第95話 服従

「ヒャハァッ!!」


 最後の一体を撲殺し、長く、そして楽しかった乱戦の幕が閉じた。


「............ふぅ」


 其処彼処に転がる屍の数は百は超えていた。バラバラになったモノを含めればもっと多い。よくここまで殺れたものだ。


 床に寝転がりたい衝動に駆られるが綺麗な箇所が無いので休むことを諦め、緩慢な動きで死体の処理を始めた。最初に選んだのはたっぷりと血が残っていそうなトロルのようなモンスターの死体。


 肉食ナイフで心臓に近い位置を切り裂き――


「いただきます」


 スポーツ後に水を飲む感覚で血を飲み始めた。


 一口......


 二口......


 音を立てながら夢中で血を啜る。我ながらビビったがあまりの美味さに止まらなくなってしまった。

 日に日に血が美味しくなっていく......今回は大立ち回りをした後だから余計に美味しく感じられるのかもしれない。


 一心不乱に啜っては捨て、啜っては捨てを繰り返し、繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し......


 やがて死体の海は形ある死体の全てが乾涸びたゴミ溜めに変わる。そこで漸く――



「ふぅ......あ? そういやアナウンスが来てないな。は? つー事は此処にはまだ何かが潜んで居るって事か?」



 レベルアップのアナウンスが無い事に気付く。


 生き残りがまだ居る。


 急ぎ周囲を目視とスキルの両方を使って探るも、生きている物の反応は無い。


 巧妙に隠れたか、この場所から逃げたか。


「......ちっ、残りは勿体ないけどちまちま探すのは性にあわない。絶対に殺してやる......とりあえずここはもういいや、爆破しよう」


 荷物の方へ歩きながらMPを注いでヒヨコを産み出す。いつ見ても不思議な魔法生物に自分がこの部屋から出たら部屋の中央で派手に爆発しろと命令を下すと足早に部屋を出て荷物を回収。


「ピィィィィィィィィィッ」


「やばっ」


 予想以上の閃光に大慌てで部屋の入口の陰に隠れ爆発をやり過ごす。派手な爆発音に鼓膜が揺さぶられ......途中で音が消えた。多分、鼓膜が破れたんだと思う。

 音が戻ったのはそれから暫くしてからだった。瞬時に再生しなかったのはスキルの優しさなのだろうか。


「あ、あー......あーあー、うん、聞こえる。さて、これでもまだアナウンスが無いって事は逃げたんだな。ふふふふふふふ......絶対に殺して殺る」


 仄暗い気持ちを抱えたまま中を覗くと顔が焼け、熱で目が潰れた。部屋がある程度冷めるまで外で待たないといけないらしい。

 目がヤラれる前に見た部屋の中には炭以外何も残っておらず、ただただ極悪なサウナ状になっているだけだった。




 自分が入ってきた側へ寝てる隙に逃げたヤツが行くのは困るので通路に転がっている石を破壊してそれで入口を塞ぎ、中が冷めるまで一眠りして時間を潰した。

 石を退かすと若干ムワッとした空気が出てきたが焼ける程では無かったのでそのまま中へ入り奥へと進んだ。

 MPはもう一発ヒヨコを放てるくらいまで回復していたので結構な時間寝ていたらしい。裸だった事に起きてから気付いたので服は安物を着た。服を着ない事に慣れた自分が少し嫌だった。



 道中、通った二部屋にモンスターはいたが、モンスターハウスの影響か二、三匹しか居なかったのでサクッと撲殺して血を取り進む。どこまで進めばあの部屋の生き残りがいるのかと思いながら入った三部屋目にソレは居た。


 震える身体で階段へ進もうとしていたがダンジョンの不思議パワーか何かで弾かれて進めずにいた。通れるモンスターと通れないモンスターとかも居るのかな? 基準はわからないけどラッキー。早く溜まった経験値を寄越せ。


「炎の壁を何枚か貼っておけば逃げられないでしょ。さぁ観念して死ね」


『コ、殺サナイデ......MPモ残ッテナイカラ何モ出来ナイノヨ......』


 喋った。びっくりだ。


 ──────────────────────────────

 サモンフェアリー

 レベル:84

 ──────────────────────────────


 召喚する妖精って事か? まぁそれはそれとして......


「襲われたらその襲ってきた相手を殺す。それは普通じゃない?」


 同階層のモンスターを集めてある程度の支配下に置けるとかそんな感じの能力だろ? 殺意見え見えの相手が命乞いしてきて殺さない選択肢は俺にはない。


『オ願イ......服従デモ何デモスルカラ......』


 可哀想になる程震えて命乞いをするフェアリー。服従って言われても......魔法的な何かで行動を縛れたりするのか?

 モンスターが信用出来るか出来ないかは現状よくわからない。だけど今現在あのクソ鎧の所為で信用出来ない側に傾いているのは仕方ない事だろう。


 うーん、人間相手だったら有無を言わせず殺したけど、モンスターの言う服従という行為がどういった物なのかわからない。

 ......殺るのはそれを聞いてからにしようか。絶対服従ならば囮とか肉壁or食料調達係に出来るかなと思ったからだ。


「服従って、それをすると具体的にどうなる? 魔法的な縛りが出来て絶対服従になるとか? それならばまぁ殺さないでもいいかな」


 左手に炎を、右手に金砕棒を構えながら妖精に問い掛ける。


『ソレハ......』


 目に見えて動揺する妖精。はい、隙を見て逃げ出すか油断させておいて俺を殺そうとするのどっちかだったんだな。


「まぁいい、わかった。お前はそこを通れないっぽいが俺が掴んでたら通れるかもだからここは一度大人しく捕まれ。通れないのならばその時は残念だがそのまま解放してやる。もし通れたら一つ試験を受けてもらい、その結果次第で今後どうするか決める」


『......ハイ』


 当てが外れたように見える妖精の身体を鷲掴みにして階段へと歩みを進める。抵抗らしい抵抗は見せないか油断は出来ない。


 俺は普通に階段へと進むことが出来、俺の手の中の妖精もさっきまでの拒絶が嘘だったかのようにヌルッと進め、妖精はこの時あからさまにホッとした表情を見せた。多分だけどもし進めなければ俺が掴んでいる妖精をそのまま握り潰す気だったと気付いていたんだろうな。



 ◆◇原初ノ迷宮第六十四層◇◆



「じゃあこれから俺のと一緒に戦闘をしてもらう。その働きを見てお前の今後を決める」


 階段を下りきった俺はヒヨコを産み出し、妖精へヒヨコと共に戦闘して来いと言い聞かせて鷲掴みにしていた手を離す。


 何かしらの覚悟を決めた顔をしている妖精に目を落とす。モンスターの思考はよくわからない。


『イイワヨ!! ヤッテヤルワヨッ!!』



 ヤケクソ気味にそう叫ぶ妖精をヒヨコは短いクチバシで首元を咥え、部屋の中へと運んでいった――













『レベルが16上がりました』





 ─────────────────────────────


 吉持ㅤ匠


 半悪魔

 職業:血狂い


 Lv:45→61


 HP:100%

 MP:100%


 物攻:200

 物防:1

 魔攻:110

 魔防:1

 敏捷:170

 幸運:10


 残SP:50→82


 魔法適性:炎


 スキル:

 ステータスチェック

 血液貯蓄ㅤ残592.6L

 不死血鳥

 部分魔化

 魔法操作

 血流操作

 簡易鑑定

 空間認識

 殺戮

 状態異常耐性Lv8

 拳闘Lv8

 鈍器(統)Lv7

 上級棒術Lv3

 小剣術Lv7

 投擲Lv8

 歩法Lv8

 強打

 強呪耐性

 病気耐性Lv4

 熱傷耐性Lv4

 解体・解剖

 回避Lv10

 溶解耐性Lv6

 洗濯Lv2

 ■■■■■■


 装備:

 魔鉄の金砕棒

 悪魔骨のヌンチャク

 肉食ナイフ

 貫通寸鉄

 火山鼠革ローブ

 再生獣革のブーツ

 貫突虫のガントレット

 聖銀の手甲

 鋼鉄虫のグリーブ

 魔鉱のブレスレット

 剛腕鬼の金棒

 圧縮鋼の短槍

 迷宮鋼の棘針×2

 魔法袋・小

 ババアの加護ㅤ残高13680


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