第96話 妖精さん頑張った
◆◆◆◆◆
――生まれた瞬間から私は他と違っていた。
周りを見渡しても私と同じように行動するモンスターは居なかった。自我はなく、予め決められた行動パターンの中からその場その場で最適そうな物を選んで動くのがダンジョンモンスター。
これらの情報は元から知識として与えられている。
それらの知識に依ると、私のように最初から自我が芽生えているモンスターは相当希少らしい。
先天性の物以外では進化などの段階で起こる突然変異でしか自我が芽生える事はなく、それらの個体は須らく強力な個体で大体が階層主として配置されている。
希少とは言ったけど、私のような弱小個体はレアモンスターに分類されていて同一階層内なら自由に移動できるらしい。私より一個上のユニークモンスターは階層も自由に移動できるらしいけど、自我よりも闘争本能が強くなりすぎてコミュニケーションが取れない。
一度ユニークモンスターと遭遇した事はあるけど、危うく殺される所だった。正直二度と遭遇したくはない。
そんな私は長い年月をかけて地道に力を貯めてきた。
能力のサモンは、サモンで喚んだモンスターをそこそこの強度で支配し私の指揮下に置く事が出来る。一定以上強くなると支配下に置けなくなるので、それを超えない程度に戦わせ、鍛え、大部屋に集め、侵入者に備えた。
そんな日々を過ごす中、私の部屋に一匹のニンゲンが部屋に侵入してきた。
ニンゲンが着る服とか言う獣の毛皮みたいのは着けていない変なヤツだった。
前に見たニンゲンは服とか言うのを着込み、オスメス混合の群れを成して戦っていたが、今回来たニンゲンはたったの一匹。
私の群れに恐れをなして逃げるか、私の群れに蹂躙されるかのどちらかだと思っていた。
だけど、そのニンゲンはおかしかった。
ユニークモンスターと同等以上の怖さだった。何あれ、私の知識にあるニンゲンとは全然違う。
笑いながら私の群れに襲いかかり、私が時間を掛けて集めた群れの数を次々と殺していく。来た時は余裕だと思っていたのに......
危機感を覚えた私は、決して多いと言えないMPを消費して普段は別所に待機させている便利なモンスターをサモンで喚んだ。
コイツらは便利なんだけど、とにかく汚くて......戦闘時は指示には従うけど、平時は意思疎通が全く出来ないという側に置いておきたくない泥のモンスター。
ボス格はとにかく不快。戦闘力は低くて、ねちゃねちゃしていて、それでピンチになると自爆する。その時に飛び散ったモノは何かに付着すると固まる。
その取り巻き連中はボスが自爆すると、そのボスの特性を模倣して、最後には同じように自爆するから、足止めや袋叩きにするのに便利。前にユニークモンスターに遭遇した時に殺されずに逃げきれたのはコイツらのお陰。
不快だけど、私のようにひ弱な個体は絶対に手放せないモンスター。
さあ、行きなさい。
―――あのニンゲンはやはりおかしい。
ユニークモンスターでももう少し効いた。残念ながら私の群れではユニークモンスターにダメージを与えられなかったけど、逃げて隠れるには十分な時間を稼いでくれた。
何あれ......あのニンゲンはユニークモンスターよりも強いって言うの? ニンゲンの形のユニークモンスター? よく見れば目の白い部分が黒いし、目の真ん中は真っ白......なんか髪も真っ黒で表情含めて色々と禍々しい。私の知っているニンゲンとは違う......やっぱりアレは人の皮を被ったモンスターよ!!
「何なのよ......久しぶりに美味しいニンゲンが来るはずだったのに......何であんな化け物が来るのよ......」
いつもは恨めしい小さい身体だが、今はそれのお陰で群れの者たちの死体に隠れる事ができて有り難い。余りの理不尽に叫び出したいのをグッと堪え、震えながら群れの皆の奮闘を祈る。
「無理よ......そうだ、逃げなきゃ......今回のは私の負けだけど、私が死ななきゃまだやり直せる......」
手塩にかけて育てたモンスターを絶え間なく突っ込ませ、その隙にコッソリ部屋から抜け出し、外に出ればそこからは一目散に奥へと逃げる妖精。
モンスター共を容赦なく捨て駒に使うのに躊躇いは無かった。失うのは惜しいが愛着は無い。ただその惜しい気持ちも、ここまで育てるのに掛かった時間に対しての物でしかない。
階段までの道すがらなけなしのMPを使い部屋にモンスターを配備する。焼け石に水なのは分かっていたが、やらないよりマシ......と腹を括り、召喚してきた。ただ必死の思いで置いてきたそのモンスターたちは、雑に殺された後マラソン選手が給水所で水を補給するように血を吸われていたのを妖精は知らない。
「何でよ......何で阻むのよっ......」
妖精の耳に足音が響く。絶望感に蝕まれながら振り向くと邪悪な顔をした
「嘘よ......」
隙を見て逃げ出そうと思ったが、次の瞬間には入口は炎で蓋をされてしまっていた。
全てを諦めて恭順する意志を示すと、
でも私は知っている......言葉では逃がすと言っていたが、通り抜ける寸前に手が私を握り潰そうと動いた事を。きっと通り抜けられなければその瞬間に私は殺されていただろう。
階段を降りると、あの化け物は私の忠誠心を試す儀式を始める。
目の前に出てきたのは純粋な火の魔力の塊で造られた雛。それが自由意志を持って動いている。
アレは知識だけで知っている幻獣種や神獣種の幼生体なのだろう。そんなモノを配下にしていると事前に知っていれば、私はあの化け物と事を構えなかっただろう。初めから、私に勝ち目なんてなかったんだ......
後悔してもすでに時遅く絶望に心が折れそうだったけど、必死に強がって心を誤魔化す。絶対、生き残ってやるんだから!!
雛に咥えられて
MPもほとんど回復していないし......
えぇい!! もういいわ!! 女は度胸よ!!
「絶対に生き残ってやるわ!! そして、すぐには無理だろうけどいつか隙を見て逃げてやるわ!!」
やけっぱちになり、なけなしのMPを振り絞ってサモンで喚べるだけ喚び出し、相手と搗ち合わせている間にあの化け物の望む展開を考える。
試練のようなものだから、ただ戦うだけではきっと良い印象を与えられない。私が成すべき事は化け物の利になる何かを得て帰る事......
「ピィィィィィ!!」
化け物の喚び出した化け物が戦場に似つかわしくない声を上げた。MP不足でクラクラする頭を必死に働かせて指揮を取りながら、同時に思考回路をフル回転させていた私の思考が止まる。
「な、なによ......なんなのよもう......」
雛がヨチヨチと戦場のど真ん中へ歩いていくのをただただ見守った。
「手伝って......くれるの?」
呟いた言葉が聞こえたのか、雛は一度コチラに顔を向けて短い羽根を挨拶するように掲げた。
「ピィッ」
雛の身体が光を纏う。
「え、なに?」
膨れ上がる魔力。
「ま......まさか」
尋常ではない気配を感じ取ったモンスターは身体を反転させて一目散に駆け出す。
「ちょっと待っ......」
直後、目の前が真っ白な光に覆われた。
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モンスターの設定
・ダンジョンモンスター
配置された部屋から出られない
死んでも十二~二十四時間で再び湧く
自我は無い
インストールされている行動が基本
・レアモンスター
階層内を自由に動き回れる
一定の確率で生まれ、死んでも再び湧く事は無い
自我有り
種族特性の他に一つスキルを得ている
与えられた知識を使い行動する
・ユニークモンスター
ダンジョン内を自由に動き回れる
極稀に生まれ、倒すと恩恵あり
自我は有るが各種本能の方が強く、本能のままに動く傾向にある
・独立種
ユニークモンスターが本能に飲まれず、確固たる自己を手に入れ変質したモンスター
ダンジョンからの支配を受けない
強さに個体差はあるが、総じて皆超強い
・共生種
ダンジョンに入り込んだ魔物
強さを認められるとダンジョンに部屋と部下を与えられる
地上の種とは異なる進化を遂げており、地上と同じと思って挑むと返り討ちにされる
何かしらのギブアンドテイクがあると言われているが真相は謎に包まれている
・ボスモンスター(階層主)
ボス部屋から動けない
一定の縛り有り
死ぬと同じ姿、同じ強さで蘇るが、別個体となる
・ダンジョンボス
ダンジョンの分身、最後の砦
最下層のみに存在
死ねばダンジョンが消滅する
・魔物
地上で生まれた魔力を有する生き物
ダンジョンモンスターと似ている姿が多い(姿を模倣されている)
基本ダンジョンに入れないが、適正があるとダンジョンに入れる
・動物
地上で生まれた魔力を有さない生き物
強さはピンキリ
・超越種
ババアたちのような強者
その真相は謎に包まれている
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前回はコメントいっぱいありがとうございました! 反応あるってやっぱり嬉しいですね!
正解はただ経験値を求めての爆殺でした。MPKを仕掛けて来たモノに慈悲は無し。
不穏な言動をしたら
逃げようとしたら
戦闘終了したら
ちなみに匠が仕掛けていた爆破条件はコレです。まぁ早いか遅いかですね。
こんな主人公ですがこれからもよろしくお願いします。
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