第105話 VS蛇皇后
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エキドナエンプレス
レベル:47
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ベビーエキドナ
レベル:1~3
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ふぅん......
俺でも知ってるような有名なモンスター。大体の作品で雑魚とは描かれないエキドナ。確かエンプレスって皇后だった気がするけど、まぁ違っていてもロイヤルな部類だったと思うからやっぱり強いんだろう。
でもなぁ......アイツが食料兼経験値にしているであろう子供たちをそのまま育てていたら脅威だったんだろうけど、単体のみならば負ける気はしない。難しいとしても自分のガキを搾取対象にしているようなクソ親には、絶対に負けていられない。
「シュルルルルルルァッ!!」
食事中にやって来た招かれざる客にご立腹なんだろうがとにかく五月蝿い。キンキンと耳触りな音を出して睨むなクソが。
「死ね」
家主と侵入者の目と目が合うと即座に殺し合いが始まった。
絞め殺したベビーエキドナを放り棄て、エキドナエンプレスが匠に向けて跳ぶ。
跳躍する素振りは全く見せていない。動きの起こりが皆無な、身体能力で起動するノーモーションでの鋭い跳躍。
ただ、それに怯む匠では無い。
己に向けて高速で飛来する物質をただただ冷静に迎え、金砕棒を合わせた。
ギャリィィィィィンッ―――
後退も回避もしないのが予想外だったのか宙空で身体を捻り、自身に迫り来る金砕棒へ尾を叩き付ける。金属同士が擦れ合うような不快な音を響かせ、両者の最初の攻防は終わった。
相手との距離は再び大きく開き、一旦仕切り直しかと思われた次の瞬間――
「死ね」
匠は間髪入れずに攻めに転じた。
匠はその場で脱力し、世界一有名なマイケルさんのゼログラビティの如く前のめりに倒れ込む。
不可解な行動にエキドナエンプレスは困惑しつつも油断せずに何が起きても対処できるよう神経を張り詰めさせた。
倒れ込みながら素早く右足を前に滑らせ、鋭く残った左足を引いた。匠が行ったのは偶然だが、スキルや創作などの縮地ではなく古武道で言う縮地法をぶっつけ本番で使ってみせた。
古武道など全く習っていない匠だったが、ダンジョンで揉まれ続けて独自に進化し戦闘に特化していった影響がここで活きる。スキルの【歩法】と【空間認識】が仕事をし、エキドナエンプレスとの距離と最適な行動を示唆。深く考えずとりあえずやってみればいいさと即座に行動し、それが功を奏す。
「ジャァァァァッ!?」
倒れ込んだと思った次の瞬間に、敵が目の前で金砕棒を振り抜こうとしていたエキドナエンプレスの驚きは相当だろう。
ただ驚いてばかりではいられず、回避も防御も万全には出来ないと悟ったエキドナエンプレスは即座に両腕を金砕棒の軌道に置く。先程尻尾で弾けた事から、両腕に尻尾よりも強靭な鱗を生成した。
「死ね」
「シャアッ!」
受ける直前、不意に背筋が冷えた。
このまま受けては不味い......そう直感したエキドナは利き腕を引き、金砕棒が振り抜かれる方向へ不完全な跳躍を試みた。
金砕棒と衝突した右腕の鱗はバキバキと音を立てて砕け、それだけに留まらず骨に軽くないダメージを与える。金砕棒に付いた不規則な突起は皮膚にまで到達して刺さり打撃の威力で吹き飛ばされる時に傷口を引き裂いた。
「ジャアッ」
痛みに顔が引き攣り声を漏らすエキドナエンプレスだったが瞬時に持ち直す。ここら辺は流石に強者といった所か。
「ギギャッ!!」
どうやらブチ切れた様子で地面を尻尾でビタンビタンと殴りつけるエキドナエンプレス。最初から全然無かったがロイヤルな感じは完璧に消えている。
「死ね」
慣れない行動の所為で体勢を建て直す必要があって時間をロスしてしまった。ここは今後の為に要修正と反省しながらエキドナへ襲いかかる。
あっちは俺から目線を外していないが体勢は建て直せていない。チャンスだ。
再びの縮地法で距離を詰め、振りかぶった金砕棒をお高くとまった横っ面へと―――
「......は?」
振りおろせなかった。
エキドナエンプレスが睨み付ける視線の先、金砕棒を握った右腕。其処へと視線を向けると黒曜石のように変貌した己の右腕が在った。
「......チッ」
名前も違うし毛髪が蛇じゃないからメデューサでは無いと思っていた。考えが甘かった。此処はダンジョンという意味不明な場所。
エキドナがメデューサのような能力を持っていても何ら可笑しくはない。その代表的な例が自分自身。正にその身を以て証明となる。
「ショロロロロッ」
腹が立つ笑みを浮かべて勝ち誇る目の前のモンスター。クソがッ!!
「死ね」
腕が動かせなくても今は移動中......余裕で勝ち誇る馬鹿に当てられる。
身体を全力で捻り石化した腕ごと金砕棒を、嗤う蛇女の隙だらけの額に叩き付けた。何を驚いているんだろうか......理解に苦しむ。
「死ね」
衝撃で砕けた腕の跡から新しい腕を生やし、役目を果たし地面に向けて落ちる金砕棒を掴んで振り上げ、顎を搗ち上げる。確かな手応えに満足し、こちらに向けて振るわれた尻尾の一撃を甘んじて受ける。
パァン―――
人には元から無い部位故に尻尾の一撃は読み難い。胴体を太い尾で払われ、肉片を撒き散らす。
どちゃりと力無く地面に下半身、上半身と落ちる。
地面に落ちると同時に下半身が生え、再びエキドナエンプレスの懐へと飛び込む。再生するのが遅かった気がするが誤差の範囲と流し攻撃に集中する。
「シャシャッ」
加速する攻防。
エキドナの割れた鱗や血が飛び散り、匠は石化した部位をそのまま叩き付け、砕けた石片が舞う。
足を止めてのインファイトが続く。互いに距離は取ろうとしない。意味不明な距離を潰す技を恐れるエキドナエンプレスに遠距離で石化されるのを恐れる匠の思惑が一致していた。
鱗で強化された腕、斬れ味鋭い爪、石化のナニか、変幻自在の尾とバラエティ豊富な攻撃を良いのを貰わないように捌いていく匠。石化した箇所は即座に防御に使って壊し、新しいのを生やして対処していく。
そうこうしているうちに石化させられる事にも慣れ、自ら砕いてエキドナエンプレスの顔面に目潰しとして欠片を飛ばしてみたり、へし折った腕を掴んで鈍器として使用したりとバリエーションを増やしてじわじわとエキドナを押していった。
戦闘能力自体は拮抗していたが、時間経過と共に無傷で見た目は元気いっぱいの匠とボロボロのエキドナの差が浮き彫りになってくる。
血は最大値の1/10以上を使用してしまっているが、激戦の最中に確認する余裕は無いので「結構減っている」程度の認識であった。
「......ジャァァァァッ!!」
突如、目を充血させ血混じりの唾を散らしてエキドナエンプレスが吼える。匠の攻撃が僅かだが大振りになったのを見極めた。テンションが上がり、知らず知らずのうちに力が入ってしまった。精神的な未熟さと経験の浅さによる、失態。
このままでは何れ削り殺される気がしていたエキドナエンプレスには、降って湧いた好機すぎた。この殺し合いの決着を急ぐ覚悟を決めた咆哮と共に奥の手を放った。
「死n......ッ!?」
動きが、止まる――
大砲が降り注ぐような攻撃を仕掛ける最中、エキドナエンプレスが全力で放った石化の魔眼により匠に致命的な静止時間が生まれた。
四肢の先端から肘、膝にかけては石化、肘や膝より先から首にかけては半石化が瞬時に起きる。
戦っている内に幾度も石化を食らい石化耐性がレベル3になっていたお陰でこの程度で済んだが、耐性の無い相手が食らえば即座に全身石像になる威力の、正真正銘エキドナエンプレスの虎の子の一発。
MPの大半を注ぎ込んだ技を不完全だがレジストされた事にプライドを傷付けられたが、一応成功した事でそれらをグッと飲み込み......唯一生の状態な匠の頭部へ渾身の尾の一撃を叩き込んだ。
ぼっ――
防御力皆無な匠の頭部は、まるで素振りをしたような音を残して粉々に吹き飛んだ。
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スキルのレベルについて
・Lv1~3
スキルを習得して使っていさえすれば比較的簡単にレベルが上がる
意識せずとも行動にある程度補正あり
素人以上、中級者未満
・Lv4~6
実戦で使い込まなければレベルが上がらない
無意識下でも行動に補正がかかるが意識して使えば有り無しでかなり違う結果になる
中級者以上、熟練者未満
・Lv7~9
同格以上との死合いで使用していなければ経験値が貯まらない
Lv6以下とは一線を画す行動を取れる
熟練者相当
Lv10
鍛錬と実の果てに辿り着く境地
Lv9と比べれば威力や動きが別物
達人相当
・スキルの進化
これまでの行動と潜在能力、才能が合致、またはイレギュラーな存在の介入や特殊な条件下であれば進化する事がある
進化した物はそれ以前のレベルや効果を内包している
最適な行動を取っていればレベルは上がるが、その1レベルが遠い
・スキルレベルの無いスキル
熟練度有り(目視不可)
内部的に熟練度が蓄積していき100まで貯まれば0の頃と比べて1.5倍程違いあり
※スキルによっては当て嵌らない物もある
・種類
・下級スキル
・中級スキル
・上級スキル
それまでの行動、特殊条件のクリア、アイテムの使用で覚えられる
・特殊スキル
先天的、才能の発芽、偉業達成等で覚えられる
例:部分魔化、精神的支柱など
・超級スキル
偉業達成によって与えられる世界に唯一人だけのスキル
例:不死血鳥など
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