第99話 マッド
※今回も、ちょっとアレな表現があります。苦手な方はご注意くださいませ。
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「うわぁ......」
自分でヤっておいてなんだけど、「うわぁ......」としか言えない目の前で起きた惨事。
もう片方の方を潰せばよかったと後悔してしまうくらいに中に溜まっていた精子が、デカブツの血と共に床を汚している。後で金砕棒を火で炙って殺菌しないと......
「敵意剥き出しで来たからね、こういう結果になっても仕方ないんだよ。俺が負けたら普通に殺されるだろうし......じゃあ後は勝手にやらせてもらうからせいぜい俺の役に立てデカブツ」
男なのでよくわかる痛みに若干の罪悪感を覚え勝手に言い訳を垂れ流すが、それはそれ、これはこれ。命のやり取りの結果だ。
意識を切り替え、白目を剥き、涙と泡でグッチャグチャな顔で失神する巨人の足首に手を伸ばし......足首を思い切り捻った。
ゴキャッという音とブチブチという音が人から聞こえるよりも大分大きな音で鳴る。足の関節と靭帯や筋などは人と似たような造りになっているようだ。
「......どうせならもっとちゃんと知りたいな。やるか」
良い機会だ、という事でもう少し過激に動くことに決めた匠は膝に抱き着くように両腕を回してしがみつき、全力で捻じ切った。断面は強引に捻じ切った為に見れた物ではなかったのが残念であった。
「意外と簡単に外せた」
楽に外せた事に感嘆していると、捻じ切った断面から一呼吸遅れて血が噴き出す。膝が捥げても目を覚まさないという事は......
「ショック死したのかな? っと、勿体ない」
膝から下を投げ捨て、先に大量の血液を内包している肉袋の処理に取り掛かる。
傷口に腕を突っ込み、骨を握りながら血を吸収。その状態のままデカブツの死体を引き摺り、先に死んだデカブツの死体の傍まで移動し焼け焦げた穴にもう片方の余った腕を突っ込んで吸い出す。
『レベルが4上がりました』
あ、あれでもギリギリ生きていたのか。生命力が無駄に高い所為で長く苦しんだな......お疲れ様。
「中身が良い感じに焼けたお陰で上手い具合に止血されてたようでたっぷり残ってるわぁ......」
最初に殺した方はそんなに残っていないと思っていたのでこのタプタプ具合いは嬉しい誤算だった。みるみるうちに血が貯まり、身体が潤っていく。
液体がまるで違うが、仕事終わりの一杯とはこういう気分になるものなのかと、匠は一人感動しながら吸収を続けた。
数分後、カラッカラ一歩手前になった巨人モンスターを投げ捨て、捻じ切った膝から下へと向き合う匠。
「よっし、やるか!」
吸いながら考えていた。自分は人体の構造と機能なんて授業でやったフワッとした内容しか知らない......ならばどうすればもう少し詳しく知ることが出来るか、と。
「せー......のっ!!」
そんな匠が掛け声と共にした行動は、己の膝から下を引きちぎって巨人のモノとの比較として使用するという狂気の沙汰とも言える行動だった。某スポーツ医学の権威も吃驚する行動だろう。
たっぷりの血を補給出来、余裕のある今だからこそ出来る血の無駄遣いである。
「ふむふむ......」
自切した自分の足と巨人の足の同じ部分を切開して、その中身を比較していく。
自分の足だったモノから出てくる血は吸えないので、【血流操作】を使って観察の邪魔になる血を抜く作業を行う。巨人の足から流れ出る血は、部位の潤いを損なわない程度――観察の邪魔になる余分な血だけを吸い出した。
「サイズが違いすぎるからアレだけど、主要な部分はヒトとかなり似ているなぁ......うんうん、骨も見た所そこまで差は無い......と。よし、次!」
粗方の観察を終え、次に匠がした事は筋肉を千切ってどんな違いがあるかを見る事、そして骨を叩き割って中身を見る事だった。
その結果、素人目には両者はほぼ似たようなモノだという事が解る。違うのはサイズと耐久力くらいの物だった。
「人型のモンスターは結構似てるのかな? ふふふふふふ......そうだとしたら、この先人型モンスターが出てきたら楽しめるじゃんか......」
この先――ダンジョンを攻略して、外に出れた時の為にやれる事、準備出来る事に手間は惜しまない心算である。
今の所必須履修科目と匠が考えるものは効率的且つ最大限相手に苦痛を与えられる人体の壊し方。文字通りに身を削って覚えていく覚悟だ。
膝から下の観察が終わると残りは肉食ナイフに食わせてからまだ辛うじて潤いが残っている死体の元へと向かい、太腿、股関節、腹部の観察へと移った。
邪魔だった逸物と残った玉は、普通に切除してから燃やした。慈悲は無い。
自分も腹から下を切り離して差異を調べるが、驚く事に股関節近辺はほぼ一緒だった。全体的にサイズが違ったが、そこは身体のサイズは種族的な問題故に気にはしていない。ただ、次に出会ったら真っ先にそこへ攻撃して沈めてやろうと思っているだけである。
続いて腹部から胸部へかけて切り開き、中のモノを取り出して横へ並べて置く。その後は同様に自分のを切り開き取り出して見比べ。
中に入っているモノはかなり違いがあった。臓物も切り開いて中を検めるが、真面に機能しているのは肺らしき部位と胃らしき部位。他はただそこに有るだけといった感じ。その中身は真綿を詰めただけの様相であった。
「心臓は血管のような物に覆われた魔石......か。これでどうやって血液を作ってるんだろう......」
わけがわからない。が、考えても仕方ないのでスルーし、ラストの頭部へ取り掛かる。頭蓋骨を割ると中にはくすんだ紫色の脳味噌がみっちりつまっている。皺の数は少なく、魚介類の白子みたいな見た目をしていた。うん、グロい。
周囲には血が飛び散り、生々しい臓物がまだ新鮮さを保っている状態で乱雑に置かれ、どデカい肺や胃はまだ少しピクピクしている。しかしまぁ......ここまでスプラッタな絵面にも関わらず、俺の心は全く以て凪いでいる状態、むしろ若干高揚している雰囲気もあるのは良い感じに俺が壊れてきているからなんだろうなぁ、きっと......
それと、今回は自分の身体は使っていない。頭部の扱いは慎重にしないといけないから。
「頭をカッ捌いてみたけど、普通に脳みそが詰まっているだけだった。目が一つと人よりも骨が太くて頑丈な事以外は人と変わらずか」
結論、人型モンスターだろうと内臓以外はそこまで人と変わらない。だからコイツらみたいなのとの戦闘を何度も繰り返していけば人体の破壊方法を効率よく習得出来る、はず。うわぁ、頑張ろう。
やるべき事をやり終えた俺は散らばったデカブツのパーツを一纏めにして全て燃やした後、魔石だけを回収して次の部屋に向かった。
「......なっげぇ一本道」
奥へと進むにつれて緩やかに先が細くなっていく一本道を進む事十五分、未だ何処にも着かない。最終ダンジョンのボス部屋かのように、自分が進むのに合わせて点灯していく松明が気持ち悪い。
「...............」
更に進む事五分、何か生暖かく生臭い臭いが空気中に漂うようになった。他は何も変わらない。
「...............うぉっ!? 気持ち悪っ!!」
更に更に進む事......大体十分、奥の方から生臭い吐息のような風が吹いてくる。あまりの不快さに顔を顰めながら先へと急いでいると、若干の段差の後ベチャリとした床に変貌した。危うく転びそうになった。
気持ち悪さが天井知らずな空気感。奥から生臭い風、数秒後には追い風が......ん? なんだ? まるで呼吸のようじゃねぇか。
「......まさかっ!? チッ、間に合ッ――」
あわてて振り返り【簡易鑑定】で壁と足元を見ると、そこには歯、頬肉、舌という鑑定結果が出ていた。
この長い先細りの回廊は違和感なく口内に誘う為のモンスターの狡猾な罠だった。それに気付いて引き返そうとした時には時既に遅く、全速力で駆け出すも口は閉じてしまい俺は歯に激突してしまった。
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吉持ㅤ匠
半悪魔
職業:血狂い
Lv:61→65
HP:100%
MP:100%
物攻:200
物防:1
魔攻:110
魔防:1
敏捷:170
幸運:10
残SP:82→90
魔法適性:炎
スキル:
ステータスチェック
血液貯蓄ㅤ残817.7L
不死血鳥
部分魔化
魔法操作
血流操作
簡易鑑定
空間認識
殺戮
状態異常耐性Lv8
拳闘Lv8
鈍器(統)Lv7
上級棒術Lv3
小剣術Lv7
投擲Lv8
歩法Lv8
強打
強呪耐性
病気耐性Lv4
熱傷耐性Lv4
解体・解剖
回避Lv10
溶解耐性Lv6
洗濯Lv2
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装備:
魔鉄の金砕棒
悪魔骨のヌンチャク
肉食ナイフ
貫通寸鉄
火山鼠革ローブ
再生獣革のブーツ
貫突虫のガントレット
聖銀の手甲
鋼鉄虫のグリーブ
魔鉱のブレスレット
剛腕鬼の金棒
圧縮鋼の短槍
迷宮鋼の棘針×2
魔法袋・小
ババアの加護ㅤ残高13680
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