第97話 参観/拾得物

「はぁ......いい加減少しは落ち着いたらどうかえ」


「いえ、これは落ち着いていられません!! あっ!! なんと卑劣な!!」


 のんびりとした日々の生活を満喫しているババアと悪魔は、喫緊の仕事の類いの物を全てやり終えて改装されたボス部屋の奥で匠が来るのを待っていた。その様子はもう、晩年に趣味を見つけてガッツリのめり込んでしまった中年男性のように......



 その部屋はダンジョンと云うには余りにも異様だった。


 個人シアターのように白く大きな布を壁に貼り、部屋の中を薄暗くして映像を投影していた。(※泥爆弾を喰らった場面を視聴中)

 鎧に殺されかけたのを見てから悪魔さんが匠に対して若干過保護気味になり、上の空になって仕事でミスをするようになってしまったので、前回の会計時に会員証ことババアの加護に手を加えて常に会員証から不可視のドローンっぽい物を出す仕様に変えていた。

 鎧の時に見た物よりも高画質であり、ババアが仕事が終われば見ていいと悪魔さんに告げる。匠を見守りたいが為にコレを導入後の悪魔さんの作業効率は劇的に上がった。


 ・リアルタイム映像を端末で見れる機能

 ・仕事中見れない時に映像を録画しておく機能

 ・大画面で臨場感のある映像をお届けする機能(※この機能使用時はリアルタイム映像だと若干のタイムラグ有り)


 追加されたのは上記の通り。要するにペット見守りカメラに個人シアターを追加したような物である。無駄にハイテクだが、これはババアの旧い知り合いに魔法に長けた者が居り、その人の魔法を見た事があったババアがアレンジしたモノだ。


 現代物で表現すればこんな物かと思うだろうが、時空干渉や過去視など、取得難度ヘルのスキルや超級魔法、激レアスキルなどがこれでもかと詰め込まれているので、現世ではババアや知り合いの一人以外には使える者は居ない。魔法研究者がこれを知れば「技術の無駄遣い」と白目を剥きながら言うだろう。


「はぁ......あんなに汚れてしまって......お風呂に入れて洗ってあげたい」


 匠の乱戦を見終え、深い溜息を吐きながらそんな事を宣う悪魔さん。


「......お主にそんな一面があったなんてのぅ」


 自分の側近の壊れ具合いに深い溜息を吐くババア。そう言いつつも匠の映像はキチンと見て、内心ヒヤヒヤしていたババア。実は似た者主従な事に気付いていないようだ。


 年がら年中殺伐としているダンジョン内でもババアショップは今日も平和です。




 ◆◆◆◆◆




 轟音が鼓膜を揺さぶる。


『レベルが16上がりました』


 こんなアナウンスが聞こえてきてビビった。と、共にあの妖精が死んだと悟る。


「どの条件に引っ掛かって死んだかは知らないけど、アイツの戦闘能力の低さと経過時間を見るに敵を全滅させたでは無さそうだから......やっぱり信じなくてよかったわ」


 匠はこれ以降、絶対にモンスターの命乞いや供述を信じない事に決める。モンスターもあの屑共と同じで畜生にも劣る存在と深く心に刻んだ。

 メリットデメリットを明確に提示されようが、魔法的な拘束付きでの命乞いをされようが、これ以降は徹底的に無視する。どうせそれすらも自分にはわからない抜け道があるだろう、と。


「ババアと悪魔さんは例外だけどな。あの二人......二人? 他に適当なのがわからないから二人でいいか。あの二人に騙された上で死ぬのなら、それはそれでいい。さて、まだ熱いだろうけど現場を見に行こうか」


 悪魔さんには腕を引っこ抜かれたけど、アレは自分の物防の低さが招いた事故みたいなもんだ。あの二人からは嫌な視線も何も無い。優しくしてもらえた。それが何よりも嬉しかった。

 だから、例え裏切られようが最後まで信じる。他は......要らない。望まない。


 敵は殺す。敵じゃない奴相手でも、俺が嫌な思いをするようなら殺す。それ以外はどうにでもなれ。


「あぁ、あのゴミ共......モンスターとしてこのダンジョンに出てこないかなぁ......」


 過去の思い出が蘇ってきて嫌な奴らの顔がチラつく。そのせいで、叶わない願いと知りながらもつい願望が口から零れる。当然出てくるはずもない。


「でもよかった。まだ俺は楽しんで戦える」


 気持ちはまだ切れていない。


 改めて攻略への熱意を再確認出来た。不快だけど定期的にアイツらを思い出してモチベーションを保とう。俺の根っこの部分にあるは薄昏い感情だけで重複だ。




 先へと進み事故現場に着く。


 ゆっくり歩いたお陰か部屋は肌がジリジリする程度の熱量だったのでそのまま入る。ふと爆心地と思しき地点を見ると何かキラリと光る物が目に入り、そちらへ歩みを進める。


「ん......?」


 爆心地に近付くにつれ肌に突き刺さる熱量は増していき肌を灼くが、すぐに治り耐性スキルの経験値となっていく。

 そんな中、ついに爆心地の中央に辿り着き落ちていたモノを指や肌が焦げるのを厭わず拾い上げる。


〈妖精の羽根ペン〉

〈妖精の羽飾り〉


「............」


 自分にこれをどうしろ、と。ドロップするのならもっと実用性のある物が欲しかった。

 オシャレな文房具と可愛らしいアクセサリー。何かしら特殊な効果が付与されている物なんだろうけど、名前しかわからないしアレの怨念がこびり付いていそうなモノ。軽々しく装備するなんて出来ない。


 よし、そのまま放置......


「うぁっ!? ......あー、売却......しかないよな」


 不要物故にそのまま捨ておこうと考えた所で謎の寒気が襲ってきた。多分その選択をすれば何か良くない事が起きる――

 己の直感に従い、ドロップアイテムをそっと魔法袋に仕舞い込み、魔石を拾って部屋を後にする。妖精さん、たくさんの経験値と厄い品をありがとう。




「......アハハッ、くそうぜぇなオイ!!」


 この階層、なかなか殺意高めな罠が通路に仕掛けられている。俺に効果が抜群ある厄介なタイプの罠ではないのでそこまで神経質になる必要はないが、ウザイものはウザイ。魔法袋が無ければ避ける素振りを見せず只管突き進んでいただろう。

 死角から飛んでくる黒塗りの針、ナイフ、槍。サブウェポンとして優秀だから確保しようと集めても、これらは一定時間経過で消滅するクソ仕様の所為でテンションがだだ下がる一方なのである。アホみたいな数あるんだから寄越せよ。



 げんなりしながら罠大量な長くうねる通路を練り歩き続け、ようやくその終わりが見えてきた。匠の精神状態は、現在結構ヤバい域に達している。


「アハハッ......イヒヒヒヒヒヒヒヒ」


 最早恒例となったルーティンは身体が覚えていた。入室前に荷物と衣服を無意識下でも自然な流れで外し、外したソレらを部屋の入り口に置いて警戒も注意もせず中へと侵入っていった。


 因みにこのダンジョンを制覇後、日本に戻った匠が部屋に入る前に衣服を全て脱ぐようになるかはババアたちの奮闘と匠の心の成長、もしくは修復や修繕系のスキル取得の有無に懸かっている。

 人間との邂逅時にモンスターと捉えて必ず戦闘になると心の深層に刻まれてしまえば......現在、こうなる可能性が一番、高い。





「イヒヒヒヒヒ、アハハハハハハッ!!!」


 待ち望んだモンスターとの争いがようやく回ってくる。それも、御誂え向きと言わんばかりに死ぬほど俺に向いているモンスターが二体。


 俺の身体くらいの大きさの棍棒、メイスを持っている巨人。こういうのでいい。面倒なのは要らないんだ。



 ──────────────────────────────

 サイクロプスギガース

 レベル:98

 ──────────────────────────────


 ──────────────────────────────

 サイクロプスグランド

 レベル:99

 ──────────────────────────────


 え? コレ階層主じゃないの? とは少し思った。


 でも、まぁ......どつき合いこそ至高。殴り合いこそ戦の華だ。楽しみだ......



「アハハハハハハハハハッッ!!! ヒャッハァァァァァア!!!」



 俺は金砕棒とパンツだけを装備して、極上の獲物へ襲いかかった。





 ─────────────────────────────


 吉持ㅤ匠


 半悪魔

 職業:血狂い


 Lv:61


 HP:100%

 MP:100%


 物攻:200

 物防:1

 魔攻:110

 魔防:1

 敏捷:170

 幸運:10


 残SP:82


 魔法適性:炎


 スキル:

 ステータスチェック

 血液貯蓄ㅤ残591.1L

 不死血鳥

 部分魔化

 魔法操作

 血流操作

 簡易鑑定

 空間認識

 殺戮

 状態異常耐性Lv8

 拳闘Lv8

 鈍器(統)Lv7

 上級棒術Lv3

 小剣術Lv7

 投擲Lv8

 歩法Lv8

 強打

 強呪耐性

 病気耐性Lv4

 熱傷耐性Lv4

 解体・解剖

 回避Lv10

 溶解耐性Lv6

 洗濯Lv2

 ■■■■■■


 装備:

 魔鉄の金砕棒

 悪魔骨のヌンチャク

 肉食ナイフ

 貫通寸鉄

 火山鼠革ローブ

 再生獣革のブーツ

 貫突虫のガントレット

 聖銀の手甲

 鋼鉄虫のグリーブ

 魔鉱のブレスレット

 剛腕鬼の金棒

 圧縮鋼の短槍

 迷宮鋼の棘針×2

 魔法袋・小

 ババアの加護ㅤ残高13680


 ──────────────────────────────

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