第59話 オークスレイヤー

 ダンジョン養豚場に多数放牧されている二足歩行の肥大化した豚達が粘ついた視線をこちらに向けてフゴフゴブヒブヒしている。とても不快。


「ブモ? ブォォォォ!!」


 だがその不快感も、コイツらはこれから全て殺処分されると考えれば......まぁ我慢出来る。


「――フッ!!」


 いち早く臨戦態勢に入り、こちらに向かってドスドスと音を鳴らしながら走ってくる先頭の豚に向けて金砕棒を一閃。


「ブギィィィィ!!」


 金砕棒を打ち落とそうと振るわれる豚の棍棒――


 だが金砕棒に棍棒を当てることは叶わず、振るわれた金砕棒はこちらの予想を遥かに超えた鋭さでオークの脇腹に突き刺さり、腹部をパンパンに膨らんだ水風船に針を刺したかの如く破裂させた。


「......何コレ」


 自分の予想していたスピードと威力からかけ離れている。物攻と敏捷を上げただけではこうならないし説明ができない。


「スキル......か」


 思い当たるモノは“鈍器(統)”というスキル。


 詳しい情報は見れないからなんとも言えないが、多分だけど鈍器を使った攻撃や行動に結構な補正が掛かるのではないかと思われる。

 ラノベとかゲームとかでよく見る進化や統合されたスキルっていうモノは、大体が強力なモノが多いし......コレもきっとそうなんだろう。


「あははははっ!!」


 楽しさから自然と笑ってしまう。心做しかオークが怯んだように見えるがきっと気の所為だろう。

 モンスターが怯えるとか冗談もいい所である。


「フンッ」


 怯んだ豚はただの豚。


 一気に距離を詰め、明らかに恐怖に飲まれているオークへ向けて金砕棒に捻りを加えながら突く。


「オラッ!!」


 身体及び鈍器の扱い方が手に取るように解る。


 ここに来て自分の戦い方のステージが一つ上に上がったのだろう。とても楽しい。


 初撃の勢いそのまま、金砕棒を持つ手の逆に持ったヌンチャクを棒の状態のまま身体を回転させながら縦に振るい、唐竹割りのようにオークの頭部にぶち込む。


「アハハハハッ!!」


 スイカ割り――この表現が適切だろう。頭部からスイカの果肉を飛び散らせたオークと、胸部に穴の空いたオークの二体が地に倒れ伏した。


「......ブ、ブブブ......」

「ブギィィ!!」

「ブォォォォォ!!」


 三匹屠殺したがまだまだ数が多い。怯えていたオーク共は仲間から何か言われたのか、殺る気まんまんの目に変わりコチラを睨んできた。きっと数で押せばどうにかなる的な事を言われたのだろう。

 でもね、自分は最初から乱戦ドンと来いの心持ちで挑んでいる。さぁ早く来いよ!!


「挽き肉になる覚悟が出来たヤツから掛かってこい!! この豚野郎共が!!」


 なんかここ最近口が悪くなってきている気がしなくもないけど、この変化はいい事なのだと思う。今までのように我慢して溜め込むよりは大分いい。


「来ないならこっちから行くぞ!! アハハッ!!」


 自分ではわからないが、この時自分の顔は恐ろしく歪んでいたんだろう。

 笑いながら駆け出した自分の目に映った一番近い位置に居たオークの顔には、再び恐怖の色が浮かび上がっていた――




 ◆◆◆




 最初はエサが迷い込んできた。そう思っていた。


 我々の半分以下しかない小さなニンゲン。それが、たったの一匹。


 腹の足しには全くならないが、ニンゲンはいい。メスならもっとよかったが、オスでも十分使えるし、使い終われば食える。色んな生き物を食ってきたが、その中でもニンゲンは弱くて美味い極上のエサ。


 時折徒党を組んで我らを殺しに来るが、その度に我らはニンゲンを殺し、犯し、喰らってきた。



 そんな我らだったが、相当前に立つのも困難な程の大きな地揺れが起きて以降はニンゲンは一切我らの元へやってこなくなり、この洞窟から外に出られなくなった。


 それからは同族以外の魔物を狩って過ごした。不思議な事に時間が経過すると魔物が現れるようになった。戦闘で同族が殺されたりもしたが、こちらも同じように一定の時間が経過すると死んだ同族が殺される前と変わらない姿で現れた。



 そこから長い時間を経て、時たま返り討ちに遭い殺されたりもしたが一段階上の存在へと成る。そして此処が迷宮と呼ばれる場所に変わっていると理解する。

 所詮オーク。知性が低く本能に忠実な脳筋種族なのだが、進化した事でそれを理解出来る程度の知性を得ることが出来た。


 それから再び長い時間を経て仲間も進化し、現れる魔物に苦労する事無く倒せるまでになった。




 そして、再びあの大きい地揺れが起き、この迷宮に何かしらの変化が起きたのだと感じた。


 相変わらず外に出ることは出来なかったが、何れ近いうちに何かが起こる。オークはそう確信していた。




 地揺れからある程度の時間が経過したある日、待望の変化が彼等の前に現れる。


 やって来たのは脆弱なニンゲンのオス。


 ニンゲンにしては血の臭いは濃かったが、取るに足らない存在――そう直感した。


 仲間もそう思ったのか、値踏みしたあとに問題ないと判断し、ニンゲンに襲いかかった。


 久しぶりのニンゲンに興奮していたのだろう。


 使いたいから壊すなよ......それだけを思っていた。久しぶりのニンゲン相手に油断していた。


 目の前で仲間が呆気なく殺された。


 そう、これまで我らに挑んできたニンゲンには苦戦する事はあっても一方的に殺される事はなかった。あの頃よりもずっと強くなっているにも関わらず、呆気なく殺されたのだ。


 仲間の様子を確認すると、あの不気味なニンゲンに恐れを抱いたらしくあっという間に恐怖が伝染して過半数が恐慌状態になっている。


 仕方なく発破を掛けると大体が殺る気を取り戻す。だが一部は未だに恐れを抱いたままだ。


 アレはなんだ。我らを怯えさせるとは......本当にニンゲンなのか?



 我等よりも魔物染みている。


 だが我もコヤツらを束ねる長だ。ニンゲン如きを相手に恐れを抱いてはならぬのだ。


 数で押せ。相手はたったの一匹なのだからッ――





 ◆◆◆





 ――アレはニンゲンなどではない......昔、一度だけ見た事がある悪魔だ......

 決して弱くはない我や我が同胞に加えて圧倒的な数の暴力まで合わさっている。だが、それを笑いながら撥ね除け、手に持った棒と棍で殴り殺していく......挙句の果てに異次元の再生能力......何なのだアレは......



 我が最期に見たモノは同胞の血で真っ赤に染まったニンゲンが、同じく同胞の血で真っ赤に染まった凶悪な形状の棍を振りかぶり、ソレを振り下ろす場面だった





 ─────────────────────────────


 吉持ㅤ匠

 悪魔闘人


 Lv:74


 HP:100%

 MP:100%


 物攻:140

 物防:1

 魔攻:70

 魔防:1

 敏捷:140

 幸運:10


 残SP:0


 魔法適性:炎


 スキル:

 ステータスチェック

 血液貯蓄ㅤ残226.1L

 不死血鳥

 部分魔化

 状態異常耐性Lv8

 拳闘Lv7

 鈍器(統)Lv1

 棒術Lv5

 小剣術Lv4

 簡易鑑定

 空間把握Lv10

 投擲Lv7

 歩法Lv6

 強呪耐性

 病気耐性Lv4

 解体・解剖

 回避Lv4

 溶解耐性Lv2

 洗濯Lv1

 ■■■■■■


 装備:

 魔鉄の金砕棒

 悪魔骨のヌンチャク

 肉食ナイフ

 貫通寸鉄

 鬼蜘蛛糸の耐刃シャツ

 快適なパンツ

 再生獣革のブーツ

 魔鉱のブレスレット

 剛腕鬼の金棒

 圧縮鋼の短槍

 丈夫なリュック

 厚手の肩掛け鞄

 微速のベルト

 ババァの店の会員証ㅤ残高220


──────────────────────────────


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る