第61話 就職活動

 乱戦の最中、不意に聞こえてきたアナウンスに気を取られて手痛い一撃を食らってしまった以外は特に危なげなくオークの群れを倒す事ができた。


 最後に倒したちょっとデカいリーダー的なオークが物凄く怯えていたのが気になった......が、まぁモンスターが怯えるくらいのレベルまで戦闘能力が上がったと喜んでおこうと思っている。


『レベルが5上がりました』


「最後の方は寸鉄メインで戦ったけど、コレかなり使い勝手いいな」


 さ、寸鉄に感動するのはここまで。血でも集めますか。


 いやー‎......見渡してみると即座に面倒臭いと思ってしまうくらい沢山の死体が転がっている。

 もっと楽に集められる方法があればいいんだけど、ここは完全に手作業。自分の生命線だからしっかりやるけどね。


「死体からだけでいいから直接触れなくても血が吸えるとかになればいいんだけど......まぁそんな上手くはいかないよねぇ」


 大量のオークの死体から、一体一体丁寧に体内に残った血を抜き取っていく。傷口から流れ出して地面に染み込んだ血はもったいない......


「レベル表記が無いから、今後スキルが進化して採血が楽になるとかも無さそう......そんなに苦戦しない相手で敵の数が少ない時があったら、敵の倒し方を工夫して血をなるべくロスしないようにしてみたり、他の吸血方法がないか調べてみよう」


 そこからたっぷり時間を取られたが無事に血液の採取が終わり、死肉はナイフに食べさせた。

 ドロップアイテムの魔石は拾い集め、オークが使っていた武器や防具の類は全て放棄した。サイズ感の問題や清潔感の問題もあるが、かなりの長期間オークが倒されていなかったからなのだろうが、使い込まれすぎていて自分が使ったら長くは使えなさそうな物ばかりだったのだ。


「あぁ疲れた......でもこれで全て終わりっと。それにしても初期の方でこの金砕棒とブーツを手に入れられたのは本当によかったなぁ......」


 もはや愛棒と呼んでも過言ではないと言えるまでに愛用している金砕棒。手に入れた頃より赤黒くなってきている。コイツも自分と同じように血を吸わせていったら今後何か変化が起きたり......


「まぁ有り得ないか。よし! それじゃあ戦闘中に気を逸らさせてくれやがった“ジョブシステム”とやらを見ていこうかな」 


 ほい、ステータスチェック!!


 ─────────────────────────────


 吉持ㅤ匠

 悪魔闘人

 職業:未設定


 Lv:74


 HP:100%

 MP:100%


 物攻:140

 物防:1

 魔攻:70

 魔防:1

 敏捷:140

 幸運:10


 残SP:10


 魔法適性:炎


──────────────────────────────


 相変わらず訳のわからない種族が目に付く......だけど今回のメインはそこじゃない。

 アナウンス通りに、確かに今まで無かった“職業”という項目が出来ている。


 さぁて、コレはどうすればいいのだろうか。このステータス画面の職業の所をSPを振る時と同じようにしてみようか......あ、出来た。んー、どれどれ......



 ・血狂い

 ・狂人

 ・撲殺魔

 ・変異悪魔


「............」


 まさかこれが、自分の職業なのでしょうか?

 百歩譲って変異悪魔だけは、まぁわかる。種族が悪魔闘人とかいう訳の分からないモノだから、そこからの派生だとは納得したくないけど納得できる。


「たださぁ......それ以外はただの悪口とか称号のようなモノだよね。酷くないかなぁ? ちょっと自分が想像していた“剣士”とか“武闘家”とか“魔法使い”とか“僧侶”とかとは全く無縁なモノが出てきてるよ......」


 これはアナウンスの中の人に抗議しなきゃいけない案件だと思う。ただ文句を言うにもカスタマーセンターにどう問い合わせればいいのかがわからないから、現時点ではもうどうしようもない。

 このまま黙って人外道を突き進めという神の啓示なのだと割り切るしかないのか......


「ポチッたらすぐに反映されないよね? さすがに詳細というか、軽い説明くらいはあるよね?」


 そう独り言ちながら、四択の中から二つをピックアップし、どちらがよりかを熟考していく。

 選んだのは『血狂い』と『撲殺魔』の二つ。理由としては自分の今の戦闘スタイルに合致しているモノという簡単な理由から。


「狂人と変異悪魔をノータイムで選べるほど、自分はまだ思考能力を失っていないんだよ。それにこの二つはメリットも凄そうだけどデメリットはもっと凄そうだし......」


 血についての事と金砕棒の事を、直前まで考えていたから余計にこの二つに意識が持っていかれてるのもあるだろう。

 さて、どっちがポチッてみて即選ばれてしまったとしても後悔がないだろうか......





「......うーん、やっぱり情報無しで選べと言われたら『血狂い』かな? 自分にとって血は生命の残機を増やしてくれるもの......寧ろ、自分にとって血は己の生命よりも重要なファクターだもんなぁ」


 ふぅと一度大きく息を吐き、気持ちを落ち着けてから躊躇せずに血狂いの項目をタップした。


〈血狂い:血を愛し、血に狂った者

 固有スキル【血流操作】の習得、ボーナスSP10獲得、血の臭いに敏感になる、理性の箍が外れやすくなる、血液摂取時に酩酊感あり〉


「......あっ、すぐに選ばれなくてよかった。ふんふん......狂いって書いてある通りにバーサクする恐れありに加えて血で酔うのか。とは言え、名前だけ見ても【血流操作】ってスキルは魅力的だなぁ」


 物騒な名前通りとは言え、デメリットよりもメリットが大きく感じる。それよりも残りの三つも見てみようか......どれどれ。


〈狂人:その身の内に狂気を異常に孕んだ者

 固有スキル【狂化】の習得、物攻と魔攻に+7、戦闘時に【狂化】が自動発動し狂気を解き放つ〉


「......これはダメ。うん、ダメ。次!」


〈撲殺魔:生物を殴り殺す者

 固有スキル【殴魔】の習得、物攻に+5、殴打系武器のスキル習得及び習熟に大幅補正、それ以外の武器の使用時は超弱体化、生物を撲殺する毎に■■■していく〉


「......メリットはかなりのモノだけどナイフが使えなくなるのはかなりのデメリットだなぁ......それと読めない箇所が怖すぎる。次!」


〈変異悪魔:悪魔の因子を取り込み進化した純粋な悪魔とは一線を画す者

 固有スキル【魔化】の習得、魔攻と魔防に+5、凶暴性と残虐性増加、人間からの好感度大幅減〉


「......どうしよう......一番期待していなかった変異悪魔さん、自分にデメリットが皆無なんだけど。固有スキルが【魔化】って事は普段は人間形態と悪魔形態を使い分けられるって事なんだろうし......唯一のデメリットと言えるモノが全く育てていない魔防に+5されるって所だけだ......」


 説明の大事さを再確認した自分は、ここから大いに悩まされる羽目となる。もっと慣れ親しんだ職業が出てくれていたらとは思わなくはない。後、地上でダンジョンをクリアした人たちには、きっと自分が思い描いていた職業が選択肢に出ているんだろうと思ったら、少し......人間への憎しみが増した。


「......さて、どれを選ぶのが正解なんだろう」


 多くのオークの死体に囲まれながら頭を抱えた。



 ─────────────────────────────


 吉持ㅤ匠

 悪魔闘人

 職業:未設定


 Lv:74→79


 HP:100%

 MP:100%


 物攻:140

 物防:1

 魔攻:70

 魔防:1

 敏捷:140

 幸運:10


 残SP:0→10


 魔法適性:炎


 スキル:

 ステータスチェック

 血液貯蓄ㅤ残294.1L

 不死血鳥

 部分魔化

 状態異常耐性Lv8

 拳闘Lv8

 鈍器(統)Lv2

 棒術Lv5

 小剣術Lv4

 簡易鑑定

 空間把握Lv10

 投擲Lv7

 歩法Lv6

 強呪耐性

 病気耐性Lv4

 解体・解剖

 回避Lv5

 溶解耐性Lv2

 洗濯Lv1

 ■■■■■■


 装備:

 魔鉄の金砕棒

 悪魔骨のヌンチャク

 肉食ナイフ

 貫通寸鉄

 鬼蜘蛛糸の耐刃シャツ

 快適なパンツ

 再生獣革のブーツ

 魔鉱のブレスレット

 剛腕鬼の金棒

 圧縮鋼の短槍

 丈夫なリュック

 厚手の肩掛け鞄

 微速のベルト

 ババァの店の会員証ㅤ残高220

 ─────────────────────────────

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