第98話 金砕棒

 ※男性読者の皆様へ


 今話の最後は頭空っぽにして、想像力を0にしてお読み下さい。どうか男性読者様方の豊富な想像力をオフにしてお読み下さい。

 決して想像力を働かせてはいけません。羊さんとのお約束ですよ!!

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 これまでにないヒリつきを感じる攻防が続く。


 樹齢百年以上の大木をぶん回しているかのようなぶっとい腕が空を切り裂きながら襲い来るのを落ち着いて躱し、反撃の隙を探っていく。


 驚異に感じたのは動きの速さ。

 痛みにも怖さにも慣れている匠だったが、一発受けたら頭が飛びかねない攻撃は流石にヒヤヒヤしてしまい思い切った行動に移れない。具体的に言えば、一つミスれば即全身ミンチの攻撃にビビり肉を切らせて骨を断ついつものゾンビアタックが出来なかったのだ。



 ファーストコンタクトは飛び掛る俺に合わせて拳を突き出すだけの攻撃だった――所謂ただのジャブなのだが、巨大な体格に似つかわしくない速さとキレに加えて、圧倒的なリーチの長さにこれまた巨大な拳。その所為で回避がギリギリとなってしまった。

 何とか空中で強引に身体を捻り初撃を躱すも、体勢が崩れてしまい反撃が儘ならず、そこからは4本の腕や棍棒がひっきりなしに匠へと襲いかかり主導権はあっという間に巨人へ。


「あー......ちくしょうッ!!」


 幸い対応出来ない程のスピードでは無い。避け続けるだけならば問題はないのだが、己のスタイル的にこんな消極的な戦いは許されないが一度傾いた流れはそうそう変わらず耐える時間が続く。


 それからも耐えに耐え――そして待ち望んだ特大の隙がようやく、来た。


 ――のだが......


「ゴガァァァァァッ!!!」

「ギャガァァァァッ!!!」


 叫びだけでも攻撃になるとか巨人は狡い。空気が震え、身体が揺さぶられる。追撃を捌くのには成功するも平衡感覚が少し狂ったようで足元が覚束無い。

 大きく仰け反るモーションを取り隙だらけになったので、さぁ反撃だ!! と懐へ飛び込んだ所に予想だにしないカウンターが飛んできたのだ。


「くっ......っそ」


 奥歯を噛み締め不快感を耐える。

 ここまでのコンビネーションを発揮するモンスターはこれまで居なかったので、このデカブツ共を少し甘くみすぎていたようだ。


 俺の状態が可笑しいのを見て攻撃を苛烈にしてきた巨人共の攻撃を五発を避けた頃、ようやくフラつきが収まる。

 前にやったゲームであった、吠え声に吹っ飛ばされる狩人の気持ちがわかった。度を超えたデカい声は凶器なんだな。


「......うん、もう大丈夫かな。じゃあ反撃といこうか」


 まだフラフラしているフリをしながら機を待つ。大振りは決してせず、コンパクトに連打を放つのを、避け、避け、避け、避け......


 十数発を避けた所で、まだ避けるか!! とでも言いたげな恨みがましい視線を向けた巨人は、大きく仰け反り再びバインドボイスを繰り出すモーションを見せた。


 ――来た!! 今度は失敗しない!!


「ォォォォオッ......ラァァァァ!!」


 大技の発動の為に隙だらけな巨人共。


 一体の喉に向けて金砕棒を投げ込み、もう一体へは剥き出しの喉元へ飛び込み拳を叩き込んだ。


「ざまぁっ!!」


 拳も金砕棒もジャストミートし声にならない悲鳴をあげ、喉を抑えてのたうち回る巨人を見下ろし一言。やっとスッキリできる一撃を与えられた。


「――っと、喜んでる暇は無いや」


 金砕棒がぶち当たった巨人に狙いをつけ、急いで側に落ちている金砕棒を拾い、涙に濡れる大きな見開いた目に金砕棒を刺し込み、思いっきり捻る。

 確かな手応え、グジュッと湿った音、金砕棒と共に眼球がグルッと回り視神経が千切れる音......どれもが心地良くて自然と笑みが溢れる。


「フフッ......アハハハハッ!! まず一体撃破ァッ!!」


 残念な事に相手がデカすぎて金砕棒が脳まで届かなかった為、致命傷は与えられなかったが無力化する事はできた。それでも生かしておけば厄介になるので確実にトドメを刺す為に金砕棒の先にヒヨコを生み出して爆破。

 とりあえずこれでもう鬱陶しい連携はされなくなった。ストレスを溜めさせやがって......さぁタイマンで勝負しようじゃないかデカブツ!!


「――――ッッッッア゛!!!!!」


 自分の喉が潰されたのと、自分の片割れが潰されたのを見て怒りの咆哮をあげたつもりのデカブツB。アブねぇ、喉を潰しておいて良かった......


 俺もそうだからよーくわかるけど、怒ったりして冷静さを失うと攻撃や動きは単調になって読みやすい。


 故に......――


「――ッッ!?!? ァァァア゛!!!」


 カウンターを合わせやすい。


 俺に向かって来る拳の小指に合わせて金砕棒を叩き込む。それも突く形で......どうだ? 痛いだろ?


「キヒッ......ヒヒヒヒッ」


 そうだ、もっと怒れ! 焦れろ! 普段は見下しているような小さくて弱い下等生物に難なくあしらわれる気持ちは......結構クるモノがあるだろ?


 完全に冷静さを失った巨人は大振りのパンチと腕の振り回しの二つの攻撃のみしか来なくなる。なので慌てず指の関節や肘に打突を合わせてジワジワと削っていく。物防が高すぎるのか種族特性なのか、一気に大ダメージは与えられないのがもどかしいがこればかりは仕方ない。


 ......それにしても冷静な時から蹴り技を使わなかったが、まさかコイツらは足腰が弱いんだろうか? 狙ってみるのいいかもしれない。


「バカがッ!! 悔しかったら当ててみろ!! アハハハハァァァァッ!!」


 相手がブチ切れていると自分は冷静になれる......そう聞いた事はあった。それで実際に体験してみると確かにそうだった。


 今の俺はとても冷静で集中出来ている。


 だけどデカブツAの死体から漂ってくる濃厚な血液の臭いが心を揺さぶり集中を邪魔してくる......早く終わらせないと酔ってやらかしてしまいそうだ。


「やば......早く終わらせよう......確か人体の急所は眉間や人中、コメカミだったよな」


 モンスターに人体急所があるかわからないけど、今後の事を考えて試してみようと思う。丁度いい事に人型で大きい、そう人体実験に最適なモンスターがいる。もしダメでも驚異じゃないこのデカブツは動かなくなるまでただ殴ればいいだけの事。


「まずはコメカミッ!!」


 打ち下ろしの右腕を避け、そのまま腕を駆け上がりがら空きのコメカミに右拳を叩き込む。


「――――ッッ」


 意識外からの一撃に思わずたたらを踏む巨人。結構効いたと思ってもいいのか?


「次ッッッッッ!! 人中ッッ!!」


 俺を蚊のように叩き潰そうと手が迫ってくるのをソッと避け、自分で自分を攻撃してしまったバカを後目に鼻と口の中間にあるよくわからない溝に金砕棒を全力で叩き込む。ミシッと音が聞こえた。

 眉間は目が一つしかないので場所がわからず断念。


「どこかしら折れたのかな? ――おっと」


 いまいちダメージの入り具合がわからないが、とりあえず痛がっているから良しとしよう。

 頭を振り回して俺を遠ざけようと必死なので一度下に下りてがら空きな右足の親指の爪の根元に金砕棒。骨を砕く感触がしたので直ぐにその場を離れ、左足の小指の根元にまた金砕棒。上からは悲しそうな悲鳴が聞こえる。


「............地団駄踏むモンスターって」


 足元に居るであろう俺を踏み潰そうとストンピングを始めたデカブツだが、どうみても癇癪を起こしているようにしか見えない。指が痛いだろうによくやるな。


「......うん、コメカミや人中は特に急所という訳ではなさそう。次はどうしよう......次は肝臓とかかな? 後はやりたくないけど......金的」


 単細胞なモンスター相手に人体破壊実験を繰り返す。すっごくやりやすくて笑ってしまう。


「アハハハハッ!! オラッッ!!」


 肝臓への一撃は結構効いたらしく、その場で崩れ落ちて膝を付く巨人。どうやって金的に金砕棒しようかと思っていたが、思いがけずに絶好の機会が到来してしまった。とりあえずデカい。何もかもが。


「............せーーーーのっ!!」


 パチュン――


 破裂寸前の風船程の金の玉へ金砕棒。


 思わず内股になってしまったが、確かな手応えが金砕棒から手に伝わり......間違いなく怪物の金を粉砕した事を俺に伝えた。


「くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」」


 聞き取れない意味不明な叫びを残し、巨人は泡を吹いて地面に倒れ伏した。モンスターでも......そこは効くんだね......

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