第111話 元凶折檻
何かしらの体液に塗れてビクンビクンしている肉塊が気持ち悪い。ババアにグチョグチョにされた挙句に踏まれて喜んでいるようにも見える。
「上位種族って業が深いんだなぁ......」
肉塊状態でも勝てないと本能が警鐘を鳴らしてくるのでここは大人しくしておく。ちょっとだけアレにナイフをぶっ刺してみたくなった事は内緒だ。
『さて、坊主よ』
歓迎の言葉の後も肉塊を踏んだり蹴ったりしていたババアだったが、ニコニコ顔の悪魔さんに促されて俺の方へ向き直る。絵面的に猟奇的すぎるからその肉塊を片付けてからにして欲しいんだけど......
「うん」
とりあえず当たり障りのない返事で様子見。何を言われるんだろう? てかなんで今回はこんな事になっているのか全然わからない。
悪魔さんは相変わらずニコニコしていて何か聞ける雰囲気じゃない。クソッ、場がカオスすぎる!!
『あー、今ここで肉塊になってるコレがの、坊主にクソみたいな人生を歩ませる元凶になったクズだ』
「あー......」
『コレの名は
紫のドロドロになってる肉塊もといアウなんとかさん。アウなんとかって悪魔、居たかな? 七大罪ですら全部言えないのに知らねぇよ......ドマイナーな奴なのか?
俺の魂にが気に入って呪いを掛けたクソオブクソのクソ野郎。そっかぁ、ぜーんぶコイツの所為だったのか......ふーん。
「ナイフ、とりあえず刺さっていいよ。食えそうなら肉を食っちゃっていいから。もしコイツが硬くて刺されなかったら......ババアか悪魔さんに手伝ってもらおう。ババアと悪魔さんもそれでいい?」
『ヒッヒッヒ』
『うふふふふ』
首を掻っ切るモーションをするババアと親指を立ててニッコリ微笑む悪魔さん。さすが、頼りになるぅ。
頼りになる初めての味方に感動しつつ、ナイフを取り出して床に置いた。
いつもの五割増しでウネウネしているヤル気満々のナイフ。その圧倒的触手っぷりに悪魔さんがビクッとしていたのが可愛かった。ババアはなんか凄く楽しそうにしていて俺もなんか嬉しい。
『あ、アレは......なんですか?』
「え? あ、うん、アレは元は肉食ナイフって言ってただの丈夫で肉を食べるナイフだったんだけど、なんかいっぱい肉を食わせてたらいつの間にか触手が生えて動くようになってたよくわからないヤツ」
『え、えぇぇぇ......』
説明を求められたから説明したのに、なんかドン引きされてしまった。悪魔さん、触手になんかトラウマあるのかな?
『ヒッヒヒヒヒ......今のお主じゃまだコレに刺されないじゃろ。ほれ、此処じゃ』
ババアが肉塊を指差し、指を下にスワイプすると肉塊にヌルッと切れ目が入った。あれ、一体どうやるんだろう......てかわかりきってたけど、その想定していたモノ以上にババアが強すぎやしないかな? 俺、ババアがその気になった場合、近付ける気さえしないんだけど。
「うわぁお......」
切れ目が入ってから数瞬遅れて真紫の体液が周囲に飛び散る。あの液体は血、だったのか......
ナイフは体液の飛散に怯む事なくババアの入れた切れ目に勢い良く飛び込んでいき、すっぽりとハマった。ついでに飛び込む勢いそのまま触手でも攻撃してみたらしいナイフだが、触手の攻撃は肉塊に傷一つ付けられなかった。完全に見た目は毒々しい色のヤバい生肉なのにすっごい硬いんだなぁ......
『ヒッ......』
悪魔さんは悪魔さんで、ナイフにドン引きしている。きっと昔に触手から何か酷い目に遭わされたんだろうなぁ。ご愁傷さまです。
さて、絶賛ドン引かれ中のナイフは音を立てて肉塊の中身を壊しているか食べている。どっちかは本体じゃないからわからない。犬が咥えたタオルを引きちぎろうするように、突き刺した刀身を思いっきり捻っては戻して、また捻って戻してを繰り返している。
「あの肉塊の肉、美味しいのかな? あんな楽しそう? なナイフは初めて見るよ」
全触手から溢れ出る歓喜っぽい雰囲気からきっと美味しいんだろうと予測。そんなに美味しいのならば、と俺もナイフが刺さった肉塊に手を伸ばし、食欲を唆らない液体に吸収する。
「―――ヒギィッ!?!?」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッッ――
「ガァァァァァァアッッッ!!!!!」
全身を内側から刺すような痛みが襲う。
文字で説明するならそれでしかないが、痛みには慣れてしまっている俺ならば大した事ではないと思える感じのソレが凄まじい痛みを俺に与えてくる。耐えきれずに情けなく悲鳴を上げてしまう程度には痛かった。
日常生活で負うようなダメージには強いが、神経を経由した痛みには弱いみたいなものである。
「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァァァア゛」
『ちょっと!? 大丈夫なんですか!!!』
触らないで!! 揺らさないで!! 抱き締めないで悪魔さん!!!! ダメ、無理、痛い!!!!
『ヒッヒッヒ、ほれ早く坊主から離れて布団でも敷いておやり。お主も経験があるじゃろ? 上位種族をぶち殺してマナを奪った際に起こったアレと似たようなモンじゃよ』
ナイスだババア!!! 悪魔さんにもっと言ってやってくれ!! てかババアはこれが起きた原因を知っているのか? この痛みを和らげる方法とか教えてくれたら嬉しいんですけどぉぉぉ!!!
『あ、アレですか? でも私の場合はここまで酷くはなかったですよ......』
『そりゃあそうじゃろうが......その時のお主と坊主では格が違うわい。ギリギリお主を認識できる程度の坊主がアウ■■なんかの因子を吸収したらどうなるかくらい、冷静に考えたらわかるじゃろうが。この行動は流石に読めんかったわ』
「ァ゛ァ゛ァ゛ァァア゛ッッ!!! カハッ!!」
クッッッソ!! ナイフの所為だ!! テメェが美味そうにしてやがるから......!!
絶叫で喉が裂け、血反吐を吐きながらのたうち回る。
現在匠の体内では破壊と再生が際限なく繰り広げられている。圧倒的格上の因子を取り込み、その因子が取り込まれてたまるかと暴れているのだ。
言うなれば、ウィルスと免疫機能の争いに似た物である。普通は何個も格が上のモノに侵食されれば体内を破壊されて侵食の進みが迅速に行われて死に至るが、匠にはチートクラスの再生機能が備わっていた。
それ故に、拮抗してしまった。だからこそ起こる痛みに、匠は今物凄く苦しめられている。
悲しい事に匠の生命線であるチート爆速回復のスピードの方が若干勝ってしまっているのも痛みを加速させる原因でもあった。侵食が思うようにいかず、暴れ回っているからだ。
「クッッッソがァァァァァア゛」
意識を失えない辛さ。無駄に痛みに強いから許容範囲を超えずに意識を飛ばせない。
『お、お布団の用意が出来ました!! 運びますんで少しの間我慢してくださいね!!』
何か言われても返事は出来ない。出たのは嫌だという意志を込めた呻き声だけ。だけどそれを了承と捉えた悪魔さんに腰の辺りと膝の裏に腕を通されて持ち上げられた。すっごい痛かったのは言うまでもないだろう。鬼! 悪魔! 悪魔さん!
所謂お姫様抱っこというヤツで運ばれた俺は布団の上に寝かせられた。やっと、恥ずかしいのと揺れと触られる痛み地獄が終わった。
『それじゃあそのまま大人しくしててね。エイッ』
と、そう思っていたら最後に何かをされた。
「あ゛っ゛......ア゛ァァァァァァァァァッッ」
四肢を拘束されたと理解するのに時間は掛からなかった。
『動くと余計に痛いからね』
強引に大の字にされた事で鋭い痛みが全身を駆け抜けたのは言うまでもないだろう......
◆◆◆◆◆
匠が拘束されて数分後、ナイフが突き刺さった肉塊から離れた。
『驚いたわい。よくアレを食って無事でいれたのぅ』
何も変わりなかったので、ナイフは触手ランゲージで驚いているババアに無事を伝えた。
『ヒッヒッヒ、坊主は妾を退屈させないわな......
さて、おいクズ。貴様が死ねば色々と面倒になる故、力の半分を奪うだけに留めたが......貴様は確り坊主へ誠意を見せろ。良いな? 不服なら妾が貴様を殺す』
『わかってるよ......ちゃんと大人しくしてたんだから少しは信用してよ。あーあ......あの子の感情や生き様はすっごく気に入ってたんだけどなぁ......』
肉塊はみるみる内にヒトのカタチを成していく。
全裸で性器の無いのっぺりとしたマネキンの様な身体に三日完徹した後のような顔が付いた。
ソレが発したのは酷く気怠げで、覇気のないヌメッと耳にこびり付くような声が紡ぐ言葉はババアの癪に障った。
『ヒッヒッヒ――死ぬか貴様』
次の瞬間、熱の一切籠らない声と共にヒトガタが弾けて床を汚した。
『や、ヤメッ......コアはッ――』
『............』
『わ、わかった!! わかったから......コアを離してくれッ』
ババアは苦しむ匠を適役に任せ、元凶との話し合いを続けていく。
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