第159話 脱出せよ
気分を上げる為のカウントダウンが終わると、ヒヨコが自爆するといういつものアレが起きる。そんな
「......うわーお」
爆発の方向性はいつもヒヨコが自分でコントロールしてくれていた。
だけど今回はそれを意図して指定した。無造作の爆発でも、いつも余波で死に掛けるくらいのヒヨコマイトを窮屈な穴の中に詰め込んで、蓋をして爆発させればどうなるかなんて俺には読めない。
発破専門の人がやるモノには遠く及ばない、うろ覚えすぎる記憶から呼び起こしたモノを使って適当にやった残念な模倣。
「アハハハハハ......」
それでも、効果は絶大だった。
まずヒヨコマイトは穴を開けた近辺の岩鱗をその衝撃で浮き上がらせ、砕き、剥がした。
穴を埋めていた金棒は行方不明に......多分だけど消滅した。これはまぁ仕方ない。金砕棒が手に馴染み過ぎていて全くと言っていいほど使ってなかったから。多分アレはこの時の為に生まれてきたんだ。
さて、被害報告に戻ろう。
突き刺さるように飛び出した爆風はどんな風にエネルギーが作用したのかわからないけど、なんとヤツの左後ろ足を千切り飛ばした。規模が違うけどクリスマスチキンのような左後ろ足は、肉の焼けた香ばしい良い匂いを発して本体から結構離れた地面に落ちた。
切断面は残念ながら熱でヤられて止血されちゃっているのが勿体無い。失血死してくれるなら逃げ回っていればいいから楽だったけど......まぁいい。
とりあえずかなりの範囲の岩鱗が剥がれているから、今後の攻撃面は楽になると思う。
「まぁアレだ。アイツが落ち着くまでMP回復を兼ねた休憩をしていよう」
痛みと怒りで最早近付ける気がしない大暴れの岩山龍を放置して一旦通路に避難していった。ナイフ君はごめん......自力で戻ってきてくれ。
◆◆◆◆◆
MPが全回復するまで階段まで戻って休憩した。
その間、ずっとドッタンバッタン音が聞こえてきていて正直休んだ気はしなかった。てかいつまで暴れてるんだよアレ......燃費クソ悪そうな外見していながらスタミナ化け物かよ。
「はぁ......あの作業をもう一......三度か......」
休憩を挟んだ事でモチベーションは最低まで落ち込んでしまった。というか難易度がゲロ上がっているのも追い打ちになっている。
クソ精度の低い迎撃だけをしていたあのヌルい時とは違う。全力で暴れるあの中に飛び込んであの作業をしろとか......本当にクソゲー......
「ナイフ君さぁ、あのヒく程暴れてる岩山龍の傷口にブッ刺される?」
俺が撤退するのを見てちゃんと戻ってきていたナイフ君にそう訊ねてみる。やれるかなって一縷の望みを賭けて......
「......あかんかぁ」
速攻でバツ印を地面に書いたナイフ君。まぁ機動力の無いナイフ君にはダメなようだ。
とりあえず機動力のある俺でもアレは無理。投擲でブッ刺そうとしても頭の方に向かうから無理。頭に刺さるかと言われれば、断じてNO。
「詰んだかコレは......」
とりあえずお試しでもう一回、俺が有する最大火力の鉄砲玉ヒヨコを向かわせてみた。
それからも暴れる音が続いていたので四度、ヒヨコを投入した。でもまだ音は止まない。
合計五回ものヒヨコマイトで発破をかけてもまだ暴れられる岩山龍は何なんだろう......バランスブレイカーすぎる。突然あのクソ鎧とか、今回のコレにぶち当たるのは嫌がらせが過ぎる。
でもバランスブレイカーというよりもエンドコンテンツな悪魔さんとババアは味方なのが救い。逆鱗がわからないから今の所は......になるけど。
今後あの二人ともし何かあって敵対関係になってしまったとしても、その時俺は黙って殺されるだろう。それくらい......心の部分を救われた大恩人。
「はぁ......思考が脇道にすぐ逸れる」
ヒヨコを出す毎にMPを少しずつ増やしていった結果、98%のMPを削られた今の俺は凄く体調が悪い。そんな頭では上手い策なんて浮かばない。少しでも辛さから意識を逸らそうとしてしまっている。
「ちょっと休んでからどんだけ被害出てるか見に行こう......俺は今すぐは無理だ。ナイフ君は行きたきゃ行っていいよ。殺れそうならそのまま殺ってもいいし、無理そうなら戻っておいで」
自由行動の許可をナイフに与えて、俺は横になった。
◆◆◆◆◆
横になっても煩すぎて全然眠る事ができず、ただただ無作為に時間だけが過ぎていった。暇を持て余した俺はステータスチェックを開いてボーーーーッとMPが増えていくのを見ていた。
MP40%半ばを超えた頃、ナイフ君が帰還した。
ヒヨコは右前足、左前足、胸近辺、腹を狙って爆発らしく、その部位にある岩鱗はソレを受けて溶けたっぽく、まるで金属の様になっているらしい。
報告はとてもわかりやすかった。このナイフは俺より知能がある。最終的にはコイツ喋ったりしだすんじゃないかな......考えすぎか?
「とりあえず爆発だと岩鱗を貫けない......と。どないせぇっちゅーねん」
思わずエセ関西弁が出てしまうくらいには八方塞がりな事実を教えられた。目の前には一度戻ってレベルを上げるか、このまま挑むかの二択が提示されている気がする。もっと他の選択肢よこせ。
「またあのクソコウモリ階や空の王者階をやるのか......やだな。他には何か手はあるか――」
数分間熟考したタクミは、とりあえず見に行って、それから後の事を決めようと結論を出した。いつも通りの出たとこ勝負、行き当たりばったり理論。
だが、それでいい。
どう足掻いても脳クチュされるくらいの改造を施されない限り、タクミには頭脳戦など夢のまた夢なのだから。
MPは50%を超えた。これならまぁ、戦いになっても逃げは出来る。
目的地に近付くにつれて轟音と振動が大きくなっていく。どれだけ元気なんだよ......と、げんなりしてくるのは仕方ない。誰だってガチで怒り狂って暴れる恐竜に好んで近寄りたいとは思わないだろう。
「INT0の肉体で言葉を語るヤツは恐ろしいなぁ」
尽きないスタミナ、身体は凶器、パワーは兵器。暴れるだけで殺せる弊害だろうけど、これに知能があればもう手遅れだった。
......俺も似たようなもんだとか思ったそこの君達、いいですか? ......俺のINTは凡そ10程度はあるはずだからアレとは違うのですよ。
「一発叩いてから考えよう」
岩鱗が溶けて金属アーマーに変わった岩山龍......岩山っぽさは消えたけど、まぁそれはいい。どれくらい硬いか調べなきゃ。
「GUOOOOOOOOOOO!!!」
相変わらず隙が多い。
けど、一撃でも喰らったら即超絶ミンチになるのは変わらない。気を付けていかなきゃ......
「フッ!!」
飛ばしてくるモノは金属のような光沢が出ていた。
纏うモノで性質が変わるとかちょっと厄介すぎないかな? こっちは手札全部切ってるのに。
「――ッッぶねぇ!!」
余裕を持って避けたはずだった飛来物は、途中で分裂して軌道が変化した。スレッスレで直撃は避けられはしたけど掠った首の肉はごっそり抉られた。俺の姿を完全に認識してるのか? だとしたら拙い事になった。
先端が適度に尖ってたからこの程度で済んだけど、尖ってなかったら......多分首が弾けてた。危機一髪。
「タネさえ割れればンなもん喰らわないッ」
初見殺しは初見だからこそ意味がある。避けたら割れると知っていれば問題ないはず。
ややオーバーに、そして不格好な避け方になってしまった為に近寄るのに時間が掛かったが、タクミは漸く岩山龍の元に辿り着く。
「じゃあ早速......オラァッ!!!」
金砕棒をありったけの力を込めてフルスイング。
金属のプレートを纏った横っ腹に吸い込まれ......
「GUGAAAAAAAAAAAAAAA」
結構ベッコリ凹んだ脇腹部分に口元が緩む。これならば......
しかしそう簡単にはいかないのがユニークモンスターだろう。今の一撃で完全に居場所を把握された。そしてこれまでが生温すぎたと思える怒涛の攻撃が始まった。
「うっ」
脇腹の金属アーマーから棘が伸びてきた。そのまま飛び出す棘だったり、鞭のような形状だったりとバリエーションは豊富だ。
「そっ」
俺の居た場所の地面が陥没した。
「だっ」
当然その場から逃げだそうとした俺に金属弾が飛んでくる。
「ろぉぉぉぉぉぉぉぉ」
逃げる事叶わず、擂鉢状に凹んだ地面に落とされる。だが今は攻撃は受けていない......でも被弾無しの時間が終わるのもそう遠くない未来。
「............おいおいおいおいおいおい」
視界が暗くなっていく。
でもこれはショックな出来事が許容量を超えたとか、モンスター同士のバトルに負けたとか、死ぬ直前とかの表現じゃない。物理的に、だ。
「まだ俺が残ってるだろーがっっ!!!」
絶体絶命ってこういうことなんだろうね。
俺は岩山龍のあけた穴に落とされ、その穴が塞がれてしまった。
岩山龍の腹で。
モンスターのハントをしていたと思ったらいつの間にか、暗い穴の中で蓋の腹から飛び出す金属棘や鞭や弾を避けながら脱出を目指す羽目になった。
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