぁ......」


 モンスター共にもスパイクを履かせてあげたいから一定量コレを確保するのは確定。問題はその後。

 穴が深すぎて腹に直接攻撃するには飛ぶか、なんか投げるか、コレを積もらせていかないといけない。


 本当にさぁ、俺の前に現れるのも俺TUEEEE物のドラゴンみたいに見掛け倒しであって欲しかった......なんて言ってみても変わらないけど、言いたくなる気持ちもわかってほしい。



「............はぁぁぁぁぁぁ」


 口からは愚痴と溜め息を吐き散らかし、両手は高速で動かしながら考えて考えて考えて、知恵熱が出たのか頭が熱っぽくなってきたその時......


「――ッ!!!!」


 詰まりに詰まったこの展開を打開出来そうな策が降って湧いた。......ような気がした。


「出来得る限りの箇所を全部魔化してみよう!!」


 これが本当に打開策か否か、最後にこの場に立っていた者が証明してくれるだろう。




「両手、両足......前よりもスムーズにいける」


「顔面、頭、首......全部いけたな」


「胴体部分......おかしい、全部いけてる」


「股間、背中、他......いけた、ような感覚がある」


 慎重に、隙を生まない様に、じっくりゆっくり魔化させていった。見えない場所は本当にできてるかわからないけど、MPは減っている感じがあるからきっといけてる。


「身体能力は上がってる気がする......これなら......」


 武器の振りは鋭くなっている。扱いも楽になった。

 意識はハッキリしていて脳内はパッキパキに澄み渡っている。きっと勘違いなんだろうけど何でも出来そうな全能感が凄い。生物としてのステージが上がったと感じる。ヤバいコレ。ヤバい。


「アハッ......アハハハハハハハハハハハハッ!!」


 きっと傍から見たら俺のIQは自分探しの旅に出たように見えてるんだと思う。トリガーハッピーならぬ撲殺ハッピーって感じ。


「とりあえず生き物ガ殴りタクて仕方なイィィィィィィィィィィ!!!」


 面倒な事はもう、考えるのダルい。




 ◆◆◆◆◆




「アハハハハハッ」


 金砕棒を狂ったように笑いながら振り回して金属棘を破壊し、暗闇の中を走り抜けて壁面まで到達したタクミはそのまま壁に足を付け、そのまま駆け上り始めた。


「キヒヒヒヒヒヒャァッ」


 壁走りなんて巫山戯た事が容易に出来るまでになった馬鹿げた身体能力を発揮したタクミは、駆け上っていく為に距離が縮まった事で金属棘の処理が追いつかなくなり刺さる量が増える。

 だが、そんな事は些細な事と歯牙にも掛けずに突き進んでいく。顔は相変わらず笑顔であった。


「ギャハハハハハッ」


 何が楽しいのかわからない。

 どうして色んな場所から棘を生やしていても笑えるのか。正真正銘、狂っているのだろう。


 生まれてこの方ずっと押し込められていた劣悪な環境と対人関係で精神が捻じ曲がり、その状態で更に肉体的にも精神的にも苦しめられ、いつか絶対にこの環境から逃げる事を生きる目標にし、現状はそれが正常、通常なんだと無理矢理思う事で耐えてきた男が、ダンジョンに落ちて生命の危機に瀕し、捻じ曲がった状況で強引に撚って纏め、それを外からはよくわからないようにテープなどでグルグル巻きにしただけという感じである。


「アハハハハハハハハッ!!」


 現在、ダンジョンを進む力と頼れる道具、更に信用できる祖母&姉という大悪魔を得てようやっと真面になってきていた所だった。何故かとても過酷な状況の中で情操教育が施されていたのだ。

 ――でもまぁ三つ子の魂百までという諺が有るように、遠目から見れば見た目だけは普通に見える状況だっただけ。近くで見れば『あ、コレ、手の施しようがないくらい捻じ曲がった銅線を強引に絶縁テープで纏めてるだけじゃん』となっている。


「ヒャハハハハハァッ!!」


 という事で、現在のタクミの状況は......全身魔化によって絶縁テープという名のガワが剥がされて本能が剥き出しになっていた。

 狂人さんようこそ、グッバイ擬態の皮。


「喰らえやぁぁぁぁぁぁ!!」


 全身に棘を生やしながら駆け上った先には岩山龍の腹があった。棘はもう防御態勢に入ったハリネズミのようにビッシリと生えている。

 そこに躊躇無く笑いながら飛び込み、左手に持った棘を突き出す。それはやっぱり刺さらず、甲高い音を立てて多少の凹みを付けるに留まった。タクミはズタボロである。


「キヒッ」


 だが狂人はそこで止まらない。ガンギマリは急に止まれない。岩山龍の腹に棘が刺さらないのは織り込み済みだった。

 常人が見たらゾッとする笑い方をしたタクミは突き出した左手を掌底を放つ時の形にして棘の押し込みに掛かる。......だけには留まらない。


「アハハハハハハハハァッ!!! 喰らえ」


 左手を突き出したアッパーみたいな体勢でタクミが次の一手に選んだ物は炎の球だった。ヒヨコの爆発と似たような感じで方向性を持たせたソレを手の平と棘の間で爆発させて棘を腹に押し込んだ。


 いくら方向性を持たせた爆発だろうが爆発は爆発。完全に制御は出来ずに左手は肘から先は消滅してしまい、肘より後ろも焼け爛れた。が、代償を払った甲斐は確りあった。


「アハハハハッ!! 深くまで刺さったようでなによりだ!!」


 上からは痛みで悶えている声が聞こえて満足そうに笑い落下していくタクミ。深く突き刺さっていても出血を促す棘のお陰で結構な勢いで血がでている。イレギュラーな事が起こらなければ、後は俺が下で待機しているだけでアレは勝手に死んでくれる。


 けど、やっぱり殴りたい、殴って殺したい――と、獰猛な笑みを浮かべて上を見上げた。





 ◆◆◆◆◆




「あぁぁぁぁ......龍の血美味ぁ......浴びるように飲めるのってすげー」


 金属棘の勢いは攻撃の影響か弱まっていて、五臓六腑に染み込んでいく甘露な雫をのんびりと味わえるくらいには余裕が出来ていた。

 あの後すぐに腕が復活したから追撃を......と思っていたんだよ。でもね、顔を濡らしていた岩山龍の血をペロッとしたら吸血鬼の心臓並に美味すぎて戦意が消えて正気に戻ったのよ。青酸カリを舐めるより健全でいて、倫理的にもアレよりは問題ないからもう夢中になってペロッたよね。


「とりあえず外のナイフ君が吹き飛ばした足の傷口に突き刺さってくれてばいいけど......まぁそれは高望みしすぎか。俺はあの傷口をなんとかして拡げて、そこから直飲みできるようにするのが最適解かな」


 方針が決まれば後は遂行するのみ。

 高い場所にあるのが難点だけど、そこは身体能力にあかせて動けば何とかなる。


「しゃぁ!! 殺ってやるぞコラ!!」


 ガンギマリしていた時の行動を参考に足裏に爆発を起こして飛び出して、刺さっている棘を掴み金砕棒で棘を叩いて傷口を広げて流血を増やしていく。作業と食事が両立出来てモチベーションは上がったから効率は馬鹿みたいに上がっていた。





 掴んでいる手の指を誤って叩いたり、叩いた衝撃で手が痺れて握力が死んで落下したり、血で手が滑って落下したり、爆発の衝撃が強すぎて下半身が死んだりとアクシデントは多々あった。


「ハハハッ!! 動きが鈍くなってきやがった。すげー手古摺らせられたけど、やっと勝ちが目の前にきたじゃねーか」


 デカすぎるのは確かに脅威だけど、デカすぎるのも色々と問題を孕んでいると知れた。コイツが敏感且つ広範囲無差別殲滅系の攻撃を持っていたりすれば勝てていなかったと思う。小さくてよかった。



「じゃあ後は全身で吸わさせて貰うわ」



 適度に広がった傷口から中に侵入って、全身で吸血を開始する。なんと言うかそこまで長い時間じゃなかったけど、全身という全身から余す所なく旨味が押し寄せてくる至福の時間だった。こんな贅沢を味わってしまったら後戻りが出来ない。

 きっと今後目標を達成したら、ずっと俺は美味い血を求めて戦いに明け暮れるだろう。


「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ」


 傷口にかかる力が弱まってきていてもう力が入っていない。岩山龍の生命は風前の灯って所か。

 血も勢いが弱まっているし、暴れる振動も既に無い。でも相変わらず生き血は美味。


 多分死なば諸共スタイルで最期に何かをやってくるタイプなんだろうけど、まさかナカに入っているから安全だったとは誰も想像しなかっただろう。自爆だったらそれも関係なかったけど......


『レベルが16上がりました』


 そんなこんなで血を最後の一滴まで逃さない気持ちで吸い続けていたらアナウンスが入り、岩山龍戦の終了が告げられた。ご馳走様でした。







 一旦外に出て後は別の位置から吸おうと思っていた所で俺の身体に急激な圧力が掛かってきた。


 馬鹿みたいな力で全身が押し潰され、身体が出しちゃいけない音を出している。中身が出る......苦しい......止めてくれ......


「い、一体何が、起きて――ア゛ッ」





 ブチュン




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 拙い作品で恐縮ですが、いつも読んで下さる皆様に支えられて更新を続けられています。いつもありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。冬到来間近なので体調にお気を付けて健やかにお過ごしください。


 @abm111様からギフト頂きました。ありがとうございます。本当に嬉しいです。これからも更新頑張ります。

 今はインフルが猛威を奮い出していて余裕ありませんが、今月の下旬~来月頭頃にサポーター様になって頂けた方々への感謝の気持ちを、と思っております。期待はせずにお待ちください。

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