第60話 ダンジョンが現れた世界

 ダンジョンが現れてから三ヶ月が経過し、最初期には多大な戸惑いを見せていた人々の生活もこの頃には落ち着きを見せ始めていた。


 ダンジョン発現前に比べて大幅に低下した生活水準、交通手段、電子機器などの大半が使用不可になった現状に慣れ始めていく。人類の適応能力も馬鹿にはできないという事であろう。


 SNSやネット、ゲームにズブズブだった人たちの一部は未だに依存から抜け出せず、禁断症状なのか電池が切れて使用できない真っ暗な画面のスマホ、パソコンを弄るという奇行をしている。そういった者たちは、最初の頃は同情の目を向けられていたが今では避難所や共同生活をしている場所で他者から白い目を向けられている。


「へへへへ......」

「うふふふ......」


 彼等、彼女等の瞳には今、何が映っているのだろうか......それは本人たちにしか解らない。




 ◆◆◆




「「「「「「「うぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」」

「「「「「「「わぁぁぁぁぁ!!!」」」」」」」


 ダンジョンが発現してからめっきり聞く事が無くなってしまった歓喜に染まった声が、この日......日本中で沸き起こった。




 何が起きたのかと言うと、現代人の手で初めてダンジョンが攻略された事がアナウンスによって解った日だったのだ。


 日本でトップクラスに優秀な精鋭を集めて組織されたクラン『旭日』が、六人パーティを六組、計三十六名でダンジョンに挑み、そのうちの一組六名が壊滅という犠牲に加え、重傷者数名を出しながらも見事ダンジョンを攻略してみせた。


 彼等が攻略したのは関東某所にあると難易度設定されたダンジョンである『大型複合施設』


 このダンジョン攻略完了のアナウンスは全人類に三つの多大な衝撃を齎した。


 このアナウンスにより最初に攻略すべき箇所が他にもあっただろう? という不毛な議論が巻き起こったが、攻略後にそんな言い争いをしても意味は無く、日が過ぎていくうちに鎮火していく。

 このような議論をしていた者は現場には出ない者たちであり、結果だけ先に知っていたというのもある。後日そんな者たちの元へ、攻略に参加した一つのパーティの壊滅及び重傷者多数という報告が入る前であった。



 人類にとって主要な施設であればあるほど攻略難易度が上がっていくダンジョンというモノ。モタモタしていれば他の国や他の探索者がもっと下の攻略しやすいダンジョンを攻略していただろう。

 国の要とも言える首都近辺にセーフティエリアが出来た事を素直に喜んでいればよかったのだが、金と利権などに群がる権力者共は、この変わった世界の中で今回の出来事がどれだけ貴重なモノかというのが理解できていなかったのという事は、冷静に考えていれば直ぐに理解していたであろう。


『地域名日本がダンジョンノ初攻略ニ成功シまシタ。惑星初ノダンジョン攻略を祝シ、惑星内の生物全テニ“ジョブシステム”ヲ解放、及ビ今回攻略サレタダンジョンの周囲三Kmヲ“一切ノ戦闘行為不可ナセーフティエリア”に設定致シマす。今後モ奮ッテダンジョン攻略ニ挑ンデ下さイ』


 コレが攻略時に流れたアナウンス。コレにより人類の受けた三つの衝撃は以下の通り。


 1、ダンジョンというモノが本当に攻略可能だったと人類が気付いた事


 2、ダンジョンを攻略すれば、ダンジョンになってしまった施設の解放以外にも何かしらの恩恵があるという事


 3、攻略した彼等が中級と思っていたダンジョンの難易度が、実際には下級だったという事実


 この衝撃の事実に一時は暗いムードも漂ったが、セーフティエリアを確認した人たちは恩恵の方が大きく、また魅力的な事に気付き、再び攻略は加熱していった。




 さて、なぜ日本がダンジョン攻略一番乗りを果たせたかというと......


 在り来りと言えば在り来りだが、モンスター相手に銃火器類は効果を発揮しなかった事が一番の要因であろう。足止めや目眩し程度にはなったが、モンスター相手にはダメージは全く入らなかったのだ。

 ダンジョンを仕向けた存在がソレらを使用しての攻略を許さないのか、はたまたモンスターが別次元の存在だからなのか......詳しい事は未だに解明されておらず、ただ銃火器類、爆弾類、兵器類は全く意味を成さないという現実が残った。


 これにより銃文化が進んでいる国、軍事施設の発展に注力している国などはそれはもう大混乱に陥った。ダンジョンへのファーストアタックへ意気揚々と乗り出していった各国は主力部隊の人間を多く失う。銃火器があれば余裕だと高を括っていた彼等は、銃火器が効かなかった事でパニックになり壊滅的な被害を出す......この時に平常心を保てていたのなら、また違う結果になったであろうが、もはや後の祭り。


 これにより無駄に慎重になり過ぎたこともあり、その結果ダンジョン攻略に対する措置や法整備、対応が遅れに遅れた。

 現に日本が初のダンジョン攻略を成し得たのは独特な刃物文化の発達、並びにオタク文化の影響などがあったからだろう。


 だが事態は動き、ジョブシステムというものが解禁された。難易度ヘルだったモノが難易度ベリーハードくらいにはなるのだろうか......ともあれ、小さな島国の人間が達成した偉業により、ここから全世界がダンジョン攻略に躍起になっていく事となった。


 御伽噺のようなジョブも確認され、彼等、彼女等を中心に世界は動き出していく事となるが、これはもう少し後のお話――




 ◆◆◆




『地域名日本が下級ダンジョンノ初攻略ニ成功シまシタ。惑星初ノダンジョン攻略を祝シ、惑星内の生物全テニ“ジョブシステム”ヲ解放、及ビ今回攻略サレタダンジョンの周囲三Kmヲ“一切ノ戦闘行為不可ナセーフティエリア”に設定致シマす。今後モ奮ッテダンジョン攻略ニ挑ンデ下さイ』


 ............オークとの戦闘の最中、急にこのようなアナウンスが流れ意識をそっちに持っていかれた。


「は!? ジョブシステム!? セーフティエリア!? ......チッ、痛っっ、くそがっ!!」


 多対一の戦闘中なのも忘れ、一瞬ではあったが呆けてしまったその隙を突かれて被弾し、腹に穴が空く。被弾した事で冷静さを取り戻し、攻撃を当ててきたオークへ向けて金砕棒を振り抜く。


「くそっ!! レベルアップの時のように戦闘後にアナウンスを流せよ!!」


 乱戦状態ではこの新たなシステムを確認する事叶わず......悪態をつきながら今は目の前の豚の群れに集中しろと己に言い聞かせ、再び豚の群れの中へと飛び込んでいった。






 ★おまけ★


 下級ダンジョン攻略時のステータス


──────────────────────────────


 村上 哲人ㅤ(旭日リーダー)

 職業:未設定


 Lv:37


 HP:100%

 MP:100%


 物攻:14

 物防:20

 魔攻:2

 魔防:20

 敏捷:14

 幸運:10


 残SP:0


 魔法適性:-


 スキル:

 刀術Lv3

 体術Lv4

 柔術Lv4

 苦行耐性Lv4

 指揮Lv3

 精神的支柱(※ダンジョン初攻略の恩恵、ユニークスキル)


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